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公国へ

公国に行くことになって馬車に揺られ数日、教国からはかなり近いという事もあって目的地はもう目の前だ。

しかし、仏頂面のルイとラエルが馬車内の雰囲気を暗くしている。


「あれだけ苦労して金銭的報酬がないのはおかしいと思います」

「苦労して戦ったのは俺だろ。ルイは何もしてねーだろが」


教国を守った英雄として一応感謝はされたのだが、神殿はケチだった。それなりに教徒からのお布施で潤っているのは確かなのに、報酬として貰ったのは剣一本だったからだ。


「退魔の剣だっけ。聖物だから貴重なものではあると思うけど…」


ラエルはその剣を一応腰に差してはいるが、あまり嬉しくはなさそうだ。気分に左右されて斬れない剣など実用性はないと思っているのかもしれない。


まあ、原因はこちらにあるから私は何も言えないけど、ラエル達は神殿にいい様に丸め込まれた感じはあるよね


聖物は神殿の所有物だが、実は発見率はそれなりに高く保管数もかなり多い。しかし売り出す事も出来ず持て余している事から、神殿が報酬として譲渡する事はままある。能力としては魔法や魔法具の方が強力だったりするので、伝説級の遺物でもなければ神殿外に出しても問題ないと思ってるのだろう。


「ラエルそれ貰った時、神官様に何か言われてなかった?」

「ああ、いつか貴方の助けになるでしょうってよ」


神官が言ったのならただの謳い文句ではないだろうが、ラエルの神託に関係する事なんだろうか?


武器を持っていないジルにラエルがいるか?と剣を見せると、ジルはじっと剣を見た後に視線を逸らした。


「ジル?」


アレリアが不思議そうに聞くと、ジルはアレは俺には使えないと興味無さそうに言った。ラエルが嫌そうに最終手段は売って金にするかなんて言っているが、それ違法だから大変な事になるよ…。


馬車の中で唯一静かなジークは寝ていた。


「なんか最近眠れんらしい。神官に何か言われたんかな、お前知ってるか?」

「ううん」


ラエルの問いにアレリアは首を振った。正確にはあえて聞かなかったのだが、知らないのは真実なので嘘は言ってない。




大公が一緒だからか、公国の検問はほぼ検査なしで通れた。

そして一気に周りの風景が変わる。


「わあ」


帝国とも教国とも違う、色鮮やかな異国の文化が混じった街並みだった。暮らしている人々も、様々な人種がいるのが一目でわかる。


「公国は多民族国家なんだよ。前に言ったでしょ?周辺の国を吸収したって」


いつの間にか起きていたジークが、外を見ながら独り言のように言う。それでも多様な人種や文化を受け入れ、寛容の一言だけでは国は成り立たない。大公はやはり統治する側の人間なのだろう。


そう見直したのも束の間、城に入るなり文官達に呼び止められて連行されるジェラルドを見て考えを改める。


「思い付きで抜け出さないで下さいとあれほど言ってますよね!?急ぎの仕事が溜まってます」

「ちょ、待て待て。まずは挨拶だろ!客の前だぞ」


文官はアレリア達に今気付いたと言うように、こちらに向かって挨拶する。


「これは申し訳ございません。なにぶん急いでおりまして、後ほど謁見の機会を設けさせて頂きますので今は失礼致します」

「お、おかまいなく…」


国が滅びないのは優秀な臣下がいるからかもしれないと思った。

公国の騎士はいつもの事なのか、黙って淡々と見ていた。連れ去られるジェラルドを冷静に見てる様子が慣れている。


皆が去った後、文官が一人残っているのに気付いた。


「お見苦しい様をお見せしました。兄のお客様なら、僕が引き継いでご案内させて頂きますね」

「いえ……え、兄?」


大公を兄と呼べるのは公国では一人しかいない。確か王国の第四王子のはずだが、目の前にいるのは王族とは言い難い目立たない服装に眼鏡をかけた穏やかに笑う青年だった。


「はい、そして臣下として仕えております。魔法具技術開発の責任者のオルビスです」


圧はないけど、上品な王子だなあ


しかし仮眠がとりたいと言ったジークに、それに付き添うラエル、ジルは珍しく用事があるといってアレリアの側を離れ、結局メンバーは三手に分かれた。まとまりのない集団である。


「僕は街を見て回りたいのですが」


ルイの提案を快く受け入れてくれて、アレリア達は城下町におりた。

賑やかな街の風景や人々の顔つきを見れば、公国がどれだけ栄えているかがわかる。しかしルイは少し怪訝そうに周りをきょろきょろしている。


「どうしたの?」

「言語が…」


よく聞いてみれば、人種が多い分言語も多種多様で聞きなれないものが多い。


「ああ、西の標準が帝国語だとすると、東はアンティガブル語を話す者が多いかもしれません。けれど大半は東西の共通語を話せるので、西の方も会話は通じると思いますよ」

「あれ?私達が西の人間だと言いましたっけ」


オルビスは不思議そうに首を傾げて続ける。


「お連れの方に西でお会いしたことがあったので…違いますか?」

「いえ…東の国の王族が西に来るなんて、珍しいなと」


今ここに居ないジークかラエルの事を言っているのだろうか?


「僕は元から臣下として育てられたので、小さい頃から外交を学ぶために様々な国を回ったのですよ。けれどあまり向いてなかったようです。本を読むのと何かを作る事だけしか熱中出来ませんでした」


王族の子供として生まれても第四王子と第五王子の母親は位が低く、上に三人も王子が居た為臣下として育てられたようだ。それから噂通りの苛烈な王位継承戦に巻き込まれたならかなり悲惨だ。


「兄…大公だけはそんな僕に好きな才能を伸ばしていけと言ってくれ、国を移る際に一緒に連れ出してくれたのです。たまに困った方ですが、とても尊敬しています」


ふふっと笑った顔は年齢よりも幼く見えた。


それから市場や店を周り、丁寧に説明付きで案内してもらった。途中、アレリアには珍しい銃を見つけたが、かなりの高値な武器だと知って目玉が飛び出るかと思った。


「銃は比較的新しい魔晶石を使った武器ですからね。魔法具自体も安い物ではないですし」

「ああ、だから魔晶石が需要あるのですね。私達は西からその取引をしにきたのですが…」

「魔晶石、ですか。確かに需要はありますが、東でも全くとれないわけでもないので、どちらかというとアンティガブルの方が人口的に必要としてるかもしれません」


あれ?取引先って公国だったよね?大丈夫なのかな


取引するのはジーク達アセノーの国なので、そこはうまくどうにかするだろう。次に寄ったのは本屋だった。オルビスが目を輝かせて食い入るように見ている。


そういえば本が好きってさっき言ってたね


「東とは交易がないので、見たことない本ばかりです」


ルイが不思議そうに見渡していると、オルビスが応えてくれる。


「ああ、けれど昔はもっと交流があったようで、東西の恋物語はいくつかありますよ」

「え?」


有名な話のひとつは、西からの恋人を待ち続けた東の旅人の話だった。

東で何年も何年も待ち続けたが、結局恋人とは会えなかった悲恋だ。


「ええ~…」

「お話としてはちょっと悲しいですよね。けれどその待ち続けた旅人は、東の王族に見初められ幸せにくらしたという逸話もあります」


東の王族に…?なんかそれどこかで聞いたような


どこだっただろうと必死に頭を働かせたが、結局思い出す事は出来なかった。

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