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姫騎士の帰還④

 数人がかりで開けるような巨大なドアに砲弾が直撃し、文字通り吹き飛ぶ。


「無茶苦茶じゃねェか」


「構造上、問題がないところを狙っている。心配はない」


「ホントかよ」


 発射煙を砲口から薄く流しつつ、ティゲールは門の残骸を押しのけて、大門裏手の大型荷物搬入用に造られた大ホールへと侵入していった。


 後方ではヴィルトカ兵員輸送車から歩兵が続々と降りてくる。


 ヘルガに機甲師団の指揮を任せ、突破した門の前を警護させるとティゲールを駆り、シグルドリファは王宮部分に突入していた。


 これからは、歩兵の戦いとなる。

 そのために、装甲部隊をすり潰しながらもたどり着いたのだ。


「さて、アタシの出番だな」


 続々と建物内に侵入してくる歩兵を確認して、シノはティゲールのハッチを開けると、身軽に車外に出る。


 マコトが車内から出るのを手伝ってから、砲塔の真後ろにある物入れを開ける。

 そこから魔法銀(ミスリル)で作られた胸甲を取り出し、手早く身につけた。


 これは即死さえ回避すれば魔法で回復可能、軽傷ならば戦闘能力の持続が図られる、というコンセプトで採用されたものだ。


「シノ軍曹、ご武運を」


 声とともに、車内から軽機関銃とカタナをまとめたものが差し出された。


 真剣な顔をしているパウル、そしてそのそばで心配そうに見上げている降下猟兵の野戦帽をかぶったズィーに、それでもシノはいつものように、不敵に笑いかける。


「狩りの獲物を楽しみに待ってな、パウル、それと降下猟兵隊長代理」




 耳を塞ぎたくなるような轟音に続き、対岸の通路の壁に無数の鉛の爪痕が刻まれる。

 射線がよぎった直後、魔素が暴走した魔軍の歩兵たちが次々と爆発していく。


 魔素で強化された、魔軍の歩兵を確実に止めるために設定された高い発射速度から「女王陛下の布裂き機」とあだ名される軽機関銃、MG143。


 それを腰だめに構え、牙を剥き出した壮絶な笑みとともに仁王立ちになったシノは、オーガ特有の膂力で猛烈な反動を抑え込みながら指を切りつつ連射している。


 背中にカタナを背負った彼女の頭には白い鉢巻が結ばれており、射撃のたびにひらひらと髪がなびくように動いていた。


「頭は抑えた! やれ!」


 その言葉に、彼女と同じ特徴的な斑点が施された迷彩服を着用した降下猟兵が、間髪入れず手榴弾を投げ込む。


 爆発のあと、通路に陣取っていた魔軍の兵……、魔素に浸食された女王親衛隊、オーク、ゴブリンが混じった敵兵たちは激減していた。


 飛行要塞は、飛行魔術を刻印した複数の巨大な魔法銀(ミスリル)にエーテルを充填し、その魔力によって飛行する。


 それゆえに、ヴェルイーンのマナポイントに直接接続された莫大なエーテルの流量をコントロールするための制御室は、ヴェルイーンの心臓部と言っていい場所である。

 そのために厳重な警備体制が敷かれ、防衛装置が設置されていた。

 が、マコトが施したそれらを動かすための動力装置のロックは、いまだに破られていなかった。

 ゆえに防衛装置は動かず、結果として泥臭い歩兵戦となっている。


 そして、泥臭い歩兵戦こそが、降下猟兵の最も得意とするところであった。


 ヴェルイーン帝国軍最精鋭とうたわれ、コーモゥス奇襲作戦でもいかんなくその実力を発揮した降下猟兵。


 かれらに率いられた挺身隊の歩兵は、帰還した降下猟兵副隊長の指揮のもと、一糸乱れぬ連携を見せ要塞の最深部まで肉薄していた。


 そして、飛行用魔法銀(ミスリル)が頭上に並ぶ動力庫に突入した挺身隊は、細い橋で接続された中央飛行管制室の奪取を目指し、攻撃をかけていた。

 魔素が流し込まれているのか脈動するような音が響き、頭上の飛行用魔法銀(ミスリル)は、魔素に半ば以上汚染されたのか下半分が黄色く光っている。


「つぇぇぇぇぇぇい!」


 大喝とともに姿勢を極限まで低くし、巨大な狼のようにシノは駆け出した。


 長い廊下を一飛びで駆け抜け、急ごしらえで造られたバリケードを飛び越えると身体をひねるようにして抜刀する。

 慌てたように拳銃を向ける士官らしき異形者(グール)に一閃、文字通り真っ二つになった上半身と下半身が吹き飛び、魔素が暴走して爆発する。

 さらに勢いに任せ、片手だけでふたりの異形者(グール)を芋刺しにし、叩きつけるように切り裂いた。

 勢いは止まらず、流れるように軽機関銃を構え、片手だけで支えながら弾をばらまいた。

 蜂の巣になった異形者(グール)が爆発する。


 その姿は伝説に謳われたオーガ、いや、かつてミズホノクニ北端が攻められたとき、一隻とはいえ飛行巡洋艦をたった10人で撃沈し、エルフィラント帝国軍を恐慌に陥れた「鬼」そのものだった。


「よぉし障害はクリア! 行くぞおまえら!」


 シノの号令に、重そうなバッグを担いだマコトがあえぎながらも走り出す。そして、彼女を守るように周囲を囲みつつ、降下猟兵が混じった挺身隊の兵士も走り出した。


 かれらが到着し、シノがドアに手を伸ばしたとき。


 ぞわり、と悪寒が走った。


「シノさん、離れてください!」


 マコトの声に、慌てて彼女は飛び退いた。


 研究者のエルフが差し出した魔量計が、がりがりと耳障りのする音を立てていた。


「この部屋、魔素に汚染されています。知らずに入るとあっという間に異形者(グール)化してしまいます!」


「親衛隊め、ここまで無茶苦茶を」


 シノが忌々しげに吐き捨てる。


 おそらく早期の動力の復旧ができない、と分かった時点で魔素が仕込まれたのだろう。

 魔族に成ったとはいえ、魔素に晒されすぎると変異が進みすぎて魔獣化し、理性を失い中の機器を破壊してしまう危険性がある。

 なので、魔族にしても諸刃の剣の行為と言っていい。


「でも、まかせてください。こんなこともあろうかと」


 マコトはバックを降ろすと、中を探り継ぎ目のない、人型の服を取り出した。

 そのまま手早く服を身に着けていく。


「試作の新型魔素防御服です。こいつを使えばこの線量でも耐えられ……」


「伏せろ!」


 飛びつくと引き倒すようにして、シノは防護服を着たマコトを伏せさせた。空気を切り裂く音ともに銃弾が浴びせられ、挺身隊の隊員が何人か打ち倒された。通路の向こうから追いついてきた異形者(グール)が射撃し、さらに奥から増援が駆けつけてくるのが見える。


「早く、行け!」


 ドアに押し込むようにマコトを室内に入れ、バリケードに身を隠しながらシノは対岸の敵に撃ち返し始めた。

 次回予告


 異界の門は閉じられた。

 だが、それを黙って見ている魔ではない。

 互いに運命を覆さんとする力がぶつかり合う。


 次回「姫騎士の帰還⑤」

 弾かれたコインはどちらの面を向くのか。


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