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追憶

「どうしたの?リア」


ミアの声にはっとしたアレリアは、無意識に振り払ってしまった自身の手を見つめる。


「何でも、ない…」


心配そうにアレリアの反対側の手を握ってきたジルに、弱々しい笑みを向けて落ち着く様に呼吸を整えた。そして間を置かずにハルが空気を読んで、話題を変えてくれた。


「そういえばリアはかなり暇を持て余してるんだって?まあ、護衛騎士に戻るのは少し時間がかかるだろうね」

「何も知らない外部派閥が騒いでるだけよ。それでも帝国は、三大家門の中枢だけでやっていける程の規模ではないから、無下にも出来ないのよね。ああ、面倒」


いくら女王の権力が強大でも、広大な土地をひとりで治められるわけではない。どうしてもそれぞれを管理する貴族が必要なのだ。ハルは少し考えて、リアのほうに向きなおって口を開いた。


「じゃあしばらく僕の仕事を手伝ってくれる?簡単なのだけだから」

「なら俺も」

「あ、ジルはいいや」


速攻却下したハルに、ジルは怪訝な目で睨み返す。ジルはどう考えても戦闘専門で、繊細なハルの仕事には向かないらしく、二度手間になるのでやめて欲しいと断固として拒否した。


「今度はハルがリアを独占するの?ズルいわ」

「僕の仕事を手伝ってもらうだけだって…それよりミアは今は婚約者と仲を深めるのが先じゃない?」


え?


ハルとミアの会話を聞きながら、ふと初耳の情報が入って来て顔をあげた。


「ミア、婚約したの?」


女王の相手はミルゼベルク者で、直系の長男は領主となるのでそれ以外の男性が皇族に婿入りする。そして必ず次代の女王を産まなければいけない。アレリアの記憶通りなら、従兄が候補として選ばれていたはずだ。


「まあね」

「ミアは酷いんだよ。せっかくの婚約者とは顔合わせ以外に会おうともしないんだ」

「どうせ何をしても結婚する事になるんだから、会っても会わなくても同じでしょう?それを言うならリアだって、幼い頃から婚約者いるけど殆ど交流ないじゃない」


アレリアにも決められた婚約者がいて、その方とはたまに会うくらいで穏やかな関係を築いていたが、お互いに恋愛感情はなかった。


だって、お相手には好きな令嬢がいたからね


優しい方なのでこちらに不快感を与えないように、積極的な接触はしていないようだったが、端から見ていれば恋する男女というのはすぐにわかるものだ。多分、政略結婚後に子を産めばその令嬢を側室にでもするのではないかと思っている。


ならばあまり深入りする必要もないし、相手にも気の毒だ


皇族といえど女王でもなく皇子なら、身分は上でも実質的な権力としては色騎士の方が上で、こちらが何かしら求めればその令嬢との縁はなくなってしまうかもしれない。アレリアは早々と政略結婚と割り切り互いに愛を求めるのを諦め、それ以来あまり会う事もしなかった。


そもそも逃げきれたら婚約自体、白紙になると思ってたし


人生は上手くいかないなとため息をついた。それを見ていたミアから口にお菓子を放り込まれて、美味しいお茶会は終わった。




その夜、アレリアは夢を見た。

年齢は今よりもずっと幼い。初めて城に住み、女王の側近としての教育を施された時期だ。本当は前青騎士である母親から学ぶ事だが、アレリアが幼い頃に亡くなってしまった。確か、ハルジオンの父親である白騎士と一緒に亡くなった事故だと聞いた。


アレリアは父親の記憶もほぼない。母親が早くに亡くなった為、ミルゼベルクでの教育は領主である叔父に一任され、その後実父が育児権を手放した為に叔父の養女となった。それを聞いて、母親も同じく政略結婚だったのだなと感じ、同時に強い孤独を感じた。


「貴方がアレリアね?ずっと待っていたわ。私の母も身体が悪くてあまり会えないの。私達、仲良くしましょう」


幼いミアは親し気にアレリアの手を取って微笑んだ。それは寂しい思いをしてきたアレリアにとって、眩い光のように温かかった。アレリア達より年上で、すでに父親の仕事を受け継ぎ城で働いていたハルは、二人の面倒を何かと見てくれて兄のように慕う間柄になるのに時間はかからなかった。

アレリアとミアは姉妹のように共に学び、いつも一緒に居た。少ししてジルも城に入ってきたが、勉学も中途半端に父親と一緒に戦場に行った。


「ジル、大丈夫かな」

「彼は次代の黒騎士だもの、絶対大丈夫よ。この前、私達が大きくなって、役目が終わったらみんなで共に暮らしましょうって約束したじゃない。ジルは約束を破る子じゃないわ」


先代の色騎士も女王ととても仲が良かったらしく、そんな話をしたとジルの父親が懐かしそうに教えてくれた。アレリア達の母が亡くなって、まもなくミアの母も後を追うように亡くなった。一人残されたヘルシェベルクの当主は、約束が果たせなくて残念だと哀しそうに言っていたのが印象的だった。


たまに帰ってきてくれる弟のようなジルや、優しい兄のようなハル、そして姉妹のようなミアに囲まれて両親のいない寂しさは感じなくなった。けれど、それ以外に知り合いが増える事はなく、侍女達に話しかけても決まった言葉以外返って来ない。それどころかなぜか怯えている様子にも見えた。


その理由はすぐにわかった。


ある日、ミアが庭園で侍女の顔を棘のある花で叩いているのを見かけ、アレリアは止めに入った。


「ミア、何してるの!?」

「私、他人の心が読めるって教えたわよね?この子、リアが騎士としての能力が低いって馬鹿にしてるのよ」


ミアは決して愚かな人間ではない。公平さも憐憫をかける事もできる次期女王だ。ただし、アレリアの事になると、たまに残酷に変貌した。


「実害がないなら心で思うのは自由でしょ?剣術も魔法も才能がないのは本当だし…」

「リアが怒らないから私が代わりに怒ってるの!」

「私は本当に気にしてないの。信じて」


必死に叫ぶと、ミアは可哀想な子を見るような目でリアの頬を撫でた。


「リア、貴方は優しいから…。私の言う通りにしておけば大丈夫よ、ね?」


本当はまったく気にしていないわけではなかった。人に蔑まれれば悲しいのは誰だって当たり前だ。けれどそうして特別扱いするから孤立するのだと、大好きなミアにそんな事して欲しくないのだと、どう言えばわかってくれるのだろう?

しばらくしてその侍女の姿はなくなった。度々同じような事があって、城を追い出されたのだろうと思っていた。


そして実力ない自分のせいで陰口を言われるなら、その隙を作らないように一層武芸にも勤しんだ。そうして目を付けたのが弓だったが、積極的に武器として使う者が西に少なくて専門家を呼んだ。


「初めまして、東で弓術を学んでいます。ジェマルとお呼びください」

「私の方が年下なので、どうぞ気軽にお話しください」

「ではお言葉に甘えて。本当は面倒だから子供に教えるなんてしないんだけど、給料が良かったからね。やっぱり世の中金だよね」


気軽に話せって、本音で話せって意味じゃないんだけど


人生の機転となる師匠との出会いだった。

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