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思惑

牢屋から出してもらうと、ジルがほっとしたようにアレリアの顔を撫でた。これはかなり心配していた時の顔だ。


「えっと、ありがと。看守に見つからなかった?」

「見つかっても全て倒せば関係ない」


…うん


奥まった場所なので見張りの人数も最低限だったのか、殆ど物音すらしなかった。鍵を開けてくれたので奪ってきたのだろうが、どうやったのかは詳しく聞かない事にした。出る時に牢屋の隅にいた女性に声をかける。


「貴方も一緒に行きませんか?」

「お言葉に甘えて一緒に出させてもらうけど、私はやる事があるから別行動にするわ。ありがとう」


近くで見た女性は自分よりも年上に見える美人だった。しばらく暗い牢に閉じ込められていたはずなのに、美人は薄汚れても綺麗なんだなと思った。羨ましい。


牢から抜け出し、森の中に三人になってようやくアレリアはラエル達に詰め寄った。


「それで!何で二人ここにいるの!?」

「うわっ待て待て、説明するから。とりあえず最初から飛び出そうとしてたのはこいつだけだ」


そう言ってラエルが指差したのはジルで、ジルは当然という顔で頷いた。


「ええ?ジルはアンティガブルに行くのは、ハルに止められていたって言ってたよね?」

「行けないとは言ったが行かないとは言ってない」


はあん?


ジルの弁解いわく、ハルの言葉は軍事命令に近かったので帝国人として表向き従わなくてはならない。けれど色騎士たちは独自行動が認められており、それが命令よりも優先される事項なら各自の判断に委ねられるのだ。


「リアは帝国が追跡する重要人物だ、理由には十分だろ?」


お前はそれ関係なく追ってきたと思うがなと、ラエルの静かな突っ込みは黙殺された。もうジルは何を言っても揺るがないので、理由を聞く事は諦めた。


「ラエルは?まさかジルと同じく私を追ってきたわけじゃないよね?」


アレリアが尋ねると、ラエルは珍しく目線を外して言い淀んだ。


「ええっとな、お前はジークの事どこまで知ってる?」

「ジークの過去は本人から少し話してもらったけど…私を牢にぶち込んだのも多分ジークなんだよね。何が起ってるの?」


ラエルはどう言おうか迷っているように見えた。アレリアに対する仕打ちにも、少し罪悪感があるのかもしれない。


「あ~俺もな、ジークから聞いたわけじゃないんだが、出発前にあいつは大公と取引をしたらしい」

「え…?」


話によると、アンティガブルでアレリアが危険な目にあう事も目的の過程に組み込まれていたらしい。やはりジークは自主的にアンティガブルに来たのだ。


「ある騒動を起こすがその隙に乗じて大公の子供を奪い返せるはずだから、こちらの計画が失敗しようが成功しようが見逃せってな。もし失敗した場合は切り捨てればいいからそちらに損害はないだろうとも。ただ、何をするのかは俺も知らない」


これが元々の計画としてなら、ジークはアンティガブルの王とも何かやりとりしてたのかもしれない。けれどそれは何だろう…?


「大公はジークがアセノーの元王族だとは知らなかったようだ。出発後に顔色を変えて飛び込んできてさ、多分やりとりから大公の弟が教えたんだと思うが…」


確かオルビスだったよね?


「…ああ!幼い頃に色んな国を回ったって言ってたっけ。もしかしてそこでジークを見て覚えていたのかもね」


ラエルがなるほどなと納得するように頷いた。


「んでその後だ。大公はあいつが王族と知ってたら、アンティガブルには行かせなかったと言った」

「どうして?アセノーとアンティガブルに国交はなかったはずだよね?何か関係があるの?」


そこでまたラエルが言い淀んだが、ここまで来たらいう事にしたのだろう。少し間を開けて続きを話す。


「アセノーの王族が滅ぶ原因になったのは、王妃の弟が画策した事だった。王族と親類となっても本人の気質もあり、あまり重要な地位を得られなかったらしく、不満を持つ反王権派の重鎮たちと結託したってわけだ。わかったのは共和国になってだいぶ経った後だけどな、そして俺達で裏切り者を粗方処分した」


何となくラエル達が身分を放棄した理由が分かった気がした。ジークを隠す意味もあっただろうが、汚い仕事をするのには身分は不要だ。出来るだけ目立たない場所に身を潜め、復讐する機会を待っていたのだろう。高潔な騎士が暗い過去に囚われて落ちるのは、やはり聞いていて気分のよいものじゃなかった。


「俺も今回大公に初めて教えてもらったんだが、反王権派には先導する黒幕がいたらしい。それをジークは元々知っていたらしいんだが…」


それを聞いて全てわかった気がした。そしてジークがしようとしていることも。


「それがアンティガブルの王族だったんだね」


当時アセノーは中立を保っていたとしても西側に属する国なので、帝国の影響も恩恵も大いに受けて栄えていた。それを東のアンティガブルが気に入らなかったのも理解はできる。もしくは弱体したアセノーを東に取り込みたかったのかもしれない。結果的に戦争は起こらなかったけれど。


あの国の立地はどちらも大陸も欲しいだろうしね


「お前はこれを聞いて、ジークが何をしようとしてるかわかるか?」

「…多分ラエルが考えている事と同じだと思うよ」


そう言うと、ラエルは悲しそうに目線を伏せた。


「ジークはどこにいるかわかる?」

「今はわからんが、明日アンティガブルの夜会が開かれるとジーク本人が言ってたらしいから、そこには出てくるだろうな。流石に大公は来れなかったみたいだが、作戦実行の公国の騎士は何人か入って来てる」


本人が言ってたならそこで何か起こす可能性が高い。ジークと会わなきゃ。

一人で物思いに耽っていると、ラエルが静かに話しかけてくる。


「その、お前には俺たちの事情に巻き込んで、すまなかったな」


珍しい人物の謝罪に目を丸くして見つめ返す。


「どうして…?ラエルのせいじゃないでしょ」


この人はこんな状況でも、ほんとお人よしだなと少し笑った。立場的には利用しても謝罪する必要はないというのに。


「ただな、ジークは出発前にお前の危険を示唆して、遠回しにだが大公には話していたらしい。俺達が助けるのを見越してな。本当に見捨てるつもりなら言わなかったんじゃないかと思う」

「え?」


ジークがアンティガブルと通じていたなら、これはアセノーでアレリアを捕らえた時から仕組まれた事だ。特にアレリアを捨て駒にする前提ならそれは余計な事でしかない。


もしかして、旅を通じてジークにも何か変化があったのかな?


それはアレリアの為ではなかったとしても。特にラエルは心を痛めるだろうという事は、ジークが一番よく知っているだろう。


そういえば、ジークがよくわからない事言ってたっけ?なんだったか…


「話は終わった?」

「ぎゃっ」


アレリアの背後霊と化してたジルが唐突に口を開いたので、驚いて飛び跳ねてしまった。ラエルと話し込んでしまって、ジルの存在をすっかり忘れていた。


「ああ、ジルも助けに来てくれてありがとね。何か会話で不可解な部分でもあった?」

「別に。俺はリアさえ無事なら他国の事情はどうでもいいから」


後ろからぎゅっと掴まれて、いつも通りのジルの様子に何だか安心する。


「じゃあ明日、夜会に忍び込んでジークを見つけよう」

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