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目覚め

アレリアは今度こそ目が覚めると、目の前に幼い少年がいた。目の前と言うか、顔にものすごく近い場所で覗き込んでいると言ってもいい。何が何だかわからずに叫びそうになったが、それをしたのはアレリアではなかった。


「母上!起きましたっ」


そう叫んだ少年はててーっとどこかの部屋に駆け込んで行く。そして大人数がこちらに駆け寄ってくる。その中に少年を抱えた母親らしき女性を見て、アレリアは思わず声をかけた。


「え?どうして…」

「また会ったわね」


にこりと笑って答えてくれたのは、アンティガブルの牢で会った女性だった。とても印象的な美女だったので忘れようがない。まさか子持ちだとは思わなかったけれど。


その後ろからジェラルドが顔を出して、女性に話しかける。


「フレイヤ、彼女はまだ目覚めたばかりだから」

「父上!」


ジェラルドを見た少年の言葉に、寝ぼけていた頭が覚醒する。今、何て言った?

目を丸くして見つめるアレリアにジェラルドは嬉しそうに答えた。


「俺の妻子、まさか嫁までアンティガブルにいるとは思わなかったがな。俺と同じく子を助けようとして捕まったらしい」


って事は…


「焼き鳥が食べれなくて怒って殴って何処かへ行ったっていうあの…?」


女性の動きが笑顔のままとまり、ジェラルドの方に首だけ動かす。慣れたように少年の目を覆って、ジェラルドはこれから来る災難に備える様に顔を青ざめた。


「あなた…?どういう説明をしたのかしら?」


後で覚えておけよという無言の圧を放ちつつ、女性はジェラルドに発言を譲った。こんな話をしている場合ではないのでと、空気を読むのは流石に嫁だけある。まだ少しおどおどしたジェラルドがアレリアに話しかける。


「医者はとくに大きな外傷もなく問題はないと言っていたので、もう少し安静にすれば時期に回復するだろう。ともかく、お前たちのおかげで子供も助ける事が出来、感謝している。これでもう無茶な遠征をする必要もないしな」


不思議そうに首を傾げると、それは護衛のオリバーが答えてくれる。


「公子を人質にとられていたので、アンティガブルの要請に逆らえなかったのです。かなり危険な任務を大公自らさせられましたからね」


そういえば、大公は自ら危険な場所に赴く変わり者だと言われていた。あれは子供を盾にとられての事だったのかもしれない。焼き鳥の下りを聞けば、冒険も嫌いではないようだが…?


大公はジークの計画を一部知ってて黙ってた罪悪感があるのか、とても手厚く看護してくれたらしい。まあ、余所者と自身の子供ではどちらが優先か考えるまでもない。助けてくれようとしてくれただけ有難いと言うべきか。


そしてアンティガブルと聞いて、アレリアははっとして一番気になる質問をする。


「あっ…!そういえばアンティガブルの王とジークは…?あれからどうなったんでしょう?」


夢の中でジークに会ったが、現実世界での状況は全くと言ってわからない。何より、自分もあの衝撃に巻き込まれたはずなのに、どうしてここにいるんだろう?


「そもそもここは…?」

「ここは公国、ジルとラエルがお前を運び込んでくれた。そして前者の質問だが…今の所二人は見つかっていない。後ろが川だった為落ちたとみられているが…何しろあの状況を詳しく目撃していた者がいないので、大騒動になった」


確かにあの突如として放たれた光で、見張りも何が何だかわからなかったに違いない。


「けれど、ジークと一緒にバルコニーに出たところまでは見られてますよね?」

「ああ、けれどジークは王が私的に招いた客人で正体が明かされていなかった。アンティガブルはあれが公国の間者ではないかとこちらに詰問している」


流石に王が行方不明となったのなら、これで済むわけがない。もしかすると、戦争になるかもしれない…?


不安そうにジェラルドを見ると、心配するなとばかりに笑顔を返された。そして、公国側の人間ばかりでジルがいないことに気付いた。


「あの、ジル達は…?」

「隣の部屋に待機している。俺たちはまず状況説明と礼を述べに来ただけだ、出て行くからゆっくり会うといい」


そしてぞろぞろとジェラルドの側近たちが出て行くと、しばらくぽつんと一人になった。

今思うのは、やはりジークの事だ。見つかってないとしても、きっと生きてはいるはず、そう願わずにはいられない。あれがアレリアの願望が見せる夢ではないのなら、彼は生きると選択した。


それにしても、私は最後までジークに振り回されたような気がする。もっと怒ってもいいよね!?


そう思ったのも束の間、これも正当な復讐になるのかもしれないと思い改める。なぜならアレリアは帝国の騎士であり、三大家門ミルゼベルクの嫡子だ。アセノーの断罪に帝国の三大家門が関わっていないわけがない。


帝国で周知されてなかったとしても親は知っていたはず、間接的に私はアセノーと無関係じゃなかった。最初から


少し落ち込んでいると、ジルとルイが飛び込んでくる。何故かオルビスも。あんた公国側だろと突っ込もうとしてやめた。


「リア!」

「アレリアさん…」

「無事で良かったです!」


いつも通り飛びついてきたジルはともかく、いつも気丈なルイが泣きそうな顔でこちらに寄ってくる。自分の知らない所であった事を思うと、無性によしよしと頭を撫でたくなる。


「ジルもありがとう」


もっと褒めてと言うようにアレリアに擦り寄ってくるジルから、ルイに目線を移す。


「ジークさんはどうなったんでしょうか」

「ジークは…」


そこでアレリアは言葉を切った。純粋に心配するルイには不憫だが、ジークの生死を話すのは彼の決断を蔑ろにする事だと思った。決して軽い気持ちでなく、とても苦しんで出した選択だったはずだから。


ジークはあえて悪役を演じた。賢い人だから自分に非がないように立ち回り、アレリアを使い捨てて何もない顔で過ごす事もできたはずなのに、それをしなかった。

禍根を残さない為に。戻れる場所を残して決意が揺るがないように。自分に満足する終わり方を選んだ代償に彼なりの正義を貫いた。


他人の犠牲も厭わない行動だったけど、決して卑怯だとはアレリアは言えなかった。全くの他人よりも、国や近しい身内、そして自分の方が大事なのは当たり前だから。


「わからないけど、きっと満足していたと思う」


ルイは悲しそうに目を伏せ、それ以上何も言わなかった。ルイは幼いが、自分よりもずっと長くジークやラエルと一緒にいたのだろう。もしかすると、家族を失ったように感じているのかもしれない。


私にも覚えがあるから…


ラエルもよく知らない様子だったのを思い出しても、ジークは本当に誰にも言わずに計画を立てたのだなと思った。それが少し悲しかった。


そしてふと、誰かが足りない事に気付く。


「あれ…?ラエルは?」


不思議そうに周りを見渡すアレリアに、ジルが少し強張った顔をした。


「リアが目覚めるまでは、と言っていた。出来れば早く行った方がいい」


その様子に不穏な気配を感じて、顔を上げる。普段アレリア以外に興味ないジルがそう言うのだ、ただ事ではない。そんな抽象的な会話だけでも、長く一緒に居たジルとは通じるものがある。


「そう。ジルが見張っててくれたんだね、ありがとう」

「リアがきっと悲しむからね」


会話の内容がわからずに、不思議そうに見ているルイを余所にアレリアは寝台から降りる。ジルからラエルのいる場所を聞いて、そのまま部屋を飛びだした。


嫌な予感を感じつつ、全速力で駆けだす。

ジークとの最後の言葉を思い出しながら、今度こそ誰かを守れるように。

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