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落雷ゴブリンのどたばた奮闘記  作者: Nera
第二章 死神に魅入られた少女と亡霊に見初められるゴブリン
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16話 はじめてのえんせい ~そして大ピンチ

ヴェールヴィエンヌの街を目指して林を抜けていく。

正直、依頼を放棄して逃げ出したい。

何が楽しくてむさ苦しい男共に同行して街へ行かなければならないのか。

ちなみに今日は、依頼を受けてヴァレリアンの街を飛び出してから6日目である。


あー!やってられん!

絶世の美女が助けを求めてその辺の道端に転がってないかな?

そう思うほど精神的に追い詰められたオレは女に飢えていた。

エルティアナ?

誰よりも重装備して『血』と『金属』の匂いを漂わせている奴なんて知らんな。

というか、彼女のパジャマ姿を見たことがない。

一体、いつ寝てるのか分からないほどだ。

案外、鎧を着たまま直立で寝てたりして…。


集中力が切れてアホな事を考えてしまったので仕方なく辺りを見渡してみる。

前方に先鋒である兵士2人が警戒しながら進軍している。

その後ろに居るのがオレ達2人で遊撃の任務を課せられている。

更に後方に控えているのは5台の馬車に7人の商人、つまり民間人が居る。

そしてその周りを囲むように7人の戦力が配置されている状況である。


山賊や魔物の群れに遭遇する可能性があるのを踏まえると、護衛人数に対して護衛が少ない気もするが…。

そもそも当初は商人の護衛任務が無かったから仕方がない。

前金で報酬を受け取ってしまった以上、責任もって街まで送り届けるのが仕事だ。


ちなみに南部にある山道を抜けていくと近道だったが…。

前月にあった大雨のせいで大規模な土砂崩れが発生して通行止めになっている。

その為、山を迂回する必要があるので西から遠回りに南部へ向かっている状態だ。

それならさっさと復旧させればいいと思うが諸事情で放棄されている。


おかげさまで3日もロスをしている有様だ。

せめて全員が馬車に乗れれば良かったのだが。


『そういえば傭兵を兼任している冒険者と傭兵ってどう違うんだ?』

『冒険者は街を拠点に活動するのに対して傭兵は各地を飛び回るって所だね』

『冒険者は自分の意思で仕事を選べるけど傭兵は選べないって違いがあるよ』


ふと気になってエルティアナに小声で相談してみたが満足する答えではなかった。

訊きたかったのは、傭兵の癖にまともに任務を遂行しない冒険者の扱いである。


この国では、冒険者になるにはまず傭兵にならなければならない。

優秀な人物を他国に流出させない様にする為と以前に彼女から聞いたことだ。

もし、戦時などの緊急時になれば招集されるみたいだがその代わりに1人の王国民としての保証される。

戸籍が存在しないゴブリンのオレからしてみればありがたい話であった。

 

…が傭兵を専門職にしている者や王国側の目線から見たらどうだろうか?

国営組織の一員の癖に国際組織に入ってそこで好き放題活動しているのだ。

そんな奴が招集されて役に立つと思われるのだろうか。

蔑まれたり信用されないならまだ良いほうだろう。

下手すれば最前線に投入されたり使い捨てにされそうで怖い。

そう考えると身震いしてしまい彼女に改めて訊いてみる。


『でもこの国の冒険者って傭兵なのにその仕事してないじゃん』

『そんな奴が傭兵としてのまともな仕事が斡旋されるか心配でさ』

『その点は大丈夫だよ。傭兵斡旋所側も冒険者の仕事をちゃんと評価してるよ』

『それどころかこの国の冒険者は低ランクでも優秀と他国から高評価されてるよ』 

『むしろ仕事をしないペーパーが一番叩かれるんだから余計な心配だ』


そういえば、この国の冒険者って傭兵斡旋所で教育と訓練を受けてるんだった。

腕っぷしがあっても『依頼達成の報告書』を書けないと昇進できないのだ。

少なくともこの国ではだが。

国際組織の割りにはBランク未満の昇格条件が各国によって違うそうだ。

下手すればDランクの冒険者が腕っぷしだけ強くて文字が書けない奴だっている。

その為、報告書を書けないとEランクになれない我が国はかなり優秀な冒険者を有しているといえるだろう。


「ゴブタロウ兄…じゃなかった!ゴブタロウさん街が見えてきたっスよ!」

「いや、オレに伝えずまず先に上官に知らせたほうが良いんじゃないか?」

「言われてみればそうっスね」


考え事をしていると先鋒に居たヒューゴが良い知らせを持ってきてくれた。

もしかしたらイライラしているのに気付いて先に知らせてくれたかもしれない。

そう考えると悪い事をしたな。

その後ろ姿を見送りつつあとで謝ることを決めた。


こうして数回の魔物討伐をしたこと以外は何事もなく街に入れた。

街に入ると小隊長が『明日の8時に中央広場に集合せよ』という命令を下して解散となった。

商人から礼を言われるが正直、大したことをやってないので罪悪感が強かった。

先鋒に居た兵士の方を称えたりして適当に受け流してその場を離れた。


中央広場の場所を確認する為、エルティアナと共に街の中央部に進んでいく。

道中で逢った人に中央広場の場所を訪ねて指された方角に向けて歩いていく。


すると前方から子犬がこっちに向かって走ってきたのでつい受け止める。

そしたらその子犬を追いかけてきて息を切らした美少女に礼を言われる。

その子は美少女で可愛らしくて思わずにやけてしまう。


…というアクシデントなんて無く広場に辿り着いてしまった。

世の中はそんなに甘くはなかった。

さきほどの出来事は、女に飢えたオレが生み出した妄想だった。

現実はそんなもんである。


広場に辿り着いてみると中央広場と呼ばれるように街の中央部にあった。

そこは球技ができそうなほど広く街の住人の憩い場のように感じられる。

中央部に大きな土台があり石像が3体立っている。

その周りを囲むようにベンチが置いてあり街のシンボルの様に感じられる。


その石像が気になって近づいてみる。

まず魔術師のようなローブを羽織って杖を持っているイケメンな男。

そして背後にはその従者なのか荷物を持っている頼りなさそうな顔をした男。

その左には少し大きめなワンちゃんの石像が佇んでいる。

名前が気になって詳細に書かれている説明文を探してみるが見つからなかった。

そうなると意地でも見つけてやろうと決意して石像の付近をグルグル周って探す。


明らかに不審者の行動を取っていて自分で恥ずかしくなってきた頃。

背後から『メスの匂い』がしたので慌てて振りかえって首を前に垂れる。

そこには凛とした佇まいをして豪華な刺繍が施されたドレスを羽織った美少女が居た。

そうだよ!これだよ!


「おおすごい!この凛とした佇まい!教育を施されて素晴らしい娘に育った証だ!」

「ああ!素晴らしいあのむさ苦しい兵士共に比べたら天使のようだ!」

「ねえねえゴブタロウ?」

「なんだよ“相棒”!良い所なのに!」


久しぶりの雌に出会って感動しているのにエルティアナの横槍が入った。

思わず顔をしかめて彼女の方を睨めつける。

鉄仮面と口元を布で覆っている為、表情は読み取れないが声色で不機嫌さを感じ取ったかな?

そう願って彼女の顔に向かって睨めつけて拳を握りしめて振り上げる!


「ワンちゃんに対して大げさ過ぎじゃないかな」


彼女の冷静な指摘が胸に突き刺さる。

もう一度美少女に目を向けてみる。

うん、フリフリのドレスを着た白い毛並みで綺麗な雌のワンちゃんだ!


「わんわんわんわん!」


もう一度エルティアナに振りかえって犬の鳴き声の真似をする。

もちろん四足歩行して彼女の周りをグルグル回る。

なんてことはしなかったが。


「可哀そうに…女に飢えて犬以下の知能になって幻影を見てしまったか」


彼女の呆れた声が更に心の傷口を抉ってくる。

もういっそ、口うるさく罵ってくれた方がよかった。


「あらあらこの子の良さが分かるなんて!」


飼い主とみられるご婦人が近づいてきて両手を組んで上機嫌で話しかけてきた。

慌てて言い訳を考えるもどうやらワンちゃんが褒められてた事に上機嫌のようだった。

オレにチップを渡した後、ワンちゃんを連れて華麗な佇まいで去っていた。


「それで『春画』でも買ってきたらどうだ?」

「検討しておくよ。それより今のって…グリザイユ伯爵夫人なのか?」


問題なのはそこである。

もしこの街を治めているグリザイユ伯爵家の人だったら後々問題になってくる。

改めて自分の迂闊さを後悔する。


「あのご婦人はグリザイユ伯爵夫人じゃないから安心していいよ」

「なんで分かるんだよ」

「お会いしたことがあるからだよ」


意外にも彼女はグリザイユ伯爵家と面識があるようだ。

そういえば、この街に来る前に彼女が自身の名を出すのを嫌がっていた。

理由を聞くと街には【ある事情】で教国の聖印騎士団が居るそうなんだが。

『エルティアナ』という名は教国で縁起が悪いからだと言っていたのを思い出す。


よって彼女の現在の名は「ティアラ」だ。

この名に不満げだったようだが彼女のネーミングセンスの無さは知っていた。

なので無理やり納得させてこの名を呼ぶようにした。


集合場所の中央広場を確認した以上、長居は無用であった。

とにかく今日は目立ち過ぎたので王国軍が手配した宿に戻ることにした。

日記を書いて飯食ってベッドで寝て疲れを癒す。

それが一番である。


「グリザイユ伯爵家に何か御用があったのですか?」

「いや、伯爵家の治めているこの街の警護をしろと命じられたんだけどさっきのご婦人が伯爵家と関わりがあると厄介だなーと思ってさ」

「何故厄介だと思われているのですか?」

「末端の兵士が伯爵家に馴れ馴れしく接しちゃダメだろう思ったんだ」

「特に依頼を受けて任務遂行中だから見つかると酷い目に遇いそうだからな」


ここまで口にして第三者の存在に気付く。

慌てて話しかけてきた方を見てみる。


そこに居たのは幼い少女の面影を残す美女だった。

優しく微笑んでいる彼女の瞳は蒼色であり優しい雰囲気がある。

腰まで伸びた綺麗な金髪を見ると手入れが行き届いているのがよく分かる。

その時点で高位なお嬢様であることは明白であった。


今度は、より具体的な美少女の幻影を見ているようだ。

ゴブリン的本能が女に飢え過ぎて頭がおかしくなったようだ。

こういう時はさっさと寝るに限る。


「失礼、言葉遣いが稚拙だったのを心より謝罪します」


何故か幻影に謝ってしまった。

最近、精神的にボロボロになってきて依頼達成の前にくたばりそうだ。

いっそ、脳みそスカスカのゴブリンらしくポジティブに生きてみようかな。

そう考えてしまう。


「お座り!」

「あっ!はい!」


頭の上に『はてなマーク』を浮かべながらついしゃがみこんでしまった。

エルティアナから教育を施されてるせいかこういった【指示】に敏感である。

問題なのは彼女が発言したわけじゃない点だ。


「お手!」

「はい!」


しゃがみこんで腕を伸ばしている少女の掌の上に手を重ねる。

そこでようやく目の前の令嬢が幻覚ではないのが分かった。

そしてこれらの動作は自然に行えた。

何故かは分からないがゴブリンは雑兵なので本能がそうするんだな。

そう思い無理やり納得する。


「ゴブタロウ何やってるんだ」


エルティアナの指摘は先ほどの呆れた声とは違いかなり動揺している声色だった。


「つい癖でやってしまった」

「先ほどの犬の鳴き声といい、もしやと思いましたがその様なプレイを普段からなされているのでしょうか?」

「違います!そのようなプレイなどさせてはいませんし、させるつもりはございません!」

「ほら、ゴブタロウもなんか弁明して」

「えーはい!彼女の仰る通りそのようなプレイはしていません!」


珍しく彼女が焦った口ぶりで少女に弁明してるのに違和感を覚える。

改めて少女を観察してみる。

緑のドレスを身に纏い金糸で豪華な刺繍が施されているカーディガンを羽織っており首から青色の宝石を填め込まれたネックレスをぶら下げている。

また足元まで隠れるロングスカートからはみ出している脚が逆に色気を誘う。

清楚貞淑なお嬢様があどけない笑顔をしているのをみると案外お転婆なのか。


そう思考しているとエルティアナに令嬢から引き離されてしまった。

そして無理やり距離を取らされて疑問に思っていると小声で話しかけてきた。


『いいか、あのお嬢さんは、エミリー・ティティス・グリザイユ伯爵令嬢だ』

『要するにこの街を治めている伯爵家のお嬢様だ』

『余計な疑いをかけられる前に手配された宿に行こう』


そう言われて初めて自分の行いが不味い事を知った。

慌てて付近を見てみると黒服の厳ついおっさんが8人と兵士が20人くらい居る。

もちろん、こちらを凝視しているのは言うまでもあるまい。

ああ、あれだけ警戒してたのになんて事だ!

そうしてアタフタしている内に黒服を纏った爺さんがこっちにやってきた。


語彙力が低いオレからしてみればそのお爺さんをなんて表現するか迷ったが…。

『白髪の紳士』というイメージがした。

ただ、漂っている香水に鼻が曲がりそうだ。

高位の人間ってこんな香水を付けるのか。

オレには一生理解できそうもないな。


「そこのお二方、申し訳ありませんが少しお時間を頂いてもよろしいですかな?」


執事長と思われる老人がこちらに優しく微笑んで話しかけてきた。

経験豊富で叡智が溢れていそうなお爺さんが温厚で優しそうな笑みを浮かべてる。

ただ、その笑顔は絶対に裏があるものだ。

偉大な主の娘であるお嬢様に近づく不審な輩を絶対に逃さない。

そんな目をしていた。


あっ詰んだわ。

どう足掻いても所持品チェックと鉄仮面を外されて身元を確認されるわ。

前者はともかく後者は非常にまずい。

依頼してきた王国軍に迷惑をかけるうえにゴブリンだということがバレてしまう。

かといってここで逃げ出せば余計に疑われてしまう。

どうするか悩んでいると意外な人物が助け舟を出してくれた。


「良いのよニコル爺。これは私が興味本位で首を突っ込んだせいですもの」

「彼らはこの街にある石像が気になった。そうでしょうゴブタロウさん?」

「…はい、仰る通りです」


残念ながらうまくこの場を切り抜けられる名案が思い浮かばなかった。

相棒に相談しようとすると却って事態が悪化しそうなのでそれはできない。

黒服と兵士がオレ達を包囲しているので逃亡もできないだろう。

頭が回る奴ならこれをきっかけに成し上がろうとするが…。

それができるならこんな無様な真似なんかしないだろう。


「ですが…」

「グリザイユ家としてこの石像群を説明するだけで何か問題でも?」

「いいえ滅相もないことでございます」

「良かった…ニコル爺も納得して頂いたようです」

「それでは説明させて頂いてもよろしいでしょうか?」


選択肢はあるようで一択だけしかなかった


「問題ありません。よろしくお願いします」


考えても仕方がないのでとりあえず彼女の提案に乗ることにした。


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