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癒ししかできない無能聖女として追放されましたが、私がいなくなった国はもう保ちません  作者: 蒼井 玲


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第88話 更新される均衡

 風が、戻ったはずだった。


 なのに。


「……寒い」


 誰かが呟く。


 気温ではない。


 もっと内側。


 骨の奥が、冷えている。


 レオンは空を見上げる。


 何もない。


 青い空。


 雲。


 普通の景色。


 だが。


「……いるな」


 見えない。


 だが、確実に。


 “いる”。


 イリスが静かに言う。


「……更新完了」


 短い言葉。


 それだけで理解できた。


 さっきの戦いは、


 終わっていない。


 “反映された”。


 アルデリックが低く言う。


「……早すぎる」


 分析が追いつかない。


 通常の適応ではない。


 これは。


 即時更新。


 リリアが目を細める。


「……構造が変わっています」


 その言葉と同時に。


 空気が、揺れた。


 だが今度は違う。


 圧ではない。


 “配置”。


 空間の中で、


 何かが並び替えられる。


「……え?」


 レオンの視界が一瞬歪む。


 だが戻る。


 何も起きていないように見える。


 だが。


「位置が……」


 セレナが呟く。


 丘の石。


 草。


 人の立ち位置。


 ほんのわずかに、


 ズレている。


 エルナが顔をしかめる。


「気持ち悪いわね」


 イリスが言う。


「……最適配置」


 短い結論。


 理解できる。


 さっきの戦いで、


 こちらは“不規則”で勝った。


 なら。


 それを潰すために、


 “配置そのもの”を最適化する。


 逃げ場をなくす。


 ズレを消す。


 レオンの背筋が冷える。


「……マジでやってきたな」


 その瞬間。


 空気が、固まった。


 音が消える。


 風が止まる。


 そして。


 現れる。


 一体ではない。


 二体でもない。


 無数。


 視界の端。


 丘の周囲。


 空間のあちこちに、


 白い輪郭が“配置される”。


「……は?」


 レオンの声が漏れる。


 囲まれている。


 逃げ場がない。


 イリスが低く言う。


「……分散展開」


 リリアが続ける。


「数で対応してきています」


 アルデリックが呟く。


「対称ではなく、包囲か」


 正しい。


 対称は崩された。


 ならば。


 逃げ場を消す。


 完全な合理。


 エルナが吐き捨てる。


「ほんと性格悪いわね」


 その時。


 一体が動いた。


 速い。


 だが単純だ。


 レオンが反応する。


 ズラす。


 不規則に。


 だが。


 別の一体が、そこにいる。


「――っ!」


 避けた先に、いる。


 回避が意味をなさない。


 囲まれている。


 イリスが動く。


 集中。


 収束。


 一体を消す。


 だが。


 すぐに別の個体が補完する。


「……無限補充」


 低い声。


 理解した。


 数で押す。


 しかも。


 “最適配置”された数。


 リリアが言う。


「……崩します」


 均衡を広げる。


 だが。


 空間そのものが最適化されている。


 広げる余地がない。


 均衡が、


 固定される。


 レオンが歯を食いしばる。


「……動けねぇ」


 自由がない。


 選択肢がない。


 その時。


 レオンの中で、


 何かが引っかかる。


 最適配置。


 逃げ場なし。


 ズレなし。


 つまり。


「……詰み」


 小さく呟く。


 その言葉に、


 逆に気づく。


 完全。


 それはつまり、


 “決まりきっている”。


 レオンが笑う。


「……またそれかよ」


 イリスが一瞬だけ視線を向ける。


「?」


 レオンが言う。


「完璧すぎる」


 踏み込む。


 今度は。


 動かない。


 その場で、


 止まる。


「……は?」


 エルナが声を上げる。


 動かない。


 何もしない。


 ただ立つ。


 その瞬間。


 適応体の一体が、


 “迷う”。


 動くべきか。


 動かないべきか。


 最適解が一瞬だけ崩れる。


「今だ!」


 レオンが叫ぶ。


 その瞬間。


 イリスが理解する。


「……未定義」


 行動がない。


 なら予測できない。


 彼女も止まる。


 リリアも。


 三人が、


 同時に“何もしない”。


 静止。


 完全な非行動。


 その瞬間。


 空間が、揺れた。


 最適配置が、


 意味を失う。


 適応体が、


 一斉に動きを止める。


 次の行動が決まらない。


 レオンが低く言う。


「完璧ってのはさ」


 笑う。


「選択肢がないんだよ」


 その言葉と同時に。


 三人が、


 同時に動く。


 バラバラに。


 完全に不規則に。


 適応体が、追いつかない。


 一体、崩れる。


 二体、消える。


 だが。


 その瞬間。


 空が、変わった。


 全員が止まる。


 上を見る。


 青い空。


 その奥。


 “層”が、さらに増えている。


 イリスが低く言う。


「……更新」


 リリアの声が、わずかに重くなる。


「……段階が上がります」


 アルデリックが呟く。


「……まだ終わっていないのか」


 レオンが空を睨む。


「……いい加減にしろよ」


 その瞬間。


 空の奥で、


 “目”が開いた。

ここで「数」と「配置」の攻略が成立しました。


ですが同時に、

世界はさらに“上の段階”へ進みました。


ここからはもう、

単なる戦術では通用しません。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

面白いと感じていただけたら、ぜひブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです。


次回、「観測者の視線」。

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