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赦し

ある程度話し終わり、しばらく無言の後にラエルが頭を抱えながら口を開いた。


「頭がこんがらがりそうなんだが?俺よりもっと頭いいやつに話すべき事だろ」


うん、相談する相手を間違えたかもしれない


それでも思っていた事を口に出すと、少しだけ気が楽になった。ラエルが帝国人ではないから素直に言えたのかもしれない。


「シーラはてっきりただの宗教だと思ってたぜ。なんか帝国の奴らもきな臭いな、ジルはそこまで怪しくは見えなかったんだけどな」

「そうだね、ジルはきっと関係していても知らない気がする。うまく嘘をつける人じゃないから」


けれどハルが関係している以上、三大家門のひとつであるジルが無関係だとは思えなかった。何かしら真実を知って、彼が傷つかなければいいのだが。


「ね、やっぱり帝国の色騎士たちって他国から見ても有名なの?」

「あーそうだな…、黒騎士の噂はアセノーでもかなり有名だしな。お前は他の騎士たちも、何だっけ?シーラの血に関係してると思ってんのか」


少し不可解に思えることはあるが、帝国の決まった貴族が厳しいくらいに血族婚を繰り返してきた事にはやはり意味がある気がする。けれど、多分騎士の家系はシーラではない。シーラ自体は不思議な能力などは持てないはずだから、あるとすれば血を分け与えた眷属の可能性が高い。


「血を与えた相手に付き従う、か。そういやジルは異常にお前にべったりだったもんな?俺いつか聞いたんだよ、そんなに離れがたいほどお前の事好きなのかって」

「…それで?」


“リアは好きだよ、誰よりも好きだ。けれど何故かと聞かれたらわからない、漠然としたこの気持ちは何なのか、説明は出来ない”


「何だそれって思ったんだよな。アイツが鈍いだけだと思ってたんだが」


それを聞いて、アレリアはさらに暗闇に突き落とされた気持ちになった。もしかして、幼馴染として慕ってくれていた仲も全て嘘偽りの感情で作られたものだったなら?ジルも、ミアも最初からアレリアに好意的で一度も喧嘩などしたことない。それがどれほどおかしい事なのか、今初めて気づいた気がする。


ひとりで考えていると、ラエルがこちらを見ていることに気付いた。あまりに見られているので、思わず反応してしまう。


「…何?」

「お前はさ、自分がシーラでジル達に血を与えてしまったと思ってるんだろ?」


だって、そう考えると色々辻褄があうのだから。所々まだ繋がってない部分はあるが、凡そは間違っていないはずだ。だから、ハルが自分を元凶と言ったのだとしたら理解できる。


暗い表情で顔を伏せるアレリアの手を取りラエルがゆっくりと握る。何事かと顔を上げてラエルを見るが、そのラエルはしばらくアレリアの手をじっと見つめていた。


…?


するとラエルがアレリアの人差し指を口に入れたので、驚いで思わず手を引き抜こうとする。それを押し留め様とするようにラエルが咄嗟に指を噛んだ。


「いっ…!」


そして痛みとは別にハッと気づいて、アレリアは思わず手を払いのけて、そのまま勢いにまかせてラエルの頬を叩いてしまった。ラエルは痛がるも素振りなく、口元についた血を舐めとった。それはアレリアの血だった。


「な、にしてるの!?吐き出して!」

「いや、もう遅いし。ただの血だ」

「バカ…!だって私はっ…」

「ほら、何ともないだろ?お前は普通の人間だよ」


多分それを身をもって証明してくれたのだと思った。その優しさと無茶ぶりに対する怒りで、涙が出てくる。彼は本当にバカだ。


「泣くほど痛かったか?手加減したんだが、悪かったって」


ラエルが子供をあやす様に、アレリアの頭を撫でる。泣きそうなときに優しくされると、人が涙が止まらなくなるのだ。泣いたところで何かが解決するわけでもない、弱音を吐いたところで誰かが助けてくれるわけでもない。だから昔から弱さを見せる事が嫌だった。けれど、この人の前では心地よく感じるのは何故だろう?


「でも時間差で体調悪くなるかもしれないじゃない、もし…そうだったら」

「いや、それでも死ぬわけじゃないだろ?ジルとか見てても自我がなくなるわけじゃないっぽいしな。それにお前に対する好意が増えるだけって言うなら今とそう変わらんだろ。なんならもっと強い能力もついてくるかもしれんオマケつきだしな」


明るく言うラエルを片手で殴ると、大げさに痛がられた。彼は懐に入れた人間に対して警戒心が薄すぎる。

けれど、自分がシーラだとしても誰彼構わず眷属にする能力はない事がわかって安心した。やはり純血でないとそんな能力はありえないのだろう。ならば、特別なのは自分ではなく三大家門の方だろうか?


「まあこれでお前が他人には無害ってのはわかっただろ?」

「うん…多分問題になるとしたら、私が帝国にいる場合なんだと思う。この血の濃さは人為的だと言われたから、他国の人間には問題なくても帝国の人間には何か害を及ぼすのかもしれない。だってラエルだってジルはおかしいって思ったんでしょ?」

「うーん。でもおかしくね?ならなんで白騎士だけお前を殺そうとするんだ?条件は皆同じだろ?なんかそいつだけ違うのか?」

「そう、だよね…?違うとしたら年齢くらい。私が城に行くずっと前から、ハルはすでに白騎士だったの。ラエルと同じくらいかな?優しいお兄ちゃんだよ…」


きっと、どこかでわかっていた気がする。私達の絆は、もしかしたら出会う前から意図的に作られていたのかもしれないと。同時に自分にとっては長い時間を過ごした大事な幼馴染だ。何もかもを切り替えて考えられる程、アレリアは器用ではない。


「なあ、逃げるか?」

「え?」


いきなり何の話だろうとアレリアは首を傾げる。


「別にお前がシーラだとか、そういうのはお前のせいじゃないだろ?辛かったら全部投げ出して逃げたっていいんじゃないか?お前の意志でもないのに、何で責任をとらなきゃいけないんだ?」


確かに誰もが生まれは選べないし、自分も最初はそう思った。けれど、そういう意味ではハルやミアも同じように苦しんでいるのではないかと思う。それに…


「私のせいで不幸になった人がいる。その人に報いる為に国を出ようと思ったの、けれど出ても結局変わらなかった。だって私が根本的に変わらなかったから、知ろうとせずに逃げただけだったから」

「今は違うのか?」

「終わらせたいと思う。それが出来るのも私だけだから、ハルに狙われているんじゃないかな。そして大切な人達に幸せになってほしい」


ラエルはどこか気に入らないと言うように眉根を寄せる。


「なんでそんなに自分を罰し続けるように、他人を助けなきゃいけないような言い方をする?お前はなんていうか、どこかジークに似てるんだよな。アイツより綺麗ごとだが、それが自分の望みのように振舞う。不幸になった奴だって、お前がそう望んだわけじゃないだろ?そいつが望んだ末の結果が、幸か不幸かなんてまでお前の責任にしなくていいんだ。そう教えてくれたのはお前だろ?」


アレリアは茫然としながら言葉を続ける事が出来ずに、ただラエルの声だけが世界の音になったように耳を傾ける。


「自分が生きたいように生きればいいじゃねえか。逃げたいなら一緒に逃げてやるし、救いたい奴がいるなら一緒に助けてやる。今度は俺がお前の願いを叶えてやるよ」


泣くのは好きじゃないのに…


また自然と涙が出てくる。それはアレリアが一番欲しかった言葉だったから。いつも願ってはいけないように感じていた。けれど、ラエルはいいのだと言ってくれる。


幸せになりたいと思っていいのだと。

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