鉱山探検
次の日の朝早くに、ジークが帝国軍が撤退した事を知らせてくれた。ハルジオンはやはり一度帝国に帰って指示を仰ぐことにしたようだ。
とりあえずの危機は脱したようで、アレリアはホッとした。
「ねえ、もう私の役目は終わったんじゃないの?いなくてもいいでしょ?」
言葉はゆっくり穏やかに、けれどとても必死に訴えた。少なくても一度は殺されそうになった相手と一緒に旅は勘弁して欲しい。
ジークのいつもの笑い顔に、あ、これは無理だなと内心悟るが諦められなかった。
「うーん、帝国軍が撤退する前に、連絡が来ていたみたいなんだよね。帝国の貴人が行方不明だと、検問通過は厳選されたし、発見次第すべからく引き渡せってね」
アレリアは青ざめてその言葉を聞いた。バレるとは思っていたが、すでに連絡が回るくらい大事になっていたようだ。
「普通は上層部が捕虜になれば機密保持の為に殺す方を優先する。そっちの方が簡単だからね?でも帝国はどうしても君を奪い返したいようだ。ミルゼベルクの子だからかな?」
なぜジークがこの話を自分にしたのかわかる気がする。つまり、自分は何かあった場合の保険、人質としての価値があるという事だ。
ぐっとジークを睨み上げた後に、ふと彼の言葉に疑問を抱いた。
「連絡って帝国から共和国に来たものだよね?どうしてそれをジークが知ってるの?」
「それは情報を教えてくれる知り合いがいるからさ」
やっぱりジークは国を動かしている官吏と繋がっているようだ。けれどあまりにあっさり認めるので少しだけ呆気にとられる。
「そういうのバラしちゃっていいの?」
「誰にでも言わないけど、君とは信頼が必要だからね?まあ、誠意って事で」
つまり、これくらいは話してもいいという事だろう。それはもっと大きな隠し事をしているって事だ。アレリアも同じようなものだが。
「チビ魚」
「……」
「おい」
なぜか、眉間に皺寄せてこちらを見ているラエルと目があった。もしかして私の事だろうかと、今度はこちらの眉間に皺が寄る。
「変な名前つけないでくれる!?私が嫌いなのは知ってるけど」
「はっこの国に帝国人を好きな奴がいるかよ」
まただ、この違和感は何だろう。帝国に対する憎悪のようなものを感じる
「どうして帝国人が嫌いなの?」
それを聞いたラエルが怪訝な顔になった。ルイが何か言おうとすると、ジークが止めたようだった。
「そうか、やっぱり君は知らないんだね」
何がと言いかけた時、ラエルが話題を変える様に話を切り出した。
「俺とお前で魔晶石を採取して来いってよ」
日差しの強くなった午後、アレリアとラエルは山に登っていた。
ジーク曰く、現物がなければ交渉は難しいのと手土産は必須だという事だった。それはわかるけど捕虜に山登りさせるのは如何なものかと!
人使い荒すぎでしょ
ラエルのペースの早さになんとかついて行き、鉱山の入り口が見えた。
「おぉ、よくついてこれたな。ちょっと驚いたわ」
これでも元騎士で、毎日鍛錬はしていた。内心どや顔で、息も絶え絶えに横の男を睨む。
「その隙に私が逃げたらどうするの」
「はは、逃がさねーよ」
ラエルと二人にしたのも、三人の中で一番腕が立つからだろう。ジルは強い相手は見ればわかると言っていたが、アレリアはさっぱりわからない。少なくても力じゃ敵わないだろう。
「ジークはお前がいれば見つかるだろうって言ってたけど、魔晶石って見つけにくいものなのか?」
「あー、鉱夫は石そのものを見分ける事ができるだろうけど、魔力を使った見つけ方もあるからね」
彼は私の家門を見てそう思ったんだろうけど…
「ジークが三大貴族の話をしてたでしょう?ヘルシェベルクは武力に、アーテルベルグは知識、ミルゼベルクは魔力に長けた家門なの」
これは別の秘匿にしている情報でもないので言っても構わないだろう。じゃあお前は魔法使いなのかと聞かれて首を振った。
「確かに魔法使いを多く輩出している家門だけど、私は魔力が少ない落ちこぼれで魔法使いにはなれなかったんだ。魔力ってのは誰でも持ってる物なんだけど、それを使うには必要な量と才能があって、私にはどっちもなかった」
そして魔法使いになる訓練方法は、帝国が独占している。これが魔法使いが西側に多い理由でもある。魔法使いの才能はまだハルの方があるくらいだ。少し残念そうに見えたのか、ラエルがやや小さな声で尋ねてきた。
「お前はその、魔法使いになりたかったのか?」
「え?いや、とくに…」
ミルゼベルクは皇家と一番関わりの深い家門で、全体的に魔力の多い一族なので肩身が狭かったのは事実だ。けれど別に魔法使いに思い入れはなかった。
「ならいいんじゃね?人生で必要なもんは少ない方がいいと俺は思ってる。優先順位はわかりやすいに限るからな」
もしかして慰めてくれたのかな?帝国人嫌いだって言ってたのに、お人よしだなあ…
「貴方にも大事な物があるの?」
「あるよ」
即答するラエルの横顔を見ながら、何故だかとても羨ましく感じた。
そして鉱山に入ってすぐ魔晶石はすぐに見つかった。
魔力を流すとほのかに光る性質があるので、洞窟内の魔晶石は連鎖的に輝いた。もちろん魔力量に比例するので、アレリアの半径一メートルくらいが精々だったが。
ラエルに偉い偉いと大層褒められたのが、少し照れくさかった。ルイの例をみても、子供を褒める癖でもあるんだろうか。私は子供じゃないけどね!
ジークたちのいる宿に帰るとおかえりと言って夕飯を一緒に囲んだ。
ルイもまだ私が気に入らないようだが、旅券はちゃんと用意してくれていたようだ。
これが私の新しい旅券か
前のは発券が帝国だったので、出来るだけ皆と同じアセノーに合わせた方がいいと新たに作ってもらった。けれどちょっと待って。
「リア…、16歳男になってるんだけど!?」
「見た目で判断させてもらいました。貴方の言う事はまだ信用できないので。けれど、そう間違ってはいないでしょう?」
どや顔で自慢するルイをみて、ジークとラエルが小刻みに震えながら笑っている気がする。
「ちょっ…」
いや、待って。むしろ男と思われてた方がよくない?
捕虜としての立場なら女とバレたらそれこそ面倒になるかもしれない。それに帝国側を欺くためにも旅券の性別は男の方が便利だろう。
男に見えるってのは癪だけど
何も言わず着席すると、旅券をそのまま鞄に仕舞い込んだ。そして無言でルイの皿から好物を取って口に放り込んだので、また喧嘩になったのだった。




