第90話 対等干渉
空間が、大きく歪んだ。
上下も左右も消える。
丘も、人も、すべてが引き剥がされる。
「――ッ!」
レオンの足元が消えた。
落ちる感覚はない。
ただ、
“基準”がなくなる。
視界が白に染まる。
だが今回は違う。
完全な白ではない。
奥に、
“構造”が見える。
層。
流れ。
そして、
中心。
「……ここか」
声が出る。
誰にも届かないはずの声。
だが。
「――認識」
返答があった。
レオンの体が固まる。
振り向く。
そこに、
“それ”がいる。
巨大でもない。
小さくもない。
ただ、
そこに“在る”。
形は曖昧。
だが明確に、
存在している。
「……お前が」
言葉が自然に出る。
「世界か」
否定も肯定もない。
だが。
理解された。
それだけで十分だった。
次の瞬間。
情報が流れ込む。
「――ッ!」
レオンの視界が崩れる。
記憶。
選択。
可能性。
すべてが展開される。
自分が、
どんな行動を取るか。
すべての分岐。
すべての未来。
それが、
“並べられる”。
「……ふざけんな!」
叫ぶ。
その瞬間。
一つの未来が固定される。
最適解。
最短経路。
勝つ動き。
その通りに、
体が動こうとする。
「やめろ!!」
必死に止める。
だが。
動く。
止まらない。
その時。
「――ずらせ」
声がした。
リリア。
横を見る。
彼女もいる。
同じ空間に。
「……っ」
レオンは歯を食いしばる。
未来の流れ。
最適な行動。
それを、
“ほんの少し”ズラす。
意図的に。
その瞬間。
流れが崩れる。
固定されていた未来が、
揺れる。
「――?」
世界が、反応する。
リリアが言う。
「完全には固定できません」
静かな声。
「選択は、残ります」
その言葉と同時に。
空間が揺れる。
イリスもいる。
同じ場所に。
彼女は静かに言う。
「……干渉可能領域」
三人が、
同時に“ここ”にいる。
丘ではない。
現実でもない。
世界の内部。
中心に近い場所。
アルデリックの声はない。
他の人もいない。
ここは。
三人と、
“それ”だけ。
「……面白ぇな」
レオンが笑う。
恐怖はある。
だが。
それ以上に。
納得した。
「ここなら」
拳を握る。
「直接やれる」
その瞬間。
世界が動く。
再び未来が固定される。
最適解。
今度は、
より速く。
より強く。
「――ッ!」
レオンの体が動く。
止められない。
だが。
横で、
イリスが言う。
「……同期」
彼女が同時に動く。
だが、
ほんのわずかにズラす。
さらに。
リリアが、
そのズレを広げる。
三人の動きが、
完全に一致しない。
だが。
繋がっている。
その瞬間。
固定された未来が、
崩れる。
「――!!」
世界が、初めて揺れる。
完全だった構造が、
わずかに歪む。
レオンが踏み込む。
だが今度は、
“選ばない”。
複数の動きを、
同時に試す。
未確定。
未完成。
その状態を、
維持する。
「……これだ」
確信する。
イリスも理解する。
「……未定義状態」
リリアが言う。
「確定を拒否する」
三人が、
同時に動く。
だが。
決めない。
固定しない。
流動。
その瞬間。
世界の構造が、
大きく揺れる。
最適解が、
成立しない。
未来が、
固定できない。
「――ッ!」
白い空間に、
亀裂が入る。
中心が、
揺れる。
レオンが笑う。
「どうだよ」
叫ぶ。
「完璧じゃねぇだろ」
返事はない。
だが。
確かに。
“効いている”。
その時。
世界が、
変わった。
今までとは違う。
更新ではない。
適応でもない。
“選択”。
中心が、
ゆっくりと動く。
リリアへ。
イリスへ。
そして。
レオンへ。
「……来るぞ」
レオンの声が低くなる。
リリアが静かに言う。
「はい」
イリスも頷く。
三人が並ぶ。
今度は逃げない。
その瞬間。
中心が、
一つに収束し始める。
そして。
その位置が、
決まりかける。
ついに「世界の内部」に入りました。
ここからは完全に最終局面です。
中心が決まる瞬間が近づいています。
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次回、「中心決定」。




