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訪問者

アレリアは昔から受け入れてしまう事に慣れてしまっていた。

納得はしていなくても仕方ないのだと、逆らう事など出来ない事の方が多かった。


死にたいわけじゃない、生きる為に逃げたのだから。自分を生かす為に手を差し伸べてくれた人だっていた。けれど大切な人がそれを望むのなら、自分に意味のある終わり方をくれるのなら、それでもいいのではないかと思ってしまった。


今なら少しジークの気持ちがわかる気がする。誰かを見送る時にその人の生が幸せなものであったと願うように、人間は自分の終わり方にも無意識に理由を求めるのだと知った。笑えるように、時には誇れるように、自分の人生が無駄ではなかったと思いたいのだと。だからハルの目を逸らさない。


しかしハルの方には迷いが見えた。ハルは合理的だが重要な命令を遂行する時は、他人に任せずに自らが動く。信用できる人間が極端に少ないからだと昔聞いた事がある。

その彼が何度失敗しても暗殺者を差し向けていたのは、自身の手を下す事に迷いがあったのではないだろうか。それが憐憫の情なのか、または別の感情なのかはアレリアにはわからないが。


「そんな目でみるのはズルいよ、リア。いっそ僕らの感知できない大陸の外に行ってくれたら良かったのに…」

「ねえ、ハルが知ってることを全部教えて。私は当事者なんだから知る権利はあるでしょう?」


力なく笑う彼に今度はアレリアが声をかける。知りたいというのと同時に、ハルの負担を減らしてあげる事は出来ないだろうかと思った。彼を疑い憎むには共に生きてきた時間が長すぎる。


「リアは…」


ハルが何か言おうとした時に外に人の気配がした。侍女の格好をした暗殺者が機敏な動きでアレリアの口と手を抑えた。


「うっ」


部屋を通り過ぎたのを確認してハルが口を開く。


「残業連中が帰りだしたようだ、話はこれまでだね。とりあえず監禁させてもらう。まだミアやジルに話されるのは困るんだ」


つまりこれはハルの独断なのだ。ミアもアレリアよりは帝国の秘密に近い場所にいるだろうが、きっとハルはもっと深い部分を知っている気がする。先ほど言っていた歴史の記憶とはなんだろう?


ジークと言いハルと言い、なんで賢い人は一人で抱え込むかな


真面目な人は難しく考えすぎるのだ。もっと自分の為にシンプルに生きていけばいいのに、いつも誰かの事で頭を悩ませている。今もきっと私の事で。


アレリアはそのままハルの管理する塔に送られた。凶悪犯以外で罪を犯した者を取り調べるために、一時的に収監する場所だ。


牢じゃないだけマシなのかな


塔にいるのは今はアレリアだけで、静かで薄暗い。夕食の席にも出られないので、ジル達が探しているだろうか?それともハルが簡単な言い訳でも考えているのだろうか?


この後どうなるんだろう


独りになると様々な考えの中に後悔も浮かんでくる。その中のひとつがラエルの事だった。彼にはアレリアが強制的に生き方を誘導してしまった。選ぶのはラエルだが、きっと追いかけて来てくれるはずだ。彼に苦しんでも生きて欲しいと思った自分が安易に他人に命を差し出すのは卑怯だと思った。


ごめんラエル。私は殺されるわけには行かないよね、まだ…


しかし塔には窓と扉、そして寝具とテーブルと最低限のものしかない。アレリアにも簡単な身体検査はされたのでもちろん武器など持っていない。


はあ、こんなに頻繁に監禁されるならもっと色々持っておけば良かった


いつかのアンティガブルの牢に閉じ込められた時の事を思い出す。あの頃はラエルとジルが助けにきてくれたなと、少し懐かしかった。でも過去の人達を頼るわけには行かない、自分でどうにかしなければ。


「何か持ってたかな…」


服をごそごそと漁ると、出てくるのはメモ用紙やペンなど、直前まで仕事をしてたので納得の物ばかりだ。


「あ、これってジークに貰った薬入りの飴?まだ食べられるのかな?それと…これなんだっけ?」


鈴のような物がころんと出てきた。見覚えはあるのだが、どこで手に入れた物だが思い出せずにしばらく考え込む。


「…あっ」


いつかの公国で会った少年に貰ったものだ。


“シーラは恩義を忘れない、こちらもお前を助けてやる一度だけ”


「あの子シーラの教徒なんだっけ?」


最初は船の上で、次に公国で、不思議な出会いがある少年だったのを思い出す。手に持った鈴は相変わらず音は鳴らない。アレリアは首を傾げた。


「これで助ける?えっと、他に何か言ってたっけ」


“助けが欲しい時はそれに血を付けろ”


確かそんな事を言われたはずだ。それに拒否反応を起こして、アレリアは反論した覚えがある。じっと見ると鈴は光沢を増したように綺麗に見えた。


出来る事は何でも試してみた方がいいよね、そんなに選択肢はないし


先ほど暗殺者につけられた耳の傷を触ると血が滲んでくる。それを少しだけ鈴につけた。


「これでいいのかな?」


しばらく見てたが何も起こらず、やはり社交辞令だったかと思った。そんな上手い話があるわけないと、そこまで期待していなかったので特に落ち込まずに済んだ。


「やっぱり窓かなあ、けど足場すらないのにどうしろと…」


アレリアはそう言いつつ窓の方を振り向いた瞬間に、鈴の音が響いた。アレリアにはその音が国中に響くのかと思う程大音量に聞こえ、思わず耳を塞いでしまった。


「えええ?」


鈴は一度凛と響き渡ると、それ以降何をしても鳴らなくなった。不気味なものを見る様に、アレリアは鈴をとって確かめる。


「何なの?」


今になって言われた通りの事をして良かったのだろうかと不安になる。元々あの少年の事もよくは知らないのだ。側に誰かがいれば、きっと迂闊な事をするなと怒られただろう。


でもあの子、危険な感じはしなかったんだよね。何でだろう?


とりあえずやれる事は全てやったので、アレリアは大人しく寝具に丸まった。逃げるにしろ、ハルに抵抗するにしろ、睡眠をとっておくのは大事だ。


お腹すいたな…


そして目を閉じるとそのまま夢の中に落ちて行った。




ふと、何か物音に睡眠が阻まれる。辺りは暗闇だが、何か擦っている音と話し声が聞こえる。


どこから…?また暗殺者?


灯りはつけずに音の出所を目線だけで探る。


「ちょっと、鈍臭いわね」

「だあああっ俺は肉体労働系は苦手なんだよっ」


…うるさい暗殺者だなあ


声は窓の外から聞こえたので、多分登ってきているのだろうと思った。ハルに命じられた見張りなら、そんな所から登らずに堂々と扉から来るはずだ。


アレリアは静かに身体を起こして何かあればすぐに動けるように身構え、右手にペンを握った。夜中の訪問者が窓に足をかけた瞬間、アレリアはペンを投げつけた。


「どわっ!?」


当たりこそしなかったが予想外の行動だったのか、訪問者は驚いて落ちそうになる。もう一人の訪問者に何とか助けられながら、暗闇から罵声を飛ばす。


「この…っ助けに来てやったのに!殺す気か!」


男の怒声にアレリアは動きをぴたりと止めた。


「え?助けに…?」


声に聞き覚えはない、確実に知り合いではないはずなのだがどういう事だろう?アレリアが無言で見定めていると、もう一人の訪問者が話しかけてきた。


「救済の鈴を使ったのは貴方でしょ?私達は貴方を助けにきたの」

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