第2話
前回のあらすじ
滝音市以外で初めて時空転移ゲートの反応が確認された島にやって来たフォトンガードナーとその他二名。
一方クロノイド制圧軍ではリーリスとシュタインが何かを企んでいた。
「さて、お腹も膨れた事だしミーティングを始めようか」
昼飯のバーベキューを食べ終えておのおの満腹と言いたげな顔を浮かべる最中、光平が手を叩いてそう言って注目を集めると全員表情を引き締めて光平の方へと顔を向ける。
そしてある事に気が付いた光平は苦笑いを浮かべながら、光の横に立つ白部と久遠の横に立つ花音に向けて口を開いた。
「えっと……悪いけど君達は先にコテージに戻っててくれないかな?」
「あ……ご、ごめんなさい!」
「…………はっ!何か自然な感じで始まりそうだったから引き際を失ってた!戻るぞ、水代部員!」
光平に注意されてはっとなった二人はフォトンガードナーの面々に一礼すると慌てて宿泊予定のコテージへと向かって砂浜を走って行く。
光は顔を赤くして頭を掻き、縁も若干の苦笑いを浮かべて去り行く二人を見つめている。そんなアクシデントで真面目な表情を浮かべていた面々が久遠を除いて思わず噴き出すも、光平の咳払いで再び彼へと注目が集まる。
「コホン……それじゃあ改めて、例のものを持って来てくれる?」
光平がそう言って言って横に居る職員へと目線を向けると、彼は頷いて砂浜に建てたテントの元へと向かって行く。そこでしばらく中でごそごそとしていると、彼はホワイトボードを手にしてテントから出て来てそれを全員の元まで運んで来た。
そこには一つの島とその近海の地図が張られており、海には島の西側に一ヶ所赤い印が描かれている。
「時空転移ゲートの反応があったのはこの島──『光来島』のから西に五十キロメートル離れた場所だ」
「海上か……」
時空転移ゲートの反応があった場所を聞いて光はそう呟く。今まで陸地での戦闘がほとんどだったため、シュミレーターでは何度かトレーニングしているが実際に海上で戦闘するとなると不安が浮かぶ。
そんな彼の不安を裏切る様に光平は首を振り、時空転移ゲートが何処に現れたのかを口にした。
「悪いけど、時空転移ゲートの反応があったのはただそこじゃ無いんだ」
「へ……?」
「地上に時空転移ゲートの反応があったら、衛生写真で此方に発生した際の写真が送られて来るんだ。けれど……」
そこまで言って光平はホワイトボードをひっくり返し、時間転移ゲートの反応があった瞬間の光来島の衛生写真が現れる。
しかしそこには時間転移ゲートの暗雲は写っておらず、何事も無い光来島と海だけが写されていた。
「海と島……それだけって事は……」
写真を見て嫌な予感が光を襲い思わず頬が引くつく。そんな嫌な予感を肯定する様に光平は頷くと説明を続ける。
「光君が気付いた通り、今回時空転移ゲートの反応があったのは海中である可能性が高い。そこで君達には調査を頼みたいんだ」
そう言って光平は光達三人を見る。縁と久遠は息を呑み、光は勢いよく首を横に振って拒否した。
「いやいやいや!!海中ですよ!?シミュレーターでも海上までしか無いのに、いきなり海中って!!」
「だから午後からはそのための訓練時間なんだ。コテージ裏の山に偽装した光来島の格納庫に既にフォトンシリーズは送ってある、このミーティングが終わり次第乗って沖合に出ていてくれ」
「いやそもそも沖合だって無理ですって!!俺が乗るのランダー!!陸を走る車なんですよ!?」
「何を言っとるんじゃ、フォトンランダーは海面も走るぞ」
「はいぃ!?」
フォトンランダーが海面を走れる訳が無いと光は言うが、それをミーティングに参加していた博士が否定する。
突然告げられたまさかの事実に光が目を剥いていると、博士はタブレットを取り出して光へと差し出す。光はそれをひったくり画面に映し出された情報に目を通し、肩をわなわなと振るわせ始めた。
「ま……マジで書いてある……!」
「フォトンランダーの車体下部には、フォトングライダーの推進機と同様の機構のホバーが内蔵されておる。それで浮かんでタイヤで海面を蹴って進めるのじゃよ」
博士から渡されたタブレットを見て戦く光に博士がそう説明すると、呆れた様な溜め息が久遠から聞こえてくる。
「ちゃんとマニュアルを読んでおけとあれほど言っただろうに……」
「いや……もう陸地での運転に慣れきったら後は武装の所しか目を通してなかったわ……海上でのシミュレーターも俺ほとんど沿岸部から打ち続けてるだけだったし……」
久遠の言葉に光は目を逸らしながらそう言い訳をする。実際に光にはフォトンランダーは陸地だけしか走れないといった固定観念があり、何処を走れるのかといった項目は読み飛ばしていた。
更に光が言った様に海上の敵とのシミュレーションも、二人が海上を飛んで戦っているのに対して光は近隣の沿岸部から攻撃を放っており、唯一近付くとすればそれは合体の際に形成されるパーティクルロードを用いての接近だけである。
「まあ、あくまでカタログスペック上走れるってだけで、実際にどうなるのか判らないがな。だから、これから調査開始まで実際に光君にはフォトンランダーで海上を走ってもらうが、それでいいかい?」
「……了解です」
自分の確認不足が招いた不十分に光は肩を落とすと光平の指示に頷く。それを見た光平は小さく頷くと他の職員達へと声をあげて伝えた。
「では!これより準備に取り掛かる!調査は午後九時からだ!」
『了解!』
光平の号令を聞いて肩を落としていた光以外の全員が応え、おのおの準備へと取り掛かる。
「光、儂等はこっちじゃよ」
「うっす……」
光は彼の元にやって来た博士に手を引かれ、フォトンランダーの格納庫に連れて行かれる。その後、夕飯の時間を除いて光は海上走行の慣熟訓練を行わされたのだった。
日も沈み月明かりが海を照らす午後九時、光来島の海上を一つの影が走って行く。
「目的地まであと三キロ……縁、準備はいいかー?」
「大丈夫。気密性もちゃんとチェックしてるし、ヘルメットも着けているからね」
海上を車体下部のホバーで浮かび、車輪で水面を蹴って進むフォトンランダーのコックピットの中、モニターに映し出された目的地向かって走らせる光が上を見ながら問い掛け、それにフォトンランダーの上に立つフォトンファイターに乗る縁は応え、今の自分の姿を映像越しに光へと見せる。
コックピット内は気密性が保たれる様しっかりと整備された影響か各種パーツが輝いて見えており、縁のパイロットスーツは普段来ているものだけでなく、頭部を全て覆うヘルメットも被っていた。
そんな風に二人が会話していると、コテージの一室を丸々使った臨時の司令部から光平からの通信が入る。
「光君、そろそろ目的地に到着する筈だが……そちらは異常無いか?」
「今の所は異常無しです……っと、目的地に到着しました」
光平からの通信に光が応えたと同時にコンソールから音が鳴り、目的地に到着した事を告げられた光はフォトンランダーをその場に止めるためにシフトレバーをバックに入れ、今まで進んでいた方向とは反対の推力を加える。
車輪が海面を蹴った勢いで進むフォトンランダーに逆方向の推力を与えて車体を止めた光は、一息ついて頭上のフォトンファイターへと目を向ける。
「目的地に到着!縁、行ってこい!」
「ああ、行ってくる!」
縁はそう言うとフォトンファイターを跳躍させ、大きな水飛沫をあげて海中へと潜って行く。それを見届けた光は久遠へと通信を繋いだ。
「フォトンファイター、潜水開始!上空からの観測は任せたぞ!」
「了解した」
通信を聞いた久遠の駆るフォトングライダーが光達の頭上を通り過ぎ、光来島を旋回する様に飛んで行く。
彼女には縁が海中を調査している間、上空から何か異変が無いかを監視する役割を与えられていた。なお、光には縁が海中から浮上する際のマーキング兼、海中で司令部からの通信が届かなくなる縁との通信仲介役として海上に待機する役割を与えられている。
そうして一時間程経ち、二人がおのおの活動している裏で退屈をもて余していた光に司令部からの通信が入って来た。
「そろそろ縁の体力が限界の筈だ、彼を呼び戻してくれ」
「了解…………おーい!縁ー!繋がってるかー!」
「…………と…………てる…………!」
光が縁へと通信を繋げ呼び掛けると、ノイズ混じりだが縁の声がスピーカーから聞こえて来る。それを聞いて光は繋がっていると判断して用件を告げる。
「今日の調査は終了だ!総司令から戻って来いって!」
「…………った…………る……!」
「戻るんだな!よし!切るぞ!」
縁からの通信はノイズ混じりで何て言っているのか解らないが、おそらく戻って来ると言ったのだろうと思い光は通信を切る。そして海中を潜るフォトンファイターの反応を待ちながら暇を潰していると、突如としてコックピット内にアラートが鳴り響いた。
「っ!!何だ!!」
突然のアラートに表情を引き締めた光は、すぐさま司令部へと通信を繋げる。
通信越しに慌ただしい動きを聞いていると、光からの通信に気付いた博士が通信機を取った。
「光!!」
「博士!!何か突然アラートが鳴り出したんですけど!?」
「そちらでも反応を拾ったか……時空転移ゲートの反応じゃ!!」
「っ!!」
博士より時空転移ゲートが開かれたのだと聞かされ、光は目を見開くもすぐにレーダーへと目を向ける。未だにフォトンファイターが浮上して来る予兆は無い。
「その時空転移ゲートは何処に!?」
「光来島から東に五十キロ……今お主達が居る所とは正反対じゃの……!」
「マジかよ……!」
今居る場所から凡そ百キロ離れた場所に出現したと聞いて光は眉間に皺を寄せると、レーダーに反応が出る。それは潜水していたフォトンファイターが浮上して来る反応だった。
「縁!!」
光の呼び掛けと同時にフォトンファイターが海中から水柱をあげて飛び出し、フォトンランダーの上に着地する。急な荷重で揺れる車体を整えつつも、光はすぐに縁と通信を繋ぐ。
「ぜぇ……ぜぇ……ひ……一人で海の中を進むって大変なんだね……」
通信を繋ぐと息も絶え絶えな様子だが心配かけまいと笑みを浮かべて縁がそう言うが、光はそんな状態の縁に険しい表情で状況を説明する。
「バテてる所悪いけど、時空転移ゲートの反応があった。このまま向かうけどいいな!!」
「っ!!わ、判った……けど少し休ませて……」
そう縁が言うとフォトンファイターの瞳より光が消える。それを見た光はすぐさま通信が繋がったままだった博士へと口を開く。
「それじゃあ、俺はこいつ運んで行きます!!」
「うむ、解析は儂等に任せるのじゃ!!」
博士はそう告げると通信を切り、光はすぐにフォトンランダーを発進させる。車輪から水飛沫をあげると前に進み出すフォトンランダーを光は反転させ、光来島に向かってアクセルを思いっ切り踏み込んで走り出す。
そのまま上に乗せた片膝をついたフォトンファイターを振り落とさない様に走らせ続け光来島までたどり着くと、上空をフォトングライダーが通り掛かり、久遠からの通信が入る。
「縁!!高坂!!」
「滝音!!時空転移ゲートは見つけたか!?」
通信を繋げて来た久遠に光が真っ先にそう問い掛けると、久遠は苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべて目線を逸らす。
上空を飛び周囲の観測をしていた久遠がそんな反応をした事で、光はある可能性が頭を過り思わず眉を寄せる。
「……上空には見えなかった。おそらく、このゲートも海中にあるものだと思われる」
「やっぱりか……!」
久遠の口からはっきりと語られた事実に光は思わず舌打ちをする。そして無意識にコックピットで休んでいる縁の方へと目を向けると、モニター越しに何を思っていたのか気付いた久遠が気まずそうな表情を浮かべた。
「……ずいぶんと疲弊している様だな」
「一人で海中探査してりゃあ、そりゃあ精神的に参るだろうよ……けれどまた海中かよ……」
光は時空転移ゲートの場所を思い返して思わず溜め息をつく。フォトングラストなら三人で海中へと潜れるが、まだそこで何をやっているのか判らない以上縁が一人潜って行くだろうと想像する。
海中という慣れない環境で戦えるのか不安に思いつつもフォトンランダーを走らせ続け、島の反対側までたどり着いた。
「よし、後はこっから──っ!!」
光がそこから時空転移ゲートが開かれたという場所に向かってアクセルを吹かそうとした途端、司令部からの通信が割り込んで来る。
出鼻を挫かれた光はアクセルを踏もうとした足を思いっ切りスカして足元から大きな音を鳴らしてしまい顔をしかめるも、すぐに元に戻して通信を繋ぐ。
「此方光!!今から光来島から時空転移ゲートの反応があった場所に向かおうとしてますが……!!」
「ああ……申し訳無いけど、一旦戻って来てくれないか?」
「……へ?」
現在何処に居るのかの確認と思い自分達の居る場所を光が説明すると、光平から返ってきたのは帰還命令だった。
理解が追い付かない光が変な声を出すと、その指示を補足する様に久遠が説明する。
「……つい先程時空転移ゲートの反応が消失した。逃げられたんだ、私達は」
「……ま、マジかよ……せっかく此処まで飛ばして来たのに……」
「済まない……縁を連れて来てくれたのは嬉しいが、今回は一旦戻って来てくれ……それに正直言えば、今回は逃げてくれた方がありがたい」
「何を言って…………あ」
光は最初光平の口にした逃げてよかったといった言葉に食って掛かろうとしたが、身を乗り出した際にフォトンランダーの上で片膝をつくフォトンファイターの姿を目にして理解する。今の縁では水中戦に耐えられないと見て、今回は見逃したのだと。
現に光は今居る場所まで急いで飛ばした分、かなり荒い運転を行っており車体が何度か海面を跳ねた事があった。けれど休んでいる縁からは何の反応も無く、反応出来ない位意識を落としているのだと気付かされる。
「そう、ですね……縁はもう限界ですし……」
「詳しい話はまた明日する。格納庫に戻ったら今日はもう休んでいてくれ」
「了解……」
そう言うと光平は通信を切り、光は緊張の糸が切れたのか大きな溜め息をつく。そして時空転移ゲートの消失を告げて以来沈黙を続けていた久遠が口を開いた。
「……縁は此方で連れて行く。また明日、詳しい話を行おう」
「ああ……」
光がそう頷くと久遠はフォトングライダーを降下させ、片膝をついた姿勢のままのフォトンファイターの背部に合体すると、そのまま空に舞い上がり格納庫へと向かって行く。
一人残された光はフォトンファイターが退いて見晴らしのよくなった頭上を見上げ、頂点に差し掛かろうとしている月を目にすると再び溜め息をついて格納庫に向かってフォトンランダーを走らせ始めた。
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