第5話 演技力ばかりが磨かれてゆく
私は依頼者の攻略対象に事件の真相を話に行った。
「えっ?!?学内で討伐されたわけではないのか?」
「はい。私はドラゴンが魔法を使った痕跡を見つけるのに3日費やしたのですが、見つかりませんでした」
ドラゴン討伐の痕跡探しなんて、私1人でも3日で終わったのだ。
魔物保全委員会はさっさとそんなものはない事を確認して死骸自体を探している、というのがクロードの推理だった。
「今回死んだドラゴンは貴重生物です。
なので、魔物保全委員会に存在を把握されている。
何らかの方法で学内に死骸がある事を把握した魔物保全委員会は、行方不明の死骸を探しに来たのです」
「ドラゴンには魔力があるので、死骸でも簡単に見つかるはずだが」
「彼らもそう思っていたのでしょうが、未だ学内をうろうろしているので、恐らく見つかっていない。
つまり、先輩の依頼通り“消した存在が学内にいる”のは確かです。」
「ドラゴン一匹を消したのか!」
「一匹丸ごと消したかは微妙ですね」
でも消えたのは確かだろう。
「そこで生徒会の先輩にお聞きしたいのですが、最近高温の炎魔法を使った形跡のある場所はありませんか?」
「死骸を燃やしたのではないかという事か?」
「はい」
「ないな」
「学校中の、職員室や事務室も含めても?」
「ない。断言する」
炎の魔法なんて便利な物があれば一番最初に思いつくだろうと思ったのだ。
しかし、魔法を使えば痕跡が残る。
私が魔法の痕跡を探した時もなかったので、ないと見て良いだろう。
「燃やす以外にも手はあるんじゃないか?」
「そうです」
クロードも、痕跡が残るという欠点を理解し、他の手を考えていた。
具体的には、解体してゴミとして出したり、森に捨てたり、薬品を使って溶かすという方法だ。
しかし、ゴミとして出すのが大量であればバレやすい。
森に捨てたとしても、大量にやるのは無理だ。
薬品を使って溶かす方法に関しては、理科室の備品を余すことなく確認させてもらって、減っていない事を確かめた。
それにしても、クロードが死体の隠蔽方法を知りすぎてて怖いんだけど……年の功ってやつなの……?
「じゃぁ次に考えるのは、埋めた可能性です。
先輩にはドラゴンが埋まってそうな場所の候補はありますか?」
「そんなものパッと出てこない。それに魔力という痕跡が残る。ドラゴンの死骸が腐敗するなんて、結構時間がかかるぞ」
「ただ、この世界には……じゃなかった。この学園には、魔物という存在がいますよね」
「さすがに学園内に魔物が歩いているとは……」
ハッとする先輩。私もクロードに言われて同じ顔をした。
「弱った魔物や砂地に落ちている死肉を食べる魔物が脱走して、見つかっていないですよね?」
指を立てる。
私は本格的に推理の披露を始めた。
「私の推理はこうです」
私はあたかも自らで考えたかのような顔で話す。
35歳の大人が18歳の子供を騙すようで申し訳ないが、こちらも年の功だ。
それらしい事を言うのは慣れている。
「まず、ドラゴンを学外で討伐する……いや、自らの手でしなくても良いです。
比較的小さなドラゴンであれば、他の大きな魔物に倒されている可能性もあります」
「とにかく、犯人は学外でドラゴンの死骸を入手する。そして学内に持ち込む」
「臓器などの金目のものを取りたかったのか、研究目的か。
分かりませんが、取って要らなくなった死骸は元に戻して隠蔽しようとした」
「しかし、魔物保全委員会が死骸を確認しに来たタイミングとかち合ってしまったのか、他に理由があったのか」
「とにかく戻せない状況になってしまった」
「そして死骸があるべき場所になかったことから、もしくは、死骸が損壊されているのを不審に思ったのか。分かりませんが、魔物保全委員会は人為的に死骸を盗んだ者がいると判断して調査を始めた」
「その調査の結果、学内が怪しいのではと踏む。そして今回調査に入っているわけです」
「犯人は死骸を学内で処理しないといけなくなった時点で処理方法を考える。
しかし魔法を使う方法は難しい」
「そこで恐らく、犯人は魔法を使わずに死体を処理するために様々な方法使ったのだと思います」
「少量であれば森に蒔いて野生の魔物に食わせたり、ゴミとして捨てたりもしたかもしれません」
「でもさすがに大量にやればバレますよね?」
「そこで生物室にいる魔物に食わせる事を思いつく」
「しかしこちらも量が多ければ、世話をする生物部員が異変にすぐ気づくでしょう。
餌を食べなくなってしまいますから」
「大部分は、仕方なく埋めたと思われます」
「しかし、ドラゴンの死骸には魔力があるので、埋めても探知に引っかかってバレる恐れがあります」
「そこで、少しでも早く腐敗させるために可能な限り手を尽くした」
「そのうちの一つが、今いない脱走した魔物です」
「そして、魔物保全委員会が調査に来た時点で何とか腐敗させきったのでしょう」
「だから学内に今ドラゴンの痕跡はありません……と言いたいところですが」
「後で売ろうとした下心か、それとも少しでも腐敗させる量を減らしたかったのか、どちらもか」
理科室や実験室で薬品を探す際に同時に調べろとクロードに指示された場所。
それは理科準備室だ。
「比較的新しいドラゴンのホルマリン漬けや血などが置いてありました。学術研究のために元からここにあった、と言い張れる少量でしたが」
「できる限りここにも隠蔽したと思われます」
「理科準備室に簡単に入れて、ホルマリン漬けが作れる人間。一番怪しいのは」
「魔法生物学の先生か……」
頭を抑えた攻略対象の先輩。
「実験以外で理科実験室に先生が入ることはないと、生物部部員が言っていました」
「先生自ら魔物を逃すのはバレる危険性があったため、生物部部員に頼んだのでしょう」
「犯人の生物部部員は3年生だった。成績をチラつかされたか?」
「そこはわかりませんが」
ふぅ、と息を吐いた。
これでクロードから披露された推理は全てだ。
これ以上の突っ込んだ質問は勘弁してよ?
***
「ありがとうございます。助かりました」
「我が家の品位のためです」
目も合わせずクロードは言う。
「でも、助かったのは事実ですから」
「……」
気まずい……えーっと、話題話題。
「今日は良い天気でしたね」
「そうですね。メイドが洗濯物が乾いて助かると言っていました」
「クロードさんは、お仕事忙しかったですか?」
「そこまででは。いつも通りでございます。貴方は学校の方、問題なく通えていますか?」
「えぇ、はい……」
私は35歳だし、クロードさんも50歳。
気まずいけど、こういう無難な会話はできる。
楽しいわけではないけれど。
「困った事があれば、可能な限り我が家のお嬢様として貴方をサポートする所存です」
「ですけれど、メイド達にはバレてしまうのでは……」
「私が、サポート致します。現在家を取り仕切っているのは私ですから。
何でもおっしゃって下さい。私相手に、隠し事はしない方が良いですよ?」
フッと目を細めるクロードさん。
揶揄われているようなその仕草は、品のある男性がやると色気を感じさせるものだった。
顔もカッコ良い。昔はさぞかしモテただろう。
だが、このお堅い人に乙女ゲームとか理解されそうにないし、詳しく話すのはなんか恥ずかしいなぁ。
「特にありません」
「そうですか」
「……無理はなさらぬよう」
私には、最後にクロードが言った言葉を上手く聞き取ることができなかった。




