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特殊事象対策課の新人刑事、相棒は「口裂け女(更生済み)」でした  作者: なは


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第23話:ろくろ首のヨガ教室

「先生の首が……戻らないんです!」


 人気のホットヨガ教室から通報が入った。

 「美と健康」を謳うそのスタジオは、今はパニック状態だった。

 生徒たちが真っ青な顔で外に避難している。中には失神して運ばれる者もいた。


 現場に急行すると、インストラクターの美人女性が泣いていた。

 彼女の体はヨガマットの上で「蓮華座のポーズ」をとっているが、その首はありえないほど長く伸び、天井の照明用の梁に複雑に絡まっていた。

 全長5メートルはありそうだ。


「……ろくろ首ね」


 裂が呆れたように言う。

 高温多湿のスタジオ内で、汗だくになりながら絡まっている妖怪。滑稽だ。

 首が蛇のように梁に巻き付いている。

 照明の熱で首の表面がほんのりと温かく、人肌とは思えないような弾力がある。

 アロマディフューザーの白檀の香りと、妖怪特有の生臭い匂いが混ざり合い、独特の雰囲気を醸し出している。

 床には受講生の忘れ物が散乱。ヨガマット、タオル、水筒。悲鳴と共に放棄されたものだ。


「ストレッチしすぎよ。限界超えてるわ。ヨガのポーズに『首縛り』なんてないでしょ」


「ううっ……より深く、より遠くへポーズを追求していたら、戻れなくなって……意識が高い系を目指しすぎました……チャクラを開こうとしたら首が伸びて……」


 インストラクター(ろくろ首)が涙声で訴える。

 美への執着が、怪異としての本能を暴走させたらしい。

 怪異といえど、職業病はあるのだ。


「湊くん、ローションある?」


「えっ、何に使うんですか? まさか……いやらしいことじゃないですよね?」

 九条が引く。


「滑りを良くするのよ。絡まった首を解くためにね。変な想像しないの。固結びになってんのよ、これ」


 九条が近くの薬局で買ってきた業務用の潤滑ローション。

 それを、裂がインストラクターの首に無造作に塗りたくる。

 ベットリと大量に。


「冷たっ! ひゃっ!」


 ヌルヌルと光る長い首。

 照明に反射してテカテカしている。

 ローションの粘り気が、まるでスライムのようだ。

 首が動くたびに「ヌチャ、ヌチャ」という卑猥な音がスタジオに響く。


 シュールな光景だ。

 ヨガウェアを着た美女の首が、ローションまみれで梁に絡みついているのだから。

 まるで巨大な白蛇が天井に巣食っているようだ。

 避難し遅れた生徒の一人が、この光景を見て「新しい現代アート?」と呟いて気絶した。


「よし、引っ張るわよ! 湊くん、足持ってて!」


「痛くしないでくださいね! 優しく! そこ敏感なんです!」


「我慢なさい! 自業自得よ! 美しくなるには痛みも必要なの!」


 裂が脚立を使って梁に登り、知恵の輪のように絡まった首を解いていく。

 ぬるぬる滑って掄みにくい。

 裂の手が、首の曲線に沿って結び目を探る。彼女の指先は意外に器用だ。鉤針で編み物を解くような手つきで、一本一本、首の重なりを解いていく。

 九条は下からインストラクターの体を支えていた。彼女の体はヨガウェアだけに軽いが、ローションで手が滑る。


「うぐっ……苦し……そこ、リンパが……あだだだだ!」


「あと少しよ……どこか意地悪く解けないわね。これ、本結びになってるのよ。全力でつっぱったわね」


「痛くしないでくださいね! そこ、ボキッてならないで!」


「あのね、この結び目、引っ張らないと取れないから、少し我慢しなさい」


 ブチン!


「ぎゃああああ!?」

 インストラクターの悲鳴がスタジオに反響する。


「あ、今のは筋が伸びた音よ。大丈夫だから。たぶん」


「たぶんって何!?」


「もう少し……ここが固いわね。結び目はここか……よし、抜けた!」


 スポン!


 という小気味良い音と共に、首が解けた。

 ゴムが戻るようにシュルシュルと首が縮み、インストラクターの顔が元の位置(肩の上)にカポッとはまる。


「はぁ……はぁ……助かりました。死ぬかと思いました。首が千切れるかと」


 彼女は深々と頭を下げた。首が痛そうだ。赤い手形がついている。


「今後は無理なポーズは控えることね。首長くして待ってる生徒もいるんだから。あと、首の保湿もしなさいよ」


「……うまいこと言わなくていいです」

 九条が冷静に突っ込む。


 こうして、ヨガ教室の平和は守られた。

 ただ、その日から「首が伸びるヨガ」が裏メニューとして密かな人気になったとかなってないとか。

 「首のシワが取れる」「小顔効果がある」と噂が広まったのだ。

 美しさを求める女性の執念は、怪異よりも恐ろしいのかもしれない。


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