姫騎士の帰還③
地響きが響いていた。
4頭馬車に乗り両手を広げ、八方に輝く星を掲げたエルフをかたどった、巨大な銅像が据えられている門。
その銅像を振動で揺らしながら、次々と大嵐の車両が進撃していく。
「ランデンフォート門を抜ければ、一気に道は広くなり城の守備隊が出てくるぞ。各車警戒を……」
シグルドリファの指示が終わらないうちに、空から光弾が複数着弾した。絡めとられたファンテルが一台、爆発する。
「ワイバーンか! 各車、対空防御!」
ドラゴンより体格も魔力量も劣るが、その素早い動きでエルフィラント帝国軍の飛行戦艦を次々に屠ってきた飛行型魔族は、さえぎるものとてない道路上の獲物に向け襲いかかってくる。
追撃をかけんと身をひるがえし、風切り音とともに大嵐の隊列に急降下してきたワイバーンに向け、隊列の中央に位置していた砲塔に大口径の機関砲を備えたアンケーリ対空戦車が砲塔を後ろに回し、砲身を獲物を察知した蛇の鎌首のようにもたげ、発砲した。
一直線に向かってくるワイバーン、その先頭の一頭が、顎先に痛烈な一撃を食らったかのようにのけぞり、バランスを崩し墜落、周辺の煉瓦造りの建物を巻き込みながら爆発した。
もう一頭はひるんだところを各車に備えられているリモコン式対空機銃、その一斉射撃の射線に飛び込み、翼をチーズのように穴だらけにされ視界から消える。直後に爆発音が響いた。
速度を落とすことなく大嵐はウンター・ヴォン・ユグドラシル通りを突き進み、やがてヴェルイーン中央に位置する巨大な王宮を兼ねた飛行要塞部が見えてきた。
司令塔より身を乗り出し、前方を確認したシグルドリファの眉間が寄せられる。
普段は開け放たれているはずの飛行要塞にあたる王宮へつながる、城門の扉が閉められているのを視認したからだ。
「動力を復旧させたか、非常用の手動装置を使ったか。樫4! 砲撃の準備ができしだい、門に撃ち込め」
「了解であります姫様!」
次々と車両が集合し、停止していく中、ティゲールより砲塔を取り去り、斜めに形成された車体から丸太のような短い砲身を突き出したシュトルムティゲールが、閉じられた門のそばまで前進してくる。
「撃て!」
喧騒の戦場ですらよく通る塩辛声が響き、砲弾が放たれる。
命中精度が悪い、と言われる大口径ロケット砲弾だが、肉薄したこの距離ではあやまたず門に命中した。
だが爆炎が晴れると、強固に築かれた門は尖塔の一部が破壊され崩れ落ち、裂け目はできてはいるが門自体は破られてはいない。
「続けて撃て!」
シグルドリファはさらに砲撃を命じるが、数分経ってもシュトルムティゲールは沈黙したままである。
「どうした樫4!」
いつになく焦り、という感情が混ざった戦姫の声に、すまなそうな声が応じる。
「申し訳ありません姫様! 砲の閉鎖器が焼きつきました! 砲射撃不能!」
それを聞いたシグルドリファは即座に命じる。
「全車、門に向けて魔力弾を形成、撃ち込め!」
命令とともに各車両は砲塔を回し、次々に城門に向けて砲身を向けていく、そのとき。
ティゲールⅡの砲塔側面に、光弾が命中した。
かろうじて貫通はしていないようだが、身を乗り出していた車長がずるずると車内に崩れ落ちていく。
「側面3時方向、敵強化兵部隊接近!」
城内の守備隊、おそらくは飛行船ドックを守っていたのであろうオルグやトロルの集団が、建物を陰にして射撃してきていた。
緊迫した声の報告を耳にして、シグルドリファは一瞬だけ歯噛みをした。
「全車、砲撃中止! 敵オルグどもを迎え撃て!」
魔術障壁を張り、重戦車を先頭にして迎え撃つが、それは魔動機の出力を防御に回しているがゆえに、魔力砲弾の形成が不可能となることを意味していた。
「隊長、10時方向からも敵集団が来ています。指示を!」
「円周防御だ! 敵を撃退せよ!」
要塞攻略戦に必須である、歩兵を乗せた兵員輸送車がいる以上、彼らを放り出しての機動はできない。
先ほどの街への門の戦いと、攻守所を変えた状況に陥っている。
相手は突撃をしてこない、つまりは時間稼ぎをしている。このまま時間を浪費すれば増援がさらに到着し、押しつぶされる。
状況を打開するため、リスクを冒してファンテラ中戦車を分離し側面攻撃を行うべきか、と思案する黒衣の指揮官の耳に、もはや聞きなれた声が響く。
「姫様、少々お待ちくだされ! このラングドルフが道を切り開いてみせましょうぞ!」
「射撃可能か!? すぐに撃て!」
そう命じ、パウルに射撃目標を指示したシグルドリファの耳に、ズィーの戸惑うような声が響いた。
「どっちに向かって走っていってるの?」
とっさに振り向いた彼女が司令塔の外部監視装置越しに見たのは、シュトルムティゲールが門に向かって猛進していく光景だった。
ハッチが開き、眼鏡をかけた整備服の若者をはじめ次々に乗員が脱出していくが、そこにはあの老兵の姿はない。
「何をしているラングドルフ! 二階級特進はさせんぞ!」
「おまかせあれであります姫様!」
ラングドルフが操縦しているのだろうシュトルムティゲールは、崩れて地面に落ちた尖塔を巧みにかわすと、魔動機を最大出力に上げたのか、速度が上がった。そのまま門に形成された裂け目に向かって突進していく。
衝突する直前。
車体後部の砲弾を積載するためのハッチが開き、ひげ面の老兵の上半身が出る。一瞬腹がつかえたが、車体が門の裂け目に突っ込んだ衝撃でぽん、とコルクのように抜けた。その勢いのまま、転がり落ちるように車外に出て走り出す。
アクセルが固定されているのか、その間もシュトルムティゲールは大馬力を見せつけるかのように履帯を空転させながらも、裂け目に車体を食いこませていく。
先に脱出していた乗員たちに手招かれるなか、崩れ落ちた尖塔のがれきの陰にラングドルフは頭を抱えながら滑り込んだ。
それを見届けたかのように、シュトルムティゲールは自爆した。
時限設定された自爆装置により、車内に残っていた砲弾と魔動機が誘爆し、大音響があたりを揺るがす。
しばらくして土煙が収まったそこには、完全に吹き飛ばされた「門だった」がれきの山があった。
シュトルムティゲールの下半分は完全に消し飛び、上半分の装甲はほぼ原型を保ったまま城内に吹き飛び、渡り通路にめり込んでいる。
それほどの爆発だった。
「全車、発煙弾発射! 門を潜り抜け王宮に入るぞ!」
「「「了解!」」」
一斉に号令が返ってくると、各車両に備えられている投射装置が連続して軽い音をたて、発煙弾を次々と放っていく。
白い煙がもうもうと立ち込め、煙幕により魔族の視界が遮られたことを確認してから、まずはヴィルトカ兵員輸送車がシュトルムティゲールの乗員を回収しつつ、崩れた門を突破していった。
そのまま適宜、生き残った車両が門の残骸をくぐっていく。
かれらはついに、敵中枢に到着したのだ。
次回予告
「占領」するのは戦車でも強化兵でもない。
歩兵のブーツこそが堅固な要塞を無力化できるのだ。
兵士たちの鬨の声が、要塞内に響き渡る。
次回「姫騎士の帰還④」
「鬼」の刃が、魔を断つ。
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