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特殊事象対策課の新人刑事、相棒は「口裂け女(更生済み)」でした  作者: なは


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20/50

第20話:【資料】口裂け女・能力測定記録

【警視庁科学捜査研究所 特異個体測定報告書】


 被検体コード:Subject-K(通称:口裂け女 / 本名:口元裂)


測定日:202X年〇月〇日

場所:警視庁地下訓練場

担当:九条湊


【1. 握力測定】

 ・【使用機器:】 デジタル握力計(測定上限100kg)、油圧式圧力計、鉄パイプ

 ・【結果:】 【ERROR】(機器粉砕のため測定不能)

 ・【推定値:】 ガードレールを素手で曲げる描写、および10円玉を変形させる力から、瞬間最大握力は500kg〜1トンと推測される。

 ・【九条メモ:】 彼女と握手をする際は、機嫌が良い時を見計らうこと。骨が砕けます。以前、肩を叩かれただけで脱臼しかけました。


【2. 走力測定(100m走)】

 ・【使用機器:】 光電管タイム計測器

 ・【結果:】 【6.02秒】(参考記録)

 ・【備考:】 ピンヒール(ヒール高10cm)着用での記録。裸足およびスパイク着用なら更に短縮の可能性あり。

  本人は「美しくない」「泥臭いのは嫌」「汗かくとファンデが浮く」として全力を出すことを拒否。

  スタート時の風圧で計測器が転倒、およびコースのアスファルトが剥離した。

  衝撃波により、見学していた機動隊員数名が吹き飛ばされ、鼓膜破裂の軽傷を負う。

  測定後、「まだ本気の1割も出してない」と発言。ソニックブームの発生を懸念し、以後の測定は中止とする。

  走り方は前傾姿勢ではなく、背筋を伸ばした優雅なフォームだった。


【3. 跳躍力(垂直跳び)】

 ・【結果:】 【8m 50cm】

 ・【備考:】 雑居ビルの3階まで直接跳躍することを確認。

  重力を無視したような挙動を見せる。着地時に衝撃を逃さず、地面の方を凹ませることで解決している。

  区道での全力跳躍は、道路交通法(道路損壊)に抵触するため禁止とする。

  跳躍時に「とうっ!」等の掛け声はなく無言。


【3.5 反応速度測定】

 ・【使用機器:】 電子反応計測器、フラッシュ光源装置

 ・【結果:】 【0.003秒】(人間の平均は0.2秒)

 ・【備考:】 計測の結果、光刺激への反応は常人の約70倍。「遅い」と不満を漏らしていた。

  拳銃の銃口の向きから弾道を予測し、発射前に回避行動を開始することが可能。

  ただし「美しくない回避は嫌」として、わざわざ優雅に躱す。効率より美学を優先する傾向が顕著。

 ・【九条メモ:】 彼女は目の前で指を弾いてもまばたきしません。代わりに「何してんの?」と冷たく言われます。


【4. 耐久試験】

 ・【物理耐性:】 拳銃弾(.38スペシャル)を皮膚で弾くことを確認。「蚊に刺されたみたい」とのこと。

 ・【耐熱性:】 火災現場において平然と行動可能。ただし「髪が傷む」「メイクが崩れる」と精神的ダメージを訴える。物理的なダメージより美容へのダメージを恐れている。

 ・【精神耐性:】 既存の怪談、呪い、精神汚染に対し完全な耐性を持つ。

  「私の方が怖い」「私が一番美しい」という絶対的な自信ナルシシズムが強固な精神防壁《ATフィールド》となっている模様。


【5. 弱点(仮説)】

 ・【ポマード:】 伝統的な撃退法だが、本人は「あの臭いが嫌いなだけ。別にダメージはない。おじさんの整髪料の匂いがするから嫌」と主張。制汗スプレーや香水でも代用可能との説あり。

 ・【べっこう飴:】 好物。与えると一時的に機嫌が良くなり、凶暴性が3割低下する。糖分補給による精神安定か。ただし「金平糖」や「黒飴」では効果が落ちる。ブランド指定があるらしい。

 ・【鏡:】 鏡を見せると一時的に動きが止まる。ただしダメージではなく、自分の顔を確認するために見入っているだけ。「前髪がズレた」等の理由で戦闘中断することがある。逆にコンディションが良い日は鏡を見てテンションが上がり、より凶暴化する。運用には注意が必要。

 ・【「おばさん」発言:】 禁句。発言した場合の生存率は0%である。過去に発言した怪異は全て消滅した。禁句リストのトップに記載推奨。

 ・【褒める:】 「美しい」「お若い」「スタイルがいい」等の賞賛は効果絶大。戦闘力が2割低下し、協力的になる。ただし過度なお世辞は見抜かれ逆効果。「わざとらしいのは嫌い」とのこと。


【総評】

 生物学的な限界を著しく逸脱している。

 既存の物理法則よりも、彼女自身の「都市伝説としての定義ルール」が優先されているように見受けられる。

 「口裂け女は100メートルを6秒で走る」という噂があれば、物理法則を無視してでもその速度を出す。それが彼女の特性である。

 噂が彼女を強くし、同時に縛ってもいる。


 取扱注意。

 彼女を制御できるのは、現在、担当刑事の九条湊のみである(彼も制御できているとは言い難いが)。

 機嫌を損ねないよう、定期的な甘味の供給と、ファッションへの賞賛が必要不可欠である。


【九条湊の私的メモ】

 この報告書、彼女に見られたら殺される気がする。

 特に「推定年齢」の欄(黒塗りで削除済み)については、墓まで持っていこうと思う。

 体重についても測定を試みたが、体重計が「HELP」と表示したため断念。彼女は「レディに体重を聞くのは死刑に値する」と述べた。

 なお、身長は163cm(ヒール込みで173cm)。靴を脱ぐことを拒否したため、実身長は推定値である。

 ※追記:この前、書類の端に「19歳(永遠の)」と赤いペンで書き足されていた。彼女、読んでるな……。

 ※追記2:「握力500kg〜1トン」の部分に「はぁ? もっとあるんだけど」と赤字で追記されていた。怖い。


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