風が囁いた:水面下
ヴァリス湿原を歩き続けてかなり時間が経ち、湿気はもう服の大半にまで染み込んでいた。
泥はブーツへまとわりつき、一歩進むたびに余計な力が必要になる。
霧は相変わらず木々の間に低く漂い、少し離れた場所にあるものはほとんど隠してしまっていた。
私たちが進んでいた比較的固い地面は、幅の広い川の支流の前で途切れた。
流れは昨夜私たちを押し流した時ほど強くはない。
だが、水はそれよりもずっと暗く濁っていた。
シルヴァリスから授かった夜目を使っても、ほとんど黒に近い水面の向こうにある底までは見えなかった。
腐りかけた枝が流れに乗ってゆっくり下り、岸の近くには黒ずんだ葉が溜まっている。
時折、水面のどこかに小さな泡が浮かび、何が原因なのか分からないまますぐに消えていった。
私は川へ入らずに渡れる方法がないか、左右を探した。
橋代わりになりそうな大きな倒木もない。
足場にできる岩もない。
簡単に飛び越えられるほど狭い場所もなかった。
エリッサも数分間、岸辺を確認したあと、首を横に振った。
「渡るしかない」
私は暗い水を見て顔をしかめた。
「こっち側をそのまま進めないのか?」
「この先は、岸がもっと密集した湿地に入る。回り込もうとしたら何時間も無駄にするし、ヴァリスのさらに奥へ入り込むかもしれない」
目の前をゆっくり流れていた枝の近くで、また小さな泡がいくつか浮かんだ。
消えるまでその動きを目で追い、それからエリッサを見た。
「この中には、具体的に何がいるんだ?」
彼女は数秒間、水面を見てから答えた。
「色々。あまり音を立てずに渡れば、大半は襲ってこない」
私は説明の続きを待った。
だが、それ以上は何も言わなかった。
「『大半』ってところは聞きたくなかったんだけど」
エリッサは文句を無視し、近くの枝の間を探し始めた。
数秒後、長い木の棒を一本見つけ、強度を確かめてから岸まで持っていった。
彼女が先に入った。
水は足首を覆い、ゆっくり進むにつれて脛まで上がっていく。
私は深く息を吸い、エリッサよりずっと不安な気持ちで最初の一歩を川へ入れた。
冷たさは、すでに湿っているブーツ越しにもすぐ伝わってきた。
だが、一番嫌だったのは底だった。
靴底が泥へ沈み込み、力を入れて引かなければ抜けない。
ようやく足が抜けると、泥が鈍い音を立てた。
次の一歩では滑りやすい根を踏んだ。
その次には、予想以上に深く沈み、両腕を広げてどうにかバランスを取り戻した。
それからは、完全に体重を乗せる前に地面を確かめるようにした。
それでも泥の深さは場所によって大きく変わり、暗い水のせいで足元がまったく見えない。
昨夜から私たちを殺そうとしてきたものの数を考えると、今一番怖いのが地面そのものだというのは妙な感じだった。
エリッサは数メートル先を歩き、木の棒で底を確かめていた。
水が腰の近くまで達したところで立ち止まり、後ろを向いた。
「私が踏んだ場所とまったく同じところを踏んで。私が作った道から外れないで」
私は二人の間にある、完全に濁った水を見た。
「お前の足跡、踏んだ瞬間に消えてるの分かってるよな?」
「なら私の動きを見て。どこに足を置いてるかちゃんと見なさい」
返事をする前に、彼女はまた進み始めた。
私は歯を食いしばり、直前にエリッサが通った場所へできるだけ正確に足を置きながらついていった。
彼女はゆっくり進む。
一歩ごとに木の棒の先を泥へ押し込み、左右へ動かして確かめていた。
根や石、不安定そうな場所を見つけると、迷わず進路を変える。
私はさらに注意深く見るようになった。
いくつかの場所では、私にはほかの部分とまったく同じに見えるところを、エリッサは避けていた。
理由を尋ねると、彼女は水面が不自然なくらい静かな場所と、小さな泡が浮かんでいる別の場所を指した。
「あそこは底がよくない。間違ったところを踏めば、思ってるよりずっと深く沈む。それから苔の生えた根も避けて。腐ってるものもあるし、滑りやすすぎるものもある」
それ以上は聞かなかった。
彼女の指示へ完全に従い、進む前に足を置く場所をよく見ることにした。
それでも、エリッサも楽に渡っているわけではなかった。
木の棒が底を確かめる道具ではなく、身体を支える杖のようになっている時もある。
左脚を泥から引き抜く時には、一瞬だけ顔が歪んでから、また歩き出した。
私はバランスを取るために両腕を身体から離し、慎重に進んだ。
少し気を抜いた瞬間、エリッサが通った場所からほんの数センチ横へ足を置いてしまった。
すぐに地面が崩れる感覚がした。
足が沈んだ。
次に脛まで。
数秒もしないうちに、泥は太ももの半分近くまで達した。
一気に脚を引き抜こうとした。
だが、そのせいで身体が後ろへ傾き、水を周囲へ大きく跳ねさせただけだった。
倒れる前に、エリッサが振り返った。
木の棒を底へ突き立てて自分の身体を支えながら、私の腕を掴んだ。
「ちゃんと見て歩きなさい、この馬鹿! ブーツをなくしたいの? それともそのまま埋まりたい?」
彼女は私を固い場所まで引き戻した。
その力を入れた瞬間、怪我をした脚がわずかに崩れた。
だが、私が何か言う前にエリッサは体勢を立て直した。
私は顔についた水を手で拭った。
「ちゃんと見てたよ! でも、この水じゃ足跡が消えるんだから、まったく同じ場所を踏むのは結構難しいんだ!」
「じゃあ泡ばっかり見てないで、私の足を見なさい」
私はすぐ横の水面を指した。
ちょうどまた、小さな泡がいくつか浮かんだところだった。
「その泡がずっと俺たちの近くで出てるんだぞ。無視したら何かの餌になるには最高の方法だと思うけど」
エリッサは何か言い返そうとした。
だが、突然動きを止めた。
手に持つ木の棒も、そのまま動かなくなった。
私は彼女の視線を追い、水面の下に小さな動きがあることに気づいた。
最初は、流れの中を魚が泳いでいるだけだと思った。
だが、その影はあまりにも頻繁に現れ始めた。
一つが私の脛の近くを通った。
もう一つが数歩先に現れた。
さらに二つが、ほとんど同時に水の中を横切った。
「エリッサ……あれ、魚だよな?」
不安を完全には隠せないまま、私は尋ねた。
彼女は答えなかった。
身体を動かさず、周囲の影を目だけで追っている。
数秒後、その影たちは進む方向を変えた。
流れに沿って進むのではなく、私たちの周囲を通り始めた。
最初は不規則に。
それから、少しずつ円を描くように。
その円はだんだん狭くなっていった。
私はエリッサを見て、それから水面へ目を戻した。
どう考えても、ただの魚ではなかった。
私は暗い水面をじっと見つめ、周囲を動く影を追おうとした。
水は相変わらず濁りすぎていて、その下に何がいるのかまでは見えない。
だが数秒後、数メートル先に小さな緑色の目が二つ浮かんだ。
それはすぐに消えた。
しかし、すぐ別のものが現れた。
最初は水面のあちこちに、三つか四つの光る点が見えるだけだった。
それから右側にいくつか。
エリッサの後ろにも。
そして私の脚の近くには、近すぎるほど多くの目が現れ始めた。
気づけば、何十もの緑色の目が周囲で浮かんでは消えていた。
エリッサの肩が強張った。
彼女は木の棒を両手で握り、水の中の動きをさっきまで以上に注意して追い始めた。
「急に動かないで」
低い声で警告する。
「それと、足をバタつかせないで」
「あれ、何なんだ?」
私はそこから走って逃げたい衝動を抑えながら、できるだけ脚を動かさずに尋ねた。
エリッサが答える前に、何かが水面を破った。
生き物は、私が一瞬姿を確認できる程度にだけ跳び上がった。
小さい。
大きさはネズミより少し大きいくらいだった。
身体は細長く、湿った灰色の皮膚をしている。
後脚は幅広く、ほとんど水かきのようだった。
だが一番目についたのは頭だった。
特に、身体に対して異様なほど大きな口。
その中には細く長い歯がびっしり並んでいた。
もっとよく見る前に、生き物は再び水へ落ちた。
「ネモニオン」
エリッサが言った。
私は彼女を見た。
「それ、俺に何か意味がある名前なのか?」
「ここから出ないといけないって意味」
また別の緑色の目が、私の脚のすぐ近くに現れた。
「そこはもう分かってた」
エリッサは引き続き水の中の動きを追っていた。
「群れで襲う。囲み始めたなら、いつまでも見てるだけでは終わらない」
それ以上の説明は必要なかった。
私は素早く後ろを見て、それから向こう岸へ目を向けた。
もう戻るにしても、ほとんど同じ距離を進み直す必要がある。
そして、この水の真ん中に立ち止まっている方が、秒ごとにまずい状況に思えてきた。
近くのどこかから、甲高いカチッという音がした。
少し先から、別の音が返ってくる。
やがて水の下のあちこちから、似た音がいくつも聞こえ始めた。
「エリッサ……」
「分かってる」
一匹が、彼女の持つ木の棒へ飛びかかった。
そのまま木へ歯を突き立てる。
エリッサは棒を強く振り、生き物を水へ叩き落とした。
ほとんど同時に、別の影が私へ向かって突っ込んできた。
口が開くのだけが見えた。
私は反射的に蹴った。
足が生き物へ当たり、水しぶきを上げながら遠くへ飛ばす。
それだけで、状況は完全に変わった。
ネモニオンたちが一斉に動き始めた。
それまで周囲を回っていただけの影が、今度は直接私たちの脚へ向かってくる。
周囲のあちこちから、同じようなカチカチという音や甲高い鳴き声が響き始めた。
一匹がエリッサの脚の横へ飛びついた。
だが、歯が肌へ届く前に、彼女は身体をひねって棒で叩き落とした。
その動きで左脚が一瞬崩れた。
エリッサは危うくバランスを失いかけ、倒れないよう木の棒を底へ突き立てた。
別の影が私のすぐ近くへ現れた。
私は間に合って脚を引いた。
だが反対側からもう一匹が現れ、チュニックの裾へ歯を食い込ませた。
「おい!」
布を引っ張ったが、離れない。
私はもう片方の脚で水を蹴り、何とか生き物へ当てて離させた。
周囲を見ると、緑の目はさらに増えていた。
水が激しく動いたことで、それまで遠くにいたネモニオンまで寄ってきたらしい。
「止まってないで! 行くよ!」
エリッサが叫んだ。
もうゆっくり渡ろうとはしなかった。
向こう岸へ向かって進み始め、木の棒で素早く底を確かめながら、泥に足を取られるたびにそれを支えとして使う。
私も後を追った。
だが、腰近くまで水があり、ブーツが泥へ沈む中で走るのは、走ろうと決めるだけではどうにもならないくらい難しかった。
一歩進むたびに、まず泥から足を引き抜かなければならない。
その間にも、小さな影が脚の間を走り抜け、飛びかかってくる間隔はどんどん短くなっていく。
一匹が背中へぶつかり、一瞬チュニックへ噛みついた。
しっかり食いつかれる前に腕で払い落とした。
だが、すぐ次の一匹が腰の近くへ現れた。
「四方から来てるぞ!」
「見れば分かる!」
エリッサはまた一匹を棒で叩いた。
だが、その動きで苦痛に顔が歪んだ。
一度大きく息を吸い、それでも前へ進み続けた。
私は素早く後ろを見た。
もう、水面に散らばる数十個の目だけではなかった。
ほかのネモニオンが残した波紋の間から、新しい緑色の点が次々と現れている。
私たちが進む方向を追っている。
そして、その距離はどんどん縮まっていた。
暗い川の支流から逃げることは、一歩進むだけでも必死になるような状況へ変わっていた。
水は腰近くまであり、前へ進もうとするたびに身体を横へ押してくる。
泥は底でブーツを捕らえ、ネモニオンたちは四方八方から襲ってきた。
少しでも隙を見つけると、脚や服へ飛びかかってくる。
一匹がチュニックの袖へ歯を突き立てた。
空いている手で生き物を殴り、何とか離させることはできた。
だが布は裂け、腕の一部が露出した。
その直後、別の一匹が脚へ飛びかかり、ブーツの側面へ噛みついた。
革が歯を防いではくれたが、噛む力はかなり強い。
私は水を何度も蹴り、ようやく引き離した。
エリッサは数歩先を進み続けていた。
木の棒で身体を支えながら、近づいてくる生き物を払い落としている。
一匹が飛びかかってくるたびに棒で叩き、そのまま前へ進んだ。
だが、すでにネモニオンの数が多すぎて、すべてを近づけないようにすることはできなかった。
横から来た一匹を叩くため、エリッサは身体を強くひねった。
その瞬間、左脚が一度力を失う。
倒れかけたが、木の棒を底へ突き立てて何とか体勢を立て直した。
「そのまま進んで!」
息を荒くしながら彼女が叫んだ。
私はエリッサが開いた道を追おうとした。
小さな影が脚の間を通り抜けては、また水の中へ消えていく。
一匹のネモニオンが腰へ飛びかかり、数秒間チュニックへ噛みついた。
私は身体を掴み、歯が布を貫く前に水へ投げ戻した。
進めば進むほど、後ろにはさらに多くの緑色の目が現れた。
その時、私の足が底の窪みに入った。
地面が突然なくなった。
一気に胸まで沈む。
水が口元まで上がり、私はバランスを失った。
昨夜の激しい流れの記憶が一瞬で蘇った。
底がどこにあるのか分からない。
どちらへ動けばいいのかも分からない。
あの嫌な感覚まで一緒に戻ってきた。
前へ進もうとした。
だが足が何にも届かない。
「エリッサ!」
彼女はすぐに気づいて振り返った。
「掴んで!」
木の棒をこちらへ伸ばす。
私は両手でそれを掴み、エリッサが引き始めた。
力を入れたせいで彼女の顔が歪む。
怪我をしている脚も泥の中で数センチ滑ったが、どうにかもう一度踏ん張った。
影が一つ、腕のすぐ近くを通った。
もう一つが背中へぶつかった。
「早く!」
私は叫んだ。
「今何してるように見えるの!?」
エリッサがさらに強く引いた。
ようやく足が浅い場所へ届いた。
だが、体勢を整える暇もないまま、何匹もの生き物が脚の近くを通る感触がした。
私は素早くエリッサを見た。
「目を閉じろ!」
エリッサは何も聞かずに顔を逸らした。
私は手へマナを集中させる。
「ルクス・ミニマ!」
白い閃光が水面ぎりぎりで弾け、一瞬だけ周囲全体を照らした。
近くにいたネモニオンたちはすぐに大きく動揺し、水へ潜ったり、急に進路を変えたりした。
緑色の目が次々と水中へ消える。
数秒だけ、私たちの周囲はほとんど何もいなくなった。
最初に動いたのはエリッサだった。
「行くよ!」
私たちは再び進み始めた。
「なんでもっと早くそれを思いつかなかったの!?」
一歩ごとに泥からブーツを引き抜きながら、私は彼女を追った。
「魚のスープにならないようにするので忙しかったんだよ!」
「そいつら魚ですらないわよ!」
会話を続ける時間はなかった。
最初の緑色の目がまた現れた。
一つ。
次に三つ。
そして、いくつも。
ルクス・ミニマで追い払えたわけではなかった。
数秒間、混乱させただけだ。
すぐに影がまた私たちの周囲を回り始めた。
しかも今度は、さっきよりさらに興奮している。
一匹がエリッサの腕へ飛びかかった。
彼女は木の棒を持ち上げて噛みつきを防いだが、歯が木へ食い込んで抜けなくなった。
そこへもう一匹が続けて飛んできた。
顔へ届く前に押し返すため、エリッサは片手を棒から離さなければならなかった。
別のネモニオンが私へ飛びつき、チュニックの横へぶつかった。
歯が布を一部突き破り、皮膚を浅くかすめた。
私は肘で生き物を払い落とした。
岸はもう近い。
それなのに、そこへ辿り着くまでの時間はどんどん長く感じられた。
その時、何かが左脚へぶつかった。
ほかのものより少し大きな一匹が、ブーツへ歯を食い込ませて暴れ始めた。
私は蹴って離そうとした。
だが離れない。
別の影が足首の近くへ現れた。
さらにもう一匹が、その後ろから近づいてくる。
「エリッサ!」
彼女が振り返った。
「そいつを外して!」
「やってる!」
私は全力で足を引いた。
ブーツだけが残った。
足が中から抜け、そのまま冷たい泥へ直接沈んだ。
「俺のブーツ!」
「ブーツなんて捨てて!」
右足だけを守られた状態で進み続けた。
左足の指の間には、石や根、泥の感触がそのまま伝わってくる。
ほとんどすぐに、何か尖ったものを踏んだ。
足の裏に短い痛みが走る。
「痛っ!」
「どうしたの!?」
「何でもない! 進んで!」
確かめている時間はなかった。
先に岸へ着いたのはエリッサだった。
太い根へ掴まり、水から身体を引き上げる。
高い地面へ足をしっかり置くと、すぐに振り返って腕を伸ばした。
「早く!」
私は手を伸ばし、彼女の前腕を掴んだ。
その瞬間、チュニックの裾を何度も引っ張られる感覚がした。
振り返る。
二匹のネモニオンが布へ噛みついていた。
水の中からは、さらに何匹も近づいている。
三匹目が裸足の左脚へ飛びかかった。
反射的に脚を引く。
歯が足首をかすめるほど近くを通った。
「エリッサ!」
彼女は両手で私の腕を掴み、引いた。
怪我をしている脚が崩れかける。
エリッサは低く呻き、右足を地面へ強く踏ん張った。
そして、残った力を全部使うようにもう一度引いた。
チュニックの布が裂けた。
私は泥の上を引きずられ、そのまま岸へ腹から倒れ込んだ。
「早く! もっと離れて!」
言い争う余裕はなかった。
私は這いながら後ろへ進み、エリッサも腕を引っ張り続けた。
水辺から数メートル離れたところで、ようやく止まった。
ネモニオンたちは岸の近くに残った。
泥や根の間から何匹かが姿を見せ、緑色の目で私たちを追っている。
だが、川から遠くへ出てくるものはいなかった。
二匹はまだ私のチュニックから千切れた布を奪い合っていた。
そして別の一匹は、私のブーツをくわえたまま水の中へ消えていった。
私は数秒間そのまま横になり、息を整えようとした。
胸が激しく上下している。
背中も前よりさらに痛かった。
ようやく身体を仰向けへ向けると、最初に目へ入ったのは泥まみれになった左足だった。
「俺のブーツ……」
エリッサは私の横へ膝をつき、私と同じくらい苦しそうに息をしていた。
片手を左の太ももへ当て、呼吸を整えながらわずかに顔をしかめている。
「ブーツだけで済んだことを喜びなさい。足までなくさなかったんだから」
私はもう一度水を見た。
残念ながら、その通りだった。
身体を起こし、左足についた泥を落とし始めた。
足の裏には小さな浅い切り傷があった。
おそらく、底に隠れていた石か根を踏んだのだろう。
出血はほとんどない。
だが地面へ触れるたびに痛み、これからの移動が面倒になることだけは確かだった。
エリッサも自分の腕を簡単に確認した。
一匹の歯が前腕の近くをかすめたらしく、皮膚には浅い傷が二本残っていた。
私を引き上げるために無理をしたせいか、怪我をしていた脚もさらに悪くなっているように見えた。
「見せて」
私は彼女の脚を指した。
「必要ない」
「あの水の中で二回も転びかけただろ」
「あなたはブーツをなくした」
「それとこれは別だろ」
エリッサは苛立った目を向けたが、何も答えなかった。
私の方も、決していい状態ではない。
袖は裂けている。
チュニックの下側も大きく失われていた。
腕や脚には浅い擦り傷がいくつかある。
どれも深刻ではなさそうだった。
だが、全部合わせると少しずつ身体へ響いてきている。
エリッサは数秒間、私を見ていた。
それから手を差し出した。
「ほら。渡して」
私は眉をひそめた。
「何を?」
「チュニックよ、馬鹿」
私は破れた服へ目を落とした。
「なんで?」
「あれのせいで危うく全部駄目になるところだった。あいつらずっと布に噛みついて、それを使ってあなたを引っ張ってたでしょ。また似たようなのが出たら、同じことになる」
私は裂けた袖を見た。
ほとんど壊れた裾も見た。
そして岸辺では、まだ千切れた布をネモニオンたちが奪い合っている。
あまり気は進まなかった。
だが、彼女の言う通りだった。
ため息をつき、チュニックを脱いでエリッサへ渡した。
彼女は両手で服を持ち、布の状態を確認した。
そのまま水へ投げ捨てるような動きをする。
だが、途中で止まった。
「何?」
私が尋ねた。
エリッサはチュニックを裏返したり戻したりしながら、まだ使えそうな部分を確認した。
「やっぱりやめる」
服をこちらへ投げ返してきた。
私は泥へ落ちる前に何とか受け取った。
「あとでこの布が必要になるかもしれない。何かを縛ったり、包帯代わりにしたり、ほかにも使える」
「じゃあ着たままでいいのか?」
「駄目」
彼女はチュニックを指した。
「脇に抱えて持って。そんな状態のものを着るのはやめて」
私は壊れた服をもう一度見た。
それから、まだ岸の近くにいるネモニオンたちを見る。
「分かった。今回は言い争わない」
どうにかチュニックを畳み、脇へ抱えた。
「あと少しあの水の中にいたら、もっと大きな問題になってたわ」
エリッサは顔についた泥を手で拭いながら言った。
私はもう一度川を見た。
最後の緑色の光が水の下へ消えていく。
数秒もしないうちに、水面はまたほとんど動いていないように見えた。
ほんの少し前まで、何十匹ものあの生き物が私たちの身体を食いちぎろうとしていたとは思えない。
私はブーツを失った左足へ目を落とした。
キメラから生き延びたというのに、腕より小さな生き物たちに足を奪われかけた。
ヴァリス湿原が危険であるために、巨大な怪物など必要ない。
私はようやく、それを理解し始めていた。




