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特殊事象対策課の新人刑事、相棒は「口裂け女(更生済み)」でした  作者: なは


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43/50

第43話:複製された口裂け女

 付喪神たちを突破した二人の前に、新たな敵が現れた。

 瓦礫の中から立ち上がったのは、見覚えのある姿。

 しかし、何かが決定的に違う。


 赤いトレンチコート。

 長い黒髪。

 そして、巨大な鋏。


「……何よ、その趣味の悪いコスプレ。ドッペルゲンガー?」


 裂が不快感を露わにする。

 目の前にいるのは、自分と瓜二つの女だった。ただし、マスクをしていない。


「紹介しよう。彼女は『口裂け女・完全版』だ」


 作家が得意げに言う。彼は安全な高みから見下ろしている。


「君のような気まぐれで扱いにくいオリジナルと違い、私の命令に忠実で、スペックも強化されている。物語が生んだ理想の怪異だ。バグを取り除いたリマスター版だよ」


 クローン口裂け女がニヤリと笑う。

 その口は、耳まで裂けているが、どこか作り物めいていた。

 傷跡が綺麗すぎるのだ。手術痕も、縫合跡もない。

 それはまるで、最初から「裂けた造形」としてモデリングされたポリゴンのようだ。

 血の匂いもしない。痛みも感じていない。

 CGで作られたような、不気味な完璧さ。

 瞬きもしない。呼吸もしていないかもしれない。

 ただのプログラムされた殺戮人形。

 そこに「物語バックボーン」は存在しない。

 空っぽの器だ。


「……美しくないわね」


 裂が吐き捨てる。


「人形みたいで、生気がないわ。その肌、毛穴一つないじゃない。人間味がないのよ。それに、その口……整形失敗してんじゃない? バランスが悪いのよ」


「殺せ」


 作家の命令で、クローンが襲いかかってくる。

 速い。

 裂の神速を上回るスピードだ。ためらいがない分、攻撃が軽い。


 ガキィィン!!


 鋏と鋏が激突する。

 火花が散り、衝撃波が周囲の本棚をなぎ倒す。

 力も互角以上。クローンの鋏は最新素材で強化されているようだ。


「くっ……! 重い……!」

 裂が押される。

 純粋な身体能力では、調整されたクローンの方が上か。

 老朽化したオリジナルと、最新鋭のコピー。


 しかし。


「アンタにはね、決定的に足りないものがあるのよ!」


 裂が踏ん張る。地面がひび割れる。ヒールが砕ける。


「それはね、『私が一番美しい』っていう自己愛プライドよ! 誰かのコピーやってる時点で、アンタは二流なのよ! 自分を愛してない奴が、他人を恐怖させられるわけないでしょ!」

「アンタの鋏には『私』がない。ただの凶器よ。私の鋏はね、私の身体の一部なの。魂の延長線上にあるのよ!」


 裂が強引に押し返し、クローンの顔面に左手を伸ばした。

 アイアンクロー。爪が美肌に食い込む。


「アンタの口、左右非対称よ! ミリ単位でズレてるわ! やり直してきなさい!」


 精神攻撃。

 美意識へのクリティカルヒット。

 コンプレックスを刺激する言葉。

 これが口裂け女の本質的な攻撃だ。物理ではなく、概念への干渉。


 クローンが一瞬、動揺して動きを止める。

 人工知能にバグが生じた瞬間。設定にない罵倒を浴びてフリーズしたのだ。


 その隙を、裂は見逃さなかった。

 鋏が閃く。


「オリジナルの輝きを見せてあげる! 歴史の重みを知りなさい!」

 昭和、平成、令和。

 時代を駆け抜けてきた都市伝説のカリスマ。

 そのキャリアの差が、刃の重さとなって現れる。

 「私の顔は、私が選んだ顔よ。アンタみたいな量産品とは、覚悟が違うのよ!」


 一閃。

 クローンの鋏ごと、その体を両断した。


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