6 憂いを除くには
「ひ……ひいいいぃぃっ!?」
実の父親の頭部が破裂する光景を目の当たりにし、足元でエドワードが頭をかき毟りながら悲鳴をあげる。
「な、何をするんだ……!? 父上を殺して……言うことを聞いたのに、なぜ!? なぜ殺したんだぁっ!」
叫ぶエドワードに対し、公爵は事もなげに吐き捨てた。
「なぜ、だと? 決まっているだろう。
一国に二つの首魁など不要だからだ。権力の二重構造は争いの元にしかならん」
「ひ、ひどい……悪魔だ! 貴族たちが黙っていないぞ! 父上を殺した貴様らを、国中の貴族が……っ!」
「勘違いするな、エドワード」
ここで静観していたエレノアがゆっくりと足を進めた。彼女は涙と鼻水でぐちゃぐちゃのエドワードを一瞥し、その美しい顔に嘲笑を浮かべた。
「国王陛下を殺したのは、他ならぬあなた——
第一王子エドワードですわよ?」
「な……ッ!?」
「お前が乱心して大夜会で暴れ、この執務室に雪崩れ込んで実の父親である国王を殺したのだ。
……なあ、誰もが納得する完璧な筋書きだろう?」
公爵が重ねたその言葉に、エドワードの顔は一瞬で土気色へと変色した。
「う、嘘だ! 僕が……僕がそんなことをするはずがない!
騙されるか!
僕が貴族たちに叫んでやる!
……本当の犯人は貴様らだと、大声で叫んでやるぞぁぁっ!」
「フッ、お前は誰にも叫べんよ。
——もう、口を開けないのだからな」
「え……?」
白目をむくエドワードの額へ、公爵の銃口が躊躇なく突きつけられた。
パンッ!
乾いた一砲が部屋に響く。
エドワードの体は跳ね上がるように大きく痙攣し、そのまま自身の血の海へと力なく倒れ伏した。二度と動くことのないただの骸となって。
「事後処理を」
「かしこまりました、公爵閣下。
……『第一王子の凶行により、国王陛下は重傷を負われ、死の間際にローゼンベルク家へ全権を譲渡。その後、誠に残念ながら崩御された』。
そして『王子の身柄は、我が軍の手によりその場で討ち取られた』。
……ということで手配いたします」
「うむ、完璧だ」
公爵は手中の羊皮紙をエレノアへと手渡した。
「受け取りなさい、エレノア。お前のための舞台は整った」
「感謝いたします、お父様」
エレノアは羊皮紙を受け取ると、愛おしそうに胸元へ抱き寄せた。
そして床に転がる前国王と元王子の血溜まりを、高価なドレスの裾をつまんで踏み越えていく。目指すは執務室の奥にある——かつて国の絶対権力者だけが座ることを許された、重厚な玉座だ。
彼女が静かにその深々と腰を下ろし、優雅に衣装を整える。
傍らに立つ公爵をはじめ、部屋を埋め尽くす黒衣の私兵たちが一斉に跪き、新たな支配者への恭順の意を示した。
立ち込める硝煙と生臭い血の匂いの中、玉座に座す若き女帝と、その傍らに立つ公爵の高笑いが執務室へ深く響き渡った。




