第6話 いつの世も猫というのは愛らしい
青春って何だろ〜
私は新聞部の部室でぼんやりとそう思っていた。
高校の時の私は帰宅部で、放課後友達と話をしたり遊びに行く事が多かった。
それもそれで青春だと思うが、行事に積極的に参加したり、心ときめくような恋愛はしていない。
そう!恋愛!恋愛よ!
恋だけが人生の全てではないとはいえ、恋愛しないと結婚は始まらない。
そして、社会人になると出会いがない!!!
私は常々思っていたのだ。学生の間に良い男を捕まえておけばと。
もしあの頃に戻れるのなら、もっと恋愛をしておけと絶対に言うだろう。
このお金持ち魔法学校であれば玉の輿がいっぱいだ。
金持ちと恋愛すれば金持ちと結婚できる可能性は高い。
パートナー選びに大切な事はお金だけではないし、私だって元々OLとして結構働いて稼いでいた。
なので必ずしもお金持ちと結婚したいわけじゃないけれど、お金なんてあるに越した事ないじゃない?!?
だが一つ問題があった。
それは私の中身が35歳だということだ。
ここにいる男子生徒は16〜18歳。
子供にしか見えないのよ。10代は。
そして、中身35歳の私が10代の子と付き合うなんて騙しているみたいなの。
エアリスは可愛いし賢いから言い寄ってくれたり好きになってくれる子は結構いるんだけど。
「ごめんね。今は恋人を作る気持ちはないの」
そう言って、さっきも断ったところ。
「断るのが大人として正しいわよね……」
見た目17歳だから!と開き直って10代の異性と付き合う気が、私には起きなかった。
青春について考えていたら、後輩の声が私を現実へ引き戻した。
「ネタが無いなら作るまで!先輩!あの魔物を捕まえに行きませんか?!」
「はえ?」
「あの逃げた魔物です!むしろ早く捕まえないと魔物の事なんて皆んなに忘れ去られてしまいます!」
「え〜……」
生物室から逃がされ、ドラゴンの死骸を食べていたあの魔物。
あれがいまだに捕まっていないのだ。
(そんな危ないことしたくなーい)
そう思ったけど、新聞部員の後輩3人が張り切っているのを見て
(これも青春だったりする?みんなで協力して何かやるって青春ぽいわよね?)
なんて思ってしまった。
そうか!見つかるか見つからないかではなく、みんなで協力する事が大事なのかも!
「記事のためにもやりましょうか!」
「さすが先輩!」「すごいです先輩!」「やってやりましょうエアリス先輩!」
そう言われて魔物探しを3人で始める。
生物部部員があんなに探していたからそんなに早く見つかるはずはない。
……そう思っていた。
開始1分。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
後輩が叫ぶ。なんと、新聞部の部室にいたのだ。
(何故こんなところに?!?)
「お願いします先輩!」「私には無理です!!」「エアリス先輩〜(泣)」
(お前ら!私任せかい!!!)
「うぉぉぉやったるわ!!!」
魔物討伐なんて初めての私。水が弱点だとか、それがどんな魔法だとか。
咄嗟に思い出せず、身体強化魔法を使い……
「ふんっ!」
エイ型魔物をぶっ飛ばし、木っ端微塵にしてしまった。
***
その話をクロードにしたら睨まれた。
「だって魔物と戦った事なんてないし、魔法も使い慣れてないし……」
「あぁ嘆かわしい……」
「ご、ごめんてば」
「エアリスお嬢様のイメージがどんどん損なわれてしまいます」
「でも、エアリスじゃないってバレる事はないから!」
「何故そう言い切れるのです?」
ギクッ
「い、いや〜外見がエアリスなのよ?そう簡単に中身が違うとか思わないでしょう」
「そうとも限りません」
え?どういうこと?
「中身を入れ替える魔法は存在します」
「えぇ?!?そうなの!?」
「はい。恐らく、エアリスお嬢様はそれを使ってあなたと入れ替わったと」
な、なるほど……
「エアリスお嬢様がどの魔法を使用したかは特定に至っていませんが、存在する事は周知の事実です。
バレないとは言い切れない」
こちらとしては、ゲームの世界である以上バレないと言い切れると思うのだけれど……
それを言うと乙女ゲーム云々言わないといけないからな。
話合わせておこう。
コーヒーを飲みながら、私は目を逸らした。
***
放課後。
赤い光の入る窓。夕暮れの廊下。
瞬きの間に気づくと猫が座っていた。
可愛らしい黒猫を見て、思わず近寄ってしまう。
野良猫なら逃げられてしまうかな?
「チッチッ。おいでおいで〜」
私の方を目がけて猫が近寄ってきた。
これは激アツ!!
「は〜可愛いねぇ。ごめんね。餌はないんだけど」
「構いやしやせん。こちらこそ手ぶらで申し訳ねぇ」
「え」
「お初にお目にかかります。俺は黒猫の大五郎と申す者。以後お見知り置きを」
猫が、猫が
「喋ったーーー!!!」
***
「ちょっくら話をさせてくれねぇか」と猫に言われ、私は再度部室を開ける。
下校時刻まであと30分もないので、手短にと頼んだ。
「すまねぇ、なんせこの学園は広くてなぁ。この部室に辿り着くのも一苦労なんでさ」
「そ、そうなんですか……」
「エアリスというのはおめぇさんかい?」
「は、はい……」
「えらく頭が切れて、探し物が上手いらしいな。頼みたい事があるんでぃ」
そう言うと、猫は話を始めた。
「……なるほど。恩人を探して欲しいと」
こくりと猫は頷いた。
「この手拭いを返したくてな」
大五郎の首と足のあたりにハンカチが巻かれていた。
「俺がカラスのガキと喧嘩してやられた時に手当てをしてくれた奴がいて、そいつにこの手拭いと恩を返してぇ」
おっさんみたいだが可愛い猫の頼みだ、やってあげたい。
しかし、頭が切れるのは元のエアリスであって私ではないのだ。
現在事件は全てクロードが解いている。
この猫……大五郎の依頼を聞いても私では見つけられそうにない。
でも力になってあげたい!!!
下校時刻が迫る。
「大五郎、うちに来ない?」
***
「……」
「ごめんなさいクロードさん。これには訳があって……」
「一刻も早く捨ててきて下さい。我が家で猫は飼育致しません」
「旦那、ひどいこと言いなさる」
「なぜ話ができるのかは分かりませんが、ますます怪しい。捨てて来て下さい」
「違うの!この子は依頼人なの!」
「恩人を探してるんでさぁ!」
はーーーーとクロードは大きなため息をつくと、大五郎をひょいと抱き上げた。
ハンカチを外して大五郎の傷の具合を見て、薬をぬり始める。
「お話を聞きましょう。その代わり、解決したらさっさと出ていって下さい」
「お、おう……ありがとよ旦那」
手当てをすると、クロードは大五郎を膝に乗せたまま話を聞くことにしたようだった。
「ヒントはこの手拭いだ」
「手拭い……と言うよりハンカチね」
ピンク色と黄色のチェック柄のハンカチが2枚。
血の染みがついていて、大五郎曰く怪我をした首と足の付け根に巻いてくれたらしい。
「それと外見だが、男だった」
「男?このハンカチの感じからして女性かと思った」
「悪いが怪我してて痛くてな。詳しくは覚えてねぇが、男だったのは間違いねぇ。
声が低かったし、髪も短かかった」
ピンクと黄色のチェック柄のハンカチを持った男性。
ヒントはそれだけ。
……どうでも良い情報だけれど、大五郎が喉を鳴らし始めていた。
クロードは猫の扱いが上手い。
「それだけじゃ難しいよ。もう少しなんかない?」
「校門の生垣のところだったから誰でも通る……学年だとかそういうのは分かんねぇ……ゴロニャーン」
小中高一貫校のため、全校生徒1200人。男子生徒だけでも600人いる。
その中からチェック柄のハンカチを持った男性を探すなど、ガラスの靴がフィットするシンデレラを探すが如し。
それに男子がピンクや黄色のハンカチを持っているなんてバレたら揶揄われるかもしれないため、名乗り出てくれない可能性も……
「これって女の子のものなんじゃない?彼女のものだとか」
「彼女のハンカチを勝手にあげるなど、ひどい彼氏ですね。そんな男がいるとは信じたくないものです」
右手で猫を撫でつつ、左手でハンカチを触りながらクロードは言った。
「怪我をしてこれをつけてもらったのはいつですか?」
「昨日の朝だニャーン」
「猫の匂いが付いてはいますが、清潔な香りがしますね」
私も嗅いでみる。確かに石鹸のような匂いがする。
「清潔なものを渡してくれたんですね」
怪我をした猫のために綺麗なハンカチをあげるなど、優しい男性もいたものだ。
「しかも2枚も持ってるなんて。相当綺麗好き?」
くしゃくしゃにポケットに入れてあるやつをあげたわけではない。
2枚とも清潔。予備のハンカチも持っていたということだ。
「クロードさん、何かわかりましたか?」
「確実に誰かとは言えませんが、おおよそ絞れました」
「えっ!これだけで?!?」
「えぇ」
そう言うと、クロードは部屋を出ていきハンカチを持ってきた。
「あ!色違いのやつ!」
「運が良かったですね。もっとも、同じ物を持っていなくとも見当はつきましたが」
「そうなんですか……?」
「成人してるであろう貴方でも、気づいておかしくなかったと思いますがね」
私は頭にはてなマークを浮かべる。
このチェックの2枚のハンカチから、何が読み取れるの?
「転生前の貴方もお嬢様育ちだったのですか?」
「い、いいえ。一般家庭だけれど……」
「それでは、子供の頃お手伝いをしなかった悪い子だったのでしょう」
私の手にハンカチを握らせるクロード。
「真相を知りたいですか?」
私は頷く。
そのハンカチは、妙に薄かった。
次回 猫の恩人探し解決編です




