第42話:付喪神の反乱
「かかれ! 道具たちよ!」
作家の号令と共に、部屋中の物体が動き出した。
パイプ椅子、古びた工具、壊れた機械、そして本棚の本たち。
それらが牙を剥き、手足を生やし、襲いかかってくる。
無機物の氾濫。
「付喪神!」
九条が銃を撃つが、椅子の脚に弾かれる。
物質そのものに命が宿っているため、心臓や脳といった急所がない。
ただの「暴れる家具」ほど厄介なものはない。
ホチキスが噛み付いてきたり、延長コードが蛇のように巻き付いてきたりする。
「道具ってのはね、使い手を選ぶのよ! 三流が使ってもナマクラになるだけよ!」
裂が鋏を振るう。
しかし、彼女の意思とは裏腹に、鋏が勝手に軌道を変えた。
ガキンッ!
死角から襲ってきたスパナを、鋏が自動的に弾いたのだ。
まるで意志があるかのように。
「……え?」
『……オ嬢、背中ががら空きでさぁ。危なっかしくて見てられねぇ』
鋏から声が聞こえた。
低く、少し錆びついたような、渋い声だ。
長年連れ添った古女房のような口調だ。
「アンタ……喋れたの!? ていうか、オ嬢って何よ!」
裂が驚く。長年愛用してきた鋏だが、喋ったのは初めてだ。
『長年使ってもらった恩がありやす。毎日研いでくれてありがとよ。でも、最近ちょっと研ぎ方が雑じゃありやせんか? 刃こぼれが痛いんでさぁ』
「文句言わないの! アンタも付喪神になってたのね」
『あの野郎(作家)が道具を粗末にするのが気に食わねぇんでさぁ。道具には道具の流儀がある』
『それに……オ嬢を傷つけようとするなら、たとえ神様だろうと斬り刻む。それが俺の切れ味(存在証明)だ』
鋏の付喪神が覚醒したのだ。
作家の術式の影響か、それとも裂の危機に呼応したのか。
あるいは、二人の絆が限界を超えたのか。
裂が振るうよりも速く、鋏が自律駆動して襲い来るガラクタたちを粉砕していく。
まるで銀色の竜が舞うようだ。
空中を自在に飛び回り、敵の急所(核となるネジやバネ)を正確に貫く。
その動きは、裂の思考を先読みしているかのように滑らかだ。
「……生意気な鋏ね。いつからそんな自我を持ったのよ」
『へへっ、オ嬢の殺気を毎日浴びてりゃ、鉄屑だって目覚めやすよ』
軽口を叩きながらも、その連携は芸術的ですらある。
「すげぇ……オートモードだ。ファンネルみたいだ」
九条が感嘆する。
「ちょっと! 勝手に動かないでよ! 私のタイミングがあるんだから! リズムが狂うじゃない!」
裂が文句を言うが、その顔は少し嬉しそうだ。
孤独な怪異だった彼女に、もう一人(?)の相棒ができたのだ。
『へへっ、オ嬢の癖は熟知してやすよ。右肩が下がると左に振る癖もな』
「うるさい! 余計なお世話よ!」
鋏が吼える。
裂と鋏、もはや人馬一体ならぬ「人鋏一体」。
二人の(?)息の合ったコンビネーションが、付喪神軍団を次々と鉄屑に変えていく。
スクラップの山が築かれていく。
「いい切れ味じゃない。研いであげた回数分、働いてもらうわよ!」
『手荒い使い手だぜ。でも、そこが好き(相性がいい)なんでさぁ!』
金属音が笑い声のように響く。
「行くよ、相棒! 二人とも!」
裂が叫ぶ。
九条と鋏、二つの相棒と共に、彼女は戦場を駆ける。




