風が囁いた:故郷についての会話
答えるまでに少し時間がかかった。
恐怖の森で生まれ育ったエリッサに地球のことを説明するのは、実際にやってみると想像以上に難しかった。
「こことはかなり違うよ」
私は話し始めた。
「向こうには魔法がない。少なくとも、こっちみたいなものは。だから、自分たちだけじゃできないことをするために、代わりになるものを色々作ったんだ」
エリッサは片腕を膝の上へ置いた。
「例えば?」
「車とか」
「車って何?」
できるだけ簡単な説明を考えた。
「馬車みたいなものかな。四つ車輪があって、人が座る場所があって、道の上を走る。ただ、馬に引いてもらう必要はない」
彼女は眉をひそめた。
「じゃあ、勝手に動くの?」
「完全に勝手ではないよ。人が操作する。前に座って、ハンドルっていうものを使って進む方向を決めて、いくつかのペダルを踏んで速くしたり止まったりする」
「車輪を動かしてるのは?」
「エンジン」
「エンジンって何?」
私は口を開いた。
余計に分かりにくくならない説明を思い出そうとする。
「色んな部品が入ってる機械だよ。俺が知ってる車なら、中で燃料を燃やして、その力でいくつかの部品が動いて、最終的にその動きが車輪まで伝わる」
エリッサは数秒、私をじっと見ていた。
「あなた、それを作れる?」
「エンジンを?」
「そう」
「無理」
彼女は少し首を傾げた。
「でも砂糖とコーヒーは作れるんでしょ」
私は彼女を見つめた。
「エリッサ、エンジンがどんなものか知ってたら、そんな無茶苦茶なこと言わないぞ」
「あなたが作れたら、私もどんなものか分かるのに」
口を開いた。
だが、うまい返事は何も出てこなかった。
エリッサもそれに気づき、口元に小さな笑みを浮かべた。
「別の話にしよう」
私は言った。
「それから、海を渡れるくらい大きな船もある。櫂も帆もいらない」
彼女の眉が上がった。
「それもエンジン?」
「そう」
「あなたたち、何にでもエンジンを付けるの?」
「かなり色んなものに」
「金属の船って沈まないの?」
「沈まない」
「どうして?」
私は一瞬彼女を見た。
「また俺が作り方を知らないものを説明させようとしてないか?」
笑みが少し大きくなった。
「かもね」
「じゃあ、その手には乗らない」
エリッサは満足そうだった。
だが、好奇心は消えなかった。
「海を渡るって言ったけど、ここの舟より大きいの?」
「ずっと大きい。何千人も乗せる船もある。荷物を積む船なんて、こっちの何かに例えようとしても難しいくらい大量に運ぶ」
「何千人?」
「そう」
彼女は数秒、それを想像しようとしていた。
「それだけいたら、漕ぐ人もたくさん必要そうね」
「エリッサ……」
「分かってる。エンジン」
「その通り」
彼女が小さく笑った。
船がどうして浮くのかまで説明させられる前に、私は先を続けた。
「それから飛行機もある」
「何それ?」
「空を飛ぶ機械」
エリッサは黙って私を見た。
「何でできてるの?」
もう、この質問がどこへ向かうのか分かっていた。
「金属」
「嘘」
私は笑った。
「本当にある」
「金属でできたものが飛ぶわけないでしょ」
「飛行機は飛ぶんだよ」
「小さいの?」
「小さいものもある。でも人を乗せる飛行機はものすごく大きい。三百人以上乗れるものもある」
彼女は、私が嘘だと認めるのを待っているような顔で見ていた。
「金属の中に三百人?」
「そう」
「それで飛ぶの?」
「飛ぶ」
「あなた、それに乗ったことある?」
「あるよ」
彼女の表情がすぐに変わった。
「本当に?」
「何回か」
疑いが完全に消えたわけではない。
だが、それ以上に好奇心が勝ったらしい。
エリッサは少し身を乗り出した。
「どんな感じ?」
私は少し考えてから答えた。
「最初は変な感じがする。飛行機が道みたいなところをものすごい速さで走って、それから上へ上がっていく。すごく高いところまで行くと、窓から見た時、場所によっては雲が自分より下に見えるんだ。街とか道とか川とか……全部、小さく見える」
「雲より上に行ったことがあるの?」
「ある」
彼女は数秒、その光景を想像しているようだった。
「窓は開けられる?」
「開けられない」
「どうして?」
「開けたら最悪だから」
「それ、答えになってない」
「気圧が違うし、風もすごい。それに地上から何千メートルも上にいる。窓を開けたらまずいってことは知ってる。それで十分だろ」
エリッサは顔をしかめた。
「じゃああなたたちは、自分から金属の箱の中に入って、雲より高いところまで行って、しかも窓すら開けられないの?」
「そういう言い方すると、ものすごく酷く聞こえるな」
「実際、ものすごく酷いでしょ」
「安全なんだよ」
「車のエンジンも作れないって言ってたのに?」
「それとこれとはまったく関係ない」
彼女はまた笑った。
「あなたの世界って変ね」
「お前は巨大な蜘蛛に食べられそうになって、その蜘蛛から自分たちの交尾の話を聞かされる森に住んでるだろ」
エリッサは数秒、真剣な顔になった。
本当に比較しているらしい。
「それは……そうね」
話はそのまま続いた。
少しずつ、エリッサが私を困らせるためだけに質問しているわけではないことに気づいた。
飛行機は王国一つを丸ごと越えられるのか。
何時間くらい空を飛び続けられるのか。
私自身、飛行機に乗って怖かったことはあるのか。
知っていることには答えた。
分からないことは分からないと言った。
そのたびに、なぜか彼女は少し楽しそうになった。
しばらくして、エリッサは話題を変えた。
「それで、その世界では何をしてたの?」
「どういう意味?」
「仕事してた?」
「してたよ」
「何の仕事?」
「工場。鉄道のレールとか、大きな鉄鋼部品を作ってた」
彼女は首を傾げた。
「鉄道って何?」
私は鼻から息を吐いた。
「お前に元の世界の話をする前に、もっとちゃんと考えておくべきだったな」
「アルヴェン」
「また別の乗り物だよ。大きくて長くて、いくつもの車両がつながってる。人や荷物を運べて、二本の金属のレールの上を走る」
「あなたが作ってたレール?」
「それ」
彼女は少し考えた。
「鉄道もエンジンがあるの?」
「その通り」
「じゃあ車も船も鉄道もエンジンを使う」
「そう」
エリッサは首を振った。
「本当に何にでもエンジンを付けるのね」
「言っただろ」
「レールは一人で作ってたの?」
「そんなわけない。大きな工場で、たくさんの人が働いてた。俺は製造のところにいた。機械を動かしたり、部品を扱ったり、その日の仕事で必要なことをやってた」
今度は、からかう方法を探す様子もなく頷いた。
「それを毎日?」
「ほとんど毎日。仕事の時間になったら工場へ行って、働いて、家へ帰って、それからまた同じことを繰り返す」
この世界へ来てから起きたことを考えると、そんな日常について話すのは妙な感じだった。
あの頃の私は、その生活にいつも文句を言っていた。
自分だけが止まっていて、同じ歳の人たちは勉強したり、将来の計画を立てたり、もっといい仕事を見つけたりして、みんな自分がどこへ向かっているのか分かっているように見えていた。
私はただ、同じ毎日を繰り返していた。
その先で何をするのかも、よく分からないまま。
今は恐怖の森の真ん中で、小さな焚き火を前に座っている。
そう考えると、あの生活さえ別の人生のもののように思えた。
「毎日、家に帰ってたの?」
エリッサが聞いた。
「うん」
「一人暮らし?」
「いや。両親と一緒だった」
何も考えずに答えた。
だが、その言葉を口にした瞬間、意識が別の場所へ引き戻された。
一瞬、またシルヴァリスの試練で見た家が浮かんだ。
本当は一度も言ったことのない言葉を口にする両親。
目の前に立つ、昔の人間だった頃の自分。
そして、自分自身の人生について抱えていた考えを全部使って、私を傷つけてきたもう一人の自分。
やがてあれが怪物へ変わったことも。
あの恐怖が今も自分の一部なのだと受け入れるまでに苦しんだことも思い出した。
あれが試練の中で作られたものだということは分かっている。
あそこにいた両親が、本物の両親ではなかったことも。
だが、シルヴァリスが作ったものではない存在が一つだけあった。
考えないようにするより先に、その女の姿が頭に浮かんだ。
濃い緑色の髪。
青いドレス。
そして、目も鼻も口もない、完全に何もない顔。
あの女は試練の一部ではなかった。
シルヴァリスでさえ、誰なのか知らなかった。
どうやってあの場所へ入ったのかも分からなかった。
膝の上で、両手に力が入った。
腕が小さく震えた。
自分で抑えるまで、少し時間がかかった。
「アルヴェン?」
私は瞬きをして顔を上げた。
エリッサがこちらを見ている。
「何?」
「震えてた」
指の力を抜くまで、一瞬かかった。
「ちょっと嫌なことを思い出しただけ」
彼女は数秒、私を見続けていた。
何があったのか聞こうか迷っているようにも見えた。
だが、結局何も聞かなかった。
視線を外し、そのまま話題を終わらせてくれた。
私も説明しなかった。
ヴェリダンの話が出た時、私が彼女の沈黙を尊重したように。
今度はエリッサが、私に同じことをしてくれた。
あの女のことは今でも、必要以上には考えたくなかった。
私が話し終えたあと、エリッサはしばらく焚き火を見つめていた。
このまま話を終わらせるのだと思った。
だが少しすると、また顔を上げた。
「ちゃんと別れを言えたの?」
私は首を横に振った。
「いや。ただ突然いなくなった」
彼女の表情が少し変わった。
「じゃあ、きっと心配してるでしょうね」
それは、あまり長く考えないようにしていることだった。
両親が今も俺がどこへ行ったのか探している姿を想像すると、答えのない疑問ばかりが浮かんでくる。
「たぶん。かなり」
エリッサは数秒黙ってから聞いた。
「戻りたい?」
今度は、答えるまでに少し時間がかかった。
地球での生活は、決して完璧ではなかった。
あの毎日が好きだったわけでもない。
同じ歳の人たちが勉強し、将来の計画を立て、自分が何をしたいのか分かっているように見える中で、自分だけが取り残されているような感覚もずっとあった。
それでも両親のことと、何年も暮らしてきた家のことを思い浮かべれば、答えは難しくなかった。
「戻りたい。向こうでの生活がいつも良かったわけじゃないけど……あそこは俺の家だから。両親もいる。二人のところに戻りたい」
エリッサは焚き火へ視線を落とした。
「分かる」
その答え方には、少しだけいつもと違うものがあった。
私は待った。
すると数秒後、彼女は自分から続けた。
「でもね……私は時々、ほとんど逆のことを感じるの」
「北の村は好きよ。本当に。父さんもいるし、おばあちゃんもいる。子供の頃から知ってる人たちもいる……あそこは私の家」
少し間を置いた。
「でも、時々息苦しく感じることもある」
「息苦しい?」
彼女はゆっくり頷いた。
「私はずっと恐怖の森の中で生きてきたのよ、アルヴェン。子供の頃から歩いてる道も知ってるし、ほかの村がどこにあるかもいくつか知ってる。王国や街、山、それにここからずっと遠く離れた場所の話だって聞いてきた」
エリッサは火を見つめた。
「でも、実際に見たことはほとんどない」
それは少し意外だった。
エリッサはあまりにもこの森と結びついているように見えていたから、たとえ少しの間でも、ここを離れてみたいと思うことがあるとは考えたことがなかった。
「旅してみたいのか?」
「したい」
返事に迷いはなかった。
「ほかの場所を見たい。ほかの街も。違う人たちにも会ってみたい。ただ少しここを離れて、森の外の世界が本当はどんな場所なのか見てみたい」
彼女は少し黙った。
「でも、簡単にそうできるわけじゃない」
理由は想像できた。
「私たちはダークエルフだから」
エリッサは続けた。
「外には私たちを怖がってる人がたくさんいる。実際に一度も見たことがないのに嫌ってる人もいる。それに、人間が私たちの一族へしてきたことを考えれば、こっちだって簡単に信用できるわけじゃない」
それに対して、否定できることはほとんどなかった。
「分かってる。人間がお前たちにしたことを、なかったことみたいに言うつもりはない」
エリッサがこちらを見る。
「でも、だからこそこの同盟には意味があると思うんだ」
私は続けた。
「急にみんながお互いを好きになるからじゃない。そんなことは起きない」
「少なくともそこは意見が合うわね」
「でも、もしうまくいったらって考えてみろよ。村とアンソールの間で取引が始まって、こっちから人が行ったり、向こうから人が来たりするようになったら……いつかお前が人間の街へ入っても、半分の人間が剣を抜かなきゃいけないと思わなくなるかもしれない」
エリッサは少し顔をしかめた。
「簡単みたいに言うのね」
「簡単だとは思ってない。むしろ、かなり大変だと思う」
「素晴らしい同盟の宣伝ね」
私は短く笑った。
「嘘をつきたくないだけだよ」
彼女は数秒こちらを見たあと、また焚き火へ視線を戻した。
「本当に、うまくいくと思ってる?」
「分からない。でも今のままでも、何も変わらないだろ」
今度はエリッサがすぐには答えなかった。
「ずいぶん人間を信用してるのね」
私は首を横に振った。
「全員を信用してるわけじゃない。全然違う。でも、全員が同じだとも思ってない」
「全員を信用してるわけじゃない。全然違う。でも、全員が同じだとも思ってない」
エリッサはしばらく熾火を見つめていた。
アンソールと村々について私が話したことを、まだ考えているようだった。
やがて、もう一度口を開いた。
「まだ一つ、分からないことがある」
「何?」
彼女は顔を上げ、私を見た。
「あなた」
私は顔をしかめた。
「それ、ちょっと失礼に聞こえるぞ」
「そういう意味じゃない。ただ……予言が何を言ってるかは知ってる。あなたが七人の英雄の一人だってことも。おばあちゃんはそれを信じてるし、シルヴァリスの件まであったあとじゃ、単純に間違ってるとは言いにくい。でも、あなたを見てると……」
「この偉大な英雄が魔王を倒す姿なんて想像できない?」
「できない」
あまりにも即答だったので、私は一瞬彼女を見つめた。
「せめて少しくらい考えてから答えてくれてもよくないか?」
「嘘をついてほしかったの?」
「いや。正直、俺も想像できない」
エリッサは少し驚いたようだった。
「できないの?」
私は首を横に振った。
「この森で数日過ごすだけでも、お前に何を食べていいか、どこに足を置いていいか、どの葉っぱを身体に巻いちゃ駄目か教えてもらわないと危ないんだぞ。いつかアスタロトの前に立って倒そうとしてる自分なんて、今でも馬鹿げてるように思える」
彼女は少し黙った。
「おばあちゃんは、あなたに何か見えてる」
「俺より俺を信じてるみたいだけどな」
「おばあちゃんは、理由もなく誰かをあんなふうに信じたりしない」
「そうであってほしいよ」
エリッサは肩をすくめた。
「それに、アスタロトと一人で戦うわけじゃないでしょ、馬鹿。予言が七人の英雄って言ってるのには理由がある」
私は彼女を見た。
「それで安心しろって?」
「少しは」
「あまり効果なかったな」
彼女の顔に小さな笑みが浮かんだ。
「じゃあ、そのまま心配してれば」
「素晴らしい励ましだな」
「正直に言ってるだけ」
「それ、俺の台詞だったんだけど」
「今は私の台詞でもある」
思わず笑ってしまった。
予言と、そこに書かれている自分たちの役割について考えるのは今でも奇妙だった。
だが、エリッサの言う通りなことも一つある。
あの戦争でどんな責任を背負うことになったとしても、それを抱えているのは私一人ではない。
人間とダークエルフの話がまだ頭に残っていた時、分かりやすい例を思い出した。
「それに、全員の人間がお前たちを嫌ってるわけじゃない。カエリアを見ろよ」
エリッサはすぐに顔をしかめた。
「カエリアがいい例かどうかは分からない」
「なんで?」
「あの女、ダークエルフに執着してる気がするから」
私は反論しようと口を開いた。
「そんなことは――」
途中で止まった。
いくつかの記憶が、あまりにも早く浮かんできた。
エリッサについて色々質問していたカエリア。
ダークエルフに関する情報なら何でも妙に真剣に聞いていた姿。
そして、ダークエルフの何かを近くで観察する機会があると、時々見せていた妙に楽しそうな表情。
エリッサが目を細めた。
「何?」
「何でもない」
「今、何か思い出したでしょ」
「思い出してない」
「アルヴェン」
「一個か二個くらいは、あるかもしれない」
彼女は腕を組んだ。
「やっぱり」
「ただ好奇心が強いだけだよ」
「好奇心?」
「ものすごく強い」
「時々、私を見る顔が完全に危ない人なのよ」
「そんな顔は――」
また止まった。
エリッサは続きを待っていた。
だが考え直し、私は焚き火へ視線を逸らした。
「この先は言わない」
「結構。じゃあ、その沈黙を肯定だと受け取る」
我慢できずに笑いが漏れた。
エリッサは真面目な顔を保とうとしたが、長くは続かなかった。
結局、彼女も笑い始めた。
エリッサが綺麗だということは、前から分かっていた。
別に今気づいたわけじゃない。
ただ、普段の彼女は真剣な顔をしているか、私に苛立っているか、あるいは私をからかう直前に見せるあの笑みを浮かべていることがほとんどだった。
だから、あんなふうに笑う姿は違って見えた。
からかうような色は一切ない。
ただ素直に笑っていて、それだけで表情がまるで別人のように変わっていた。
私は少し長く見すぎた。
彼女の目と合って、ようやく気づいた。
エリッサは少しずつ笑うのをやめ、頬にうっすら赤みが差した。
「何?」
そこで、自分がまだ見つめ続けていたことに気づいた。
「何でもない」
私は手元へ視線を落とし、意味もなく指を動かした。
もう一度顔を上げると、エリッサも顔を逸らし、焚き火を見ていた。
数秒、沈黙が続いた。
これ以上妙な空気になる前に、話題を変えた方がよさそうだった。
「じゃあ……もし本当にこの同盟がうまくいって、いつか森の外へ出られるようになったら、最初にどこへ行ってみたい?」
彼女はもう一度こちらを見た。
「どこでも?」
「どこでも」
エリッサは数秒考えた。
「海」
その答えは意外だった。
「海?」
「うん」
「見たことないの?」
当然だと言いたげな顔で見られた。
「いつ見たことがあると思うの?」
「……確かに」
そこで初めて、エリッサが本当に海を見たことがないのだと実感した。
地図で見たことや、話や報告で聞いたことはあるかもしれない。
だが、それと実際にあれほどの量の水を初めて目の前にするのとはまったく違う。
「なんで海なんだ?」
彼女は少し考えてから答えた。
「よく分からない。小さい頃から話だけは聞いてきたの。前を見ても終わりが見えないくらい、ものすごく広い水があるって。実際にはどんな感じなのか、ずっと知りたかった」
私は、ずっと木々と川と湖に囲まれて生きてきた人にとって、それがどんなふうに聞こえるのか想像してみた。
そして、自分が何を言っているのかちゃんと考えるより先に口にしていた。
「じゃあ、一緒に行けばいい」
エリッサはすぐに顔をこちらへ向け、私を見つめた。
そこでようやく、自分が今何を提案したのかに気づき、顔が熱くなるのを感じた。
「いや、その……もちろん、俺と一緒に行きたいならだけど」
彼女は一瞬視線を逸らしてから答えた。
「うん」
私は眉をひそめた。
ちゃんと聞こえたのか自信がなかった。
「え?」
「二回言わせないで、馬鹿」
どうしても笑みを抑えられなかった。
エリッサはすぐに気づき、こちらへ眉をひそめる。
「何で笑ってるの?」
「別に」
「じゃあやめて」
「努力してる」
彼女はまた焚き火へ顔を向けた。
私はできるだけ笑みを隠そうとした。
数秒、二人とも何も言わなかった。
やがてエリッサは深く息を吸い、まだ残っていたかもしれない曖昧さを全部なくすように口を開いた。
「私は、うんって言ったの。いつか海を見に行く時……あなたも一緒に来ていい。全部うまくいったら」
私はもう一度彼女を見た。
「分かった」
「分かった」
今度は、どちらもそれ以上何も言わなかった。
エリッサは焚き火を見つめ続け、私は自分の手へ視線を落としたまま、さっき交わした約束について考えていた。
別に、ちゃんとした計画ではない。
まだ戦争がある。
アスタロトもいる。
予言も、同盟もある。
そこへたどり着くまでに、失敗する可能性のあることなんて数え切れないほどあった。
それでも、この世界へ来てから初めてだった。
全部が終わった「その後」のことを、誰かと約束したのは。
しばらくすると、エリッサがあくびをして、手で顔をこすった。
「もう寝た方がいい」
「そうだな。座ったまま寝そうだぞ」
「寝ない」
「はいはい」
彼女は疲れた目で私を見てから、先ほど用意していた乾いた葉の上へ横になろうとした。
「交代で見張ろう」
私は言った。
「最初は俺がやる」
エリッサは動きを止め、こちらを見た。
「本当に?」
「うん。お前は休んだ方がいい」
反論しようとしているように見えた。
だが、始める前に諦めた。
「分かった。何か変な音が聞こえたら起こして」
「この森の音は、まだ全部変に聞こえるんだけど」
「じゃあ、何かがこっちへ近づいてきたら起こして」
「それならできる」
彼女は横になり、服を少し整えてから目を閉じた。
「それと、また別の生き物に交尾の話をされたら、その時も起こして」
蜘蛛のことをすぐに思い出した。
「忘れようとしてたのに」
エリッサの口元に小さな笑みが浮かんだ。
「おやすみ、アルヴェン」
「おやすみ、エリッサ」
しばらくすると、彼女の呼吸はゆっくりと一定になっていった。
私は熾火の近くに残り、火が大きくなりすぎないようにしながら、時々小さな枝を一本だけ入れて熱を保った。
エリッサが眠っている間、私は静かな時間を利用して、彼女から教わったことを練習してみた。
まず近くの虫の音を一つ選び、それだけをほかの音から分けて聞こうとする。
次に、その音から意識を外して別のものを探した。
少しずつ、遠くを流れる水の音。
風で動く葉。
そして森のどこかで、植物の間を抜けていく軽い足音まで聞き分けられるようになった。
数秒、その足音へ意識を集中させた。
何の動物なのかは分からない。
正確な距離も判断できなかった。
だが、音が強くなるのではなく、少しずつ弱くなっていることには気づいた。
遠ざかっている。
それを確認してから、ようやくその音を手放し、またほかの音を探した。
エリッサのように森の音を聞き取れるようになるには、まだ程遠かった。
何かに気づいても、それが何なのか、どこにいるのか、危険なのかどうかすら分からないことも多い。
それでも、数日前なら全部が混ざったまま耳へ入ってきていた音の中から、いくつかを分けて聞けるようにはなっていた。
知っている地域へたどり着くまで、まだ長い道のりが残っている。
だが今は、何かに追われているわけでもない。
エリッサは休めている。
そして私は最初の見張りを担当できている。
今夜は、それで十分だった。




