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癒ししかできない無能聖女として追放されましたが、私がいなくなった国はもう保ちません  作者: 蒼井 玲


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第89話 観測者の視線

 “目”が、開いた。


 空の奥。


 裂け目でも、層でもない。


 ただそこに、


 “見ているもの”がある。


「……ッ!」


 全員の体が、同時に強張る。


 今までの圧とは違う。


 触れられるでもない。


 押されるでもない。


 ただ、


 “完全に把握される”。


 レオンの喉が乾く。


「……なんだよ、これ」


 逃げ場がない。


 隠れられない。


 何をしても、


 全部見られている。


 イリスが低く言う。


「……観測強度、最大」


 アルデリックが歯を食いしばる。


「情報取得段階か……」


 リリアは動かない。


 ただ空を見ている。


 その目は、


 今までよりも深く、


 静かだった。


「……来ます」


 その言葉と同時に。


 レオンの視界が、完全に反転した。


 丘が消える。


 空も消える。


 白い空間。


 だが今度は違う。


 “距離”がある。


 奥行きがある。


 そして。


 目の前に、


 それがいる。


 巨大な何か。


 形は曖昧。


 だが中心に、


 “視線”がある。


 レオンは息を呑む。


「……お前か」


 返事はない。


 だが、


 理解されている。


 自分の記憶。


 感情。


 選択。


 全部。


 なぞられている。


「……やめろ」


 言葉が漏れる。


 その瞬間。


 世界が、反応した。


 白い空間に、


 “像”が現れる。


 レオン。


 そのままの姿。


 だが動きが違う。


 迷いがない。


 最適な行動だけを取る。


「……は?」


 理解が追いつかない。


 その像が、


 動く。


 最短距離で、


 最小の動きで、


 レオンに到達する。


「――ッ!」


 反応できない。


 完全に読まれている。


 その瞬間。


 現実に戻る。


 丘。


 だが。


 目の前に、


 同じ像がいる。


「……マジかよ」


 イリスの前にも、


 リリアの前にも、


 同じように現れる。


 完全な“再現”。


 だが今度は違う。


 単なる模倣ではない。


 “最適化された自分”。


 イリスが低く言う。


「……最適個体」


 アルデリックが呟く。


「理想形か」


 レオンの背筋が冷える。


 目の前の存在は、


 自分より強い。


 迷いがない。


 無駄がない。


 勝てる要素がない。


「……ふざけんな」


 拳を握る。


 だが。


 その瞬間。


 相手が動く。


 速い。


 そして正確。


 完全に、


 こちらの行動を読んでいる。


「くそっ!」


 避ける。


 だが。


 次の動きも読まれる。


 イリスも同じ。


 彼女の最適個体が、


 完全に上回る精度で動く。


「……理論値上限」


 冷静な声。


 だが内側は崩れかけている。


 リリアの前でも、


 同じ。


 均衡。


 だが相手は、


 “より効率的な均衡”。


 完全な上位互換。


 セレナが叫ぶ。


「これ、無理です……!」


 エルナも歯を食いしばる。


「勝てるわけないじゃない!」


 その通りだった。


 今までの敵とは違う。


 これは、


 “自分の完成形”。


 レオンが息を荒げる。


「……勝てるわけ……」


 言いかけて。


 止まる。


 完成形。


 最適。


 無駄なし。


 つまり。


「……つまんねぇな」


 小さく呟く。


 まただ。


 同じ構造。


 完璧なやつは、


 決まった動きしかしない。


 レオンが笑う。


「……お前さ」


 最適個体を見る。


「それしかできねぇのか?」


 その瞬間。


 踏み込む。


 だが今度は、


 “逆”。


 完全に無意味な動き。


 非効率。


 無駄。


 その一瞬。


 最適個体が、


 遅れる。


「……やっぱりな」


 レオンが笑う。


 イリスも気づく。


「……非最適領域」


 理解する。


 そして。


 彼女も動きを崩す。


 あえて効率を落とす。


 リリアが静かに言う。


「……不完全性」


 三人の動きが、


 再びバラける。


 だが今度は。


 最適個体が、


 追いつく。


「……っ」


 レオンの顔が歪む。


 さっきより早い。


 対応している。


 イリスが低く言う。


「……適応速度上昇」


 アルデリックが呟く。


「学習している……」


 世界が、


 リアルタイムで更新している。


 レオンの背筋が凍る。


「……終わりじゃねぇか」


 リリアが言う。


「いいえ」


 静かに。


 だがはっきりと。


「まだです」


 その目は、


 変わっていた。


 ただの観測ではない。


 理解している。


 レオンが聞く。


「何があるんだよ」


 リリアは空を見る。


 いや。


 “目”を見ている。


「……向こうも、見ています」


 その言葉と同時に。


 最適個体が、


 一瞬だけ止まる。


 レオンが気づく。


「……あいつ」


 自分たちを見ている。


 だが同時に。


 “向こう”も、


 見られている。


 リリアが一歩前に出る。


 その瞬間。


 視線が、ぶつかる。


 世界と。


 人間が。


 真正面から。


 その瞬間。


 空間が、


 大きく歪んだ。

ここでついに「世界 vs 人間」が完全に対等な構図になりました。


敵は“最適な自分”。

そしてそれすらリアルタイムで進化していく。


ここからが本当のクライマックスです。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

面白いと感じていただけたら、ぜひブックマークや評価で応援いただけると嬉しいです。


次回、「対等干渉」。

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