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大公

見晴らしのいい塔の上でジークはさらに言葉を続ける。


「聞きたい?」


それに対してアレリアはゆっくりと左右に首を振った。ジークは特に強要する事もなく、笑って口を閉ざした。


「まあ、他人の生死なんてどうでもいいよね。僕も君の神託にそこまで興味はないし」


そうじゃないけど…


決して気にならなかったわけではない、けれど知ってしまったら後戻り出来なくなるような気がしたのだ。彼の根本的な暗い部分を受け止める程、分かり合える仲ではないから。そしてそれが帝国と共和国に関係する事だと予想できたから。


まだ旅は続く。だから今は聞かない方がいい、きっと


何より、ジークはアレリアを信用してはいない。その確信めいたものの一つが、アレリアの名前をほぼ呼ばない事だった。茶化すラエルと違って、意識的に避けているようにも感じる。


名前は呼ぶ程、呼ばれる程に降り積もって行くものがある。必要とされる事、求められる事、そしてその存在を心に刻み付ける事。情と言うものが芽生えるとするなら、それは名前からではないだろうか。


「…ジークは私が嫌い?」


何となく、ぽろっと口から出てしまった。こんな直接的な言葉を言いたかったわけじゃないので、焦って自分の口を両手で覆った。しかし予想に反してジークが笑い出したので、アレリアは狼狽えた。


「ははは、あぁごめん。君はバ…正直だよねえ」


今絶対バカ正直と言ったでしょ


「嫌いではないよ」


嘘とは感じられない笑顔で、ジークはそういう意味では一番嫌いなのは自分かなと付け加えた。そんなのアレリアだってそうだ。自分が好きと言う人間はどんな真っ当な人生を送って来たのだろう。確かに自分の長所を知ってるだろうが、反対に誰よりも醜い部分を知ってるのも自分だ。


ジークはどんな自分に絶望して嫌いになったのかな


神託よりもそちらの方が気になった。

話しているといきなり轟音が響き渡り、アレリアは音のする方に向き直った。


「な、なに!?」

「北門だね。爆発物でも投げたのかな、煙があがってる」


確か北門はジェラルドが防衛している所だ。じっと見ていると、何かキラキラと光るものが見えたと思ったらまた何かが爆発した。


「…魔法?」

「違う、魔法具だよ。魔法使いが極端に少ない東では、魔晶石を加工して疑似的な魔法を使える道具にするんだよ」


へえ、だから魔晶石が需要あるのか


次にラエルのいる東を見ると、すでに戦闘は始まっているようだが人数の差もあって後退はしていない。けれど前進も出来ていない膠着状態に見えた。


「なんか東も思ったより傭兵が多いね…?」

「そうだね、突破は難しいかな。けれどラエルだから大丈夫だよ」


ジークはさらっと全幅の信頼を置いているような言葉で流した。


「そんなのわからないでしょ」

「ラエルはね、僕が生きている限り死なないんだよ」


それはジークが死んだらラエルも死ぬという意味には捉えられないだろうか?意味の分からない表現にアレリアは眉根を寄せる。ジークの言葉が曖昧でわかりにくいのは今に始まった事ではないけれど。


次に西門を見ると、こちらは何故かジルがひとりで爆走しているように見える。しかも賊を大いに薙ぎ払って。


「…あれは人の動きなの?」


戦場で戦っているジルを見たことはないが、あれはどう見ても普通ではない。剣術がそれほど上手くないアレリアでも洗練されてるのがわかり、綺麗な型は舞のように見えるのだなと思った。しかし一人だけ実力差がありすぎて、後ろとの連携ができないのが現状だ。


「黒騎士は帝国一、武力に優れてるから」

「それだけど、黒騎士は誰よりも強い騎士がなるわけじゃなくて、決まった家門の嫡男が受け継ぐんだよね?」


うん?とアレリアが頷くと、何かを考える様にジークが話し出す。


「長い歴史の中で、世代が変われば最強の騎士も変わるだろうに、どうして決まって黒騎士が最強なんだろう?そんなことある?それとも称号だけのものなの?」

「確かに不思議だけれど…先代の黒騎士も帝国一と呼ばれていたよ。それなりの武功もあげたし虚言ではないと思う」


そう、と考え込んでいるジークを余所に、アレリアはその黒騎士を心配している数少ない人間だ。


確かに強いが、ジルの強さは攻撃特化であり防御に関してはそう高いものではない。現に度々浅い攻撃を食らっては傷を作っている。帝国では魔法使いが盾を作ったり援助してたのもあるだろう。


致命傷は避けてるみたいだけど…


西門のように障害物もない場所で孤立すると、確実に狙われてしまう。思わず身を乗り出すと、指先に何か冷たいものが当たった。


「え、わっ…!」


いきなり激しい雨が降り出し、一瞬の内にびしょ濡れになった。しかも雷雨なのかゴロゴロと嫌な音が鳴っている。それでも雨の中見守っていると、いきなり眩しい光と共に雷が落ちた。


「え、ええーーーー!?」


それは西門に落ちたらしく、火があがっている。


「大丈夫なの!?」

「大丈夫みたいだね、ほら」


ジークの指さした方向を見ると、この機に乗じてジルが傭兵たちを突破して北門に向かっているのが見えた。


ジルの剣は雷鳴の剣…だったよね?まさかね


北門に屯っている傭兵の背後から襲い掛かったが、決定的な人数には満たしていない。これは東も共に突破してこそ効果がある作戦なのだろう。


「厳しいね…こちらから何か出来ればいいけど」


弓は無理だ。飛距離は範囲内だとしても、混戦状態では誰に当たるかわからない。

そして一番危険なのがジル達で、人数が少ない為逆に囲まれそうになっている。ジルはひとりで奮闘しているが、周りの町人まで守り切れないだろう。


何より体力が持たない気がする、人数が少ない分削られる体力も傭兵の何倍も多いはずだ。そろそろ一刻に差し掛かろうとした時、爆発物とは違う鋭く高い音が響いた。


「何の音?」

「銃…かな」


聞いた事はあるが、帝国にはまだ普及していない武器だった。

音の出所を見ると、北門のジル達の後ろにさらに部隊のようなものがいた。同じ色のマントと甲冑を着こんでいるように見えるので、こちらは正当な騎士のようだ。何だろうと凝視していると、横のジークも少し怪訝な顔で見ていた。


騎士の一人が歩み出て、怒りに任せたような声がこちらまで響いた。


「大公!!」


大公?公国の?


では公国の騎士達だろうか?なぜこんな所にいるのだろうと首を傾げて横を見ると、ジークが頭を抱えていた。


「え?」


北門で二刀流を振り回しているジェラルドが、呑気に手を振った。


「お~!予定到着時刻ぴったりじゃん!信じてたぜ!んで、見たらわかると思うんだが手伝ってくれ」


大声を張り上げた騎士が、今度は無言でもう一度引き金を引いた。

それは大公の近くの傭兵の肩を貫き、その男は悲鳴をあげてのたうち回った。


「うおっ危なっ当たったらどうする!」

「当てるわけないでしょう」


味方…だよね?


公国の騎士の登場で有利となる程の人数になり、何より傭兵が連携のとれた正騎士に勝てるわけがなかった。

結局北門は教国側が勝利した。

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