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少年と向かい合うアレリアは、そんな事自分が一番知りたいと思った。今までただの帝国人だと思っていたのに、ハルには疎まれ、目の前の人物にはシーラディーバなんて言われている。


「何者って?」

「お前はシーラの血が入った混血児なのは間違いない。けれど血の濃さが尋常じゃない、普通世代を重ねると血は薄くなるはずだろ?」


確かに一度伴侶にシーラを迎えても、次世代はさらに普通の人間の血が入るので能力は無くなっていくのが当然だ。東のシーラの子孫のように隔世遺伝で稀に不思議な力が発現する事になっても、その能力は永い眠りにつくだろう。


「でも、お母様はシーラなんかじゃなかったはずよ。父は皇族の傍系で…」

「確かにここ何十年も行方がわからなくなったシーラはいないが…本当に?」


そう言われると確信が持てる反応は返しづらい。なぜならハルの言った事が本当ならば出自が不確かになるからだ。けれど三大家門のように中枢にいるような貴族が、部外者を招き入れるとは思えない。帝国では伴侶に関しても血族を重んじる風習がある。


「ではお前の国で他にもシーラを見たことあるか?」

「私は他のシーラ何てわからないよ。貴方達はわかるのかもしれないけど」


半端者だからかというような目で見られているような気がするが、そんなの知った事ではない。


「まあ、お前みたいなのが大量にいたなら、他の者が見つけていただろうな。西にもシーラはいるのだから。では質問を変えよう、シーラの血を与えたと思われる特別な人間は見たことあるか?」


教国の神官様みたいな人の事よね


帝国人でそう聞かれたら、誰もが同じように答えるだろう。この先の謎を解き明かす為にも、これは言わなければいけないかとアレリアは腹をくくった。


「帝国に特別と言われる人間は四人だけど、血なんて与えられた事はないはずよ」


少年は言ってみろというように顎で先を促す。


「まず女王、そして三大家門の黒騎士、白騎士、青騎士よ。どんな能力かは機密事項だから言えないけど、武力や魔力に秀でて常人では持ちえない特殊な能力がある、くらいかな。でも、シーラの与える能力って選べるの?帝国の騎士達は先代と全く同じ力を受け継いでいるのは確かなんだけど」

「シーラの能力は選べない。気質と相性で決まると言われているがな。けれど、血の繋がった親族には、似たような能力が発現する可能性はあるらしい。ただし同じシーラが与えた場合のみだ」


えっと、一人のシーラが例えば兄弟に血を与えると同じような能力になったりするって事?


「正直今はもう、血を分け与える事は厳禁であり、能力の相互関係は解明できないから確証はない。過去の文献の知識に照らし合わせているだけだ。けれど…世代が変われば結局同じシーラが血を与える事は不可能だからな…」


何とも不可解な表情で少年は考え込む。


「世代か…、例えば血を後世にとっておく、とかは有効なの?」

「血を与えられたらそのシーラが絶対の主となる。別のシーラだろうと使役することは出来ない、それこそ主が死ぬまで。だからすでにこの世にいないシーラの血を飲んでもあまり効果はないんじゃないか?能力は主に捧げる為のものだと言われているしな」


それを聞いて、なぜかぞっとした。そこまで恒久的に心を縛るものは魔法でもそうない。


「なら、三大家門はシーラとは関係ない可能性の方が高いよね?」

「…まあ」


腑に落ちない表情で少年はこちらを見てくる。


「お前、誰かに血を与えたことはあるか?」

「あるわけないでしょ!?」

「まあ、与えたところでお前じゃ何か変化があるとは思えないが」


自分の先祖にシーラの者がいたのだろうか?長年生きてきて、ここまで自分の事が分からないのは初めてだ。


「こちらとしては気になるのはお前の存在なんだよな。親がシーラではないなら、何かしら人為的に手を加えないとその血の濃さは残せない。そして、それを何のために維持している?」


人為的…?


確かにシーラは純血でないと能力はないのだとしたら、あまり普通の人間と変わらない。東と同じくたまに不思議な能力を持った人間が生まれるくらいだ。けれど、それが帝国にとって必要な事なのだろうか?


「…私が気になるとしたら、母も、私も、もしかしたらミルゼベルクではないのかもしれないって事かな」


“何も知らない本物の女帝は誰だと思う?”


元々帝国での結婚制度もミルゼベルクだけおかしかった。白騎士と黒騎士は婚姻すらしなくてもいいのに、青騎士のみ伴侶は皇族の男子から選ばれる、なんてどう考えても違和感がある。そして帝国でハルに言われた事を踏まえると、結論的にそう考えてしまう。


そう言った疑問を少年に伝えると、また考えた末に話を続けた。


「近親婚なら、ありえるかもな」

「え?」

「大昔にシーラと婚姻した者がいたとして、その子供もまた血が近しい者と子供を成していったとしら?」


帝国では一番近しい血族での婚姻は従兄婚が認められている。特に三大家門はそれぞれの家門の中で血族婚をしているので、珍しい事でもなかった。全て憶測にすぎないが、そうだとしてもなぜそこまで拘る必要があったのか。純血に重きを置いたとしても、やはり政略結婚して他国の貴族などを取り入れた方が全体的に見れば国の為になるはずだ。


「どちらにしても、帝国にその事実を知る者がひとりもいないとは思えない。お前の周りに詳しい者がいるんじゃないのか?」


知っている


多分、その人間の一人はハルだと思った。真実を知りたければ、きっともう一度向き合わなければならない。


「まあ、そうなら特に俺たちはお前に干渉するつもりはない。純血でなければそこまで問題はないからな。ただ、お前が怪しい魔術を信仰する宗派の奴らに利用されてるのかと思っただけだ」


シーラ教のように熱心に崇めたてる者もいれば、それを利用しようとする者もいる。中には怪しい儀式のためにシーラを捕まえたり、人工的にシーラを作れると信じて残忍な方法で殺したりと度を過ぎている者達もいるようだ。帝国でも魔法で人工的に生命を作り出す事は禁止されているくらいだ。


「もしかして心配してくれてたの?」

「違う。問題があれば処断対象だからだ」


けれど、本当にそうなら救済の鈴からして渡してくれなかったはずだ。監視するというのも真実だろうが、好んで同族を減らしたいわけではないのだろう。


「せっかく助けてもらったけど、私は帰るよ。そして自分の事を知りたい。多分答えはそこにしかないだろうから」

「物好きだな。もし居場所がなくなったら特別に里に入れるように交渉してやってもいいけどな。お前は一応シーラだから」


ぷいっと顔を逸らした少年を見ながら、これが俗にいうツンデレかなと思った。


「ありがと。でも出来ればそうならないように頑張るよ、ねえ私達お互いの名前も知らないじゃない?最後に名前を教えてよ、私はアレリア」

「ソウル」


名前を言う事に慣れてないのか、少年は少し気まずそうに顔を赤らめた。その顔は思った以上に幼く、もしかしてかなり年下なのかなと感じた。


このまま、何も知らずに逃げた方が正解かもしれないけどね


ただ、何も言わずに置いてきてしまったジルやミア、そして一人で苦しんでいるように見えたハルをそのままにしたくなかった。真実に近づいている今、このまま全てから逃げてもずっと後悔する確信があったからだ。


“どう死ぬかを選ぶという事は、どう生きるかも選べるという事”


なんとなく、以前神託で言われた言葉をふと思い出した。

そしてきっと終わりは近いのだと思った。

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