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頼み事

書店を出た所でオルビスが懐中時計のような物を見て、大公がお待ちのようですと教えてくれた。


「これも魔法具なんですよ。まだ高価すぎて官僚の間でしか普及されてませんが。ちなみに兄はお小言がうるせえと、あえて持ち運びしてません」


へえ、武器以外もあるんだ


困った顔をして言うオルビスを見ながら、どこかにふらっといなくなるジェラルドにこそ、必要なものなんだろうなあと思う。アレリアは便利だなとちょっと欲しくなったがお金はないので無言で聞き流した。


城に戻ると、ジルが入口に待ち構えていた。


「ただいまジル、用事は終わったの?」

「ああ、ハルからの定期連絡」


ぎょっとしてジルの顔を見返すと、大したことは言われてないと話を終わらせた。そういえば、アレリアの周辺にいた鳥は見なくなったなと思っていたら、連絡はジルの方に行っていたらしい。


ジークやラエルと合流して、大公と会うために謁見の場へ赴く。


大きな広間に案内されると、少し高い位置に配置された玉座にジェラルドが座っていた。いつもボロボロの服を着ていたので、貴族らしい服装は初めて見る。一歩進んでジークが挨拶をする。


「西の旅人から、改めてご挨拶申し上げます」

「うむ」


臣下の手前、言葉遣いから態度まで変えているが、本性はすでに知っているので笑わないように顔を伏せた。横に立っている公国の騎士が口を開く。


「このお方は公国のジェラルド・ディスダリア・アンティガブル大公です。そして私は大公の第一の騎士オリバー・クライストンと申します。どうぞお見知りおきを」


アンティガブル…?て別の王国の名前だよね?


不思議そうに見ていると、騎士のオリバーが察したように説明してくれた。


「正確に言えば、この公国はアンティガブルの一部として独立はしていません。即ち、大公は今現在も王国の王子でもあります」


確か継承権争いで追い出されたって聞いたけど、何で独立させないんだろう?公国として別国にしてしまえば、王位継承権はほぼ消失するだろうに


「その話も含めて話がしたい、別室の用意をしろ」

「大公の位に沿った部屋の準備はすぐには難しいかと」


そういう話は先にしとけと侍従が目て訴えてるのが見えて、大変だなと見ないふりをした。客の前なので皆精一杯、公国の顔として虚勢を張っているのがわかる。


多分どこでも大丈夫だよ、その人浮浪者の物真似やって焼き鳥で夫婦喧嘩してたの知ってるからね…


結局貴族用の一般的な部屋に、大公と護衛騎士そしてジーク達が入ると、もういいだろと言うようにジェラルドは大公の仮面を脱ぎ捨てた。


「疲れる…!顔の表情が戻らくなってないか?」

「いつも適当に過ごしているからかと。来賓を迎える時くらいは公私の区別をつけなければ、官たちが怒り狂います」


どうやらキリッとした顔は、普段使わない筋肉を使うらしくジェラルドが文句を言う。それに対するオリバーの返答はいつもながら淡々としているのがおかしい。


席を促され、オリバーは大公の後ろに立ったが、それ以外が着席するとジェラルドが口を開いた。


「何から話せばよいのか、そうだな…お前たちはアンティガブルと公国についてどのくらいの知識がある?」


多分ほとんどないに等しいが、この中で一番博識なジークを皆でちらりと見ると、彼は口を開く。


「一般的にまわっている噂程度は耳に入っています」

「そうか、なら話は早いな。アンティガブルと公国はあまり良い関係ではない。こちらとしては諍いを起こしたくはないのだが、兄…アンティガブル王は我々を信用していない」


継承問題で、兄弟の仲がこじれたのはわかるが今もなのだろうか?すでにアンティガブルは第一王子が王としてかなりの年月が経っているだろう。


「あの、ならどうして公国は今もアンティガブルの一部なんでしょうか?」


アレリアの疑問に答えてくれたのはオリバーだった。


「短期間で公国が予想以上に軍事力を蓄え、大国に成ったのもあると思います。警戒すると同時に切り離すのは惜しくなったのと、もう一つ問題がございまして…」

「俺の息子を人質として取られてるんだ、だから今逆らう事は出来ない」


公国をアンティガブルの一部としておけば、ジェラルドの息子は公国の王子ではなく、アンティガブルの王族として扱える。公国は多民族が多く建国して間もない事もあって、高度な教育が出来る教師が圧倒的に少ない。行儀見習いとして宮廷作法を身につけなければならないのは王族の義務と言われれば、アンティガブルに息子を送らなければいけなくなった。


「しかし公国人の立ち入りを禁止され、もう息子とも二年も会えていない。一応信頼できる騎士はつけてはいるし、無事の連絡も入るがこちらからの手紙は届かないのが現状なんだ」


憂いを帯びたジェラルドの顔は、父親として子供を心配する親の顔だった。攻め入れば確実に公国は勝てるだろうが、息子は犠牲となってしまう。


「どうして、王はそんな事…?」


一度は争ったとしても血を分けた兄だろうにと尋ねたかった。自分にも腹違いの姉や兄がいるが、そんなに険悪になるような事もなかった。家族同然としているジルとも今も信頼関係は続いている。


「兄上はもう俺たちの事を信用できないのだろう。信じられないだろうが、継承権争いまではそこまで仲が悪いわけでもなかった。第一王子である兄上は自分が王になると疑わず、次代の王として恥じないように努力されて生きてきた、けれどある日兄弟にそれが奪われそうになって…壊れてしまったのだと思う」


ジェラルドからは怒りよりも悲しみの方が強く感じられた。誰も信じられずに孤独に恨む王に同情すると共に、兄弟として育ってきた情を忘れられない哀愁が漂っている。


「…それで、僕らに何をさせたいのでしょう?」


ジークの質問にはっと現実に引き戻された。確かにそれは重要で、もし息子を助け出してほしいなんて事言われても不可能に近い。


「手紙を…渡してほしい。こちらからは連絡ができないと言っただろう?息子につけた騎士は城から出る事もできるらしいから、その者に」


此方が何の連絡もとれない事を察してか、あまり検閲に問題ない範囲で自身の事を書いているらしい。数日に一度、王子に頼まれて買い物にいくだとか、どの店がお気に入りなのだとか。頭のいい騎士である。


「公国人ではない出入りできる他国の者を起用したいのですね?」

「ああ、出来れば少人数…二人ほど選んで頼まれて欲しい。危険は全くないとは言えない」


結局ここまで深く話を聞いて断るという事はできないだろう。こちらはジーク、ラエル、ジル、アレリア、ルイの五人の中から選ぶという事になる。


ジークが少し考えていると、ラエルが口を挟む。


「危険があるなら、ひとりでも対処できる俺とこいつだろ?」


そう言ってラエルが指さしたのはジルである。確かにこのメンバーならこの二人が一番強い。しかしジルは首を振って拒否した。


「俺はいけない」

「ジル…?」


アレリアが不思議そうに首を傾げると、ジルが耳元で囁いた。


「ハルに止められている」


え…?


ラエルが予想外というように、何か言おうとするとジークが手で制した。


「アレリア」

「え?」


名前を呼ばれて振り向くと、ジークと目があう。その笑顔が何を考えているのかわからなくて、少し寒気を感じた。


「僕とアンティガブルに行こうよ」

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