15話 楽しい強化魔法の練習
今までのあらすじ。
ゴブリン退治で使った魔法を使いこなせるようにする為、図書館に行った。
でも呪文魔法が難解過ぎて理解できなかったので直感で使えるように考えた。
よって実戦で実際に魔法を使用できるようになる為に街の郊外までやってきた。
ここなら街の人に迷惑をかけないしなにより人気がないのが好都合だから。
なんて簡単に頭の中でまとめてみたがなんか滑稽だ。
いや、今のうちにくだらない事を考えてないといけない。
模擬戦とはいえ文字通り真剣で戦わないといけないのだから。
そう、オレはいつも通りブリガンダインを着てその上を外套で羽織っている。
というか完全に武装している。
ゴブリン退治と違うのは使用している片手剣くらいだ。
『グラディウス』と呼ばれる片手剣は、前の剣と違って全長が小さめであるが刃幅が大きくて振り方を間違えると自分に当たりそうで内心穏やかではない。
一方、エルティアナは片手剣のレプリカを構えている。
鼻先が尖っていて横にスリットが彫られているバイザーを付けて普通に重装備している。
でも何故か模擬剣を手に持っている。
そのアンバランス差が笑いを誘うが彼女は本気らしかった。
「そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫だ問題ない。そっちこそ本気で掛かって来てよ」
さっきのやり取りからこんな調子である。
傍から見ると女戦士がオレを馬鹿にしているように見えるかもしれない。
でも彼女の実力を知っているので文句は言えなかった。
彼女は武器破壊や鎧破壊などの剣技が扱えるのだ。
以前、模擬戦でショートソードの刃を木刀の一撃によって折られてしまったのだ。
とんでもない話だが事実だからどうしようもない。
それどころかまだなんか実力を隠しているようで得体が知れないのだ。
ゴブリンとしての本能が残っているのに彼女を女として見ないのはそのせいだ。
本能に任せて夜這いなんてもってのほかだ。
こいつ、手刀でオレの半身をさよならバイバイできそうで怖いんだよ。
そう思うほどジャイアントゴブリンを上回る威圧感が彼女から漂ってくる。
それを感じて背筋が凍りそうになり唾液を飲み込んで改めて柄を強く握り締める。
目標は、『電撃 中級魔法“雷系身体活性化”』を直感で使いこなせるように練習することだ。
そう意識して許可を取ってから彼女に斬り掛かろうとする。
「準備ができたから攻撃してもいいか?」
「ちょっと待って。忘れている事があるよね?」
だが、彼女に制止されてしまった。
なんだよ忘れている事って…と思ったら例の10項目を口に出すのを忘れていた。
仕方がないので口に出して始めるとする。
「1ーつ!魔力のコントロールを覚えること!」
「2-つ!自分にどの属性が適正なのか把握しておくこと!」
10項目を言っている間、彼女がどんな顔をしているか分からない。
ただ、なにやらオレと戦えるのが嬉しそうな様子だった。
「もし私に一撃でも与えられたら骨付き肉をおごってあげるよ!」
「じゃあ、お腹いっぱいまで食べさせてもらうとするか」
いまいち本気になれないのを見抜いたのか。
さきほどの宣言で気が緩んだのを感じたのか。
好物である『骨付き肉』を餌に挑発してきた。
うまくやれば本日中に魔法を自由自在に操れる様になるうえにお腹一杯食えそうだ。
こっちに損はないので彼女の提案に乗ってみることにする。
「準備ができたから攻撃してもいいか?」
「良いよ。どこからでも掛かっておいで!そうそう、あと1つだけ言わせてもらうと…」
「『暗雲に囚われた我の肉体に刹那の助けを 電撃 中級魔法“雷系身体活性化”』と言ってくれると助かるよ」
「一応努力してみるけど期待しないでくれ」
許可を取ったので彼女を見ながら意識を自分に集中する。
自分の体内から『魔力』という名の【糸】を生み出す感じに意識する。
すると以前と同じように視界が少しずつ赤くなってきた。
これは魔法を使うときにでる症状なのだろうか。
「暗雲に囚われた我の肉体に刹那の助けを 電撃 中級魔法“雷系身体活性化”!」
そう唱えると全身に微弱な電流が迸る感覚がして目の前がすっきりとした。
以前と同じように身体が羽の様に軽くなった感覚がする。
それを確認したと同時に間合いを詰めて彼女に斬り掛かった。
力いっぱいに放った渾身の斬撃は、軽く受け流されてしまい逆に引き込まれてしまった。
その隙を見逃されるはずもなく脇腹を蹴られて衝撃で飛ばされしまった。
蹴られた衝撃は想像以上で思わずグラディウスを手放してしまったほどだ。
ブリガンダインのおかげでケガはしてないが衝撃でフラフラしてしまった。
そしてすぐに片手剣の回収をして彼女から距離を取ってもう一度剣を構える。
実戦だったらさっきので死んでたな…。
そう思うと冒険者で居るのが本当に正しいのか考えてしまう。
オレの最終目標は、天寿を全うするのであって間違っても戦死したら本末転倒である。
「最初にしては上出来だけど…早く強化魔法を解除しないと後で酷い目に遭うよ?」
余計な事を考えていたら大事な事を指摘されたので慌てて強化魔法を解こうとする。
そこで重要な事に気付いてしまった。
どうやって強化魔法を解くか分からないのだ。
そもそもゴブリン退治で使用した時、いつ解除したのかも分からなかったのだ。
解除方法なんて知るわけがなかった。
「補助 中級魔法 “解呪”!」
あたふたしてるオレを見てエルティアナが魔法らしき物を唱えてくれた。
するとさっきまで羽のように軽かった身体は再び元の重量を取り戻した感じがした。
しかし、これによって分かったことがある。
「エルティアナ!オレが強化魔法を解除できないの知ってて伝えなかったな!?」
「だって、前回も強化魔法を解かずに戦い続けていたんだもの」
「今回だって自力で解けないと思うのは普通に予想できるよ」
もうやだ、こいつ嫌い。
オレが理解していないなと分析していてもこっちから訊かないと教えてくれないのだ。
こいつは、教えてるのが大好きではあるけど最低限の事しか伝えてくれない。
つまり、その事にオレが気付いて改めて訪ねてくるの待っている嫌らしさがあるのだ。
それはまるで応用問題で躓いている生徒を見てニヤニヤしている教師のようだ。
学問ならともかく真剣で戦ってる時にそれをされると腹が立つ!
だけどいちいち彼女に解いてもらうのは嫌なので素直に聞くことにする。
「じゃあ、どうやって強化魔法を解けばいいんだ?」
「このタイプの魔法は持続型だから生み出した魔力を使い切る。もしくは肉体を強化してる魔法に魔力を途絶えさせれば自然に解除できるよ」
今までだったらこれだけ聴いてもう一度強化魔法を唱えただろう。
だがオレは何度も失敗するほど馬鹿じゃない。
まだ肝心の事を聞き取れてないのだから!
「魔力を止めるにはどうすればいいんだ?」
「生み出した魔力を放出させるイメージをするとかかな」
「あと、同じ魔法をやってみてわざと失敗するとそっちに魔力が放出されるから結果的に強化魔法が解除されるよ」
ほらね。
強化魔法を解除する方法を教えてくれたけどそのやり方まで一度に教えてくれなかった。
こんな感じに更に踏み込んで訊かないと明確な答えを教えてくれないのだ。
ため息を吐きつつ気を取り直してもう一度魔法を使ってみる。
また目の前が赤くなったので『呪文』を唱える。
すると身体が再び軽くなったと同時に目の前に剣が見えた。
慌てて彼女が放った突きを回避して反撃しようと試みる。
しかし、振り下ろされた模擬剣によって剣が弾かれて手放してしまった。
仕方なく後退して距離を離そうとするが執拗に攻撃を仕掛けてくる。
やむを得ず隙を見て後ろに回り込んで殴り掛かる。
だが見抜かれてしまい腕と胸倉を掴まれて視界が回ったと思うと地面に叩き付けられた。
そこでようやく背負い投げをされたのだと気付く。
そして未だに強化魔法が発動していたので魔力の供給を止めることにする。
生み出した魔力を身体の中央に集めて背中から押し出して放出するイメージをする。
すると、お腹に蓄えたガスがオナラとして放出されるが如く身体中がすっきりした。
改めて身体を確認してみる。
いつの間にか身体は、強化魔法を使う前になったので自力で魔法を解除できたようだ。
「どうやら自力で強化魔法を解除できたようだね」
「思ったんだけどさ!なんで魔法の練習なのに攻撃してくるんだよ!?」
「こうやることで実戦経験を積めて一石二鳥でしょ!」
そう言い切って彼女は左手を差し伸べてきた。
それをありがたく思い素直に右手で掴んで立ち上がる。
フリをして左手で思いっきり彼女に殴り掛かる。
その反撃も右手で受け止められてしまい微かな間ができた。
そして軽く股間を蹴られてしまい悶絶してしまった。
こんな感じに強化魔法の練習は、一方的に彼女にボコられて終わった。
結局、彼女に一矢報いることができなかったが終わりまで闘い続けた奮闘を称えてくれた。
その影響なのか『骨付き肉』をおごってくれたので満足するまで骨をしゃぶって寝た。
そして翌日の朝、筋肉痛と強化魔法のツケで身体中が激痛に襲われて泣いてしまった。
ただ、前回と違って強化魔法をある程度コントロールしてた影響なのか。
それとも使用時間が短かったのがあるのか顔の筋肉の痛みはなかった。
「大体さ!魔法練習なのになんでボコられないといけないんだよ!?」
「おかげさまでこっちは体中がボロボロだよ!?」
それは好都合と言わんばかりに彼女をボロクソに責める。
さすがに彼女も負い目を感じてたのか珍しく受け流さずに静かに聞いている。
「痛くて動けないんだけど!どう責任とってくれるんだよ!?」
「分かったよ。すぐに痛みを和らげてあげるよ」
「…えっ!?」
どうすることもできないと思ってニヤニヤしてたら痛みを和らげるとか言い出した。
調子が狂って思わず声に出してしまったが…。
多分、湿布を張るとかそういったオチなんだろうな。
「疑似神聖 中級魔法 “治癒系賦活”!」
彼女がそう発言したと同時に痛みが退いていって動けるまで回復した。
痛みに責任とれよ…って言ったらマジで責任とってくれたよ。
たまげたなぁ。
…と思っていたがすぐに別の感情が湧いてくる。
つまり、そういう事だ!
「こんな便利な魔法が使えるなら最初からやれよ!!」
「だってこの魔法に頼りすぎると身体を酷使し過ぎる癖が付いちゃうでしょ!?」
こうしてオレの口に野菜が突っ込まれるまで彼女との漫才が続いた。
誰がボケなのかツッコミなのかこの際どうでもよかった。
とりあえずこいつを張り倒したかったのだ!
間違えてもお似合いカップルではない!
でも何か大切な事を見落としている気がした。
しかも1つじゃなくて複数あった気がする。
それらは何かと今までのことを振り返ってみるが分からなかった。
そう考えつつ彼女と一緒に冒険者ギルドへ向かっていた。
だがそういった考えは道中で吹き飛んでしまった。
何故かって?
王国軍の兵士たちが物々しく武装しており走りまわっているせいだ。
王国兵たちは何度もオレ達の歩みを止めてきて身元確認をしてきた。
一瞬、オレがゴブリンだということがバレたと思ったが…。
首からぶら下げたドッグタグや傭兵斡旋所のメダルを見せると去っていった。
身元確認をしてくる割りには鉄仮面を外すように指示をしてこないのが疑問だったが…。
そうされると困るのはこっちなのであえて指摘しなかった。
必然的に早足になるのは仕方がなかった。
「なあエルティアナ?この物々しい雰囲気に心当たりがあるか?」
「さすがにこれだけじゃ分からないよ。ただ、どうやら異邦人を警戒しているみたいだ」
なにか戦争が近いのだろうか。
そう思ったがそれなら彼女が指摘するはずなので違うのだろう。
そんなやり取りをしていると冒険者ギルドの建物が見えてきた。
いつもと違うのは、入り口に兵士が立っていることだけだ。
向こうから指摘される前に傭兵斡旋所からもらったメダルを見せて中に入る。
冒険者ギルドの建物内部でも物々しい雰囲気が変わらなかった。
それどころか亜人種のみで構成されたパーティが兵士と話し合っていたりしている。
いつもオレを弄ってくる乱暴者もこの時は真剣な顔立ちで話を聞いてるのを見ると…。
嫌な予感がして帰りたくなってきた。
でもそうするわけにもいかないのでバイオレット嬢に癒される為、受付に向かった。
するとバイオレット嬢の付近に見覚えのある顔を見つけた。
ゴブリン退治を1人でやろうとした王国軍の三等兵のヒューゴが居た。
その顔はとても険しかった。
「ゴブタロウ兄貴!エルティアナ姉貴!久しぶりっスね!」
「久しぶりって別れてから1週間も経ってないんだけどな」
「ヒューゴ、たった1日で街の雰囲気が変わったんだが何があったんだ?」
オレ達の顔を見て表情を緩めたのでこっちは関係ないと分かり安心した。
つい質問するのを忘れてしまって代わりにエルティアナが疑問を訊いてくれた。
「最近、隣国で数百人が行方不明になっている話は聞いたことがあるっスか?」
「この国の南方にあるゴンサレス魔導国の集団失踪事件だね。それがどうかしたの?」
初耳なんだけどその大事件!?
人の知らない事件を確認しあって2人で盛り上がってんだよ!
蚊帳の外にするのは本当に止めてほしいんだけどな!
「実は、ついにこの国でも失踪事件が起き始めたっスよ!」
「しかも一昨日、子爵の令嬢が行方不明になったので遂に王国が厳戒態勢を敷いたんだ!」
貴族の令嬢を攫うって…もはや高位の貴族たちが関わっていそうで憂鬱になる。
間違ってもそんな行方不明者の捜索依頼を受けさせられませんようにと祈っておこう。
「そのせいで王国は兵力不足に悩まされたので冒険者を街の防衛軍に再編成するそうっス!」
「なるほどね。道理で兵士と冒険者が打ち合わせをしてるわけか」
そう呟いた彼女は納得したように頷いているがこっちも同意見だ。
道理で兵士たちが踏みこんで身元を確認しないわけだ。
いちいち冒険者を疑っていたらキリが無いし下手すれば同僚になる可能性があるからな。
あなたは戦場で共に戦うかもしれない人を片っ端から疑いますか?
と問われれば誰だってそんなことしないと答えるだろう。
「それで私たちは一体何をすればいいんだ?」
「エル姉たちはこの兵士が駐屯している街の警備をお願いしたいのだけど…」
「別にオレは構わないけどなんで言葉を濁してこっちを見ないんだ?」
どうやらこの兵士と一緒に街の警備をすればいいようだ!
ただ麗しき受付嬢であるバイオレット嬢が視線を逸らして言葉を濁していて不安になった。
その理由を彼女の口から聞かされるまで緊張してトイレに行きたくなってムズムズする。
「だってこの子、以前にここで騒動を起こしたでしょう。そのせいで冒険者たちがこの子に同行するのを嫌がってこの依頼のキャンセルが続いたのよ」
「エル姉たちなら引き受けてくれると思ったけどなんか申し訳なくてね…」
確かにこいつ、ゴブリン退治の時にここで駄々をこねて迷惑かけてたな。
自業自得とはいえなんか可哀そうになってくる。
真剣な顔立ちをしてたのは立ち続けに依頼がキャンセルされたせいなんだろうな。
そう思うと、さきほどの重い雰囲気は消し飛んでしまい思わず口角が上がってしまう。
「それで私たちはどこの街に行けばいいの?」
「グリザイユ伯爵家が治めているヴェールヴィエンヌの街よ!」
バイオレット嬢は、聞き取りやすい声で街名を教えてくれた。
未だに滑舌が悪くて所々噛んでしまうオレとはやっぱ違うな。
「グリザイユ伯爵家…か」
一方、エルティアナは浮かない様子であった。
何か嫌な思い出でもあるのだろうか?
「大丈夫か嫌だったら別の依頼でも良いぞ?」
「いや、なんでもないよ。さあ依頼を受けようか」
彼女は何事もなかったように書類を受け取ってサインをしている。
その様子を見てなにやら不安になってくる。
なんかこの依頼を受けると後戻りができない。
そんな気がしたのだ。
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この不安は最悪な形で的中してしまった。
気付いた時には手遅れになっていたのだが…。




