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第1話 肩書は友人Aだけで十分なんだけど

お嬢様推理ものです。楽しんでいただければ幸いです。

「寝坊したっ!!!」


 そう言って飛び起きると、私は35歳のOLではなかった。

 目覚めた部屋は綺麗に片されている、というか違う部屋だった。

 状況が把握できなくて姿見で全身を見てみると、そこには10代後半の女の子がいた。


 これ私?


 身体や顔をペタペタと触ってみると、この女の子が自分である事が分かった。


 姿見の隣に学生服がかけてある。

「私、今学生なの?」

 それって、それって……


「仕事がなくなったーーーー!!!」


***


 ベッドで心不全で死んだのか何か奇跡でも起こったのか。

 トラックに轢かれたわけではないのは確かだが、気づくと私はお嬢様学校に通う高校生に転生していた。

 身体は軽いし、髪も艶やか。若返ったからか、バイタリティにも溢れている気がする!


(学生ってことは完全週休2日を約束された生活ってこと?!素晴らしい!しかも夏休みも春休みも冬休みもある!)


 なんでもできる気がする!

 2度目の青春。最高。1度目ではできなかったことを全部してやる!

 

 可愛い学生服に身を包み、執事に今日の予定を訪ねる。

「今日何か予定はあったかしら?」

「部活動のみだったと……」

「では部活が終わったらお迎えをよろしくお願いします」


 朝食を食べ終わり、リムジンに乗って学校へ。

 お嬢様学校ってどんな感じなのかしら?そう思いながら窓の外から見えた校舎に、私は既視感を覚えた。


(あれ……?これってまさか……)


「キャーーー!!!」


 校門の前に降り立った時、黄色い歓声が聞こえて振り返る。

 するとそこには、前世で攻略した元カレ達が勢揃いしていた。


(うわっ!これ私がやってた乙女ゲームの一つじゃん!)


 スマホゲームからポータブル、据え置きゲームまで数多の乙女ゲームを遊んできた私。

 最近は忙しくてご無沙汰だが、元カレ達を見ればストーリーや設定が思い出せる。


「ん?ちょっと待て。私ヒロインじゃないな」


 ヒロインが各攻略対象達と出会うのは最速でもクラス内だ。

 校門で見かけるシーンはなかったはず。


「あれ?じゃぁ私って誰……?」


 疑問に思いながら教室へ向かう。自然と足が向いたのは、ヒロインと同じクラス。

 ヒロインちゃんが机に座っている。私は彼女に話しかけた。


「あなた転入生?」

「うん」

「名前はなんて言うの?」

「私はマリア」

「私はエアリス。よろしくね」

(私ってエアリスだったのか!!!)


 エアリスはヒロインのマリアちゃんの友達の1人、友人Aのポジションだ。

 そうかーエアリスちゃんかー!いい役もらったな私!ストーリーでも要所要所で出てくるんじゃない?

 マリアちゃんが私といる選択をしてくれれば、だけど……


 席に戻る。

 それにしてもヒロインちゃん可愛いな。髪色ピンクなんだよね〜そういう私はモスグリーンでギリギリモブじゃない感じ。

 エアリスはマリアちゃんと敵対する意地悪な女でもないし非常に気楽だ。

 攻略対象のヒーローと2人きりでデートをするほど好感度がない時の人数合わせ要員だとか、そんなものである。

 つまり、ヒロインちゃんに呼ばれることがなければ自由。


 エアリスがどんなキャラクターだったか考えを巡らせていると、彼女の過去や現在の立ち位置が思い起こされてきた。

 ゲーム上エアリスに過去の設定はないので捏造なのだろうが、ここにこうして生きている以上過去はある。


 転入生としてマリアちゃんの自己紹介が終わり、授業が始まる。


「HR終わり。一限目は魔法学の基礎だぞー」


(そういえばこの学園、魔法学校なのよね。魔法が使えるってどんな感じなんだろう?!?)


 ***


 放課後、私は部室へ向かっていた。

 エアリスは新聞部の部長だった。

 ここで得た攻略対象やイベントの情報をたまにヒロインに教えて、イベントの選択肢を出す役だ。

 しかし、具体的にエアリスが新聞部で何をやっていたのかはストーリー上詳しく出てこない。


「部長!大スクープです!!!」

 部員の女の子2人が私の元へやって来る。


「どうしたの?」

「理科実験室から魔物が一匹いなくなったそうなんです!」

「大スクープじゃなくて大事件じゃない?!それ!」

 

 部員の女の子曰く


 理科実験室には、邪悪な妖精?やスライムなどが飼われているのだが、そのうちの一種である魔物が一匹いなくなったとのこと。


 魔法生物学の先生や生物部部員が探しているらしいがまだ見つかっておらず、目撃情報を募っている。


 魔物が実験室内にいる可能性も高いため現在実験室は一般生徒の使用は禁止。


 入室できるのは他の魔物の世話をするための生物部部員のみだ。


 学生にこれらの情報を周知させるべく、新聞部として急いで記事を書く必要があるのだった。


 元々魔法の実験用に飼っていた魔物のため、生死は問わないが見つけ出す必要がある。


 指名手配犯みたいね。


 急いで記事を書き上げ、号外としてポスターのように各教室や廊下に貼って回る。

 一仕事終えて部室に戻ると、部員の女の子2人が話しかけてきた。


「部長!また事件ですね!」

「ん?そうだね」

「また部長が解決しちゃうんじゃないですか?」

(……ん?)


「いつもの名推理、お願いしますよ!」

(んん???)


 エアリスの記憶を探る。そういえば、エアリスはどちらかと言えば頭脳派キャラで、学年でも上位の成績を収めていた。

 テスト前に勉強会をしようとヒロインちゃんと話していたっけ。

 

 ここからはストーリーにない記憶だが、どうもエアリスはミステリー小説好きが高じて新聞部で探偵の真似事のようなことをしていたらしい。

 しかも、何度か本当に事件を解決してしまっている!


「逃げた魔物の行方なんて、部長ならすぐ分かっちゃいそうですよね」

「え……あーうん、そうだね」

「部長!調査ならこの右腕の私にお任せください!」

 今更来た男子部員までもがそんな事を言う。これはどう考えても事件を解決しないといけない流れだ。


 探偵に憧れがないわけではない。

 シャーロックホームズとか格好良いしね。でも私は武闘派なの!元空手部の主将で、脳筋寄りなのよ!!

 事件を解決するなんてワクワクするけど、私は助手でお願い!

 探偵役は誰か別の人間が引き受けて!!!


 そう思ったところでこの話の私はエアリスで、新聞部部長兼探偵。


 メインストーリーに関わる事件だったらなんとかなっただろうけど、ストーリー外の事件なんて知る由もないのに、解決する羽目になってしまった。


 ***


 刑事ドラマくらいしか見たことのない私が最初にしたのは現場検証だ。


 放課後行った理科実験室は、私が学生の時に見た理科室と似た感じだった。


 理科室を増築した一区画に大小さな様々な虫カゴや水槽みたいなものがたくさん置いてある。


 その中には邪悪な妖精やスライムだとか、異形の魚とか一つ目の四足歩行の魔物だとか、気持ち悪い見た目の生き物がたくさん飼育されていた。


 こんなもん育てたくて生物部に入るやつの気が知れない。

 

「この水槽から逃げたんですか?」


 何も入ってない水槽が一つあった。


 魔物がいなくなったと分かった日の前日の放課後に見たのが最後だったらしい。


 つまり、魔物が逃げたのは前日の下校時刻以降、今日の登校時間までだ。

 

「先生は確認しなかったんですか?」

「実験がないときは先生は実験室へ入らないんです」


「他に人が入った形跡は?」

「なかったです。鍵は下校時刻に職員室へ戻しましたし、それ以降誰も借りに来た人はいなかったそうです」


「朝来た時点でドアや窓は空いてましたか?」

「閉まっていたと思います」


 何か分かったか?みたいな顔で見る新聞部部員達。プレッシャーがすごい。こんなんで何もわかるわけが無い。


「密室だったということですね」


 キリッとした顔でそれらしい事を言ってみる。事実を述べただけだ。

 それなのに、新聞部員たちは「さすが!」とでも言いたげな期待の眼差しを向けてきて辛い。


 それからも実験室を隅々まで見せてもらったが何も分からず、冷や汗を掻きながら私は家へ帰ったのだった。


 ***


「無理だわ!!!」


 夕食後に豪奢なソファがあるリビングで叫ぶ。


 転生したら探偵役だなんて!何やってくれてるのエアリス!!!

 ヒロインのマリアちゃんとのんびり学園青春ライフ♪なんて考えていたのに、放課後に頭脳労働させられるなんて。


 一応ノートにそれらしく情報を整理してみたけれど、何も見えてこない。


「どうしたのですか?お嬢様」


 そう声をかけてきたのは執事のクロードだ。

 クロードは長年この屋敷に勤めている執事で、今年50歳。


 私……エアリスが5歳の時から仕えてくれている。


 エアリスは大人しくて賢いキャラクターだ。

 話し方も転生前の私より落ち着いている。


 さっきの「無理だわ!!!」みたいな発言はしないと思うから控えなければ。

 

 記憶を探っていると仲も良いようだが、記憶しかない私にとっては50歳のおじさんであり、職場の上司を思い起こさせる存在なのだった。


(シゴデキっぽい記憶がある。エアリスは学園の事件についてクロードに色々と話をしていたみたい)


「ねぇ、クロード。聞いて欲しい話があるの」

「なんでございましょう」


「実はまた学園で事件が起きて、魔物が一匹逃げてしまったの。行方を探していてね」

「魔物でございますか。種類はどのようなものですか?」


 魔物の事典を見せて説明する。


「ふむ。土属性の魔物ですね。

 砂地が好きで、餌は主に腐った死体や小動物。

 土に潜んで砂地に入ってきた動物を攻撃し、人間を襲うこともある……と」


 エイのように砂地に潜んでいる生き物だ。探すのが大変そうである。


「部員の人が言っていたのですが、この魔物、あまり動き回るタイプじゃないそうなんです。

 水槽を開けっぱなしにしてもそうそう出てこないらしく」


「……でも逃げたと」

「はい、恐らく」


「外へ行ってしまったということですか?」

「分からないの。

 今のところ実験室中を探してもいないらしいけど、窓やドアなどは閉まっていたから」


「それは確実な情報ですね?」

「ドアは施錠していたから絶対開いてなくて。窓も閉めたって」


 クロードお願い。私に大ヒントを頂戴!プレッシャーが凄いの。

 この事件が終わったら、私運動部にでも何でも転部してあなたに頼るのは最後にするから!


 クロードはもう一度魔物事典を見ながら考え始めた。


「その話を聞いてもなお、私は窓が開いていた可能性はあると思います。

 ドアと窓以外に逃走経路がなく、実験室内をくまなく探したがいない。

 外に出た以外に考えにくい状況であれば、窓から出たのでしょう」


「えっと……でも窓は閉めたって言ってたし……」


「ドアは鍵で施錠しますし閉まっているとわかりやすいですが、窓は人がチェック致しますね。

 開けっぱなしで気づかないことがあってもおかしくありません」


「窓の形状は?」

「普通のやつよ。ガラスで横に引くような形の」


「カーテンは当たり前にございますね?」

「うん。でもカーテンは開けてたって。魔物の育成上、日の光を入れたかったから」


 だから部員達は窓を閉めたと思ったのだ。


 数人の部員で閉まっているのをチェックしたあとに見た窓は、開いているようには見えなかったから。


「この魔物の平たい形状からして、隙間があればすぐに出ていけそうです。

 端に避けられていたカーテンに隠れるように少し開けておけば、ぱっと見閉まっていると見せかけることはできます」

 

「でも、朝来て魔物がいなくなったと気づいた時に部員達は徹底的に実験室内を探して、そこで窓もドアも閉まっていたと確認したのよ。

 ……それだと、朝来たときに誰かがこっそり閉めたということにならない?」


「そうなりますね」


 え、それじゃ

「この脱走って、人為的に仕組まれたもの?!?」


「開けっぱなしだったら誰かが閉め忘れてしまって魔物が出て行ってしまったとも考えられますが、閉めた人間がいた以上隠蔽した可能性が高いですね」


 急に嫌な事件になってきた。


 魔物がどこからどのように出ていったか考えるつもりだったが、犯人探しとなりそうだ。

 

 しかし、窓から逃げたとすると一つ疑問が生まれた。

 

「誰かが窓をほんの少し開けておいたとして、魔物がそのほんの少し開いている窓を見つけて出ていくなんて考えにくくない?

 大人しいから基本的に水槽から動かないし」


「餌でも撒いておいたのではないですか?そうすれば開いている窓まで誘き出せるかと」


 それはあり得る話だ。

 でも、もう一つ疑問がある。


「窓って基本高いところにあるじゃない?今回の窓も地面から1mくらいの高さにあった。人を襲うくらいだから1mの跳躍力はあったとして、高いところにある餌を見つけられるかしら?」


 平べったいエイのような生き物が、1m近く上を見て餌に気付けるか?


「窓の前に何かありますか?」


「実験器具なんかを入れる棚。棚の上には実験で使う道具の一部や光が必要な魔物の水槽が置いてある。

 そんなごちゃごちゃしたところに置いてある餌を見上げて見つけるのは難しいと思うけど……」

 

「窓の外はどのようになっていますか?」


「生徒が落ちないように3階から1階まで人が落れないくらいの……30cmくらいの幅の結界が張られてる。でもこの薄っぺらい魔物なら落ちるでしょうね。

 土に潜る魔物だから、落ちたら脱走される」


「一時的に結界を解くことは?一部だけでも良いのですが」


「物を落としたとか言えば解いてもらえると思うけど……一部だけなら」


 クロードは顎に指を当て、眉間に皺を寄せて考え始めた。

 集中しているようで、しばらく黙っている。

 私も黙って考えてみたが、頭の中がぐるぐるとして混乱するばかり。諦めてしまった。


「お嬢様」

「はい」

「この話の真相をどこまで知りたいですか?」

登場人物

私:元35歳OL。気づいたら乙女ゲームの友人A(エアリス)に転生していた。

クロード:エアリスの執事。年齢は50歳。

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