後始末
主力の北門を制圧された傭兵たちが捕縛される中、東西に振り分けられていた傭兵も分が悪いと感じたのか、そのまま森の中に逃げて行った。
「森に逃げてった奴らは追わんでいい。これだけいれば尋問には十分だろ」
ジェラルドが指揮する中、アレリア達は無言で見ていた。なんて言ったらいいのかわからないから口を開けない。まさかボロボロの冒険者が大公だなんて誰が思うだろうか?というか身分ある者が一人でふらふらしてるなと思う。
私達めちゃくちゃため口で話してたよね!?
気まずい雰囲気の中、ジークが口を開き謝罪した。
「数々のご無礼申し訳ありません」
ジェラルドは最初何のこと?というように首を傾げたが、正体がバレた事を思い出したのかにやりと笑みを浮かべた。悪い顔してますよ。
「あ、そお?じゃあ…」
「そのような謝罪は必要ございません。こんな姿で徘徊している大公に問題があると思いますので、察しろというのは無茶でございます」
にゅっとジェラルドの会話に参入してきたのは、先ほどの公国の騎士だった。
後ろで文句を言っているジェラルドを黙殺しながら淡々と語る騎士を見て、まあこちらに罰などがないならいいかとそれ以上何も突っ込まない事にした。
ジルやラエルも町人たちと戻ってきた所に、神官も合流してきた。
「大丈夫ですか…あ」
公国の騎士も顔見知りなのか、神官を見て頭を下げている。そしてこちらとジェラルドを交互に見て、ばれちゃったんですねという顔で笑った。
「ご無事で何よりです、兄上」
あ、そっか
ジェラルドが大公という事は、第三王子である大神官の兄でもあるという事だ。二人が何となく似てると思ったのは間違いではなかったようだ。
それよりも戻ってきたジルとラエルが気にかかる。
ジルは所々血を流しているがそれほど重症には見えず、慣れている様子で水を飲んでいるが、ラエルの方は満身創痍とい様子だった。多分、この戦いで一番大変だったのは東門だったのかもしれない。
「ラエル大丈夫?」
「あ?あ~、初っ端聖騎士がやられてさ、総崩れにならんように踏みとどまったんだよ。しかもこのくそ剣!」
そういって睨みつけたのは、神官に借りた聖剣だった。ラエルのは確か退魔の剣だったかな?しかし聖剣をくそはないだろう。
「すっぱり斬れる時となかなか斬れねー時があるんだよ!何なんだこりゃ」
「どういう意味?」
剣は斬れるものだろうに、そんな事があるのだろうか?二人で不思議そうに見ていると、神官が寄って来て説明してくれた。
「聖剣は持ち主の心を反映してくれるものです。退魔の剣は悪を払うと同時に、正義の剣でもあります。もし問題があるならば、それは剣のせいではなく、貴方自身の心の在りようでしょう。貴方は斬れないのではなく、斬りたくなかったのではないですか?」
はっとしてラエルは剣を見つめた。
「そうなの?」
アレリアが質問すると、バツが悪そうにラエルはやや視線を逸らして口を開いた。
「傭兵ってのは騎士に属せない流れ者の仕事なんだよ。いわば貧民層の集まりって言ってもいい、金のために意にそぐわない仕事だってする奴は多いんだ」
つまり、あまり乗り気じゃない傭兵を殺したくはなかったって事か
それで自分は瀕死になってたら本末転倒だと思うが、ラエルはいつもどこかに優しさが垣間見える。どんなに口が悪くても、態度が横柄でも、最後には人を助ける弱さを持っている人間は好ましいと思う。
「では皆さんお疲れでしょうから、一度神殿に戻りましょうか」
「あ…」
アレリアはその言葉に少し躊躇した。
この騒動が自分が発端だとすると、すぐにでも出国した方がいいのではないかと思ったからだ。
それを読み取ったかのように、ジェラルドが引き留めるように口を挟んだ。
「騒ぎの原因が何であれ、関わった者は尋問が終わるまで出国を禁止させてもらう。ほら、がめつい神殿でも功労者に飯くらいは出してくれっから行け」
抑留かあ、と気落ちしたアレリアに神官が笑いながら話しかける。
「とりあえず身体を休めて下さいって事ですよ。何にしろ、防衛した貴方達に罪を着せる事はないと思いますよ」
素直じゃないのでと笑った神官の顔は、兄を慕う弟の顔だった。
食事を頂いて少し仮眠をして起きると、すでに尋問は終わっていた。
皆が揃うとジェラルドが尋問の結果を話し出す。
「率直に言うとわからなかった。奴らの依頼主がギルドで…それも裏の仕事を受けてる奴らでな、特定は難しい。もし捕らえたとしてもさらにその黒幕が正体を明かしてるとは思えないしな。調査しても無駄に終わる可能性が高い。わかってるのは依頼主が西側の人間であり、その子を狙ってたって事だけ」
攻めてきたのがどこかの国の騎士に所属してるならば、正当に抗議もできるだろうが、傭兵は切り捨てられるただの駒扱いだ。今回も相手がわからずにアレリアはとても不気味に感じた。
「あと、俺に対する謝礼な?助けてやったろ」
一同は、お前が勝手にはじめたのではと突っ込みたかったが、大公と言われたらアレリア達の中で強気で意見を言える人間などいない。
「…何をお求めで?」
ジークが静かに答えると、ジェラルドはにっと口の端をあげて話を続けた。
「お前たちに協力してもらいたいことがある。その為に一緒に公国に来て欲しい」
元々目的地が公国だったので、言われずとも訪れる地だった。けれど頼み事とはなんだろうか?大公が金や武力を欲するとは思わないが…?
滞在にかかる費用はこちらで負担するという申し出に、これは受けるべきでしょうとルイがまんまと乗せられた。ジークは断れないと判断したのか了承し、それにラエルも続く。ジルはアレリアを見つめて、判断をこちらに任せるようだった。
公国、かあ。入国する気だったけど、あの時と状況が違う、私が帝国人だとバレている
帝国では、公国は東の最大の敵対国としてされていた。その公国に帝国人として行っても大丈夫なのだろうか?
「どした?ああ、そっか。おい、帝国人でも身の安全は保障されるのか?」
ラエルは公国の騎士に話しかけると、相変わらず淡々と説明をし出した。
「元々公国は帝国を特別敵対視はしていません。交流がないだけで攻め入る気もないのに、あちらが勝手に敵と認定しているだけです。もちろん宣戦布告されれば受けざるを得ないですが、今の所、帝国人の入国を禁止などしていません」
そうなの!?という顔でアレリアが驚くと、その顔が面白かったのかジェラルドが腹を抱えて笑いだした。確かに帝国は友好国というものを限りなく持たない。四面楚歌になろうともどこの国も信じず、奪い取る手段ばかりとっているから、どこもかしこも敵国ばかりだ。
「だから安心して来い。どういう事情で国を出たのかは知らんけど、公国は美味い物もあるし防衛という意味では、教国より安全だからな」
ほっとするアレリアを余所に、ジークが少し面白くない顔をしていた事に誰も気づかなかった。




