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落雷ゴブリンのどたばた奮闘記  作者: Nera
第二章 死神に魅入られた少女と亡霊に見初められるゴブリン
18/56

18話 聖印騎士団のデロリアン中隊長と元中隊長の邂逅

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拝啓

父さん母さんお元気ですか?

いや、母さんの方は元気じゃなさそうですね

だってゴブリンの妻なんだから

とにかくオレは元気です


今、汗水を流して山道の復旧をしています

その山道は先月の土砂崩れで通行止めになっており不便になってました

長らく放置状態でしたがついに状況を打開しようと復旧工事が始まりました


オレは最前線でスコップとツルハシを交互に使用してます

具体的には、みんなと一体になって土砂を必死に取り除いてます

必死にやった結果、思ったより早く山道が復旧しそうです

これもみんなで力を合わせた結果です

団結とは、すばらしくて思わず泣けてきます


最近の楽しみは宿でアルコールを飲んで酔いつぶれる事です

朝から夕方まで肉体労働したあとのビールの味は文章で表現できません

相部屋の女戦士は呆れてますが女には理解できないと思うので無視をしてます

いやーなんと充実した人生だろうか

でもずっと思っていることがあるのであえてここで伝えさせてください


----


辺りを見渡して作業者が居ないのを確認する。

そして監督官と兵士が居ないのを確認する。

オレ以外にこの場に居ないのを確認して深呼吸してから柄を握り締める。


『こんなの警備の仕事じゃねええええ!!ふざけんなああああ!!』


怒りに満ちた想いを小声で叫びながらシャベルを土砂の山に投げつける!

それは見事なフォームを描いて取り除いた土砂の山に音もなく突き刺さった。


なんで傭兵が土木工事をしなければならないんだ!

…街に着いた翌日に仕事内容を知らされたオレは内心激怒した。

その怒りをぶつけるように小声でエルティアナに突っ込んだことがある。


そしたら『Fランク冒険者とかいう素人に防衛を任せるわけないでしょ』

それに元からヘルメットと粉塵対策に布のマスクをしてるし適任じゃないかとか。

もっともらしい答えを彼女から言われたが…。


だったら郊外の哨戒や街の見回りをさればいいだろう!?

【街の警備】という任務のはずなのに現実はうまくいかなかった。


そう思っていた時、休憩終了の笛が鳴ったので慌てて土砂の山に刺さったシャベルを取りに行って土木工事を再開した。

ちなみにDランク冒険者のエルティアナは馬に乗ってこの付近を哨戒中である。

…まさかと思うが哨戒は、騎乗が必須技能(スキル)なのだろうか。

機会があったら教えてもらいたいものだ。

まあ、ゴブリンなので馬というよりも狼に乗る方がお似合いかもしれないけど。

こうして最後まで作業を行なった。


そして作業を終わったら班長による『ねぎらいの言葉』を聴いた後、解散した。

いつもと違うのは、土木工事は今日で終わりだという事か。

ツルハシとシャベルと作業用の外套を返却した後、道中のショップで手入れ用の砥石と防錆油を購入して宿に戻る。

その後、晩飯になるまでグラディウスという片手剣の手入れをした。

土砂崩れによる山道の復旧が終わったので明日から夜の哨戒に回されたのだ。

さすがに大規模な戦闘がないと思うが念の為に武器と防具の手入れは万全にする。

手入れしても死ぬ時はあるが間違っても手入れを怠って死ぬ事は無くなるからだ。


こうして武器と防具の手入れが終了したがそれでも晩飯まで時間がある。

解散する前に渡されたメモを見る。


メモには明日から【夜間における街の見回り】という任務の指示が書いてあった。

見回りでは、兵士か傭兵のどちらかとコンビを組んで真夜中の街を見て回る。

ルートは、7パターンあり日によって違う上に集合場所も違った。

オレが担当するのは20時から21時、2時から3時の7パターンあるルートのどれかである。

2人から構成された班が7つ、交代要員を合わせて56名、元から街の警備してた28名を含めて計84名が街の見回りをすることになっている。


ただ、どのルートを見ても中央広場とこの街のトップであるグリザイユ伯爵家の屋敷付近を必ず通ることからおそらくここを重点に置かれているのだろう。


文字が読めるとこんな感じに考察もできる。

本当に文字が読めたり書けたりすると役に立つんだな…と改めて思う。

時間が空いた時に教えてくれたエルティアナに感謝しようと決意した瞬間、17時を知らせる鐘の音を聴いて宿に駆け込んで晩御飯をもらいに行く。


もちろんぼっち飯である。

正体がバレるからね仕方ないね。

そう我慢して日記を書いて晩御飯を食べて皿を返却して布団に入って目を閉じた。


そしたらあっという間に朝になりエルティアナに起こされる。

よっぽど疲れていたのか土木工事が終わって気が緩んだのか中々起きれなかった。

そうこうしているうちに睡魔に負けて夢の世界に旅立ってしまうが口に何かを突っ込まれて目が覚めて慌てて見渡すとスリット付きバイザーを付けて完全武装したエルティアナが居た。

そして噛むといつも食べている野菜の味がした。


こいつ、オレの口に野菜を突っ込むノルマでもあるのだろうかと睨みつつ朝飯を食べて今晩から見回りをするルートを確認する為、彼女と共に宿を飛び出した。


「ところで街の人口5000人って多い方なのか?」

「パンタゴーヌ王国では、大都市の方だよ」

「つまりそれを治めているグリザイユ伯爵家ってすごいんだな」


しばらく歩いている内に疑問が湧いたので彼女に思わず質問してしまった。

街を歩いていると道路はしっかりしておりゴミが落ちておらず清潔さを保っていた。

冒険者ギルドがあるヴァレリアンの街では、所々排泄物が落ちているのを踏まえると衛生環境にも力を入れているのが分かる。

それなのにこっちの方が大都市で建物1つ1つが向こうより立派だということは、治めているグリザイユ家当主はかなりこの街に力を入れているようだ。

そしてそのご令嬢を馴れ馴れしく関わってしまったオレはかなりのアホだと分かる。

そう思いつつ地図を片手に持ちながら歩いていく。


「なにか勘違いしているようだけど、この街はグリザイユ家が治めている街の1つに過ぎないということを忘れないで」

「さすが伯爵家、その辺の成金貴族とは格が違うな」

「まあ、宰相を輩出したこともある名門だからそう思うのは仕方がないね」


そう考えるとエミリー伯爵家令嬢と仲良くするのも悪くなかったかもしれない。


「間違ってもエミリー嬢にお近づきになろうなんて考えないでくれ」


オレの心を読んだのか彼女から釘を刺されてしまいちょっと動揺してしまった。

なんか悔しいので何か言い返してやろうとしたら何やら揉めている声がした。

今までだったらそのまま声が聞こえた方に飛び出したが【中央広場の騒動】で懲りたので物陰に隠れて声が聴こえてきた方を見てみる。


すると大きなお屋敷の門前にエミリー嬢と執事と衛兵たちが居た。

彼女たちの目線は銀色の甲冑を着て完全武装した騎士たちに向けられていた。

数はたったの5人。

エミリー嬢が引き連れている衛兵は13人居るのを見ると圧倒的に不利に見えた。

だが、なにか只者ではない雰囲気が5人の騎士から漂ってくる。


王国兵は簡易な胸当てと兜と小手とブーツを身に着けて青色に統一されている。

一方、騎士たちは甲冑にスリットがあるヘルムを被っており銀色である。

それに緑色のマントを身に着けており何やら紋章が描かれている。

ちょうど騎士の1人はこっちに背を向ける形となっており紋章が良く見える。


緑色のマントの中央部には白色の大きな十字架が描かれている。

その下部に交わるかのように2本の剣が交差しておりまるでアスタリスクの様になっておりその両サイドに小さな赤い星がある。

それを囲むように12個の黄色の勾玉が等間隔で配置している感じだ。


それを見た感想は、まるで国旗のようとしか言いようがない。

ただ、あの紋章は見たことが無かった。


『ゴブタロウ、あれはデュラント教国の聖印騎士団だ』


オレの疑問に答えるかのように彼女は耳元で囁いてきた。

あれが噂の聖印騎士団か。

比較的動きやすそうな王国兵と違ってエルティアナの親戚かなと冗談を言いたくなるほど視界が悪そうな重武装の騎士たちである。

それにしても遠目から見ても豪華な鎧なのでデュラント教国の裕福さが伺えた。


『聖印騎士団って全員あんな豪華な鎧を着てるのか』

『違うよ。あれは聖印騎士団の中でも精鋭であるデロリアン4個中隊の騎士達だ』

『何で背後からそんな事が分かるんだよ!?』

『あの2つの星はデロリアン中隊しかない独自の物だからだよ』


なんで彼女がそんなこと知ってるのか分からないがゴブリンのオレからしてみればこいつらに目を付けられたくなくさっさとこの場を後にしたかった。

なにせ、あのグリザイユ家と揉めることができる武装組織なんて首を突っ込みたくないし伯爵家とも関わりたくなかった。


『ちなみに4個中隊と言われている通り、各中隊によって2個の星の色が違うんだけど赤色だから【治安維持】の任務を遂行するカーチス隊…って聞いてるの?』

『ごめん、聖印騎士団と関わりたくないからさっさと宿に帰ろう』

『それは私も同感だね…でもそうもいかないようだ』


最後の一言に首をかしげる。

ただ、彼女の口調からしていつものようにからかう感じではなかった。


「貴様らそこで何をしている!」


慌てて声がした方に振り向くと例の騎士団がそこに居た。

アイエエエ!ナンデ!?

前回の反省を踏まえて物陰からちょっと覗いただけなのに何故か巻き込まれた。

オレもエルティアナもまだ何もしてないのに!

いや、まだじゃないが!


「物陰に隠れて背後からこそこそと視線を向けているのに気付かないと思ったか!?」

「邪教団のような不快な匂いを漂わせる不審な奴らめ!偉大な太陽神で我らの創造主ベロボーグ様の手を煩わせない様に代わって我がカーチス隊が【正義】の名の元に貴様らを拘束する!」


隊長と思わしき人物がこっちに指を差して長ったらしい台詞を怒声で言い放つ。

すぐに背筋が凍り付き逃げようとするが足が動かなかった。

たった5人の騎士から発せられるプレッシャーはジャイアントゴブリンを凌駕しており実力差が分かってしまい固まってしまったせいだ。

もっともこの場合では動かない方がいいかもしれないが…かなりまずい状況だ。


「これは畏れ多くも誇り高きデロリアン4個中隊の1つを指揮なされているカーチス・ウィリアム・アーネスト大尉殿ではありませんか」

「ほう?私の名を知っているとは」

「以前教国で貴方様の武功を幾度も聞いたこともあり一目だけでもお姿を拝見したかったのですが恐れ多くも平民で薄汚い冒険者の身、こうして物陰に隠れてお雄姿を拝見させて頂く形となりました」

「その結果、このような煩わしい事態を招いてしまい深くお詫び申し上げます」


なんかエルティアナがアドリブでカーチス大尉とかいう奴のご機嫌を取り始めた。

こういう事を瞬時に言えるとはさすが年数を重ねて冒険者をやってないな。

というか、彼女って何歳なんだろうか。

そう意識すると気になってしまい腕を組みそうになるが必死に我慢する。


「冒険者とな?薄汚い冒険者がこんな所で何をしている?」

「今晩から街の見回り任務がございましてルートを確認する為、こちらに…」

「証拠はあるのか?」

「はい、ございます。今すぐに証拠を提出させて頂きます」


そういってオレのポーチから任務が書かれたメモ、そして左手に持っていた地図を奪い取ると、すぐに片膝をついて頭を下げて両腕を伸ばして【証拠】を差し出した。

それを強引に奪い取った大尉は軽く見て見下しながらも合図で臨戦状態に入った部下たちを宥めてくれた。


「ふん、冒険者に頼るほどこの国は落ちぶれているのであるか」

「はい、ご覧いただいた通り我らは増援として任務を遂行して—」

「ならば何故未だに二人とも顔を隠している?何か煩わしい事があるのでは?」

「そもそもこうスムーズに証拠を提出のは疑わしいものだ。もしやこれは貴様らが偽装したものではないのかね?」


もうヤダこいつ。

彼女は()()()()()を称えていたがこれをみるとどうも逆な気がする。

つまり数々の悪名だ。

そうでなかったらあのエルティアナがここまでへりくだって対応しないだろう。

とはいえオレが変な行動を起こすと彼女の行動が水の泡になってしまう。

迂闊に動けずとにかく目線を外さないようにしっかりと騎士たちを見た。


「まあカーチス大尉様!勧誘を諦めてその方々を本国に連行なされるのですか?」

「ハハハ、エミリー嬢はご冗談がうまいですな!」

「フフフ、カーチス大尉様ほどではございませんわ」


助け舟を出してくれたのはまたしてもエミリー嬢であった。

ただ、前回と違いなんか様子がおかしい。

この沈黙や騎士たちの様子を見る限りどうもこの大尉と仲が悪そうだ。


「失礼ながらエミリー嬢、この書類に見覚えはありますかな?」

「いいえ、カーチス大尉様。このことは存じ上げておりません」

「ふむ、ならばこやつ等は例の連続誘拐犯かもしれませんぞ」

「私を過大評価し過ぎですわ。この様な書類を承諾する立場ではございません」

「ただ、この印は間違いなくグリザイユ家の物です。これは私が保証します」


どうやらエミリー嬢が庇ってくれているようだが2人の会話を聞いてるとすごい仲が悪そうな感じがしてしょうがない。

笑顔で会話している2人だが所々言葉に棘があって聞いてて違和感がある。

これが上級国民と騎士のお偉いさんの会話だと思うとうんざりする。


「…なるほどエミリー嬢はどことも知れぬ不審者共と知り合いだと」

「書類を見る限りグリザイユ家の命を受けてこの街の警備に加わった者達です」

「彼らを信じずに警備なんか任せられるわけございませんわ」

「まあ、実際は騒動を起こそうとする他所者よりは…という程度ですけど」


遠回しに言ってて話がなかなか頭に入ってこない。

ただ、オレ達より騒動を起こそうとした聖印騎士団の方が信用できない。

そう言ってると思う。

現に舌打ちをした大尉が『運がよかったな』と捨て台詞を吐いて騎士たちを率いて去っていったのをみる限りは。

5人の騎士たちが去っていたのを確認すると力が抜けたのか座り込んでしまった。


「よく逃げなかったな」

「逃げられる相手じゃなかったからな」

「それもそうだな」


緊張を和らげるために軽口を叩いてきたエルティアナに感謝して親指を立てる。

そして彼女と共にエミリー嬢に礼を言って頭を下げる。


「「この度はご迷惑をかけてしまい申し訳ございませんでした」」

「頭を上げてくださいませ。私からも感謝したいくらいですわ」

「あの男、何度も勧誘を蹴ってるのに嫌みったらしく纏わりついて不愉快でしたの」

「あの勇ましい女中隊長と同格だと思うと…腹立たしくてしょうがありません」

「彼女の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいほどですわ!」


お嬢様イメージを崩してまで言い切るところを見ると本当に嫌いだったらしい。

彼女のこういった顔を知らないのか執事や衛兵たちが困惑している。

ただ、女中隊長という単語が気になった。

何故かは分からない。


「ですので言葉遊びから解放してくれたあなた方に深く感謝申し上げたいほどです」

「ありがたきお言葉ですがこれ以上ご迷惑をおかけするわけにもいけません」

「これにて失礼いたします」


深々と頭を下げた後、オレの腕を掴み引き摺るかのようにその場に後にする。

こういう強引さがエルティアナだなと思う。

ふと、エミリー嬢を見ると悲しそうな顔をしている。

その視線は何故か一度も振り返らずに前を進んでいる彼女を見ている気がする。

そしてもう一度エミリー嬢を見ると衛兵を引き連れて屋敷に戻る後ろ姿が見えた。

その姿は悲壮感を漂わせている。

そんな気がした。


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