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旅立ち

「アーテルベルグ卿!先行している部隊からの報告です」


ハルジオンは陰鬱な様子で部下の報告に耳を傾ける。元々鍛錬よりも城で本を読んでいる方を好む性分なので、長期遠征はいつも気が乗らない。白の騎士として生まれた時から役割が与えられていなければ、学者にもなっていただろうと思う。


「それが、アセノーの西側の橋から火があがっています。通行は不可能かと」

「火?住民が愚かにも火をつけたのか…?」


西側の橋は帝国が建設して所有権を持っており、管理こそアセノーに任せてはいるが、関税の多くは帝国が搾取している。つまり帝国に対する宣戦布告にも捉えられる。


「いえ、アセノー側の主張によると、山賊による仕業だと言っています」


ハルジオンは頭の中で地図を描いた。確かにあの国は深い山が側面に連なっているし、山賊の報告も受けていた。だからその山に入らずに橋を渡って東にいけるあの国は重宝されるのだ。


「しかし、山賊ね…。都合よくやらかしてくれたものだな」


普段山を根城にしている山賊がわざわざ降りてきて、橋に火をつけるとは出来過ぎているだろう。他国の間者なら突き止める事はできるが、山賊は難しい。精々討伐するくらいだが、なぜそんな面倒な事を帝国がしなければいけないのだろうか。


「さて、どうしようかな」


ハルジオンはゆっくりと空を見上げ、雲一つない晴天に眺め続けた。





「何てことしてくれたんですか~!」


未だにうるさいルイの小言を聞きながら、アレリアはパンを頬張っている。ひと仕事した後のご飯は美味しい。


「えー?みんなで多数決したよね?木橋は海で腐食も進んでたから、まあ修繕時期として良かったって事でどうよ?」

「どうよじゃないですよ!西側への通行が完全に遮断されちゃったじゃないですか!それにいくら外部の仕業に見せかけても管理不行きで責任は取らされますよ」


それでも表向き、アセノー側の直接の仕業にはしなくて済んだ事が大事だった。まあ、賠償を払うのは仕方ない。


「アセノーはまだ東側の商人との行き来があるんだから大丈夫でしょ」

「橋を燃やすってのは地図をみてすぐに思いついたの?」


ジークが飲み物を片手にこちらに話しかけてきた。


「私は戦場は経験がないからわからないけど、守城の知識は少しだけ学んだ。出入口を塞ぐのは籠城戦の基礎だから、思いついたというより知ってたというのが正しいかな。とりあえず、これで時間は出来た」


時間?とラエルが聞き返すのと同時にジークが口を開く。


「橋が修復するまでは帝国は動かないって事だね。逆に言えばその時間稼ぎの間に、根本的な解決策を考えなければいけないって事」

「けどそれまで攻めてこないって確証はないんじゃないか?」

「ジル、黒騎士なら無理やり来てたかもしれないけどきっとハルは来ないよ。合理主義者だからね」


橋が落ちてしまった以上、変えられるとすると山越えのルートしかない。しかし軍隊は人数が多い為、その準備、主に食料を調達しなければいけなくなる。近場で用意するにも限界がある為、きっと一度は国に帰らなければいけない。それから山を越えたとしてもかなりの日数がかかる。


「で、解決策ってのは?」


これはジークと一緒に考えた。


「この国だけじゃ、どう考えても帝国と対等には渡り合えない。だから同じだけ力のある大国と同盟を結ぶしかない。候補的には帝国と敵対している東の大陸の公国とか」

「それこそ無謀でしょう。僕らはともかく公国がこちらの小国と同盟を結ぶ益はないでしょうから。何より離れすぎてて、現在まともな交易もないでしょう」


ルイが地図を見ながら、共和国から公国までの距離を指でなぞる。


「そう、だからこちらが持っていて、公国が必要としているものって何かないかなって考えた時…ね、ジーク」

「うん、僕らのいる西側で盗れるものに魔晶石ってあるだろ?魔力の宿った石、けれどこちらじゃそれほど重宝しないからアセノーでもずっと放置の鉱山も多い。けど東側には需要があるんだって、特に公国みたいな大きな国は」


魔晶石が重宝しないのは西側には魔法使いが多いからだ。主に魔力の少ない者の補助くらいにしか使えない為、そんなに必要とされない。だからと言って帝国と公国は敵対している為、輸出もされない。


「アセノーが公国と取引を開始出来たら、いよいよ帝国と袂を分かつ事になりますね」

「彼らの保護下に入るわけだから、まあそうなるだろうね。だからと言って、公国程大きな国を味方につければ、そうそう手を出される事はないんじゃないかな。何より帝国よりは話が通じそうではある」


ラエルがじゃあ使者を派遣するのかと言うと、ジークが首を振った。


「必ず返事を持ち帰らないといけない、時間がないからね。書簡や代理じゃうまくかわされる可能性もあるから、僕が行く」

「えっ」


アレリアはそこまで聞いてなかったので、思わず声に出して驚いた。


「じゃあ俺も行くんだな」

「僕もですね」


ラエルとルイがすぐさま同行に声をあげた。この三人の序列で、ジークが一番高いんだろうなとは思っていた。決定権も彼が持っているのだろう。


でも使者は国の代表でもあるのに、そんなに独断で決めれるジークって何者なんだろ?


「そう、頑張ってね…」


とりあえず自分の役目はこれで終わりだろう。やり切った感に安堵していたら、ジークから何言ってるのと返って来た。


え?


「約束はこの国の戦争を回避するまでしょう?まだ終わってないよ?ああ、とりあえず国を出れるんだから、丁度いいんじゃない?ねえ、リア」


嫌な予感に思わず両手で耳を塞いだ。それをラエルがぐぐっと手で押しのける。このバカ力!


「もちろん、最後まで付き合ってくれるよね。大丈夫、ラエルも腕っぷしは頼りになるから、安全は保障するよ」


嫌々するように首を振ったが、それは黙殺された。

奇しくも願っていた通りに国を出れる事にはなったが、予定と違うのはよくわからない三人の同行者と何故か一緒だという事だった。

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