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落雷ゴブリンのどたばた奮闘記  作者: Nera
第二章 死神に魅入られた少女と亡霊に見初められるゴブリン
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12話 ホブゴブリン?いいえ、ジャイアントゴブリンです

巣穴の前で2匹、そしてさきほどの戦闘で5匹のゴブリンを討伐した。

落ち着いてやれば何の訓練をしてないクワや鎌を持った農民たちでも対処できるレベルだ。

たとえ上位種に遭遇したとしても人数集めてクワで叩けばいい。

それほどまでにゴブリンは雑魚として各国から認識されている。


それは間違っても無いし訂正を要求する気はない。

人間にとっては、ゴブリンは言語は通じず文化もなく理解しあえない最弱の略奪種族なのだから。


だがオレは、彼らの言語が分かるしゴブリンの思考もある程度理解できる。

前世の記憶が曖昧で自分が人間だったと認識しきれない現在、未だにゴブリン的思考が残っている。

いっそ、人間として割り切ればそれで良かったかもしれない。

だけど自分は『人間の知識と経験をもっているゴブリン』として認識していた為、同族意識が芽生えてゴブリンを見逃そうとしてしまった。

…情けない。


自分がなんなのか自覚しておらず曖昧な覚悟でゴブリン退治に行った結果だった。

でも1匹のゴブリンが辿った末路を見届けて覚悟を決めた。


オレは、冒険者ゴブタロウ。

依頼を受けて山賊を討伐に来たパーティの一員だと。

命乞いをした山賊を前にして同情してしまい見逃してしまうという失態を犯したものの先輩によって無事に討たれて後始末してくれたと。

これは誰でもあるからこそ、気を付けていかねばならないと。

パーティの一員である以上、皆を守るためにそして依頼を達成する為に敵を容赦なく切り捨てる覚悟を持たなければならない。


冒険者として腹括って目の前を警戒しながら進んでいく。


「そういえばゴブタロウさんってFランク冒険者なのに明らかに初心者の技量じゃなかったっスね。」


兵士がさきほどの戦いを見てオレを高評価してくれたようだ。

茂みに隠れていた時はそこまで意識してなかったがそういえばFランクのままなんだよな。

さっさと昇格して独り立ちできるようになりたいけど道のりはまだ長い。


「『私の剣技を叩き込んでやる』って意気込んだエルティアナが鍛えてくれたからな。ほとんど取得できずに基本すらまだ慣れずにいるけど…。」

「お世辞で言ってないっスよ。俺なんて一匹も倒せなかったし、もしたった一人で巣穴に突撃したと思うとゾッとするっス…」

「彼女なら投げつけた短剣であいつを一撃で仕留めてたし、瞬く間に5匹全員を殲滅してたからまだ未熟だ」


一応、エルティアナから『剣技の鍛錬』という名目の地獄だったトレーニングのおかげで息切れもせずにこうやって討伐できたのは感謝している。

…が限度というのはある。


覚えることがたくさんあるのに次から次へと剣技や格闘術を教えてくるのだ。

時折、ゴブリンに指導してるっていうのを忘れてるんじゃないかと思うほどだ。

未だゴブリンという意識を引き摺ってるオレからしてみればたまったものじゃない。

まあ、どれだけ文句言おうが駄々をこねようが結果として役に立ったから納得するしかないけどさ。


「二人とも初心者であそこまでやれたんだからそこまで意気消沈しなくていいと思うよ。ゴブタロウは私よりゴブリンの事が詳しいし、ヒューゴだって決断の速さや素直に自分の失敗を認めるなんてすごい事だよ。私なんて未だに-」

「えっ?ヒューゴって誰だ?」

「「えっ?」」


唐突に出てきたヒューゴという名前に驚いて尋ねたら2人に驚かれてしまった。


うん、分かった。

この兵士の名前がヒューゴなんだろう。分かったからそんな目で見るな!

しょうがないだろう、人の名前と顔を一致させて覚えるのは苦手なんだからさ!

あっ!もちろん女の子の名前はすぐに覚えられます。当然だよな!?


さすがにこのままじゃ気まずいのでさっさと謝ることにしよう。


「中々人の名前を覚えるのが苦手でさ…すまなかった」

「分かるっスよその気持ち!教官の顔と名前が覚えられず良く叱られました」

「おお同志よ!やっぱ理不尽だよな!当たり前のことができない人が居るという常識な事を分かってくれない理不尽な上司には苦労するってさ!」

「やっぱそうっスよね!自分の常識に囚われ過ぎて理不尽に扱ってくる上司は本当に最悪っスよ!!」


彼の叫びは今までの苦労を察せるものがありそれを聞いてその気持ちはよく理解できるほど同情し意気投合するには充分だった。

オレ達は固い握手をしたあと自然と腕をまわして肩を抱き合わせながら一緒に歩いていく。


「ゴブタロウさんと気が合うみたいっスね!これが終わったら2人で飲みに行きましょう!」

「もちろんさ!仲良くなれた記念だ!終わったらすぐに酒場に行こうぜ!もちろん最初の一杯はオレのおごりでいいぞ!」

「戦友、ここは割り勘っスよ!」


こうして上機嫌で最深部に目指して歩いていく。

さっきまでは、背後から光が照らされていて風景が不気味に光っていて少し不安な気分があったが今は、周りをランタンが照らす形となっており安心感がある空間を作り上げている。

つい死亡フラグを乱雑に立ててしまうのは仕方がなかった。

その高速フラグ建設も空気が淀んでいるのを感じ取った瞬間、終わりを迎えた。


空気が淀んでいるということは、この先は行き止まりということだ。

そしてそこから漂ってくる匂いは、今までのゴブリン達とは格が違う濃厚で臭くて自身の存在を軽視され見降ろされるような錯覚がして吐きそうになるのを必死に堪えてその代わりに愚痴をこぼす。


「上位種が近いな…まったく嫌になる」


上位種。

それは魔族の尖兵にして雑兵であるゴブリンは格上に従うのは自然の摂理であり例え、はぐれゴブリンだろうがオレみたいな変異種ですら【血】で定められて決して破ることができない規則。

そういった彼らが従うのは、大体何かしらの要因によって進化を遂げたゴブリンの上位種である。


ただの群れだったら数匹討伐すれば勝手に瓦解するが上位種が居ると話が変わってくる。

こっちには上位種が居るんだぞ…とか上位種ならなんとかしてくれる。

なんて取り巻きゴブリンが考えてしまって士気がなかなか下がらなくて厄介なのだ。


ただ、従っているゴブリン達でも内心では上位種を馬鹿にしており軽蔑してる。

もちろん上位種であっても死にかけたりしていたら容赦なくなぶり殺しにして新たなリーダーに成り替わろうとするゴブリンであるのでその辺はある意味仕方がない。


問題なのは、流れている【血】が『上位種』に屈服しろと命じてくるのだ。

ゴブリンであるお前は上位種に従って2人を殺害せよ…と。


でももう迷わないし惑わされない。

【本能】は衝動に駆られているが【理性】でそれをしっかり抑えつける。


『ゴブリンの冒険者』ではなく『冒険者ゴブタロウ』なんだ!

目的は、この巣穴に住み着いているゴブリン共を躊躇なく鏖殺(おうさつ)してその結果を冒険者ギルドに『依頼達成の報告書』として提出して報酬を受け取る。

それだけだ。


そう考えているうちに【夜行性の目】と【嗅覚】が何か異変を察知したので歩みを止めて片手剣の柄を強く握りしめる。

通路の先には少しスペースがある広場のようでなにやら図体がでかいやつが居る。

そして目の前にはそれしか居ないはずなのに『別の匂い』も漂ってくる。


『メスの匂い』や『例のイカ臭い匂い』もしないということは捕囚は存在しないようだ。

ゴブリンは、繁殖に使えず汚くて臭い野郎なんて捕囚なんぞしないしオレだって絶対にしない。

考えられることは1つだけだ。


ヒューゴを制止させて手招きでエルティアナもこっちに合流してもらう。

そして相談をしてこっちが先手を仕掛けることになった。




-----

現在、前方にはオレが歩いており後方に居る2人には光源は少しずつ前に近づくように歩いてもらっている。

そして通路から出る手前の場所で歩みを止めた瞬間、戦利品の『こん棒』を目の前に放り投げた。


すると死角から飛び出してきたゴブリンが『こん棒』に目掛けて飛び掛かった。

通路から広場に出るということもあり入り口付近にできる死角に潜んでいたゴブリンは、すぐに襲い掛かった獲物は自身をおびき寄せる囮だと気付いたようだ。


だが彼はうめき声をあげて、その場に倒れ込んで少しの間、痙攣していたがそれ以上の動きを見せることは無かった。

勢いよく投げつけた片手剣の刃が首の付け根と右鎖骨の間に刺さりそのまま内臓を奥深くまで貫いてしまいほぼ即死だったようだ。


別に死角から奇襲攻撃をするのは悪くはない。

むしろ息を潜めて足音をたてずに待ち構えていただけゴブリンでもかなり有能である。


ただ、奇襲攻撃した後はどうするのか考えてなかったのがこいつの敗因である。

後続とか後衛に遠距離攻撃手段をもつ敵がいると考えていなかったし、奇襲攻撃はバレなかった場合のみ最初だけ有利だがネタがバレれば良いカモになってしまう。

ネタバレした杜撰な奇襲攻撃は、キルスコアを増やすただのボーナスタイムに過ぎなかった。


もちろん彼の死を確認してから光源を持った仲間を接近させて図体のでかい上位種をより判別しやすくした。

それを見たエルティアナが人間界の常識と知識に基づいて『あの名詞』を叫ぶ。


「あれは『ホブゴブリン』か!ヒューゴ後退しろ!こいつは今までのゴブリンとは格が違う」

「わ 分かった!おふたりとも頑張ってくださいっス」


エルティアナが慌ててヒューゴに後退を指示して彼は槍を構えながら慎重に後退している。

その予想通りの展開を見てため息を吐いて苛立ちを覚える。


ゴブリンとホブゴブリンを同じ種族として認識されていることに腹が立ってしょうがない。

例えるならエルフとドワーフと人喰い族を【亜人種】として一括りにされる感じだ。


ホブゴブリンは、魔物というより図体がでかい悪戯好きな妖精みたいなものである。

単独行動を好み人々に悪戯をするが大半は害がないもので畑仕事を手伝ったりする見かけによらず立派で温和な種族である。


その為、自分が最優先のゴブリン種には生理的に嫌われており迫害対象として【血】によって教え込まれている。

そしてゴブリンが周りに甚大な被害を与えていくにつれてホブゴブリンは、彼らの親玉として他種族から命を狙われ希少種族であるうえに繁殖力が低かった為、とっくの昔に絶滅したと流れている【血】が教えてくれる。


だからこそ思う。

ホブゴブリンを下等な尖兵であるゴブリン如きと一緒にするな…と!


「違う!ホブじゃない!先祖返りしたジャイアントゴブリンだ!豚巨人(オーク)の劣等種如きがホブゴブリンの名を語られるのは納得できん!だから訂正を要求す…ゲッ!」


訂正を要求しつつ急いで片手剣を回収しようとするが断念して慌てて回避行動を取る羽目となる。

さっきまでオレが居た場所に勢いよく岩が投げ込まれて衝突した衝撃で破片が飛び散って【高威力の散弾】として牙を剥いてきたからだ。


危険を察知して瞬時に避けたことにより直撃を免れたことと、防具のおかげで飛び散った破片を浴びてもケガはないがそれを覆っていた外套の一部が破れてしまった。

まあ、ゴブリン共の血や尿が染みついて臭くて匂う外套なんぞすぐに捨てる予定だったから支障はないものの岩を投擲(とうてき)するとは腹がたぷんたぷんで臭さも異常な図体だけでかい糞ゴブリンの癖にかしこくてイライラする。


本来上司に当たるジャイアントゴブリンの嫌悪と無駄に賢い事への苛立ちで頭が痛い。

もっと簡単に達成できる依頼じゃなかったのか。

しかし現実は非情である。


岩を次々にこっちへ投げつけてくるジャイアントゴブリンを見て残り2人に注意を惹かせないようにできるだけ離れて必死に回避行動をとって反撃するチャンスを見いだせなければならない。

既に息苦しくが口を覆っている布をずらすしか呼吸が楽になる方法が思い浮かばず大した抵抗手段もなかった。

事態が中々好転しないのに違和感を覚えつつ必死に回避行動に取り組んだ。


暫く一方的な投擲競技が繰り広げられていたが投げる岩が尽きたのか当たらずに業を煮やしたのか丸太を削って作られたと思われるこんぼうを手に取って怒声を挙げて勢いよくこっちに振り下ろしてきた。


瞬時に武器のリーチ差で回避しきれないと判断し、あえて懐に飛び込んでぽっこりしたお腹を切り付けるが致命傷にならず新たな攻撃の猛威に晒されることとなった。

懐に回り込まれているのを察知したジャイアントゴブリンが両手でこんぼうを握りしめて踏ん張ってその場で回転し歳差運動を始めたのだ。


「危な!?」


しゃがみこんで最初の一撃をやり過ごし慌ててスライディングしてその場から離れる。

ガリガリと金属と地面に摩擦で音が立て続いて身体中が痛んだがこん棒に直撃するよりマシだと考えてできるだけ攻撃が当たないように姿勢を低く移動して瞬時に手をついて態勢を取り直す。

ついでに前世の記憶から『コマが回転しているみたい』『歳差運動』などと、どうでもいい事を考えてしまい全く役に立たない知識に泣けてきた。


しかし、あの行動に大きな隙ができると確信する。

その場で高速で回転すればいずれバランス感覚を失い暫く身動きが取れなくなることは分かってる。

現に気分を悪くして息を粗くして棒立ち状態のジャイアントゴブリンを見て死骸に突き刺さった片手剣の回収を目指して無我夢中で通路の入り口に急いだ。


そして左手に片手剣を持ち右手でなにやら紙を持って警戒してるエルティアナを尻目に死骸を足で抑えつけて突き刺さった片手剣を急いで引き抜き改めてジャイアントゴブリンに向けて構える。


ここでさっきから浮かんでいた違和感の正体が判明する。

素人同然のペーペーの三等兵はともかく、Dランク冒険者である彼女が全く援護せず傍観していたのだ。


「エルティアナ援護してくれ!さすがにこいつ相手じゃ1人(ソロ)はきつい!」

()()()()ならお前1人で充分だよ。もちろん本当に危険だったら助けるけど、できるなら私の手を借りずに頑張ってソロ討伐して欲しい」

「はあっ!?」


何言ってんだこいつと彼女の方に振り向きたいが目の前の敵に注視してる為、声を張り上げて反論する。

更に後方ではヒューゴがこの事に突っ込みを入れている気がするがよく聞こえなかったのでこの際は無視をする。

彼女の姿は残念ながら見えない。

ただ、彼女の顔と思考はこっちである程度読める。

いや、読めてしまった。


「ゴブタロウ、あれは図体だけでかいゴブリンだよ。防具を砕く爪も牙もなく高い知性で魔法を打ち込んでるわけでもなく防具を纏って集団で襲ってくるわけでもないただのゴブリンの親玉だ」

「前にお前がこん棒で襲い掛かった森牙狼フォレスト・ファングより遥かに討伐難易度が低い【Eランク討伐対象】だ。私はお前を信用してるからこそ1人で討伐して欲しいんだ」


彼女が放った言葉は、傍から見れば非情な宣告にみえるかもしれない。

だがそれに心当たりがある。


…ああ、そうだったよ。

この女はいつもいつもオレを過大評価して目標のハードルを勝手に上げていくんだ。

そしてその目標を超えられるように過剰に訓練や指導、教育してくるんだよ。

その度にいつも反論するが彼女はいつも同じ回答をするだけで結果的に何も変わらずにこっちが折れて必死に努力して覚えていくしかないのだ。


彼女の実力を知ってるがゆえに反逆して襲い掛からずに目の前のジャイアントゴブリンを注視する。


「さあゴブタロウ。敵は体調を整えたようだ。私が今まで教えてきた全てを生かしてあの親方ゴブリンを討伐して欲しい」


これは彼女がオレに与えた試練なんだ。

道理でゴブリン退治をすることに納得して前衛にしたのだ。

そして今まで教わってきた事を継承したかどうか結果を見届けるためにあえて彼女は手を抜いていたのだ。

今、思い返せば確かに今までのゴブリン退治で色々思い当たる節がある。

だからこそ以前思い浮かんだ決意を改めて胸に刻む。


絶対に彼女を泣かせてやる。

それもオレ関連でだ!

そう決意してジャイアントゴブリンに向かって駆け出した。


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