第2話 もう魔物の行方なんてどうでも良いかも
解決編です。
「まず、現時点で魔物が実験室内にいないことを踏まえ、外部に逃げたと仮定します」
私は放課後に理科実験室に生物部部員を集めた。
「では魔物がどうやって外部へ逃げたかですが、恐らく窓からと思われます。
というのも、施錠したドアから逃げることはできず、他に逃げ道もないからです。自ずと窓になるでしょう」
「ですが、窓は閉まっていました」
私は窓まで歩み寄り、カーテンに隠れた部分まで窓を開けた。
「確かに窓は閉まっていたと聞きましたが、チェックした人間がカーテンに隠れるほど少しだけ開けておけば“閉まっている”と他の部員に誤認させることはできると思われます。
そして、翌朝理科実験室に入った際締めておけば、開いていた証拠はなくなるでしょう」
「じゃぁ翌朝閉まっていたのは、朝来た時に誰かが閉めたということか……?」
ざわりと嫌な動揺が広がる。しかし、私は容赦なく「そうです」と言った。
「ケージに関しても同様で、ほんの少しだけ開けておいてチェックをした犯人が“閉めた”と言えば閉めたと誤解してもおかしくありません。
そして翌日来た時閉めてしまえば証拠はなくなる。
そうなると、逃げた魔物のケージを最後に開け閉めしたのが犯人です」
「それは確かにそうですね。しかし、窓も魔物の入っているケージもチェックするのは日頃から色んな人がやっています。
そして、魔物がいなくなったことを発見した部員はケージに近づいていませんから、第一発見者が犯人ということでもなさそうだ。
複数の人がよく触る場所なので、魔法で指紋などの痕跡を洗い出しても全員のものが残っているでしょう」
「なるほど。では誰が最後に触れたかで犯人を洗い出せそうにはないですね。
では次に、魔物がどうやって窓から出たのかを考えたいと思います」
私は、逃げた魔物の水槽から一番近い窓までの動線を指し示した。
「餌を撒いて窓まで誘き寄せたという可能性はどうでしょうか?」
「あり得ると思います。うちでは死肉をあげておらず、ペレットのような固形の餌を与えていますから。
でも高い場所の餌を認識しないかもしれないので、窓まで誘導できるかは微妙です。
この魔物は砂地に足を踏み入れた刺激で動物を襲ったり、地面の近くで弱っている魔物を見つけて襲ったり、砂地に落ちている死肉を食べたり……
つまり、上空を見上げて餌を探すなんてしません」
「そうですか……では窓まで誘導するのであれば細工をする必要がありそうですね」
「細工?」
「どうしたら棚の上にある餌を見つけてもらえるでしょうか?」
「えぇ……?」
私は棚の汚れを指し示した。
「例えば、ペレットを棚の下の方から上の方まで貼り付けるなり、粉末を擦り付けておくなりしたらどうでしょうか?」
「あぁ!それで少しづつ上まで誘導すると」
元々汚れている棚だ。茶色いペレットはすぐに紛れられるだろう。
棚の上には実験器具があったとて、上まで登らせてしまえば餌を食べながら窓まで行って……
「しかし、それでも簡単には出ていかないと思います」
「どうしてですか?」
「実験室の部屋の方が居心地が良いからです。窓のそばまで行ったとしても、外に餌もないわけですから食べたら戻っていくでしょう。
ここは3階ですから、飛び降りてまで脱走するとも思えない」
「餌が動いていたらどうですか?」
「餌が動く?」
私は理科実験室を見渡した。
「ここではたくさんの生き物を飼っていますね。
小さな魔物を紐で括り付けて窓の外に垂らしておくんです。こういった動く餌に反応する可能性は?」
「……狙うかもしれない」
「飛ぶ魔物なんか……例えば邪悪な妖精なんかが窓の外に飛んでいたら飛びつかないでしょうか?」
虫かごに入っている妖精達。こちらは一匹くらいいなくなっても分からないかもしれない。
「仮定が間違っている可能性はありませんか?人為的に引き起こしたと決めつけている。実験室内にまだいるかも……」
「いなくなった一昨日からも今日まで探しているじゃないか。餌でおびき寄せようともした。でも出てこない」
私は落とし物をしたと言って一時的に一部開けてもらった結界内で見つけてものを見せた。
「凧糸が理科室の下に落ちていました」
推理が現実味を帯び、部員同士に緊張が走る。
「……ですが、犯人は分かりませんよね」
「そうとも限らないかもしれません」
私は部員に聞いた。
「理科室でこれと同じ凧糸はありますか?凧糸であればあまり使う人もいないでしょうから、生物部部員の指紋があればその人物が犯人です」
***
結論を言うと、生物部部員内に魔物を逃した部員は発見された。
私が言った華麗な推理通りだったそうで、凧糸で犯人を割り出すまでもなく自首したのだった。
なぜそんなことをしたのか聞かれると、その部員は「頼まれた」と言ったらしい。
誰に頼まれたのか追及したが言わなかった上に、魔物を見つけることも叶わなかった。
魔物を捕まえられなかったので華麗な推理はあまり意味をなさなかったわけだが、それで推理の華麗さが損なわれるわけではない。
「クロードありがとう。今回の事件については全然分からなかったから助かったわ」
「力になれて何よりでございます。それで、新聞部は辞めてしまわれるのですか?」
「ううん、辞めないことにした」
正確には、辞められなかった、だった。
私が辞めることを部員に伝えると、必死に引き留めてきたのだ。
それでも辞めようと退部届を新聞部の先生に渡そうとしたら留守だった。
がっかりして歩いていると、ヒロインちゃんにばったり出会った。
「エアリスさん!新聞部を辞めるって本当?!?」
「?うん」
「お願い辞めないで!」
「えっ……?」
「辞めたらダメ!」
「なんでマリアちゃんが……」
とにかく辞めたらダメ!辞めないで!
マリアちゃんはそればかりを言ってなかなか離してくれない。
(まさか、これってゲームの強制力?)
エアリスというキャラクターは本編で新聞部として絡む。
空気になることはあっても最低限の仕事はあるし、いなくなることはない。
ゲームの断れない選択肢を与えられているみたいだった。
ゾッとして、私は結局断ることができず新聞部を続ける事となった。
「もしかして、私の中身がエアリスではないと気付かれる可能性はないの?」
今まで私の行動に疑問を抱く人間はいなかった。
17歳の女子高生の中身が急に35歳OLになっても「どこか変」だとか「変わった」とも言われない。
気持ち悪くはあるが、逆に気楽だと私は捉えることにした。
絶対に気づかれないのであれば、ゲーム上のエアリスらしくない行動を取っても怪しまれたりはしないということだ。
推理はクロードに頼めば良いし、自分らしく青春を送ることができる。
「クロードの推理は本当に華麗だったわ。あらゆる可能性を網羅してた」
「このような網羅推理を披露して下さるのは、いつもエアリス様でした」
「そうだったわね。でも、私も新聞部の活動が忙しい時はこれからもクロードの力が必要になるから、その時はよろしくね」
「お断りします。あなたは本当のエアリスお嬢様ではございませんから」
「え……」
ゲームの強制力によって誰にもバレないと思っていたところだった。
なぜクロードにはバレたのか理解できず困惑する。
「エアリスお嬢様は、2人でいる時私に敬語を使うことは一切ないし、私もエアリスお嬢様に2人きりの時敬語を使わないんだ」
何せ、5歳の時からの付き合いだからね、とクロードは言った。
「君はお嬢様ではない。お嬢様をどこへやった」
次回 エアリスではないとバレてしまい、クロードに敵認定されてしまった私ですが……




