7 答え合わせ
静まり返った執務室で、私は重厚なクッションに背を預けた。
鼻をつく硝煙と血の匂い。足元に転がる王と王子の無残な死体。
すべては、私が思い描いた通りの完璧な筋書き通りに終わった。
——そう、私もまた「転生者」だ。
この世界が前世でプレイした乙女ゲーム『聖なる乙女のロザリオ』の世界であることに気づいたのは、幼少期、公爵令嬢としての厳しい教育を受けていた最中のことだった。
自分が「悪役令嬢エレノア」であり、いずれ愚鈍な王子に冤罪を着せられ、惨めな死を迎える運命にあると知った時、私は恐怖ではなく冷ややかな滑稽さを覚えたものだ。
(わざわざ決まったシナリオ通りに、殺されてあげる義理なんてありませんわ)
入学当初、現れた「ヒロイン」マリアの動向には細心の注意を払った。
自ら彼女に接触することはせず、公爵家の優秀な隠密を使用人として男爵家に潜入させ、その一挙一動を観察させたのだ。
結果はすぐに判明した。
彼女が前世の知識を誇示するように妙な言動を繰り返し、周囲の攻略対象たちを「ゲームのキャラクター」として見下している素振りを補足した瞬間、彼女もまた転生者であると断定した。
(あのおめでたい頭のヒロインは、自分が完璧に筋書きをなぞれていると思い込んで悦に入っていたのでしょうけれど……実に愚かでしたわね)
下手に彼女を排除したり、私があからさまな「破滅フラグ回避行動」を取ったりして歴史を大きく変えてしまっては困るのだ。
未来の知識という最大の優位性が失われ、シナリオが読めなくなれば、王家の動きを予測できなくなる。
ゲームの知識によれば、エドワード王子はマリアのでっち上げた稚拙な冤罪をあっさりと信じ込み、私を裏切る。そして王家もまた、我がローゼンベルク公爵家の力を削ぎ落とす絶好の口実として、その冤罪弾劾を裏で容認するはずだった。
ならば、その未来を徹底的に利用して差し上げればいい。
私はあえて愚かなヒロインの自作自演を放置し、王子の不忠を静観した。
表向きは無知な悪役令嬢を演じながら、裏では公爵家の総力を挙げて絶好のその時のために力を蓄え続けたのだ。
秘密裏に進めた新式ライフル銃の量産と、私兵部隊の徹底的な過酷な訓練。
王家が油断しきり、私を弾劾するために全貴族を集める大夜会こそが、腐敗した王家を討ち果たす千載一遇のチャンスだった。
あの断罪の場で、私はあえて貴族たちに【王家】か【公爵家】を選ばせた。
王家の愚かさを白日のもとに晒すと同時に、我が家に仇なす害虫と、生かすべき忠臣を効率よく選別するための踏み絵だ。
『君主論』においてマキャベリも述べている。
加害行為や過酷な決断は、ダラダラと続けるのではなく、自らの安全を守るために一度にまとめて一気に行わねばならない、と。
最初に圧倒的な武力をもって苛烈な粛清を完璧に完遂してこそ、残された臣民に恐怖と敬意を植え付け、その後の統治を安定させることができるのだ。
「フフ……」
口元から漏れた笑みが、誰もいない執務室に小さく響く。
他人の作ったシナリオに怯えて保身に走るなど、愚の骨頂。
どうせ破滅を回避するならば、我がローゼンベルク公爵家が王家に取って代わり、この国の絶対的な頂点に君臨してしまえばいい。
権力を握り、脅威をすべて排除してしまえば、私の未来は永遠に安全で、揺るぎないものとなるのだから。
私は脚を組み直し、玉座の肘掛けを何度か撫で下ろした。




