風が囁いた:川を下って南へ
川沿いを歩き続けて、もう脚がまた悲鳴を上げ始めるくらいの時間が経っていた。
ヴァリス湿原はすでに後ろにあり、少しだけ足場のしっかりした地形へ変わっていたが、周囲の植物は相変わらず湿っていて密集している。
木々は北の村の近くに立つ巨木ほど大きくはなく、川そのものもずいぶん様子が変わっていた。
湿原にあった暗く、ほとんど流れのない水路は消え、今は根や岩、森の狭い隙間を縫うように、穏やかで一定の流れが続いている。
私はできる限り前へ進んでいた。
傷の痛み。
すでにかなり傷んだ服の不快感。
そして何より、両方とも裸足になった足の裏に伝わる地面の凹凸。
足の裏には小さな切り傷や痛む場所がいくつもあり、どこへ足を置くか慎重に選ばなければならなかった。
エリッサも、そこまでいい状態ではなかった。
傷ついた脚のせいで時々歩く速度を落とし、肩もまだ痛んでいるようだった。
それでも周囲への注意は怠らず、地面の痕跡、折れた枝、この辺りを通った誰かが残したものがないかを探し続けていた。
しばらく進んだところで、エリッサがさらに歩みを緩め、水辺にある密集した茂みの前で止まった。
絡み合った葉と蔓を数秒見つめたあと、小さく笑う。
「今日は運がいいみたいね」
私は彼女の視線を追った。
見えたのは、岸辺に大量の植物が集まっているだけだった。
「すごいな。茂みだ」
後頭部をぱしっと叩かれた。
私はすぐそこへ手を当て、憤慨して彼女を見る。
「なんだよ!」
「中にカヌーが隠してある」
もう一度茂みを見る。
今度は、葉の間に何か違うものがないか探してみた。
「どうして分かるんだ?」
エリッサはゆっくりこちらへ顔を向けた。
その表情だけで、この森で育った者にとっては、私よりずっと簡単に分かることなのだと伝わってきた。
私は両手を上げた。
「分かった、分かった。もう疑わない」
岸へ近づいた。
エリッサが棘のある枝をいくつかどけると、葉の下から黒っぽい木材の一部が見えた。
手伝うよう言われ、二人で蔓や枝、葉を取り除いていく。
それらは船全体を隠すために使われていたらしい。
カヌーは細長く、一つの太い木をくり抜いて作られていた。
湿気のせいで木は黒ずんでいたが、傷んではいないように見える。
横木が二つ座席代わりになっていて、両側には植物の繊維でできた縄で二本の櫂が固定されていた。
私は縁へ手を滑らせた。
「これ、南の村の?」
「そう」
エリッサは迷わず答えた。
「川沿いには、こういう共同用のカヌーをいくつか隠してあるの。巡回隊や漁師、それ以外の村人も、どこかを渡る必要がある時とか、緊急時に使えるように」
私はもう一度カヌーを見た。
「この辺りにあるって知ってたのか?」
「どこを探せばいいかは知ってた。こういう、水に近くて、遠くから見えないくらい植物が茂ってる場所に隠すことが多いから」
それで、エリッサが一見何でもない茂みの前で止まった理由が分かった。
私にはただの葉っぱの山にしか見えていなかった。
エリッサは先に乗り込み、櫂を固定している縄を外し始めた。
私も乗ろうとすると、片手を上げて止められた。
「違う。先に押して」
私はカヌーの後ろへ視線を向けた。
船は半分ほど泥に埋まり、二本の太い根の間に挟まっている。
「はいはい」
後ろに回り、押し始めた。
だが、ほとんど動かない。
なるべく滑らなそうな場所へ両足を置き、腕にもっと力を入れた。
ところが最初の一回で、傷ついた足の裏が泥の上を滑り、位置を変えなければならなくなった。
「動けって……」
もう一度押す。
木が根へ擦れて軋む。
それでもまだ動かなかった。
三度目は、脚と肩も一緒に使った。
片足が少し泥へ沈み、足裏の傷の一つがずきりと痛んだ。
それでも力を抜かず、ようやく船が動く感触があった。
次の瞬間、カヌーは一気に外れた。
勢いは想像していたよりずっと強かった。
船は泥の上を滑り、そのまま一気に水へ入った。
そして流れがすぐにカヌーを下流へ引っ張り始める。
もちろん、エリッサを乗せたまま。
私は一瞬その場に立ち尽くした。
どうしてこんな簡単な作業を、また別の問題に変えられたのか自分でも分からない。
「おい! 待って!」
エリッサは櫂を水へ突き込み、戻ろうとした。
だが川幅は狭く、流れはそのまま船を前へ押し続けている。
「流れのせいよ!」彼女が叫んだ。「岸沿いを走って! どこかで寄せるから!」
ほかに選択肢はなかった。
私は川と並んで走り始めた。
何時間も歩いたあとで脚はすでに疲れていたし、裸足でこの地面を走るのはさらに最悪だった。
隠れた石。
根。
木片。
その全部が傷ついた足裏へぶつかる。
低い枝や棘のある植物も脚を擦り、近くを通りすぎるたび、まだ着ている服へ引っかかった。
横では、エリッサが櫂を使ってどうにか速度を落とそうとしていた。
同時に、根に挟まれずに岸へ寄せられる場所を探している。
「もっとゆっくり!」
私は叫んだ。
「やってる!」
「もっと頑張れ!」
「そっちこそもっと速く走って!」
私は走り続けた。
倒木を避け、その直後には根につまずきそうになる。
ここ数日で起きた馬鹿げた問題の一覧に、また一つ追加されただけのように思えた。
その時。
唸り声が聞こえた。
木々の間のどこかから聞こえてきた。
思わず足を緩めるほど低い音だった。
森の普通の音とは明らかに違う。
そして、近すぎた。
全身が一気に緊張する。
走るのはやめなかった。
だが今度は、横の森にも意識を向ける。
もう一度、唸り声が聞こえた。
今度は、さっきより近かった。
私は川岸を走り続けながら、時々首を回し、あの音がどこから聞こえてくるのか探していた。
木の幹や根、大きな葉に遮られて何も見えない。
それでも、唸り声は無視できるほど遠くなかった。
「エリッサ、変な音がする。かなり変なやつ」
彼女は振り返ろうともしなかった。
「無視して走り続けて」
まったく安心できない助言だったが、文句を言うより先に脚が動いた。
数秒後、また唸り声が響いた。
今度はさらに低く、さらに近い。
そして後ろから、茂みが壊される音まで聞こえてきた。
「かなり近づいてきてる気がするんだけど!」
今度はエリッサも後ろを見た。
こちらへ向かってきているものを確認した瞬間、目を見開く。
「走り続けて! 何があっても止まらないで! それから絶対に後ろを見ないで!」
その声だけで、状況が本気でまずいことは十分伝わった。
言われた通りにしようとした。
だが数秒もすると、恐怖と好奇心が理性に勝った。
肩越しに後ろを見る。
黒い塊が、猛烈な速さで植物をかき分けながら迫っていた。
大きな猫科の獣に似ていた。
細く引き締まった筋肉質の身体。
だが毛皮の代わりに、黒い鱗が身体の大部分を覆っている。
頭はより爬虫類に近く、幅の広い口元、曲がった牙、そして黄色い目が真っ直ぐ私を捉えていた。
長い尾を後ろで揺らしながら、根や木の幹を避けてもまったく速度を落とさない。
まだ数十メートルの距離はあった。
だが、それで安心できる要素は一つもなかった。
コモロクは、この地形を私よりはるかに速く進んでいる。
距離は、一秒ごとに縮まっていた。
「あれ何だよ!? 助けて!」
エリッサはさらに強く櫂を動かし、カヌーを岸へ近づけようとした。
「後ろを見るなって言ったでしょ!」
「人に『後ろを見るな』って言われたら、まさにその瞬間に見たくなるだろ!」
エリッサが苛立った声を漏らした。
「ならせめて走るのをやめないで! あれはコモロク! 川沿いで狩りをする野生の獣よ!」
「素晴らしいけど、今は生物の授業を受けたい気分じゃない!」
身体中が悲鳴を上げていたが、無理やり脚を動かし続けた。
恐怖のおかげで、ほんの少しだけ疲労を忘れられた。
だが、足の状態までは忘れさせてくれない。
葉の下に隠れた石。
根。
木片。
その全部を足裏で感じる。
踏み方によっては、切り傷が強く痛んだ。
だが止まれば、コモロクに追いつかれる。
相手には、私が苦しんでいるような問題は一つもなさそうだった。
倒木を軽々と跳び越え、植物の間を難なく抜け、どんどん距離を詰めてくる。
もう一度ちらりと後ろを見た時には、距離はすでに半分ほどになっていた。
エリッサはカヌーを操りながら、私と前方を交互に見始めた。
そして突然、少し先にある一本の木を指した。
太い枝が川の上まで伸びている。
「この先に川を横切る枝がある! そこまで走って、木に登って、カヌーへ飛び込んで!」
私は指された場所に目を固定した。
カヌーはまだ流されている。
だが、木までは十分近い。
計画としては可能に思えた。
可能だからといって、簡単とは限らない。
出せる限り速度を上げた。
胸が焼けるように痛む。
脚が限界に近づいている。
足裏は地面へ触れるたびに痛んだ。
それでも減速する余裕はない。
後ろでは、コモロクの足音がもう私自身の走る音に重なるほど近くなっていた。
次の瞬間、獣がさらに距離を詰めた。
背中すれすれを何かが通り抜けた感覚があり、反射的に前へ身体を投げ出す。
爪は身体には届かなかった。
だが着ていた服の一部をかすめ、小さく布を裂いた。
私はほとんど転がり込むようにして木へたどり着いた。
根元から出ている太い根を掴み、身体を持ち上げようとした。
だが、片足が濡れた樹皮の上で滑った。
傷だらけの足裏が強く木へ擦れ、鋭い痛みが脚を駆け上がる。
「早く、アルヴェン!」
エリッサの叫び声が聞こえた。
両腕で根へしがみつき、別の足場を探す。
幹の出っ張りに片足を置き、そこから無理やり身体を持ち上げた。
腕は疲労で震えていた。
それでも次の根へ手を伸ばし、さらにざらついた樹皮へ移り、どうにか太い枝の根元までたどり着く。
綺麗でも速くもなかった。
ただ登れるように登っただけだった。
その時、後ろでコモロクが木へぶつかる音がした。
ほんの一瞬だけ振り返る。
獣は爪を幹へ突き立てていた。
四本の脚すべてを使い、まるで木に登ることすら走ることの続きでしかないような速さで上がってくる。
わずか数秒で、同じ枝まで到達した。
重さで枝が大きく揺れた。
私は両腕を広げてバランスを取りながら進み続けた。
後ろから迫ってくる存在のことは、できるだけ考えない。
真下にカヌーが来ていた。
「今!」
エリッサが叫んだ。
考える暇はなかった。
枝から飛び降りた。
カヌーの底へ横向きに落ちる。
船は激しく揺れ、片側の縁が水面に触れそうなほど傾いた。
エリッサが両腕を広げて船べりを掴み、どうにかバランスを取り戻す。
彼女は怒った顔で私を睨んだ。
「唯一の移動手段を壊さずに落ちることもできないの!?」
「食われないようにするので忙しかったんだよ!」
言い返し終わる前に、頭上の枝が新しい重みに耐えきれないような音を立てた。
顔を上げる。
コモロクも飛んできた。
完全にカヌーの中へ落ちることはできなかった。
だが前脚が船尾の縁へ当たり、そのまま爪を木へ食い込ませた。
衝撃でカヌーが危険なほど傾き、片側から水が入り始める。
エリッサはすぐに反応した。
一本の櫂を両手で持ち、獣の頭へ叩きつける。
「離れて!」
鱗へ当たった瞬間、乾いた音が響いた。
コモロクは口を開けて低く唸り、エリッサが引き戻すより先に櫂へ噛みついた。
そして頭を激しく振る。
木製の櫂は、真ん中から折れた。
エリッサの手には、柄の半分だけが残った。
私たちは二人とも折れた櫂を見た。
そして一瞬、まったく同じことを考えたようだった。
「最悪だ」
同時に口にした。
コモロクは残りの身体を船へ引き上げ始めた。
後脚が船べりへ何度も当たり、前脚の爪は木へ刺さったまま。
動くたびに、カヌーが大きく揺れる。
武器にできるものを探した。
すぐに、もう一本の櫂がまだ船底へ固定されていることを思い出す。
手を伸ばした。
だが遠すぎた。
さらに身体を乗り出そうとした、その瞬間。
船の横の水面が爆発した。
巨大な顎が川から飛び出し、コモロクの身体を挟み込んだ。
私は固まった。
その水棲生物は、巨大なワニのようだった。
これまで見たどんなワニの仲間よりもはるかに大きい。
頭は幅広く平らで、分厚い装甲のような板に覆われている。
その口に並ぶ大量の歯が、コモロクの身体を完全に囲んでいた。
水上へ出ているのは身体の一部だけだった。
それでも、私たちの小さなカヌーと並ぶと、異常なほど巨大に見えた。
コモロクが甲高い悲鳴を上げた。
木へ刺した爪へさらに力を入れ、必死にしがみつこうとする。
だが、意味はなかった。
一度強く引かれただけで、川の怪物はコモロクを船べりから引き剥がし、そのまま水中へ引きずり込んだ。
カヌーの周囲の水が激しく荒れた。
泡。
水しぶき。
そして血。
数秒の間だけ、水面のすぐ下で何か巨大なものが動いているのが分かった。
やがて、それも消えた。
水面は再び閉じた。
私とエリッサは、まったく同じ姿勢のまま、二匹が消えた場所を見つめ続けていた。
何も言わなかった。
数秒後、私はゆっくりとカヌーの底へ座った。
エリッサも同じように座る。
流れはそのまま、私たちを下流へ運び続けていた。
二人並んで。
完全な沈黙のまま。
何も話し合わなかった。
話し合う必要もなかった。
あの瞬間だけは、今起きたこと全部をなかったことにするのが、一番まともな選択に思えた。
川であの騒ぎが起きてから数時間後、流れはかなり穏やかになっていた。
私たちを前へ押し流していた勢いも、もうだいぶ弱くなっている。
巨大なワニがコモロクを水中へ引きずり込んで以来、あの出来事についてはどちらも一言も触れていなかった。
そして私も、その沈黙を最初に破る気はなかった。
カヌーにあった二本の櫂のうち一本は、あの獣に折られてしまった。
だから今は、残った一本だけで船を進める役目を私が引き受けていた。
最初のうちは、動きがひどいものだった。
カヌーは右へ左へふらつき、方向を直そうとするたび、最初の何回かはそのまま回転しそうになった。
エリッサはしばらく我慢していた。
だが、やがて限界が来たらしく、私の姿勢を直し、櫂を左右交互に使う方法と、流れそのものを利用して船を進む方向へ保つやり方を教えてきた。
何度か悲惨な失敗をしたあと、ようやく川が曲がるたびに戦う必要なく進めるようになった。
追跡の騒ぎのあとだったこともあり、この移動はありがたい休憩になった。
少しずつ景色も変わっていく。
川幅は広くなり、太い根を直接水の中へ伸ばす木々が両岸に並んでいた。
その根は小さな島や細い通路のような形を作り、ところどころでは枝から垂れた蔓が川の上に自然のトンネルを作っていた。
岸の一部は水草に覆われている。
時々、小さな生き物が葉の間や低い枝の上からこちらを見ていた。
だが私たちが通り過ぎると、またすぐ植物の中へ消えていった。
「一つ聞いていいか?」
私は櫂を水へ沈めながら言った。
「南の村まではもう近い?」
エリッサは船首側に座り、前方を注意深く見ていた。
「ええ。もう近いわ。でも、まだ向こうの巡回範囲を一部通らないといけない。周りは見ておいて」
しばらく漕ぎ続けてから、もう一度聞いた。
「南の村って、お前の村とはかなり違うのか?」
「かなりね。向こうは私たちよりずっと水の近くで暮らしてる。川や湖が、ほとんど生活の全部に関わってるような場所よ」
「それならカヌーが多いのも納得だな」
「子供はかなり小さいうちから泳ぎを覚えるし、ほとんどの人がカヌーを扱える。水の中にいる生き物や植物についても、私たちより詳しい」
「戦士は?」
「短い槍、銛、網をよく使う。弓も湿気に強い作りにしてあるわ」
エリッサの話し方からして、南の村には何度も来たことがあるのだろう。
ただ、どれだけ詳しく説明していても、声のどこかには「それでも北の村の方が上」という考えが残っているように聞こえた。
私はカヌーを見下ろした。
「じゃあ、こういう船は本当に川沿いにいくつも置いてあるんだ?」
「場所によってはね。必ずしも誰か個人の持ち物じゃない。村で何艘か用意して、巡回隊、漁師、旅人、緊急時なんかに使えるよう隠してある」
「じゃあ俺たち、カヌーを盗んだわけじゃないんだな?」
エリッサが少しだけこちらを向いた。
「違う」
「よかった。ただでさえ問題だらけなのに、船泥棒まで追加したくない」
「その漕ぎ方を続けるなら、『カヌーを見つけたあと壊した』って言った方が正しいかもしれないけど」
私は不満そうに彼女を見た。
だが、言い返すのはやめておいた。
まだ一本は無事なのだから、十分反論になる気がした。
「村同士って結構張り合うのか?」
しばらくしてから聞いた。
「状況による。森全体に本当の危機が来た時は、どこも協力するわ。群れの均衡が崩れた時とか、大規模な侵入が起きた時とかね。でも普段は、どの村も自分たちのやり方が一番だと思ってる」
エリッサは少し姿勢を直した。
「北の村では、巨木の上で暮らす方が安全だし、周囲を見渡しやすいって分かってる」
「思ってる」ではなく「分かってる」と言ったことには気づいた。
だが黙っておいた。
「一方で南の人たちは」
エリッサは続けた。
「私たちは地面から離れすぎて暮らしてるし、足が濡れるだけで大騒ぎするって言うの」
私は片眉を上げて彼女を見た。
「実際、大騒ぎするの?」
殺意のこもった目を向けられた。
「私たちは水くらいで大騒ぎしないわ、アルヴェン」
私はカヌーの底に残っている折れた櫂を見た。
最近の川や流れや滝での経験を思い出させてやろうか、本気で迷った。
だが、この議論に勝つより身体の安全を守る方が重要だと判断した。
そのあとは、もう少し危険の少ない話題へ移った。
エリッサによれば、南の住民はこの地域の暑さと湿気に合わせて、北より短くて軽い服を着ることが多いらしい。
泳いだり潜ったりする必要のある巡回では、動きを邪魔する服や装備もできるだけ避ける。
違いは、もっとくだらないところにもあった。
エリッサの話では、南の住民は北の住民を堅苦しすぎる、形式ばりすぎると思っている。
一方、北の住民は南の者たちを、騒がしく、目立ちたがりで、自分たちの物の扱いも雑だと考えているらしい。
エリッサのお気に入りの例の一つが、まさに川岸へ共同のカヌーを隠しておく習慣だった。
彼女に言わせれば、船を保管する方法としては信じられないほど雑らしい。
私は今乗っているカヌーを見回し、笑った。
「でもまあ、今回はものすごく役に立ったけどな」
エリッサは鼻を鳴らし、目を回した。
「たまには、あの人たちの妙な習慣も役に立つってことにしておきましょう」
そのまま川を進みながら、彼女は村で行われる伝統的な釣り競争について、かなり大雑把に説明してくれた。
私が理解できた範囲では、いくつかのチームに分かれ、決められた川の区画で、さまざまな方法を使って魚を捕まえる競技らしい。
ただエリッサ自身は、競技内容よりも、北の代表が前回どれだけ不公平な扱いを受けたかを説明する方に熱が入っていた。
彼女は「どう考えても南に有利だった」というルールについて文句を言っていた。
だが途中で、突然言葉を止めた。
姿勢がすぐに変わった。
肩に力が入り、視線が川岸と前方の植物を忙しく追い始める。
「着いた」
私は一度漕ぐ手を止め、彼女の視線を追った。
ぱっと見た限りでは、川と木々と密集した植物しかない。
建物もない。
人もいない。
村が近いと分かるようなものは何一つ見えなかった。
だが、エリッサはもう、それまでと同じ目でこの場所を見てはいなかった。
岸。
木々。
植物が水際まで迫っている場所。
その一つ一つへ視線を走らせ、私にはまだ分からない何かを探している。
ついに私たちは、南の村の巡回領域へ入ったのだ。




