第8.2話:夜空の下と花火の輝き : 解決編:夜空に咲く花火と約束
涼太の怒声が、冷え始めた夕方の空気にピリピリと張り詰めた。川沿いの花火大会に向かおうとする通行人たちも、その異様な緊迫感に足を止めて見守っていた。
「自分が何様のつもりだ、西条?!」涼太は一歩詰め寄り、威圧的に胸を張った。
「あいつが同情してくれてるからって、ヒーロー気取りかよ? お前なんて、ただの度胸なしのクイズオタクの分際で!」
浅美は歯を食いしばった。指先が震えているのは恐怖からではなく、光の平穏を守るために必死に抑え込んでいる怒りのせいだった。
「度胸なし?」浅美は冷たく、しかし鋭く言い放った。
「親しい友人の評判を貶めるために、狭いアングルの写真を切り取って学年グループにバラ撒くような男こそ……プライドを語る資格なんてないはずだ、藤島先輩」
涼太の顔色が一瞬で真っ青になった。
「なっ……何を……っ?!」
「先輩、その通りですよ」
冷ややかな声が横から割り込んだ。
人混みの中から橘ソラが姿を現し、その隣では橘凛がスマホの明るく光る画面をしっかりと手に持って立っていた。
「ソラちゃん?! 凛ちゃん?!」光は驚きの声をあげた。
「ごめんね光、ストーカーみたいについてきちゃってさ」ソラは涼太を冷たく睨みつけながらニヤリと笑った。「でもついてきて大正解だったよ。バスケ部の未来のエース様が後輩を脅迫してる決定的瞬間を、こうしてバッチリ記録できたんだからさ」
凛はスマホの画面を涼太の仲間二人につきつけた。
「藤島先輩の親指って本当に動きが機敏よね一昨日、浅美と光の相合い傘の写真をばら撒いた時なんて特にね。バスケ部の中で良心を残してた子が、あなたたちのグループチャットのスクショを全部私たちに送ってくれたのよ」
涼太の仲間二人は青ざめ、互いの顔を見合わせた。
「おい、涼太……お前、写真の出所は外の奴って言ったじゃねえか!」
「だ、黙れお前ら!」涼太は焦りまくり、額から冷や汗が滝のように流れ落ちた。
「もしこの写真と、今日の先輩の脅迫の一部始終が高橋先生や校長先生の耳に入ったら……」ソラは殺意を込めた美しい笑みを浮かべた。
「エース様としての先輩の輝かしい未来、今夜で綺麗さっぱり灰になっちゃうかもね」
チェックメイト。
涼太はその場に凍りついた。誇りも、作り上げてきた人気も、すべてが一瞬で足元から崩れ去っていく。恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤に染め、息を荒くしながら拳を震わせた涼太は、一言も言い訳を残さず、取り巻き二人を引き連れてその場から逃げるように走り去っていった。
野次馬たちの輪が徐々に散っていく。公園の空気は再び静けさを取り戻した。
「お見事だったよ、浅美くん!」ソラは浅美の背中をバシッと力強く叩き、浅美をちょっとよろめかせた。
「今のマジでかっこよかったぜ! お前みたいな引っ込み思案がであんな堂々と言い返せるなんて思わなかったよ!」
「あ、ありがとうございます……橘さん、君米さん……」浅美は急に恥ずかしさがぶり返し、顔を赤くして頭を下げた。
「さて、邪魔者の駆除はこれでおしまいっと」凛はソラの腕を組みながら言った。
「あなたたちは二人で花火をしっかり楽しんできなさい。見逃したら許さないんだからね!」
光も浅美も何か言い返すより早く、ソラと凛は手をひらひらと振って祭りの人波の中に消えていっていった。
清陵市の夜空は完全に暗くなり、数千の提灯の灯りが彩る闇夜へと変わっていた。浅美と光は川沿いの草むらの道を歩き、少し人混みの離れた静かな特等席を探した。
「浅美くん……」光が小さな声で呼んだ。
「う、うん? 光?」浅美は戸惑いながら振り返る。
光は言葉で返事をしなかった。その代わり、彼女はスッと自分の手を伸ばし、浅美の指の間に自分の指をそっと絡ませた。温かくて、強く、そして一切の迷いのない手をつなぎ方。
「ありがとう……」光は小さな声で呟き、川面に映る街の光を見つめた。街灯の明かりの下で、彼女の頬が赤く染まっている。
「さっきの……とってもかっこよかった。浅美くんの背中、すごく大きくて、温かかったよ」
浅美の心臓が音を立てて高鳴る。
しかし今度は、手を離そうなんて微塵も思わなかった。彼はそっと、その柔らかい手をギュッと握り返した。
「僕はただ……君に二度と泣いてほしくなかったから」浅美は胸の奥から溢れる感情を絞り出すように言った。
「大した人間じゃないかもしれないけど……でも、もう絶対に君から逃げないって、誓うよ」
光は顔を上げ、潤んだ瞳で浅美を見つめた。これまでで一番美しく、一番愛おしい、完璧な笑顔が彼女の唇に咲いた。
ドーン――ッ!!
その瞬間、夜空の向こうで轟音が響き渡った。
最初の花火が夜空高くで大輪の花を咲かせ、赤、金、そして青の鮮やかな光が二人を照らし出す。
そのまばゆい光が光の茶色い瞳にキラキラと反射し、彼女の笑顔はもはや悲しみや悪意の影など微塵もない、純粋な幸福に満ちていた。
夜空に咲き誇る無数の花火の光の下で、二人はしっかりと手を繋ぎ、本当の物語の始まりを共に歩き出すのだった。




