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落雷ゴブリンのどたばた奮闘記  作者: Nera
第二章 死神に魅入られた少女と亡霊に見初められるゴブリン
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11話 ささやかな抵抗

『ねえーまだ行かないっスか!?』


兵士の苛立った小声がオレたちの方に向けられる。


いや、新米兵士というのが正しいか。

王国軍に所属してるとはいえ【三等兵】の話なんか説得力がない。

オレ達はそう考えてこの3日間無視をして巣穴を交代制で見張っていた。


彼が三等兵と知ったのはエルティアナの発言がきっかけだった。

王国軍の兵士には【バッジ】が授与されるということだ。

冒険者で例えるならドッグタグのようなもので階級も一目見て分かるそうだ。


逆にバッジが無い兵士は、一兵卒としての訓練を終えてない三等兵であり実質的な立場はその辺の民間人と変わらないらしい。

というかこの国では、生半可な兵士よりも傭兵も兼ねている冒険者の方が強かったりする。

一部の優秀な人材以外は、まず【傭兵斡旋所】で文学と武術の一通りの訓練を修了してから冒険者として活動しているからだ。


現に巣穴の前に辿り着いても中々突入しないのに業を煮やした彼がエルティアナの首元を掴んだと思ったら足払いをされて体勢を崩し逆に腕を掴まれて投げ飛ばされあっさり彼女に取り押さえられて形勢が逆転してしまった。


兵士を取り押さえた彼女曰く『バッジすらつけてない三等兵如きがDランクの冒険者に指図するな』とのことだったが…。

オレからしてみれば物音で巣穴からゴブリンが出て来やしないか心臓がドキドキしてしかたがなかった。


一応バレないように遠くで陣取っており観察は、2枚の歪んだレンズを組み合わせた【望遠鏡】とやらでやっていたので杞憂ではあったけど…。


よって現在の上下関係は、兵士がヒエラルキーの最下層なのであった。

めでたしめでたし。



そして今日は、見張り始めて4日目の夕方である。

今まで巣穴を観察し続けてちょうど全匹揃っているというタイミングだ。

ゴブリンの肉体であるオレからしてみれば【早朝】である。


『それでゴブタロウは巣穴に何匹居ると思う?』

『少なくとも8匹以上だと思う』

『なるほど私の予想の6匹より多いか』

『え?3匹じゃないんですか!?装備は3つしかなかったっスけど!?』


エルティアナが巣穴に居るゴブリンの数を確認してきたので小声で予想を答えてみた。

そのやりとりで一番驚いたのは兵士だった。


『確かに装備は3種類しか違わなかったけどゴブリンの顔はそれぞれ違ったぞ』

『装備に目を取られて体形や顔を良く見ないのはダメだ。それだと兵士として失格だ。もう少し観察眼を鍛えないと昇格する前に死んじゃうから気を付けて』

『あー、分かったっス。これから気を付けるっス』


オレとエルティアナのダメ出しに落ち込んだ兵士はほっといて襲撃の準備をする。

片手剣良し、剣帯の短剣良し、防具も動きに支障なし。

少し眠いがそれはしょうがないだろう。


エルティアナは珍しくバイザーを取り外していくようだ。

さすがに暗い巣穴でバイザーのスリット溝から覗くのはきついみたいだな。

そもそもあんな視界が悪い物取り付けてよく生き延びたな…とこっちが思うほどだ。


しかし、久しぶりに彼女の素顔を見た兵士は慄いて怖がっている。

それだけ顔の火傷跡が不気味なのだろう。


彼女の柄物(えもの)は、片手剣そしてクロスボウだ。

意外にもあんな視界が悪くて不利のはずなのに狙撃の達人だと聞いて驚いたものだ。


兵士はいつも通りの装備で武器は、王国から支給されてる少し短めの槍である。

巣穴で振り回すのはいささか不利だがそれ以上にリーチの長さは有利だ。

ゴブリンに対して武器のリーチ外から一方的に攻撃できるのは大きい。

もちろん懐に入られると不利になるがそれはオレ達がカバーすればいいだろう。


ちなみに彼はランタンを彼女はそれと松明を持っている。

オレは【夜行性の目】と【嗅覚】があるから平気だ。


作戦は、斥候のオレが先鋒をエルティアナは後方支援をし、兵士はその中間でカバーする。

よし、準備OK!

巣穴の入り口には一匹のゴブリンがいるが眠そうにしていて隙だらけだ。

まずエルティアナがクロスボウであのゴブリンを狙撃してから侵入する。


こうしてオレ達は合図を出し合っていざ襲撃しようとして出鼻を挫かれることになる。


巣穴からもう一匹のゴブリンが出てきて見張りゴブリンに寄ってきたのだ。

少し気がとられているとはいえ同時に仕留めるのは無理そうだ。

もう少し待った方がいいと判断したオレと兵士は座り直して望遠鏡で仲良く観察する。


一方、エルティアナは構えていたクロスボウを躊躇なく引き金を引いて矢を放ったようだ。


風を切った矢は、こちらに背を向けていたゴブリンの後頭部を貫いてその後ろに居たゴブリンの頸部を文字通り吹っ飛ばして【頭】を黄昏の天空へと勢いよく旅立たせて岩肌に突き刺さった。

唖然とするオレ達を尻目に彼女は新たに矢を装填しているようだ。

そしてその数秒後、重力によって落ちてきた頭部が地面と激突して中身が飛散したと同時に赤い噴水を作っていた首なしゴブリンが倒れた。


いやいや、ここからだと裸眼では辛うじて人の形しか見えないのに何であんな正確に狙えるんだ!?

クロスボウって下手な鎧なら貫通するのは知ってたけどあそこまで威力がある物なのか!?

というか明らかに500フィート(150.2メートル)以上あったのに携帯型クロスボウで、あの威力って射程距離どうなってるんだよ!?


兵士と顔を見合わせて色々考えてみたが結論をいうと無駄だった。

矢に付与(エンチャント)が掛かっていたとかクロスボウ自体が魔法武器かもしれない。

心優しいエルティアナは訊けば教えてくれるから気にしなくていいと踏んで巣穴に向かって駆け出した。



近くに寄ってみると後頭部を貫かれて即死したゴブリンと頭がさよならバイバイした死骸が無残にも転がっていた。

首なしゴブリンが暫く血飛沫をあげていたせいで『匂い』が巣穴に入り込んでしまったかもしれない。

奇襲の優位性を保つにはこのまま巣穴に突入した方がいいようだ。


幸いオレの【嗅覚】と【夜行性の目】は巣穴の入り口付近にゴブリンがいないことを教えてくれる。


「ところで血を被らなくて良いっスか?ゴブリンは金属や女性の匂いに敏感って聞いたことあるけど?」

「いや、この場合は血を浴びると却ってバレやすいからこのままでいく。まあ、死骸の股を引き裂いて排泄物を浴びればかなり誤魔化せるけど」

「…結構っス」


もちろんゴブリンは『メスの匂い』に敏感なので軽装備の女性だったら血を被って奴らの興奮度を下げても良いかもしれない。

ただ普通に考えて同族の濃い血の匂いが漂ってくるのを警戒しない奴など居ないので結局、隠密には向かないんだけどな。


さっき言った通り排泄物を浴びればかなり誤魔化せるがオレだってやりたくない。

何が楽しくて野郎の死体から入手した排泄物を浴びなきゃならないのか!

ゴブリンだってこんなことしねーよ!


「ゴブタロウがそういうんだからこのまま行こう。もっともこんな不衛生な排泄物を被ったら()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「了解っス!」


なんかエルティアナが虚ろの目をしてやけに詳しい雑学を教えてくれたがまさか同期の冒険者がやったことがあるのか?

…そりゃあ、彼女でも同期がそんなことをやってるのを見たらショックだろうな。

オレだって半分冗談でやったのにガチでやる奴なんて一生モノのトラウマだろう。


このことを触れるのを止めて巣穴に突き進んでいくことにした。

そして真っ暗な巣穴を進んでいって思ったことがある。


なんて豪華な巣穴だと。

いや、かつて住んでいた巣穴は2人分がギリギリ隠れるスペースしか無かったから豪華に見えるんだよ。

今は、前世から引き継いだ知識と朧気の記憶のおかげでそこまで羨ましくないのだが…。


後ろから松明とランタンが照らしてくれるので目の前が影になっていて違和感がある。

別に暗闇でも目が利くので別に問題はならないけど。


そんなことを思いつつ斥候の役目を果たすためにゴブリン特有の技能(スキル)を駆使して警戒する。

横穴や天井を気を付けつつある程度進んでいくと『懐かしい匂い』が近づいてきた。




オレは前もって打ち合わせをしていたジェスチャーでゴブリンの数を伝えて抜刀して身構える。

後ろに居る彼女たちも近づいてきて迎撃態勢をとる。


ほどなくして、それはあまりにも醜くてそして厳つい顔をした5匹のゴブリンが群がって押し寄せてきた。

ただ、隊列など知るかと言わんばかりに距離を開けてやってきたので各個撃破させてもらうこととする。


まずエルティアナが最後尾にいる矢を引かずに弓だけ構えて走っているゴブリンに矢を放ち額をぶち抜いて遠距離攻撃の手段をもつ厄介者を潰して確実に数を減らしてくれた。

まず1匹。


仲間が一匹死んだのを知らない先陣を切ってるゴブリンが大きくこん棒を振りかぶってジャンプしてオレの脳天に会心の一撃を入れようとする。

その勢いと遠心力で振り落されるこん棒は、当たれば兜をしているオレでも衝撃で動けなくなるかもしれない。

当たればの話だが。


当然、大人しく受けるはずもなく着地点を見極めて会心の一撃を回避し隙ができた先鋒ゴブリンの頭を叩き切る。

頭蓋を砕かれて中身が飛び出したゴブリンは失禁して辺りを鼻が曲がりそうな悪臭で漂わせる。


オレは、そいつが倒れる前に片手剣を引き抜き()()()()の動向を気にしつつ怒声を挙げてこちらに迫ってくるゴブリンへ死骸を蹴り込む。


勢いよく死骸とぶつかったゴブリンが汚物を踏んで勢いよく転がり込んで怯んだ隙に剣帯から短剣を抜いて後方に居た無傷のゴブリンに投げつける。

しかしある程度、距離があった為か顔面を掠らせただけで終わった。


だがパニックになり身動きがとれなくなったのを確認しつつその間に血脂でどす黒く光って粘る刃を払い汚物まみれの死骸で身動きが取れずに転がっているゴブリンの喉笛を片手剣で貫き捻り圧し潰す。

口から血泡を吹き溢させて少しの間、痙攣したがすぐに目から生気が消えた。


よしこれで3匹。


見渡すと()()()()の方は兵士の槍に突き刺さっているが急所を外しているのかまだ意識がありなんとか動こうとして抵抗している。

敵を貫いた矛先が壁に刺さっているせいか兵士も身動きが取れないようだった。


そしてオレは改めて短剣を投げつけたゴブリンを見る。

それは恐怖に怯えて立ち竦んで真っ先に死んでいった間抜けやいつの間にか死んでたドジを罵っていた。



ゴブリン的本能が弱者であるこいつを前にして優越感に浸ろうとするが堪える。

あくまでゴブリン退治に来たのであってゴブリンがよくやる()()()()()()ではないのだ。


だからオレはこいつに()()()()をやる。


()()()3()()()()()()()()()()()()()()()()!〉


オレの()()に気付いたゴブリンが慌てて後ろを振り返る。

その隙に持っていた剣を壁に固定されている『大きな的』に投げつけて駆け寄る。


大きな刃が身体に食い込んだ串刺しゴブリンが痙攣するのをみて剣帯から予備の短剣を抜いて両手で握りしめて勢いよく喉を掻っ切って()()をする。


圧力から解放されたかのようにそいつの喉から血が噴き出して全身に濁った返り血を浴びる。

それは最後まで苦しみながら足掻いていたゴブリンの最後の抵抗に思えた。


そして足掻いていたゴブリンは生命活動を停止。死んだのだ。

…4匹目。

そして―。


失禁して震えながら座り込んでいるゴブリンが居た。

戦意は完全に喪失して命惜しさに身動きが取れないようだ。

死んでいった同胞(おとり)に思いつくだけの悪口を言うだけの元気だけはあるようで利己主義のゴブリンらしくて思わず失笑してしまった。


その笑みを見たゴブリンが更に涙目でこっちに向かって罵ってくる。

どうやらオレをチビ人間と勘違いしているようでそれ関連の罵倒用語が聴こえてくる。

だから相応の罵倒で答えることにする。


〈うるせよ失禁野郎!うじうじ言ってる暇があったらさっさと逃げたらどうだ!?〉

〈なに真面目に殺されようとしてるんだよ!ゴブリンの恥さらしが!〉


【ゴブリン語】で返されてさっきまで青ざめていたのに急に驚愕した顔になる。

そしてすぐにこっちの正体に気付いたのかそれ関連の罵倒をし始めて内心嬉しく思う。


〈お前はゴブリンだろうが!律義に諦めてんじゃね-よ糞野郎!〉

〈よし決めた!お前は惨殺してやる!精々いい悲鳴を聴かせてくれよ〉

〈そこで待ってろ!そしたらすぐに死ねるかもしれないからな!恥さらしめ!〉


怒声に慌てたゴブリンは立ち上がり入口…いやあいつにとって出口に向かって走り始めた。

恐怖で怯えているのか生存本能に基づいて今まで地獄だった場所から一歩でも遠くに行けるように駆け出している。


〈死にたくない!オレには野望があるんだ!〉と叫びながらただひたすら走る。

きっと出口に近づくほどあいつの心から【死】の恐怖が遠ざかっていくのだろう。

出口が近づくにつれて泣きながら歓声の雄叫びをあげている。


その姿を見て愛しくもあったが失望した。

あいつは生きてこの巣穴から出ることはできなかった。


3()()()()()()()であるエルティアナがクロスボウの引き金を引いてあいつのすっからかんの頭を矢が突き破ったのだ。

何が起こったのかも分からなかったのであろう。

衝撃で少し身体が浮かんですぐに顔面から地面に湿った鈍い音を立てて激突した。

そしてあいつは2度と意識を取り戻すことなかった。


だからさっき忠告したのだ。

後ろに居る3人目の冒険者に気を付けろと。


これはゴブリンとしてのささやかな抵抗。

あいつは殺さなければならないしどう足掻いても殺されるのは知っていた。

でも、あえて見逃した。


もしオレもあいつと同じ立場だったら…という同情心から出たものだった。

なのにあいつは、人の忠告を聞かないで死んだ。


あれを無駄死にと言わずになんというか。

せめて即死だったのが救いか。


災厄をバラまいた『パンドラの箱』に残っていたのは希望だったそうだがそれは、更なる絶望を引き立たせるスパイスに過ぎなかったそうだ。

脱出して生還という一筋の希望を掴んだと思っていたがそれは絶望を引き立たせるものだとは気付かなかったのだろう。


でもあいつを嘲笑する気はない。

あの行動はたった数十秒だけであったが寿命は延びたのだから。

だからこそこう思う。


失望させてくれてありがとう。

オレは、もうゴブリンを赦さないし手加減はしない。

ようやく完全にゴブリンと手を切れたんだ。

これで安心して絶対に一匹残らず殺処分できる。


そう思いつつ片手剣と短剣を回収して辺りを警戒しながら血脂を拭く。

そしたらエルティアナがこちらにやってきて向かい合って片膝をついて笑った。


微笑んでいるのではない。

()()()()()()()


「ゴブタロウ、これが終わったら何を話していたか聞かせてくれないか?」

「もちろん一言一句、あいつの叫んでいたことも含めて教えてあげるよ」

「ふふふ、愉しみだ」


横を見るとオレ達の不気味な笑いを見て兵士がドン引きしたのか顔色が悪いまま辺りを警戒している。

そしたら一つ疑問が湧いたのでついでに彼女に聞いてみることにする。


「なあ、エルティアナ。多言語を操れる【通訳】ってこんな感じに両方の言語を頭の中で変換して瞬時に理解できるもんなのかな?」

「それは私にも分からないけどゴブタロウが持っている数少ない特技だから胸を張っていいよ。さあ気にせずに先を進もう」


こうして準備を整えたオレ達は気を引き締めて巣穴の奥に進んでいく。


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