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特殊事象対策課の新人刑事、相棒は「口裂け女(更生済み)」でした  作者: なは


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45/50

第45話:ポマードの誓い

 九尾の攻撃は苛烈を極めた。

 狐火が流星群のように降り注ぎ、尾の一撃がビルを薙ぎ払う。

 裂は防戦一方だった。

 自慢の鋏も刃こぼれし、コートも焼け焦げている。髪もチリチリになっている。

 美しさが損なわれていく。


「ハァ……ハァ……」


 裂が膝をつく。

 再生能力が追いつかない。傷口から煙が出ている。

 絶対的な力量差。


『終ワリゾ。小娘。所詮は都市伝説、神話には勝てぬ』


 九尾がトドメの狐火を口元に溜める。

 太陽のような熱量。空間が溶けそうだ。


「口元さん!」


 九条が裂の前に飛び出した。

 両手を広げ、盾になる。

 震える足で、それでも立ちはだかる。


「どきなさい、湊くん! 死ぬわよ! 消し炭になるわよ!」


「死にません! 俺には相棒がいますから! あなたを信じてますから!」


 九条は裂の方を振り向き、大声で叫んだ。

 喉が裂けるほどの声で。


「ポマード! ポマード! ポマード!」


「……はぁ!?」


 裂が目を丸くする。

 それは、口裂け女を撃退するための呪文。

 彼女にとっての最大の弱点であり、絶対の禁句。

 それを言われれば、彼女は逃げ出すしかない。本能的な拒絶反応が起きる。


「何言ってんのアンタ! とち狂ったの!? 私を殺す気!? 今それ言う!?」


「違います! 弱点を共有するんです! あなたの全てを受け入れます!」


 九条が叫ぶ。


「あなたの弱点は俺が知っている! 俺だけが知っている! だから、あなたは無敵じゃない! 無敵じゃないからこそ、誰よりも強い! 弱さを知っている強さがある!」


 矛盾した理屈。

 しかし、それは奇妙な契約儀式となった。


 弱点をさらけ出し、それを許容されること。

 それは「恐怖」で繋がっていた関係が、「信頼」へと昇華した瞬間だった。

 言霊が、呪いではなく祝福バフとして機能したのだ。

 「ポマード」はもはや弱点ではない。二人の絆を証明するパスワードだ。

 世界で唯一、彼女の弱点を知り、それを愛する男がいる。

 その事実が、彼女を「最強」にする。

 愛ゆえの弱点克服。ロジックを超えた奇跡だ。

 「弱点」は「急所」ではない。「愛着」のスイッチなのだ。

 誰にも見せたくない恥部を、誇らしげに叫んでくれる相棒がいる。

 それが、どれほどの救いになるか。どれほどの勇気になるか。


 ドクン。


 裂の体内で何かが弾けた。

 「都市伝説」という枠組み(物語)から解放され、彼女は「九条湊の相棒」という新たな定義を獲得した。

 概念の書き換え《オーバーライト》。


 リミッター解除。


「……臭い言葉ね。ポマードより臭いわ。吐き気がするほど甘ったるい」


 裂が立ち上がる。

 その傷が瞬く間に癒えていく。

 体から溢れる妖気が、赤いオーラとなって燃え上がる。それは九尾の黄金のオーラに匹敵していた。

 髪が逆立ち、影が大きく広がる。

 その影は、もはや人の形をしていなかった。

 何百もの刃物が集合したような、凶悪なシルエット。

 しかし、その中心にいる彼女は、どこまでも凛としていた。


「でも、悪くないわ。アンタのそのバカさ加減に免じて、本気出してあげる」


 彼女はマスクに手をかけた。

 ゆっくりと外す。


 その口元は、醜くも美しく裂けている。

 しかし、今の九条には、それが世界で一番美しい笑顔に見えた。


「見せてあげるわ。私の本気を。全力の『私、綺麗?』を聞かせてあげる。鼓膜破かないように耳塞いでなさい」


 九尾が警戒するように身を低くした。

 野性の勘が、目の前の女を「獲物」から「敵」へと認識を改めたのだ。

 毛が逆立つ。


 最終決戦。

 最愛の相棒(弱点を握られた相手)と共に、最恐の女が舞う。

 東京の夜空に、二つの巨星が激突する。


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