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第7.1話:遠ざかる背中と胸の迷い(後編)

キーンコーンカーンコーン……


4時間目の終了と昼休みの訪れを告げるチャイムが校内に響き渡った。1-Aの教室が一気に騒がしくなる。

先生が教室を出て行った瞬間、浅美は机の上のノートも片付けずに慌ただしく立ち上がった。


「おい浅美! どこ行くんだよ?!」大樹が驚いて声をかける。


「僕……ちょっと席を外すよ」


浅美は1-Aの出口へと足を速めた。あの美しい髪の少女が手作りのお弁当を持って現れる前に、どこかへ隠れなければならない。


しかし、廊下へ一歩踏み出した瞬間——運命は残酷だった。

制服のリボンをきれいに結び、世界で一番温かい笑顔を浮かべた少女が、桜柄のピンクの包みを抱えて目の前に立っていた。


「浅美くん!」光は目を輝かせて叫んだ。


「ちょうど出てくるところだったんだ! お弁当、昨日のお礼に作ってきたよ!」


周囲の生徒たちの視線が一斉に二人へ集まる。刺さるような噂話が再び廊下に充満した。


(なんで……なんでそんなに眩しい笑顔でいられるんだよ、話さん……)

浅美はポケットの中で拳を握りしめ、廊下の床に視線の落とした。


「ごめん、話さん」浅美の声は冷たく、どこか他人行儀だった。「僕……お腹空いてないんだ。それに、これから図書室に行かないと」


光の笑顔が凍りついた。澄んだ瞳が何度かパチパチと瞬きし、驚きと困惑を隠せない。


「え? お腹空いてない……?」光の手から力が抜ける。


「でも……私、浅美くんの好きなご飯作ろうと思って今朝1時間も早く起きたんだよ……? それに朝休みも食べてなかったのに……」


「僕、お弁当を作ってなんて頼んでないだろ?」

浅美は毅然と言い放った。心の中では自分を世界一の悪党だと罵りながら。


光は絶句した。浅美の言葉は鋭い針のように彼女の心を刺した。しかし、光はすぐに引き下がるような女の子ではなかった。一歩踏み込み、ヴァニラの甘い香りが浅美の鼻腔をくすぐるほど距離を詰める。


「嘘つかないで」光は浅美の青ざめた顔を睨みつけた。「私と目を合わせる時、浅美くんは絶対嘘つけないもん。これ……涼太先輩に何か言われたからでしょ?!」


浅美は強く唇を噛み締めた。ゆっくりと顔を上げ、涙ぐみ始めた光の茶色の瞳を真っ直ぐ見つめる。


「話さん……涼太先輩の言う通りなんだ」浅美の声はかすれていた。「君は清陵高校の宝石だ。みんなが君を期待してる。僕みたいな陰気な奴と一緒にいたら、変な噂が広まるだけだ。僕は君の足を引っ張りたくないんだよ!」


「足を引っ張る?! 迷惑?!」


光の声が廊下に響き渡った。通りすがりの生徒たちが足を止める。廊下の隅では、追いついてきた橘凛が目を見開いていた。

光の目から、大きな涙の粒がポロポロとこぼれ落ちた。


「なんでいつも周りのことばかり気にするの、浅美くん?! 私の気持ちを聞いてくれないの?!」光は泣きじゃくりながら叫んだ。


「一言二言喋っただけの涼太先輩の意見の方が、ずっと一緒にいた私の気持ちより大事なの?!」


浅美は凍りついた。光の頬を伝う涙を見て、胸が引き裂かれそうになる。


(僕はまた、彼女を傷つけた……守るフリをして、一番に彼女を泣かせたんだ!)


「私、噂なんてどうでもいいの!」光は涙を袖で拭った。


「格差とか、バスケ部とか、関係ない! 私が気にしてるのは浅美くんだけなの! あなただけなのよ!」


全校生徒のアイドルによるあまりにもストレートな告白が廊下に響き、誰もが息をのんだ。しかし、劣等感に囚われた浅美の恐怖はさらに膨らんでいく。


(僕は……こんな純粋な気持ちを受け取る資格なんてない……)


「ごめん……」浅美の視界が絶望で暗くなった。


「ごめんね、話さん……僕、図書室に行くよ」

浅美は振り向き、大きな歩幅でその場を立ち去った。


「浅美くん! 待って!」

光の叫び声を背に、浅美は廊下の角へと消えていった。


残された光は、お弁当を抱きしめたままその場に崩れ落ちそうになった。肩を震わせてすすり泣く彼女に、凛が素早く駆け寄り、肩を抱き寄せた。


光は震える指で涙を拭うと、浅美が消えた曲がり角を見つめた。その瞳の中の悲しみは、次第に強い決意の炎へと変わっていく。


「浅美くんのバカ……」光は歯を食いしばり、静かに呟いた。


「逃げれば諦めると思ってんの? 絶対逃がさないんだから……!」

◇

静まり返った図書室の最奥の席。浅美は机に伏せ、髪をかきむしっていた。


(僕は最低の人間だ……話さんをみんなの前で泣かせるなんて……)

目を閉じるたび、光の涙と、「私が気にしてるのは浅美くんだけ!」という言葉が脳裏に焼き付いて離れない。


「ふーん、なるほど。悲劇の主人公気取りで悲しみに浸ってる奴はここか」

鋭い声が響き、浅美は跳ね起きた。

本棚の影から、橘凛が腕を組んで立っていた。まるで指名手配犯を追い詰めた刑事のような鋭い目つきだ。


「た、橘さん……?! なんでここに……」


「親友を泣かせた超本人を探しに来たのよ」凛は向かいの椅子を引き、足を組んで座った。


「言っておくけど、さっきの逃走劇、点満点中マイナス点ね。全く男らしくないわ」

浅美は申し訳なさそうにうつむいた。


「僕が悪いのは分かってる……でも、涼太先輩たちの言う通りなんだ。僕は話さんの負担にしかならない……」


「あのねぇ、浅美サイジョウ」凛は身を乗り出した。


「光はバスケ部の安っぽい噂ごときで評価が落ちるようなタマじゃないの。本当に彼女の立場を危うくしてるのはね……自分が好きな男に勝手なヒーローごっこで突っぱねられて泣いてる姿よ!」


「す、好き……?! 話さんが……僕を?!」浅美の顔が一気に真っ赤になった。


「当たり前でしょ。……で、言っておくけど」凛は意地悪く微笑み、スマホを浅美に見せた。


[hikari]:凛ちゃん! 浅美くんを図書室で張り張ってて! 学校から逃がさないでね! お弁当温め直して土曜日の作戦練り直すから! もう絶対逃がさない! ( •̀_•́ )

浅美は画面の文字を見て絶句した。彼女の執念は、想像の千倍硬く、そして恐ろしかった。


「あの子は可愛くて素直だけど、一度決めたら城壁だってブチ破るわよ」凛がニヤリと笑う。「だから覚悟しなさい」


「覚悟って……?」


「土曜日のデートの覚悟に決まってるでしょ!」

本棚の後ろから、澄んだ声が響いた。


「うわあっ?!」浅美は跳ね上がった。

冷たい缶緑茶を持った話光が、本棚から姿を現した。目元はまだ少し赤いものの、その顔には最高に可愛らしく、勝利を確信した笑みが浮かんでいた。


「は、話さん?! いつからそこに?!」


「凛ちゃんが追い詰めた時から」光は悪びれもせず浅美に近づくと、冷たい缶を浅美の赤くなった頬にペタッと押し当てた。

「ひゃあっ! 冷たい!」


「泣かせたことと、お弁当を拒否した罰!」光は小さな胸を張り、威張ってみせた。

そして、まっすぐに浅美の目を見つめる。


「今週の土曜日、朝9時に駅前で待ち合わせね、浅美くん。拒否権なし、遅刻なし、逃走なし! これは私からの正式な命令だから!」


(神様……この子に降伏して身を委ねるのが、僕の魂が助かる唯一の道みたいです……)


目の前で満面の笑みを咲かせる学校の宝石を見つめながら、浅美は心の中で静かに白旗を揚げたのだった。

初めまして、プトラ_SP13(Putra_SP13)です!

数ある作品の中から『かけがえのない宝石(きみ)にたどり着く、僕の旅の物語』に目にとめていただき、ありがとうございます。


【※読者の皆様へ(お知らせ)】


本作品は、インドネシアの著者が執筆したオリジナル小説を日本語に翻訳してお届けしている作品です。

カクヨムおよび「小説家になろう」にて同時に連載を行っております。


異国の地から、皆様の心に残るような物語をお届けできるよう精一杯執筆していきます!


少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、ぜひ ★評価 や フォロー で応援していただけると大変励みになります。


毎週定期的に更新していく予定ですので、どうぞよろしくお願いいたします!

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