story1 戦力の証明
のんびり書いております。
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「……」
この山はセンの庭のようなものである。なので世界的に見ても相当な高度を誇るハイドラル山を、ものの十数分で駆け下った。
だが、あくまでそれは山だけの話であって当然山の外へは十年くらい出ていないので、全くわからないのである。
「ああ、師匠が持たせてくれた地図と紹介状があったはず……」
自分の魔導具や着替えなど諸々入っているリュックの中を物色して、分かりやすいポケットの中に畳み込まれていた地図を取り出す。
「なんで世界地図なんだよ」
なぜかリュックの中に入っていた地図は世界地図だったのだ。
師匠はこういうところだけは完璧じゃなくて意外と天然のなのだ、と思うセンであった。
「……いや、一応山からソレイドの王都までの行き方は地図の裏側に書いてるな」
男らしい達筆で馬車や歩行(走る)などを用いて何とか頑張れば三日以内には着くと書いていた。
現在の所持金は、金貨十枚とその他銅貨や銀貨などの小銭が何枚か入っている。三日だから野宿をせずに宿に泊まっても一応は足りる額だろう。
「そうだな……ここから一番近いサハルトっていう街まで行って馬車を探すのが一番手っ取り早いか」
無論センの足だけで王都までは行けないこともないのだが、それをしてしまえば一週間くらいかかってしまうし何より身体に負荷がかかって良くないと判断したのだ。
あと、付け足すならばセンの現在地からサハルトまでは数十キロくらいある。
「んー、数十キロか。じゃあ一時間かからないな」
センからすれば、軽い運動のようなものだったらしいが。
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とりあえず、結論から言えば四十分程度で着いた。ただし結論のみを言ったらの話であり、その過程で駆逐されていった獣の数を数えていたらキリがないのだが。
まぁ、そもそもの話、センのスピードについていけたのが怪鳥やドラゴンの類のみだったため、センからしたら数は少ない。
「久しぶりの街だなぁ、って言ってもあんまり王都の記憶なんてないんだけど」
十年前――五歳という物心ついていないときの記憶があまり無くてもしょうがないだろうとセンは思っていた。
そんなことを思いながら、センは街の中を探索する。海岸に近いだけあって漁業が盛んであるのか、そこらの露店や商店街のようなところで魚料理や生魚を豊富に取り揃えていた。
そこらの露店から香ばしいにおいがしているのに、小腹が減っていたセンは我慢できなくなり美味しそうな焼き魚を焼いている露店のところへ向かう。
「あ、いらっしゃいませー! よろしければどうですか?」
その露店では少女が看板娘となり、その父親のような男が魚を焼いていた。
唐突に聞いてきて驚いたセンだったが、あまり値段も高くないだろうしとりあえず一本買おうと思った。
「ああ、そうだな。一本くれないか?」
「かしこまりましたー! お客様、一本です!」
「はいよー」
頼んでから、あまり時間も経たずに俺の手元に来た。
魚を串刺しにして焼いてあり、かなり熱かった。身も細くなく旬の魚のようである。
「いくらだ?」
「銅貨二枚でございます!」
「ほいよ」
そう言ってセンは銅貨を二枚渡した。
「毎度ありがとうございます!」
そう言われたので、その場から退散しようかと思ったが師匠から言われた言葉を思い出して立ち止まって看板娘っぽい少女に話を聞くことにした。
「ここら辺では魚とかが良くとれるのか?」
「……ああっ失礼しました。そうですね、ソレイド国の中ではかなりの産出量を誇ります。海の水に豊富な栄養が含まれていることから、美味しい魚がとれるんですよ」
「そうなのか」
急に話しかけられたからなのか少し驚いた様子で応答した少女であったが、すぐに説明に入った。
もっとも、そんな説明より少女の博識さに驚いていたのは内緒の話である。観光客とかに説明できるように仕込まれたりしているのだろうと勝手に推測を立てた。
まぁ、この街に来た時の漁業が盛んであるという推測はあっていたのだが。
「ありがとう。ほら、これお小遣いにでもすればいいよ」
そう言って店主と思われる男の視線が少女から離れた隙に、センは少女の手の中に包み込ませるような感じで銀貨を一枚握らせた。
「じゃ、俺はこれで」
「……え、いや。こんな大金ダメですよ!」
そう少女が叫んだ時には既にセンの姿は雑踏の中に消えていた。
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「さっきの少女の話を聞いたりする限り、この街は結構平均的な街に比べても栄えてるっぽいな」
ということはさすがに王都へ直接行けるルートはなくても、かなりの距離を馬車で稼げるとセンは思った。
王都へ行く予定のある商人に護衛を込みで頼んでみるのもありかもしれないとセンは考えた。
そんなことを考えていたら、ちょうど目当ての話をしている商人のような男が二人いたので少し盗み聞きをしてみようとセンは考えた。
「――王都までのルートは頭に叩き込んだか? あとは物資を積み込むだけだが」
「あ、それはもう終わっています」
「手際がいいな。じゃあ後は数人くらいなら王都に運ぶことが出来るし小銭稼ぎくらいできるだろう。今回は距離もあるし俺も同伴しよう」
「助かります」
おおよそ旅の商人と言ったところだろうか。
片方は中年の男性でかなりのベテランっぽい。そしてもう片方は、センと同じくらいの年齢の青年だった。
ずいぶん運がいいことだと思いながらもセンは二人に話しかけてみた。
「すまないが、少し話をいいか?」
「……ん? ああ、すまん。少し呆けていた」
「何でしょうか?」
センが話しかけると中年の男は一泊遅れて反応して、青年もそれに続いて応答した。
「今さっき王都に行くような話を耳にしたんだが、もし行くなら金は出すから乗せていってほしいんだが」
「ああ、大丈夫だぞ。あんまり期待はしてなかったんだが一人でも乗ってくれるのなら大歓迎だ」
「それで、金はどれくらいいる?」
「そうだな、金貨五枚でどうだ?」
「じゃあそれで頼む」
青年を置いてきぼりにして話が進んでいく。
といっても、金額関係の目安は分からないので言い値で契約することにする。まぁ、半分以上所持金は残っているし大丈夫だとセンは考えた。
「ああ、しまった! 俺としたことが護衛を雇い忘れてしまった! すまないがお客さん。急ぎなら他の商人を頼ってくれ」
センからしたら別に急ぎのようでもないので待ってもいいかと思ったが、少しいいことを思い付いたというような顔を浮かべて中年の商人に言った。
「護衛が必要なら俺がやってやってもいいぞ」
「いや、一応物資諸々と俺たちの命を預けるわけだから相当の冒険者やギルドの魔術師に頼みたいのだが」
少し困った、とセンは思った。まぁセンからしたら単なる力の誇示など簡単なことなのであまり思案する間もなかったのだが。
「じゃあ相当の力を示すことが出来たらいいんだな?」
「まぁ、そういうことになるな」
「……ほれ」
「「――ッ!!!!」」
軽快な声とは裏腹に、膨大な魔力を二人に一瞬ぶつけたセンは特に特別なことをした様子もなく、放出した魔力を収めた。
一方青年と中年商人は腰が抜けてその場にへたりと座り込んでいる。
「どうだ? 少しは信用しただろ?」
「護衛を、お願いします」
少し驚いたのか、それともかなり高位の魔術師であると思ったのか中年の商人は敬語で護衛を願って来た。青年の方は声を出す気力もないと言って具合だ。
センからしたらかなり手加減しているのだが。
「じゃあ、護衛代を差し引いて金貨四枚でどうだ?」
「本来なら安すぎるんですけど、ギルドに所属しているわけでもなさそうなので、その値段でお願いします」
そんなこんなで、金貨一枚得をしたセンは軽快な足取りで馬車へ乗り込み、その一時間後馬車はサハルトを出発した。
ちなみに一時間の間は客を集めていたのだが、結局誰も乗らないので俺一人を乗せていったそうな。




