表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特殊事象対策課の新人刑事、相棒は「口裂け女(更生済み)」でした  作者: なは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/50

第48話:崩壊する異界

 作家が消えたことで、異界を維持するコアが失われた。

 工場が、いや空間そのものが崩壊を始める。

 世界にヒビが入る音がする。

 空がガラスのように割れ、黒い亀裂が走る。


「まずい! 崩れるぞ!」


 九条が叫ぶ。

 足場が砂のように崩れ落ちていく。

 下には底なしの虚無が広がっている。落ちれば二度と戻れない。無限の闇だ。


「走るわよ、湊くん! 遅れたら置いてくわよ!」


 裂が九条の手を掴んだ。

 彼女の握力は万力のように強いが、今はそれが頼もしい。

 その手が微かに震えている。彼女も限界が近いのだ。


 しかし、瓦礫が道を塞ぐ。

 出口だったはずの扉が、捻じれて消滅した。

 空間がメビウスの輪のようにねじれている。

 遠近感が狂い、床が天井になり、壁が坂道になる。

 エッシャーの騙し絵の中を走っているようだ。

 三半規官が悲鳴を上げる。


「……ダメだ、出口がない! 閉じ込められた!」


「あるわよ。上を見なさい」


 裂が上空を指差す。

 遥か頭上、天井が崩れた隙間から、微かに現世の光(朝陽)が見える。

 しかし、高さは50メートル以上ある。


「あそこまで跳ぶの? 無理ですよ! 人間には不可能です!」


「誰が人間だって? しっかり捕まってなさい。舌噛むわよ! 振り落とされないようにね! ジェットコースターより激しいわよ!」


 裂が深く屈み込む。

 全身の筋肉がバネのように収縮する。

 トレンチコートが膨らみ、パラシュートのようになる。


「ロケットスタートよ!」


 ドッゴオオオオン!!


 爆発的な跳躍。

 床が陥没し、その反動で二人の体は砲弾のように垂直上昇した。

 重力を無視した加速アクセラレーション。Gがかかり、九条の意識が飛びそうになる。

 内臓が押し潰されるような圧迫感。

 視界がブラックアウトしかける。

 走馬灯が見えそうになるが、裂の「目開けなさい!」という怒号で現実に引き戻される。

 しかし、繋いだ手の温もりだけが、彼を現世に繋ぎ止めていた。


 崩れ落ちる瓦礫を空中で蹴り、さらに加速する。

 三角飛び要領で、崩壊する壁を駆け上がる。

 物理法則への反逆だ。


「うわああああ! 高いぃぃぃ! 死ぬぅぅぅ!」


「叫ぶんじゃない! みっともない! 男なら目を開けてなさい! 景色がいいわよ!」


 頂点に達する。

 しかし、出口の隙間は狭まりつつあった。

 異界が閉じようとしている。まるで捕食者の口のように。


「開けェェェ!」


 裂が空中で回転し、鋏で天井(次元の壁)を切り裂いた。

 空間切断。最後の力を振り絞る。


 ビリッ!!


 空間が裂け、眩しい光が差し込む。

 新鮮な朝の空気が流れ込んでくる。


 二人は光の中へと飛び込んだ。


 ……。


 ドサッ。


 気がつくと、二人は元の廃工場の前、草むらの上に転がっていた。

 鳥の声が聞こえる。

 朝陽が眩しい。

 いつもの世界だ。


「……生きてる?」


「……なんとか。腰が抜けましたけど。あと、吐きそうです」


 九条が起き上がる。

 全身ボロボロだが、五体満足だ。


 隣では、裂が懐から手鏡を取り出し、髪を直していた。

 しかし、その手は小刻みに震え、鏡をうまく持てていない。


「……髪がボサボサよ。最悪。枝毛が増えたわ。トリートメントしなきゃ」


 その強がりの日常的な言葉を聞いて、九条は心底安心した。

 日常が戻ってきたのだ。世界を救った後の、なんでもない朝が。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ