風が囁いた:巣の主と新たな侵入者
巨大な蜘蛛は前進を止め、その場でじっと私を見つめた。
いくつもの赤い目が動く様子を見ていると、自分の獲物が返事をしたことに、向こうも私と同じくらい驚いているように思えた。
前脚は、私の身体から数メートルしか離れていない糸の上に置かれたままだった。
私は相変わらず巣に完全に貼りついており、それまでの脱出の試みは、絹糸を服や露出した肌へさらに強く絡ませただけだった。
力ずくで逃げるのは無理だ。
なら、この迷いを利用して、できるだけ長く会話に興味を持たせるしかない。
蜘蛛はゆっくりと二歩、こちらへ近づいた。
だが、新しい糸で私を包もうとはしなかった。
再び口を開いた時も、その巨大な姿にはまるで似合わない、妙に明るい女の声だった。
「どうして私の言ってることが分かるの? 今までここに落ちてきたものは、叫んだり、唸ったり、泣いたりするだけだったの! 何を言ってるのか全然分からなかった!」
自分が召喚された英雄の一人だと話すつもりはなかった。
与えられた能力について説明する気もない。
私のことを知られない方がいい。
「特別な能力があるんだ」
私は声が震えないよう気をつけながら答えた。
「君の言葉が分かる」
蜘蛛はさらに身体を近づけ、頭を傾げた。
いくつかの目が顔のすぐ近くまで迫ってきたので、再び暴れ出したい衝動を必死に抑えた。
その下では牙や、小さな口器のような部分が絶えず動いている。
彼女の好奇心こそが、私がまだ糸で包まれていない唯一の理由なのかもしれない。
だから、興味を失う前にこちらから話を続けた。
「ここにはどれくらい住んでるんだ? 巣に落ちてきたものとは、いつも話すのか?」
「ずーっと、ずーっと昔からここに住んでるよ! 落ちてきたものには全部話しかけるの。でも、誰も返事してくれなかったの! あなたまでは!」
蜘蛛の身体が、嬉しそうに少し揺れた。
「だからあなたは、ずっと楽しいご飯なの!」
少し下では、エリッサが蜘蛛の言葉を一つも理解できないまま、こちらを見ていた。
眉をひそめているところを見ると、彼女には蜘蛛が出す音やカチカチという音しか聞こえていないのだろう。
それでも、私があの生き物と会話していることだけは分かっているようだった。
「何してるのよ、この馬鹿」
エリッサが低い声で言った。
「誰と話してるの?」
「蜘蛛だよ」
私は生き物から目を離さずに答えた。
「時間を稼いでる」
エリッサは、私がとうとう完全に頭がおかしくなったとでもいうように見つめてきた。
「時間を稼ぐ? その時間があるなら、どうやってここから出るか考えなさいよ! あれと友達になってる場合じゃないでしょ!」
「今やってるところだ!」
実際には何もしていなかったが、その部分は言わない方がいいと思った。
沈黙が長くなる前に、私はすぐ蜘蛛へ話を戻した。
「それで、ここでは一人で暮らしてるのか? 近くに同じような仲間はいないの?」
生き物は前脚を少し持ち上げた。
「一年のほとんどは一人だよ! たまに、決まった時期になると雄が何匹か来るの」
「へえ、そうなんだ」
私は興味があるふりをした。
「それで、その雄たちはそのままここに残るの?」
蜘蛛は先ほどと変わらない明るさで答えた。
「交尾するよ。そのあと殺して食べるの!」
私は数秒間、何と返せばいいのか分からず、その生き物を見つめた。
彼女はあまりにも自然に言った。
まるで、自分の日常のごく普通の一部を説明しただけのように。
私は顔の近くにある牙へ素早く目を向け、唾を飲み込んだ。
声だけなら、時々好奇心旺盛で親しみやすくさえ聞こえる。
だが、私は忘れてはいけなかった。
今話している相手は、自分の巣に現れたものを殺して食べることを、ごく当たり前だと考える生き物なのだ。
エリッサが私の表情に気づいた。
「何? 何て言ったの?」
「その部分は知らない方がいい」
私は蜘蛛を見たまま答えた。
話せば話すほど、彼女が本当に物を考え、自分なりの性格まで持っていることがはっきりしてきた。
問題は、私にとって恐ろしいことが、彼女にとっては普通の生活の一部だということだった。
会話を引き延ばそうとする私の試みは、蜘蛛が身体を動かし、顎をカチリと打ち鳴らしたところで終わった。
「お話しするの楽しかったけど、お腹すいちゃった! 食べる前にお話しできると、もっと楽しいね! そろそろデザートの時間かな!」
あの翼の生き物が主菜だったのか、それとも後から食べるものを全部デザートと呼んでいるだけなのかは分からなかった。
どちらにせよ、意図は明らかだった。
蜘蛛はまたこちらへ進み始めた。
急ぐ様子はない。
一本一本の脚が簡単に糸の上へ足場を見つけ、その巨大な身体の重さにもかかわらず、巣はほとんど揺れなかった。
私やエリッサ、そしてあの翼の生き物とは大違いだった。
私たちは動こうとするたびに、さらに深く絡まっていく。
私は目を逸らすこともできず、近づいてくる姿を見ていた。
距離が縮まるほど、脚を覆う硬そうな毛や、口元の牙まで細かく見えてくる。
こんな時ばかりは、夜目がもう少し悪ければよかったと思った。
蜘蛛は身体の後ろ側を持ち上げ、糸を吐き始めた。
新しい糸が出てくると、それを脚で器用に操り、やがて幅の広い帯のような形にしていった。
「まずは動かないように、ぎゅーっと包んであげるね」
彼女はまた楽しそうに説明した。
「そうすれば食べてる途中で暴れないでしょ? それから、お友達を今食べるか、明日まで取っておくか決めるの!」
私は左腕を引き抜こうとした。
だが、まだ身体の下へ押し込まれたままだ。
右手も身体の横へ貼りついていて、動かそうとするたびに袖と一緒に糸が伸びた。
すぐにルクス・ミニマのことを考えた。
手を完全に動かせなくても、マナを集めるだけならできるかもしれない。
だが、この姿勢で閃光を放てば、自分までまともに食らう可能性がある。
それに、たとえ蜘蛛に効いたとしても、私は巣に貼りついたままだ。
エリッサも脱出しようとし始めた。
まだ少し自由に動かせる腕で胴体に絡む糸を引き、脚にも力を入れ、どこかに弱い部分がないか探していた。
蜘蛛の目のいくつかが彼女へ向いた。
「お友達に、そんなにバタバタしないでって言って。暴れすぎるご飯は噛みにくくなるから!」
「動くと肉が硬くなって噛みにくいから、じっとしてろってさ」
私は片手を自由にしようとしながら訳した。
エリッサは顔をしかめた。
「食べられるのを待ちながら大人しくしてろって?」
「俺も、それはちょっと無茶な要求だと思う」
ついに蜘蛛が私のところまで来た。
一本の脚の先を、胸の中央へ置く。
その圧力はチュニック越しにも伝わり、私は糸へ抗う動きを止めた。
新しく作られた糸の匂いが強くなっていく。
蜘蛛は幅広い絹の帯を、私の身体の上へ持ち上げた。
頭を覆おうとする間、顎が顔のすぐ近くで動いている。
もう一度会話するのは無理そうだった。
彼女は、もう話す気がないことを十分に示していた。
私は息を止め、マナを集め始めた。
何が起きるか分からなくても、ルクス・ミニマを使うつもりだった。
だが、糸が私に触れる直前、何かが森全体を震わせた。
単なる振動が巣を伝わってきたのではない。
もっと遠くから来た揺れだった。
周囲の幹を伝わり、いくつもの枝が同時に動いた。
蜘蛛が動きを止めた。
幅広い絹の帯は私の上に浮いたまま。
そして、いくつもの目が私の顔から離れ、森の奥へ向けられた。
最初に異変を感じたのは、周囲の木の幹を通してだった。
振動は巣から来ているわけでも、上で捕まっている翼のある生き物から来ているわけでもなかった。
もっと重い。
木そのものを伝わってくる揺れだった。
そして、何かが森の中を進むにつれて、その振動はどんどん強くなっていった。
夜行性の鳥たちが突然枝から飛び立ち、小さな動物たちはむき出しの根の間を走り去っていった。
蜘蛛でさえ、それが森の日常的な動きではないと気づいたようだった。
数歩後ろへ下がり、私から距離を取る。
姿を現して以来初めて、完全に余裕のある様子ではなくなっていた。
身体を巣の上へ低く沈め、前脚を持ち上げ、いくつもの目をすべて同じ方向へ向ける。
その反応は、振動そのものよりも私を不安にさせた。
あれほど巨大な生き物が警戒しているのなら、近づいてきているものが何なのか、絶対に知りたくなかった。
「何が起きてるんだ?」
私はまだ糸に捕まったまま尋ねた。
蜘蛛はすぐには答えなかった。
森の奥を見つめ続ける中、木が折れる音はどんどん近づいてくる。
やがて彼女は苛立ったように顎を鳴らした。
「もう! ご飯の時間に、何かすっごく大きいのが私の縄張りに入ってきた!」
数秒後、前方のどこかで細めの木が折れた。
続けていくつもの枝が砕け、巨大な何かが木々の間を押し分けながら進んできた。
最初に姿を現したのは頭だった。
蛇。
少なくとも、そう見えた。
だが、頭蓋は私の知っているどんな蛇よりも幅広かった。
身体は木々の奥へ延々と続き、どこまで続いているのか距離すら測れない。
黒い鱗は厚く、いくつもの傷跡が残っていた。
身体が動くたび、枝や草木が左右へ押し退けられていく。
なぜあの生き物がここまで来たのかは分からない。
だが、姿を現した瞬間、一つだけははっきりした。
蛇の目は、真っ直ぐ蜘蛛を見ていた。
そして、何の前触れもなく襲いかかった。
頭が巣へ向かって突き出された。
あまりにも速く、ほとんど目で追えなかった。
巨大な顎が、ほんの少し前まで蜘蛛がいた層を突き破り、いくつもの糸が切れた。
蜘蛛はぎりぎりで避けた。
さらに高い枝へ糸を飛ばし、牙が届く前に自分の身体を一気に引き上げた。
その衝撃で巣全体が大きく揺れた。
私もエリッサも、もう一度絹糸へ叩きつけられ、さらに多くの糸が服へ貼りついた。
「どんどん最高になっていくな……」
私は頭が粘つく表面へ触れないようにしながら呟いた。
蜘蛛はもう私たちなど見ていなかった。
蛇は再び頭を持ち上げ、木々の間を移動する蜘蛛を追いながら、次の攻撃を狙っている。
力では、明らかに蛇の方が上だった。
一度突進するたびに枝をへし折り、糸を破り、巣全体を震わせる。
だが、自分の巣の中では蜘蛛の方が圧倒的に速かった。
そして、どこをどう動けばいいのかを完全に理解しているようだった。
真正面から戦う代わりに、蜘蛛は糸を使い始めた。
蛇が攻撃するたびにかわし、顔へ向かって絹糸を飛ばす。
すぐに引きちぎられる糸もあったが、いくつかは鼻先や目の周りへ張りついた。
蛇は頭を振り、糸を振り払おうとした。
だが、その激しい動きのせいで、さらに新しい糸が首へ絡みついていく。
その間にも、蜘蛛は木々の間を移動しながら、別々の場所へ次々と糸を固定していった。
私はその様子をじっと見ていた。
ほんの数分前まで、この生き物は私を夕食にするかデザートにするか決めようとしていた。
だが今なら、どうしてこれほど多くの生き物があの繭の中に入ることになったのか、よく分かった。
ただ大きいだけではない。
自分の巣をどう使えばいいのか、完全に理解している。
蛇がもう一度突進した。
だが、蜘蛛を大きく外した。
今度は何本もの糸が蛇の頭へ飛ばされ、それぞれ別の木の幹へ固定された。
蛇が身体を引こうとすると、糸が強く張り、頭を横へ引っ張った。
そのまま木へ激突する。
幹全体が揺れるほどの衝撃だった。
蛇は暴れ、絹糸の一部を引きちぎった。
だが、すでに鼻先と首にはあまりにも多くの糸が絡みついている。
さらに身体の一部が二本の木の間へ挟まれ、動きはますます制限されていた。
下の方では、エリッサが戦いを見ながら、まだ少し自由の利く腕を動かそうとしていた。
「見てばかりいないで、ここから逃げる方法を考えて」
彼女は小声で言った。
「考えてる」
「何分もずっと蜘蛛を見てるじゃない」
「どうやったら、あの糸であんな大きさのものを止められるのか考えてるんだ」
エリッサは苛立ったようにため息をついた。
「蜘蛛が戦い終わって、私たちを食べに戻ってきた時には、きっとすごく役に立つわね」
その通りだった。
私はまた腕に絡みついている糸を試した。
だが、ほとんど動かせない。
蛇にはまだ巣の一部を引き裂くだけの力が残っていた。
それでも、最初のような自由な動きはもうできていない。
鼻先と首の一部は絹糸に覆われ、長い胴体の一部も木々の間へ捕まったままだった。
蜘蛛はさらに高い位置へ退き、そこから様子を見ていた。
蛇が完全に倒されたのかどうかは分からない。
だが、動きが大きく制限されていることだけは確かだった。
私はもう一度エリッサを見た。
もし逃げようとするなら、おそらく今しかない。
蜘蛛が仕事を終え、巣にまだ二つの食事が残っていることを思い出すまで待つ。
それだけは、どう考えても良い選択には思えなかった。
蜘蛛は、もう勝負がついたと思っているようだった。
蛇が糸の間に半ば捕らえられると、すぐに先ほどまでの楽しそうな様子を取り戻し、巨大な身体の周りを歩きながら、独り言を言うように鱗を観察し始めた。
「やった、やった! ご飯が増えた!」
蜘蛛は脚の先で鱗の一枚に触れながら喜んだ。
「今夜はすっごくいい夜になった!」
彼女は蛇の周りを歩き続けながら、こんな生き物は今まで食べたことがないと話していた。
聞いている限りでは、翼のある生き物はすでに包んであり、私たち二人も巣に捕まっているので、蛇の一部はあとで食べるつもりらしい。
「小さなデザートが二つ……」
彼女はそう繰り返しながら、ちらりとこちらを見た。
なぜか少しだけ腹が立った。
「今、俺たちのことデザートって呼んだぞ」
私は小さく呟いた。
エリッサは答えなかった。
彼女はもう蜘蛛には注意を向けず、蛇をじっと見つめていた。
その表情が少しずつ変わっていくのが分かった。
最初はただ怪しんでいるように見えた。
だが次第に目を細め、鱗や幅広い頭の形、そして喉の近くにある赤みがかった模様を観察し始めた。
「まずい……」
エリッサが小さく呟いた。
「あれ、キメラよ」
その言葉を聞いた瞬間、前の世界で知っていた物語やゲームが頭に浮かんだ。
私はもう一度あの生き物を見た。
二つ目の頭や、獅子の脚、翼、あるいはその名前にふさわしい何か別の特徴があるのではないかと思った。
だが、何もなかった。
どう見ても巨大な蛇のままだ。
「なんであれをキメラって呼ぶんだ? 別に何も――」
最後まで言えなかった。
蛇が、鼻先に絡みついた糸へ顎を押しつけ始めた。
口はまだ少ししか開けられない。
それでも、喉の奥に赤い光が生まれた。
エリッサは私より先に気づいた。
「頭を下げて!」
「どうやって!?」
私は首すらまともに動かせない。
赤い光は急速に強くなった。
炎が出る前から、顔に熱を感じた。
蛇の口元に近い糸が縮み始める。
蜘蛛も何が起きているのか気づき、後ろへ跳ぼうとした。
遅かった。
蛇の口から炎が噴き出した。
火は巣の一部を突き抜け、糸や葉、枝を次々と焼いていく。
私は目を閉じ、数メートル上を熱が通り過ぎる中、できる限り顔を横へ向けた。
再び目を開けると、巣のあちこちが燃えていた。
あれほど切れそうになかった絹糸が、熱で黒くなり、縮み、次々と切れていく。
蜘蛛は別の幹まで逃げることに成功していた。
だが今は、自分の巣の一部が燃えているのを見つめている。
私は蛇を凝視した。
「なんで巨大な蛇が火を吐くんだよ!?」
エリッサがこちらを向いた。
「だから今、キメラだって言ったでしょ、この馬鹿!」
「俺の世界じゃ、キメラってのは色んな動物が混ざった変なやつだったんだよ!」
「ここはあなたの世界じゃない!」
彼女は熱くなり始めた巣の部分から腕を離そうとしながら答えた。
「こっちでは、火を生み出せる特定の魔獣をキメラって呼ぶの!」
「それ、もっと早く知りたかった情報なんだけど!」
蛇が再び暴れ始めた。
鼻先に絡んでいた糸の一部はすでに焼け落ちており、さっきより少し大きく口を開けられるようになっていた。
さらにもう一度、炎が巣を突き抜けた。
今度は、エリッサのすぐ近くの部分が炎に包まれた。
彼女は目を閉じ、顔を背けた。
火はあまりにも近くを通り過ぎた。
捕らえられていた腕の周囲の絹糸が黒くなり、強度を失い始める。
エリッサはすぐにそれに気づき、腕を引いた。
「待て! 燃えてるぞ!」
「分かってる!」
彼女はもう一度引っ張った。
糸が伸び、そのうちの何本かが切れ始める。
だが、腕はまだ完全には抜けなかった。
「魔法生物学の授業をどうもありがとう!」
小さな火の粉が周囲へ落ちる中、私は文句を言った。
「学ぶには最高のタイミングだな!」
エリッサは私を見た。
泥まみれで、燃えている蜘蛛の巣に捕まり、数メートル先では怪物のような蛇が脱出しようと暴れている。
そんな状況なのに、彼女は小さな意地の悪い笑みを浮かべることができた。
「どういたしまして、アルヴェンちゃん」
私は眉をひそめた。
「待て。いつから俺をそんな呼び方するようになった?」
「カエリアがそう呼んでるのを聞いたの」
彼女は弱くなった糸をまた引き始めた。
「それに、そう呼ばれるとあなた、ちょっと困った顔するでしょ。面白かったから」
「困った顔なんてしてない」
エリッサは、あの笑みを浮かべたまま私を少し見た。
「もちろんしてないわよね、アルヴェンちゃん」
「やめろ」
彼女は再び糸へ注意を戻した。
「嫌」
炎はすでに巣のいくつもの場所へ広がっていた。
キメラは弱くなった糸を利用し、そのたびにさらに強く暴れている。
エリッサも燃えて弱くなった絹糸を使って腕を抜こうとし続けていたが、まだ完全には自由になっていなかった。
蜘蛛は枝から枝へ走り回り、新しい糸を吐きながら、炎が巣の別の部分へ広がるのを防ごうとしていた。
ほんの数分前まで、彼女は自分が完全に勝ったと思っていた。
今では、その自分の巣が周囲で燃え始めていた。
キメラが鼻先に絡みついた糸を振り払おうと身体を揺らしているのを見て、私は追い詰められた末の考えを思いついた。
蜘蛛の件で、私の能力が、本当に言語を持つ生き物にも通じることは分かった。
もしかすると、あの蛇にも私が理解できる何かがあるかもしれない。
私は大きく息を吸い込み、キメラへ向かって叫んだ。
「おい! 巨大な蛇! 俺たちは敵じゃない! 蜘蛛を狙え! 俺たちを逃がしてくれたら、ここから出て二度と戻ってこない!」
キメラは何の反応も示さなかった。
まるで私など存在していないかのように、糸へ身体を打ちつけ続けている。
そこで、もっと早く思い出すべきだったことに気づいた。
もしあの生き物が、前の世界の蛇に近い仕組みを持っているのなら、叫んでも意味がないかもしれない。
振動を感じ取ることはできても、私が期待しているように声を聞くことはできない可能性がある。
それでも、キメラが口を開き、低い唸るような音を出した時、頭の中に言葉は一つも浮かばなかった。
文章もない。
私の能力が理解できるような何かもない。
蜘蛛と会話できたのは、彼女が本当に言語を持っていたからだ。
キメラはどれほど強大でも、どうやら翻訳できるものを持ってはいなかった。
「ようやく、あなたの無駄話に付き合う気のない相手を見つけたみたいね」
エリッサが、飛んできた火の粉から顔を逸らしながら言った。
「蜘蛛だって、そんなに長く付き合ってくれたわけじゃないぞ。会って数分で俺をデザートにしようとしたんだからな」
エリッサは小さく笑った。
だが会話は、さらにもう一度炎が巣の太い部分へ直撃したところで終わった。
熱で縮んでいく箇所もあれば、黒く焦げ、そのまま切れるところもある。
遠くに吊るされた繭も、巣全体が支えを失い始めたことで揺れていた。
蜘蛛はすぐに何が起きているのか理解した。
「私の巣を燃やすな、この馬鹿! これ作るのに何年かかったと思ってるの!」
蜘蛛は枝の間を走り回り、炎が広がるのを止めようとした。
焼けた部分に新しい糸を張ったが、その真新しい絹糸もほとんどすぐに熱へ晒されていく。
何度か試したあと、蜘蛛は止まった。
いくつもの目が、炎と、私たち三体がまだ捕まっている巣の一角との間を行き来した。
そして、何かを決めたようだった。
私たちのいる層と、巣の残りをつないでいる太い糸を切り始めた。
「おい! 待て!」
何をしているのか気づき、私は叫んだ。
「俺たちまだここにいるんだぞ! そこを切ったら落ちる!」
蜘蛛はまったく迷わなかった。
「三つのデザートを失う方が、家を全部失うよりまし!」
「まだ俺たちをデザートって呼んでるのか!?」
蜘蛛がもう一本の糸を切った。
私の身体の下にある巣が、数センチほど傾いた。
「そこが文句の一番大事なところじゃない!」
すぐそばでは、エリッサがまだ捕まっている腕を引き続けていた。
その周囲の絹糸は炎でかなり弱っていて、引くたびに何本かずつさらに切れそうになっている。
「エリッサ、急げ!」
「やってる!」
彼女は全力でもう一度引いた。
複数の糸が一気に切れ、ついに腕が自由になった。
エリッサはすぐに、まだ脚を捕らえている糸へ手を伸ばそうとした。
だが、蜘蛛はすでに最後の支えまで辿り着いていた。
私は上を見た。
「それは切るな!」
切った。
その一帯の巣が、木々から完全に外れた。
「またかよおおお!」
私の身体は、巣ごと落下した。
絡み合った絹糸の塊が枝の間を落ちていき、その途中で葉や細い枝を巻き込んでいく。
そのおかげで少しは速度が落ちた。
だが、それでも周囲で糸が次々と裂ける中、私たちは左右へ激しく振り回された。
最初に落ちたのはキメラだった。
その巨大な身体の重さで下の枝を突き破り、そのまま根の間の地面へ激突した。
土と葉が大きく舞い上がる。
エリッサは私より少し運が良かった。
自由になった腕で巣の端を掴み、糸が切れ始めたところで脚も引き抜くことができた。
それでも、着地と呼べるようなものではない。
太い根の上へ落ち、そのまま横へ転がり、最後は片手を地面についてようやく止まった。
私はさらに数秒、絹糸の一部へ貼りついたままだった。
巣は落ち葉の層へぶつかり、地面を滑って、そのまま一本の根へ激突した。
背中が地面へ叩きつけられ、肺に残っていたわずかな空気が一気に抜けた。
「いっ……」
数秒間そのまま動かず、呼吸を整えながら、腕と脚がまだ動くか確かめた。
折れているところはなさそうだった。
だが、背中と肩は殴られ続けた後のように痛かった。
エリッサは足を引きずりながら立ち上がり、私のところへ来た。
そして何の遠慮もなく、チュニックへ張りついた糸を引き剥がし始めた。
「ちょっと待て! 服が破れるだろ!」
彼女は返事すらしなかった。
ただ後ろを指さした。
キメラが根の間で身体を動かし、焼け残った絹糸を振り落としながら自由になろうとしていた。
エリッサは私の腕を掴み、立たせた。
「走って!」
「どこへ!?」
「あれから離れられるならどこでもいい!」
それ以上まともな反論は思いつかなかった。
私たちは木々の間を走り始めた。
先頭はエリッサだった。
だが、明らかに以前より遅い。
ここまでの出来事のせいで少し足を引きずり、呼吸も重くなっていた。
それでも、森の中を進む能力は私よりはるかに上だった。
数秒後、私は肩越しに後ろを見た。
キメラはもう自由になっていた。
巨大な頭が根の上へ持ち上がる。
すぐに追ってきたわけではなかった。
最初はその場で止まり、頭をゆっくり左右へ動かしている。
舌が顎の間から出ては、また引っ込んだ。
私は走り続けた。
だが、見ずにはいられなかった。
その時、頭がこちらを向いた。
生き物の目と、私の目が合った。
一瞬、他のすべてがどうでもよくなったように感じた。
あれだけ距離があるのに、巨大な目が真っ直ぐこちらへ向けられているのが分かる。
キメラは数秒間動かなかった。
そして私には、向こうも私を観察しているように思えた。
胃が縮むような感覚がした。
「エリッサ……」
彼女は速度を落とさず、後ろを見た。
「何?」
「あいつ、俺たちを見つけた」
キメラが動き始めた。
「なら走って!」
蜘蛛はまだ高い場所にいて、残った巣を守ることで精一杯だった。
私たちにはもう注意を向けていない。
翼のある生き物はまだ繭の中。
そしてキメラは、よりによって私たちを追うことを選んだ。
エリッサは木々の間にある狭い道へ入った。
大きな木を避けるたびに、蛇の速度が落ちる。
問題は、小さな木まで避けようとする気がないことだった。
巨大な身体が通るたび、何本かはそのまま折れた。
暗闇の中での視力が、ようやく役に立ち始めた。
根。
穴。
それ以外の障害。
そこまで辿り着く前に見える。
「左に根! その先、右側に穴!」
エリッサはすぐに方向を変えた。
本当に合っているのか聞きもしない。
私が見たものを自分で探すために時間を使うこともない。
ただ、その警告を信じた。
むき出しの根を飛び越え、倒木の下をくぐった。
細い川を渡る時、エリッサは石から石へ飛び移った。
私も真似しようとした。
そして見事に泥のついた場所へ足を置いた。
足が滑る。
顔から水へ落ちる寸前、エリッサが振り返り、襟首を掴んだ。
「五分くらい、死にかけずにいられないの!?」
「努力してる!」
彼女は私を引き戻し、また走り始めた。
キメラとの間に草木が増えると、後方の枝を突き抜けて炎が飛んできた。
その一つが肩のすぐ近くを通り、袖の一部が焼けた。
「なんであいつ、俺たちを追ってくるんだよ!?」
私はもうほとんど息を切らしながら叫んだ。
「私たちの方が飲み込みやすいんじゃない!?」
「その説明、何の助けにもならない!」
エリッサも疲労を隠せなくなっていた。
呼吸は重くなっている。
傾斜のきつい場所では、怪我をした脚のせいで時折足取りが乱れた。
途中、前方に棘の茂みが見えた。
私は彼女の腕を掴んだ。
「左!」
エリッサも障害に気づき、何も言わずに方向を変えた。
少し後には、今度は彼女が、私が気づくのが遅れた深い根から腕を引いて助けてくれた。
それからは、道中で何かに気づくたびに互いへ知らせるようになった。
暗闇では、私の方がいくつかの障害を早く見つけられる。
だが、どこを走ればいいのかはエリッサの方がずっとよく知っている。
どちらかが方向を示せば、もう片方はただ従った。
しばらくすると、水の音が聞こえ始めた。
進むほど、その音は大きくなる。
「近くに川がある!」
エリッサにも聞こえたらしい。
すぐに方向を変えた。
「水に入れば、あいつも追跡しにくくなるかもしれない!」
私たちは音を追った。
そして突然、植物が途切れた。
エリッサが急停止した。
あまりにも急だったため、私は危うく背中へぶつかるところだった。
そのまま前へ出ないよう、彼女の肩を掴む。
目の前には、崖があった。
はるか下を、岩の間を縫うように川が流れている。
暗闇の中でも水の動きは見える。
だが、どれほど深いのかまでは分からない。
胃がひっくり返るような感覚がした。
空を飛ぶ生き物から落ちた。
巨大な蜘蛛の巣からも落ちた。
今度は自分から、また高い場所から飛び降りる。
そんなことだけはしたくなかった。
エリッサは左右を見て、降りられる場所を探した。
なかった。
後ろで木が一本折れた。
キメラが来ている。
エリッサはもう一度、下の川を見た。
「飛ぶしかない」
私は崖の下を見つめた。
「今夜はもう十分、高いところから落ちたんだけど」
「生き残ったら後で文句言って」
「その川、本当に深いんだろうな!?」
彼女は素早く後ろを見た。
「知らない。でもキメラの口が深いのは確実よ」
蛇の頭が木々の間から姿を現した。
喉の奥に、赤い光が生まれ始める。
「ああ、最高だ……」
エリッサが私の襟を掴んだ。
「待て、待て……」
彼女は飛んだ。
「エリッサ!」
私は踏み切る暇すらなく、一緒に引っ張られた。
襟が首に食い込み、エリッサに崖の外へ引きずられる中、布が裂ける音が聞こえた。
直後、キメラの巨大な顎が私たちの後ろで閉じた。
ほんの一瞬前まで立っていた場所だった。
その後は、ただ空中だけがあった。
私とエリッサは並んで川へ向かって落下していく。
上では、キメラの音と木々が折れる音が、どんどん遠ざかっていった。




