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懐かしい場所

昔から、物語を見るのは好きだった。主人公は様々な困難を乗り越えて、信頼できる仲間や素敵な伴侶と出会い幸福になれる事が決まっていて、そんな彼らの人生を見ているだけで幸せになれるからだ。

けれど、同時に物語の最後を見る事が辛かった。

物語が終わり、現実に返ってくるとそこには何も変わらない自分だけがいるから。

それはとても幸せな夢に似ていると思う。

そして私は現実でもずっとそんな事を夢見ていた。


「ありがとう」


そう言ったアレリアの泣き顔を、ラエルが少し困った顔で目線を逸らせた。


主人公が幸せになれるのは当たり前だ。彼らは辛い悲しい思いをしていないわけじゃない、けれど決して立ち止まらない、最後に向かって進み続けるからだ、それが幸せだと信じて。


私はきっと最初から諦めて立ち止まってた


ジークにはあんなに偉そうな事を言っておいて、自分の事はよくわかっていなかった。結局、自分を幸せにするのも不幸にするのも、自分自身なのだと。


他人を見ていたら、よくわかるのにね


気まずそうな雰囲気でラエルが話しかけてくる。


「そんで、さ…やっぱり戻るのか。殺されそうになるくらいなんだから、むしろ戻らんほうがいいんじゃねえの?」

「私が責任感だけで戻ろうとしてると思ってるの?」

「違うのか?」


知りたいと思うと同時に、もうひとつ強い気持ちがある


「ラエルは、ジークと一緒に居たのは責任感や罪悪感だけだった?」


はっと気づいたような表情とした後に、少しバツが悪そうに顔を背けてラエルが言う。


「…違う」

「私も同じだよ。ハル達が大切だから、戻るんだ」


にこりと微笑んでアレリアは続ける。自然と言葉が出てくるのは、嘘偽りない素直な気持ちだからかもしれない。


「それにね、ハルに聞かないとわからない事はあるけど、どうすればいいのかは何となく検討はついてるの。シーラの少年と話せたからね」


ソウルと話した時から、ひとつだけ仮説を立てたことある。それはもしかしたら、他人の力が必要になる事かもしれない。


「ねえラエル。願いを叶えてくれるって言った事、忘れないでね」

「…ああってかお前そればっかだな」


何となく不穏な気配を感じて怪訝な顔をするラエルに、アレリアは気付かないふりをした。そして、そう言えばラエルと別れる際に、前も同じような事を言ったのを思い出した。



二人は行きとは違い、大きな国などは寄らずに道なりに進んだため、すぐに西との国境付近に近づいた。懐かしいアセノーの街並みだった。


「俺は一応旅券あるが、問題はお前だよな?どうやって検問抜けるか」

「あーそっか。帝国に戻った時もシーラの人達に連れてもらった時も通らなかったから…」


異常に便利な超常現象のせいで全く考えてなかった。並ぶ列を見ながらどうするかと思っていたら、検問の傭兵らしき人物がこちらに気付いたのか近づいてくる。


「ラエルの知り合い?」

「いや?」


兵が近くまで寄って話せるくらいの一定の距離で止まった。特に武器を振りかざす動作もしなかったので、こちらも身構えずに対応する。


「そちらの男性の方は旅券はお持ちですか?」

「ああ」


ラエルが旅券を見せると、男性は何か紙をめくりながら確認する。


「住民帳に名前がある方ですね、おかえりなさい。そちらの方もどうぞお通り下さい」

「え?私は何も持ってないけど、いいんですか?」

「そちらの方の旅券は、手違いですでに帰国した方が提示されています。出国記録もあるので大丈夫ですよ」


ええ?


帰国した方って誰?とラエルの目線を送ると、知らんと言うように頭を振られた。わけもわからず、さくっとアセノーに戻れてしばらく茫然としていた。すると、入ってすぐの入り口にいた少年が話しかけてくる。


「ほら、僕は役に立つでしょう?」

「…!ルイ?」


にこにこと近寄ってくるルイを見て、懐かしさで少し笑みがこぼれる。ラエルと同じように彼も公国を出て母国に戻っていたようだ。


「ラエルさんならきっと、アレリアさんを見つけて戻って来ると思ってましたからね。けれど彼女の旅券を渡す前にさっさと出発してたので、僕も急いで戻って来たんです」


本当はすでに一度飛び越えて帝国に戻っていたのだが、ラエルはアレリアがいなくなった時の説明をあまりしなかったようだ。あの状態を考えれば、当然かもしれない。


「それにしてもなんであの門番は俺達がわかったんだ?」

「ああ、それはですね…。兄たちと出稼ぎに出たんですけど、盗賊に身ぐるみはがされそうになってはぐれてしまったと迫真の演技で訴えまして。みすぼらしい姿の男と少し背の低い少年が入れなくてうろうろしてたら、それは兄かもしれませんとお金を多めに渡して頼んでいたんです」

「みずぼらしい姿…?」


ラエルがルイの頭をガシッと掴んで他に言い方なかったんかと凄んでいる。


「まあ、おかげで助かったがな。まさか何の検査もなく入れるとは思わなかったし」

「住民であるラエルさんが一緒に居るのと出国記録がありましたからね、さすがに何の証拠もなく怪しい人物は、お金を渡しても入れてもらえませんよ」

「そっか、ありがとうねルイ」


アレリアがお礼を言うと、ルイがこちらをまじまじと見てきた。


「アレリアさん変わりました?なんか、笑顔が綺麗に見えるというか」

「おいルイ、年上の女を口説くには背丈が足りねえんじゃねえの?」

「そんなんじゃないですよ!」


揶揄われたルイが顔を赤くして背けるのを見て、ふふっと笑う。少し吹っ切れて笑えるようになったからかなと思った。懐かしい故郷で嬉しそうに話す二人の会話に目を細めながら、ここにジークがいないのが少し寂しかった。


そしてふっと目の前を影が通り過ぎたと思ったら、頭の上で小さな鳴き声がした。見上げるとそこには旋回している小鳥がいた。


ハルだよね


多分探していたんだろうなと思った。西に帰ってきて即見つかったのを見れば、まさか東に行ったとは思わなかったようだ。アレリアは頭上の鳥に向かって話しかける。


「ハルと話がしたい、二人で。そっちもその方がいいでしょ?」


そう言うと、鳥は一度鳴いてすっとどこかに飛び去って行った。これでいいのかな?

よくわからないが、これでハルには通じるだろう。あとは帝国に戻るだけだ。


会話を聞いていたルイは察して何も言ずアレリアとラエルを見送ってくれたが、少し心配そうにこちらを見ていた。


「なあ、帝国にはどうやって入るんだ?」

「帝国人が帰るだけなら難しくないんだよ、指定の場所に転送陣があって紋章石持ってれば誰でも使える。ラエルは私と一緒なら入れるよ、ひとりで陣に入ると四肢が千切れるから気を付けて」

「おい、いきなりグロい事言うなよ…」


アセノーから一番近い南門に近い陣に移動する。ここは何より人気が一番少ないからだ。ラエルがこれでもかとアレリアにくっついて陣を作動させると、次に見た光景は帝国だった。そして…


「ハル」

「おかえり、リア。まさか戻って来るなんてね。けど、二人だけって聞いてたけど?」


ハルが陣の前で待ち構えており、アレリアの後ろのラエルを見定める。そして何故かラエルが辺りを警戒するように視線を這わせた。


「ハルだってひとりじゃないでしょ?私も自分を守らなきゃ対等に話せないって、身を持って体験したからね。私はハルが知っている事を教えてもらう為に帰って来たの。納得できたなら、ハルの言うとおりにしてもいい」


ラエルがんなっと驚いて一瞬止めるような動作をしたが、アレリアはスルーした。そんなアレリアをしばらくじっと見ていたハルは、ため息を吐いて目を伏せた。


「まずは中に入ろう、誰にも邪魔されたくないから」


そして二人を城の中に誘導しながら、ハルはいつもの優しい口調なのに、その後姿はどこか知らない人に見えた。

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