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帰還

アレリアは帝国からほど遠いこの場所で、まさか再会するとは思っていなかった相手を見つめる。綺麗に手入れされた長い髪を靡かせて、帝国一の権力者は凶暴に笑う。


「どうしてここにミアがいるの…?」

「いつまで待ってもリアが帰って来ないんだもの。倒れたと聞いて心配したのよ?」


ミアの後ろから、階段を駆け上がって来るのはジルともう一人いた。


「ハルも…いたの?」

「まさか、女王を一人で行かせられないでしょ?まあ、そろそろ僕じゃ止めるのも限界だったしね」


目が合ったハルは久しぶりと平然と挨拶をする。そしてその後ろから隠れきれないジルが、申し訳なさそうにごめんと謝っている。多分ラエルに早く会った方がいいと言っていたのは、これも含まれていたのだろう。ジルはずっとハルと連絡をとっていたから、アレリアの体調を報告したはずだ。


確かにハルが私の味方だとは思ってなかったけど…


今このタイミングで連れ戻さなくていいだろうとも思う。まだちゃんとラエルと話し終えていないのに。


「今回は私の我儘だけで来たわけじゃないのよ?東側で異常な魔力が放出されてたのよね。帝国側の魔法使いじゃなさそうだし…それを調べる為にね」


アレリアはぎくりとした。確かにあの魔力量は、ハルくらいには匹敵する容量だった。だから帝国側が警戒するのも理解はできる。けれどミアが直々に来るなんて聞いてない。彼女は帝国屈指の魔法使いであり、ジークがまだ近くにいるなら追跡されてしまうかもしれない。


アレリアの反応を見て、ミアはくすりと笑う。


「リアが隠し事が本当に下手ね。もしかして知っている人物なのかしら?」


何も言えずに黙ってミアを見つめていると、彼女は安心させるようにアレリアの頬を撫でた。


「そうね、私は別にその魔法使いの確保が、そこまで重要だとは思ってないのよ。もしリアがこのまま一緒に帝国に帰るなら、この件はこのまま放置するように処理してあげる」


ミアはアレリアに選ばせるように、優しく問いかける。けれどいつだって彼女の言葉は強制だ。選択権はこちらにあっても、主導権は渡してくれない。そしてアレリアの性格を誰よりもわかっている。


「…帰ります」

「嬉しいわ。貴方は私の騎士だもの」


抱きついてくる少女の体温を感じながら、心は冷めていくようだ。またあの檻のような生活が始まるのかと。


ミアに手を取られ、ジルとハルが後に続く。移動魔法はかなり高度なもので、彼女しか使えない。いつもながらに見事だなと思いながら、虚ろな目でその魔法が構築されていくのを見ていた。


「アレリア!」


自分の名を呼ばれた声に、意識が覚醒させられる。まさかと思い後ろを振り向くと、ラエルが腰の当たりを手で押さえ、やや前かがみでこちらを見て剣を構えていた。


「ラエル…」

「行くな」


唐突に攻撃されたのだから当然だが、こちらを睨んでいる彼の目には怒りが感じられた。

彼は私を憎んでくれるだろうか。遠くに居ても、いつか復讐するために生き抜いてくれるだろうか。そんな想いでラエルを見つめていると、ミアが唐突に口を開いた。


「いつかの…前に会ったわよね。もう一人の死にたがり屋さんはいないみたいだけど…ああ、彼死んだの」

「はっ…?!」


ラエルが何が起ってるのかよくわからない表情でミアを見つめる。帝国の三大家門はジルのように獣に変身するなど不思議な異能を持っていると同時に、女王にも何かしらの能力がある。心を読むのはミアの特殊能力で、上に立つ者としてはかなり優位性がある。例外として色騎士達にはその力は通じない為、女王は騎士を重宝しているとも言われている。


「良かったわね、本懐を遂げられて。彼はとても苦しそうだったもの」


ラエルがとても悲痛な表情に顔を歪ませる。それはジークがずっと死にたかったと言っているようなものだった。


「ミア、やめて。心で思っている事が全てじゃないよ」


人は自分にも嘘を吐く。こうしなければいけない、こうでなければいけないと強く思いながら。

本当にそれでいいのか、それ以外に方法はないのかと問いかけ迷う事の出来る人間ばかりじゃない。


「貴方と問答するつもりはないわ。帰りましょうリア」


ラエルを注視する事に飽きたのか、すぐにそっぽを向いて魔法陣にアレリアを引っぱって行く。それに抵抗せず引き寄せられながら、後ろを振り返る。


ラエルはすでに剣を落として頭を抱えていた。これが最後かもしれない、だから何か言わなくては。


「ラエル!私が言った事、忘れないで…!」


それは約束というには軽く、誓約というには重かった。もしかしたらラエルをもっと苦しめてしまうかもしれないけれど、衝動的な感情で終わって欲しくはなかった。そうすれば、彼は自分で生き様を探せる人だと思うから。ジークがそう願っていたように。


ちらりとジルが後ろをふりかえったような気配がしたが、アレリアはもう振り返る事はなかった。




城に帰って数日。

アレリアは未だに自分の部屋に軟禁されていた。同じ色騎士と女王以外は面会を許されず、それ以外では世話をする侍女くらいしか会っていない。


いつまでここにいればいいのかな


仕事もせず、ただ部屋にいるのはかなり億劫だ。暇を持て余し、余裕があると悪い発想ばかり考えてしまう。イライラしながら部屋の中をウロウロしていると時間を知らせる時計の音が鳴った。


あ、そろそろかな


そう思った瞬間、部屋の扉が勢いよく開いた。


「リア!」

「ジル!待って!その勢いで突進されると私ふっとぶからっ」


はっと正気付いたジルがゆっくり近づいてきて、アレリアの背中にしがみ付いた。この時間になるとジルが来ることは日課になりつつある。戻って来てすぐにしばらくジルに会いたくないと断っていたら、ハルから暴れたり落ち込んだり面倒なのでと苦情が入ったのだ。その為、最近になって面会を解禁したらこの有様だ。


「ジルは仕事ないの?ハルは忙しそうだけど」

「しばらく戦争はないっぽい。東で内戦が始まりそうだから」

「え?」


そういえば公国はあれからどうなったのだろう?それなりに世話にもなったのに、お別れも言えなかったが、ラエルがちゃんと説明してくれただろうか?


「まだ本格的には始まってないようだけど。ああ、そうミアから伝言」

「ミアから?」


彼女も一日に一度は顔を見せにくるが、女王として忙しそうだ。それならせめて自分も仕事を割り当てて欲しいのだが、部屋に閉じ込められている現状、信用が戻ってないのかもしれない。国を挙げて捜索した為誤魔化す事も出来ずに、ただの逃亡兵として周知されているはずだ。


「えっと、何だったかな…」

「ちょっと!その伝言を伝えに来たんじゃないの?」

「違う。リアに会いに来たんだ」


女王の伝言をついでという人間は、帝国でもジルくらいかもしれない。ぱっと思い出したように、ジルがこちらを向いて明るい声で言った。


「女王と三騎士でお茶しましょうってさ」

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