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第3話 やっぱり私脳筋なのよ

クロードに本物のエアリスではないとバレてしまい……

「あなたはエアリスお嬢様ではありませんから」


 どうして?ゲームの強制力で私がエアリスでないとバレないんじゃないの?


「本物のお嬢様をどこへやった?」

 ナイフを首元に当てられる。

 私は焦って言い訳を始めた。


「ごめんなさい!!違うの!!確かに私はエアリスじゃないけど、私もなんでこうなっているかは分からないの!

 気づいたらこうなっていて……だから、本物のエアリスをどうこうなんてしていないの!」

「どういうことだ?」

 怪しそうな目で見られても分からないんだってば!

 両手をあげて降参のポーズをする。そうすると、ナイフが懐にしまわれた。

「……まぁ、いいでしょう。あなたが確実にお嬢様ではないのが分かっただけでも良しとします」

 

 ほっと胸を撫で下ろす。

 

「その代わり協力して下さい。エアリスお嬢様がどこへ行ってしまったのか。どうしたら見つけ出せるのか」

「もちろん!もちろん協力します!」

 協力しないと殺されそうなので、うんうんと頷いた。


 ***


(楽しい転生ライフが、なんで……)

 

 私は友達と学校の廊下を歩いていた。

 エアリスとして学園生活を楽しむはずだったのに、クロードに恨まれていると思うと家に帰りたくない。

『あなたはエアリスお嬢様ではない』

 乙女ゲームの世界だからといって深く考えていなかったけれど、エアリスがいなくなって悲しむ人はいる。

 今私に話しかけてくれている友達も、エアリスでないと分かればショックを受けるだろう。

 クロードが私をエアリスでないと見抜いたのは、多分ゲームに関係ないキャラクターだからだ。

 ゲーム上でエアリスの執事は名前はおろか存在も言及されていない。

 だが、このお嬢様学校に通う生徒としてお付きの人間がいないのは不自然だ。

 だから言及されずとも当たり前にいる存在、それがクロードなのだろう。

 ゲームに干渉しない存在であればエアリスが別人だと気づくかなどどうでも良く、強制力を受けずに済んでいる。


(そう考えると可哀想かも。他の人と同じように知らないままの方がクロードも幸せだっただろうに……って)


「なにこの転生。全然楽しくないんですけど」

 聞いていた話と違う。愛されたり無双したり、そういう展開が用意されてるんじゃないの?!

 社会人として生活していたときとはまた別の辛さだ。

 毎日家と職場の往復。ストレスは酒で発散。

 そんな生活もしんどかったが、気心の知れた友達はいたし案外幸せだったのかも、なんて……

「せめてチートスキルでも寄越しなさいよ……!それこそ推理力とか!!」

 ムカムカしながら魔法の実技の授業を受ける。

 どちらかといえば脳筋の私は筆記試験が嫌いなので、実技の授業の方が楽しい。

 そしてエアリスは基本的に何でもできるキャラクターで、魔法を使うセンスが良い。

「エアリスさんは本当に器用に魔法を使いますね!」

 どの魔法も教わればすぐに習得できるのがエアリスだった。

 ゲーム上で比べられるのはヒロインとハイスペック攻略対象達なのでしょぼく感じたが、一般人の中では優秀なレベルだろう。


「では、今日のメインは身体強化魔法です」

 周りの生徒達は「え〜」とか「つまんね〜」とか言っている。

 そりゃぁ、火とか水とか物を飛ばしたりだとかの方が格好良いわよね。

 でもゲームではこういうバフ魔法、侮れないのよ?

「ではエアリスさんから、どうぞ」

 

 呪文を詠唱する。

 力が漲る。


「では試しにそこの木の板を割って……」

「ふんっ」


 木っ端微塵になった。

 

「すっご!簡単に木が粉砕できる!これならあと10枚はいけそうです、先生!」

「……上手くできたのは充分分かったわ、エアリスさん。戻って良いわよ」


 ***


 翌日、私が学校に着くと校門の前がザワザワとしていた。

 何だまた攻略対象のイケメン達か?と思ったが、どうも違う。


「魔物保全委員会だ」

 先生と話をしているのは、そう名乗った男だった。


「先日この学校の領域内でドラゴン一体が行方不明となっている。

 貴重生物のため行方を追っている。

 目撃情報を集めているので、協力を願う」


(協力を願うって態度じゃないんですけど)

 転生前に見たニュース番組を思い出す。

 任意と言いつつ、完全に捜査に協力しろと圧力をかける警察みたいだ。

 協力しないなんて言ったら何かを隠していると思われる状況……ん?


 (こういう状況っておおよその事件の概要が分かっていて、証拠を見つけるために来るんじゃ?)


 刑事ドラマなんかでそんな話を聞いた気がする。


 魔物保全委員会についてエアリスの記憶を探る。

 魔物保全委員会は、環境省調査局にある希少な魔物の調査を行なっているところで、必要に応じて発足する委員会。


「委員会が何であんなに偉そうなんだよ」


 学生の皆々様にとっては委員会は図書委員みたいに大したイメージがないかもしれないが、今来てるのは環境省という国家権力の委員会だ。

 この人達は国家権力を持ってこの事件の調査に来てる。


 えらい大事では?!?


 ***


「エアリス先輩!これはすごい事件ですね!」

「あのねぇ……これは犯罪の調査みたいなものよ。そんな無邪気に……」

「そうなんですか?」


 なんだろう、この学校の生徒がアホなのかしら。

 それとも高校生ってこんな感じなのかしら。


「とにかく、この件は新聞のネタとして取り上げない方が良いと思う」

「えー!せっかくのネタが……生物部の行方不明の魔物ネタは飽きられてきていますよ」

 魔物が行方不明なんて、怖くはあるが面白い話でもないし学生達にとっては割とどうでも良いのかもね。

 私みたいな現実世界に生きていた人間としては、学校内に動物園から逃げた猛獣が入り込んでいるイメージなんだけど……


(水系魔法であっさり撃退できるみたいだしそんな大したことないのかしら?

 学校の実験でも使っていたみたいだし。

 記憶はあっても、感覚としては全然ピンとこないわ)


 ***


 だが、まさかの私、エアリスはこの事件に関わることになってしまった。

 なぜか?

 この学校において教師の次か同じくらい権力を持っている生徒会。

 そこに所属する攻略対象の一人が、この事件に興味を持ったらしいのだ。

「エアリス!学園内で名探偵と名高い君に是非調査して欲しいんだ!そして、犯人を探し出して欲しい!」

 やりたくない。しかし断りにくい雰囲気。


(……なんだろう。これ何かに似てるな)

 

 ゲームで見てる分には人ごとっぽいから「学園内の事件解決なんてワクワクする!」って感じで喜んで引き受けてもいいんだけど。

 当事者になってみると、権力を持っている断りにくい奴から「事件解決が好きらしいから」って体良く使われてる感じがするのは気のせい……?

 パワハラとかやりがい搾取という言葉が頭を掠める。

 顔がイケメンだから嫌悪感少ないけど、おっさんだったらクソ上司だ。


「……分かりました」


 しかし、私は権力に弱かったのだった。

次回 ドラゴンの捜索を依頼される私ですが、ただの捜索ではなく?

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