風が囁いた:エリッサの救出
峡谷の暗闇は、私たちの作戦にとって有利に働いていた。
しばらく野営地を観察したあと、一行は複数の班に分かれていた。カエルレス、バロン、そして北の村でも特に優秀な追跡役と斥候たちは、エリッサが捕らえられている台地へ接近する役目を担っていた。
別の小さな班は魔物の檻へ向かい、潜入が失敗した場合には、適切なタイミングで中の生き物たちを解放することになっていた。
私は斜面の高い場所にある茂みと岩の間に身を隠し、カエリアや援護を担当する数人の弓兵と一緒に残っていた。
なぜ自分が後方に残されたのかは、簡単に理解できた。
私はまだ、この身体に与えられた力を使い始めたばかりだ。
夜の潜入で、訓練を積んだダークエルフたちについていこうとすれば、助けになるどころか邪魔になる可能性の方が高い。
それでも、夜目のおかげで、彼らの進行の多くを追うことはできた。
追跡役たちを見ていて、自分にはまだ学ぶことがどれほど多いのかを思い知らされた。
暗闇の中で見える。
以前よりよく聞こえる。
ほかにも、以前の自分にはなかった能力がある。
だが、それだけで彼らのように使いこなせるわけではない。
エルフたちは何年もかけて、あのように動く方法を身につけてきた。
力はこの身体にあっても、経験までは備わっていなかった。
エルフたちはほとんど音を立てなかった。
崩れやすい石や細い枝の上を通る必要がある時でさえ、どこに足を置けばいいのかを正確に知っていた。
そのうちの一人が、岩の上で槍にもたれているノールの見張りへ近づいていった。
エルフは背後から現れ、相手が反応するより先に刃を喉へ走らせた。
そのまま身体を受け止め、岩の上へ倒れて音を立てないよう、ゆっくりと地面へ下ろした。
さらに下では、別の見張りが喉に矢を受け、そのまま岩陰へ消えた。
警報は上がらなかった。
私はカエリアを見た。
「本当に、ほとんど音を出さずにやれるんだな……」
彼女は野営地から目を離さなかった。
「これで、どうしてあなたが私とここに残されたのか分かった?」
「わざわざそこまで言わなくてもいいだろ」
彼女の顔に小さな笑みが浮かんだが、すぐに消えた。
私は再び峡谷へ目を向けた。
見張りたちは少しずつ排除され、カエルレスたちは台地へ近づいていた。
ノールの大半は野営地の中央付近に集中していて、外側で何が起きているのかに気づいていないようだった。
数分の間、私は本当に気づかれずにエリッサまで辿り着けるのではないかと思った。
助け出したあと、彼女に何を言えばいいのかはまだ分からなかった。
ヴェリダンの死後、彼女は誰にも何も告げず一人で出ていき、その結果、こんな場所で捕まってしまった。
もしかしたら、私の話など聞きたくないかもしれない。
だが、その時はそんなことはどうでもよかった。
ただ、彼女が生きてあの台地から出てくるところを見たかった。
カエルレスとバロンは、ついにエリッサが捕らえられている場所の背後まで辿り着いた。
二人のうちの一人が杭の近くで身を低くし、縄に近づく最適な瞬間を待っていた。
その時だった。
峡谷の側壁の一つから、今までとは違う音が聞こえてきた。
私は眉をひそめた。
ノールの音ではない。
檻の木材が軋む音でもなかった。
何か大きなものが岩の上を動いているような音だった。
カエリアも気づいたらしい。
彼女は顔を上げ、音の出所を探した。
「どうした?」
私は尋ねた。
「何かいる」
私は彼女の視線を追った。
野営地の一部を見下ろす岩棚の上に、木や獣皮、枝で作られた黒い構造物があった。
その周辺では何匹かのノールが歩き回っていたが、特に警戒している様子はない。
すると、その中で何かが動いた。
大きな生き物がゆっくりと外へ出てきた。
最初に見えたのは、身体に折り畳まれた二枚の膜状の翼だった。
そのあと、そいつは脚で立ち上がり、長い腕を伸ばしながら、まるで今目覚めたばかりのように翼を広げた。
私は困惑しながら見つめた。
何より奇妙だったのは、ノールたちの反応だ。
誰も逃げない。
武器を向ける者もいない。
中には、その生き物の方を見ようともしない者までいた。
「怖がってない……」
私は小さく呟いた。
カエリアは眉をひそめた。
私たちがそれ以上考える間もなく、その生き物は翼を大きく広げ、岩棚から飛び降りた。
峡谷の上空へ急速に高度を上げていく。
私はその軌道を目で追った。
翼の音が、野営地の騒音に混ざっていく。
そして、そいつは口を開いた。
叫び声が夜を切り裂いた。
高く、強烈な声だった。
最後には、人間の声をどこか思わせる奇妙な響きが混じっていた。
反射的に片手で耳を押さえた。
その声は峡谷の壁に反響し、野営地全体へ広がっていった。
何匹ものノールが一斉に顔を上げた。
別の者たちは唸り声を上げ、武器を掴み始めた。
檻に閉じ込められている生き物たちも反応した。
何匹かが格子へ身体をぶつけ始め、鎖と木材が激しくぶつかり合った。
「くそ……」
私は呟いた。
ほんの数秒で、ノールたちは焚き火の間を走り回り、何が起きているのか確かめようと互いに怒鳴り始めた。
下の方では、エルフたちが慎重な動きをやめ、素早く位置を変えるのが見えた。
潜入は、終わった。
カエリアは、さらに数秒間、野営地の様子を観察していた。
下の方では、エリッサが捕らえられている台地へ近づいていたエルフたちが、すでに慎重な動きを捨て、次々と位置を変え始めていた。
野営地の別の場所では、檻を担当していた班も動き出している。
今は、すべてのノールが状況を理解する前に、この混乱を利用するしかなかった。
カエリアは小さく悪態をつき、私の方を振り向いた。
「弓兵たちとここにいて」
「待って、俺も――」
「アルヴェン」
名前を呼ばれた、その言い方だけで私は口を閉じた。
彼女は周囲の弓兵たちへ視線を向けた。
「こいつを下に行かせないで」
「おい!」
文句を言う間もなく、カエリアは斜面の高い場所から飛び降りた。
一瞬、そのまま岩場へ落ちるのかと思った。
だが彼女は下にある枝へ着地すると、すぐに身体を蹴り出し、そのまま野営地へ向かって降り続けた。
隣にいる弓兵たちは黙ってその動きを追っていた。
その中には、彼女の速さに驚いているように見える者までいた。
私は、枝や岩場を渡っていくカエリアを目で追おうとした。
数秒間は追えた。
だが、その後は焚き火の明かり、走り回るノール、そしてすでに戦い始めているエルフたちの中に紛れて見失った。
これまでにもカエリアが戦うところは何度も見てきた。
それでも、あの動きを目で追うのは難しかった。
消えているわけでも、瞬間移動しているわけでもない。
ただ、あの混乱の中で一歩一歩を追いきれないほど速く動いているだけだ。
私は身体を少し前へ乗り出し、もう一度彼女を探した。
「どこ行ったんだ……?」
隣にいた弓兵の一人が弓を持ち上げた。
「左に動きがあります」
私はそちらへ顔を向けた。
斜面を登ってきたノールでもいるのかと探したが、何も見つからなかった。
その時、翼の音が聞こえた。
少し前に聞いたのと同じ音だった。
だが、今度はずっと近い。
下から響くノールの叫び声や武器の音、檻の中で暴れる生き物たちの音に邪魔されて、正確な方向をすぐには掴めなかった。
ようやく、それが背後から聞こえていると気づいた時には、すでに遅かった。
強い風が背中に叩きつけられ、倒れないよう反射的に両腕を広げた。
「なっ……?」
振り返るより先に、何かが私の両脚を掴んだ。
長い二本の鉤爪が、脚の周りに食い込むように閉じる。
「待て!」
身体が地面から一気に持ち上げられた。
茂みが足元から消え、ほんの数秒で私は斜面から何メートルも上空へ運ばれていた。
「アルヴェン!」
下から誰かが叫ぶ声が聞こえた。
何に掴まれているのか見ようと身体を曲げたが、私は逆さまにぶら下がっていて、翼が一度羽ばたくたびに大きく揺れていた。
「こいつら、俺の脚に何か変な執着でもあるのか!?」
風に声がほとんどかき消された。
片手で自分のチュニックを掴み、顔に垂れ落ちてこないよう押さえながら、できるだけ上半身を起こした。
そこでようやく、私を掴んでいる生き物の姿が見えた。
峡谷の建物から出てきた、あの生き物だった。
非常に痩せた人型の身体をしており、全身は黒ずんだ皺だらけの皮膚で覆われている。
背中からは二枚の大きな膜状の翼が伸び、激しく空気を叩いていた。
腕は長く、先端には曲がった鉤爪がある。
そして脚の爪は、痛みを感じ始めるほど強く私の両脚を掴んでいた。
頭は蝙蝠に似ていた。
大きな耳。
黄色がかった目。
そして、短い鼻先には歯がびっしりと並んでいる。
私は数秒間、それを見つめた。
「お前、巨大な蝙蝠か何かなのか?」
生き物は私の方へ顔を向け、顎を大きく開いた。
そして、耳が痛くなるほど鋭い叫び声を上げた。
私は目を閉じ、音が弱まるまで歯を食いしばった。
「肯定ってことにしておく」
再び下を見ることができた頃には、野営地はすでに足元で小さくなり始めていた。
生き物はさらに高度を上げ続け、風もどんどん強くなる。
少しすると、焚き火や建物の間にいる人影すら、まともに見分けられなくなった。
こいつが私をどこへ連れていくつもりなのかは、まったく分からない。
だが、このまま逆さまにぶら下がり続けるのが良い選択ではないことだけは確かだった。
手の届くところに武器はない。
しかも、私はまだ逆さまだ。
使えるものは魔法しかなかった。
私は脚に食い込んでいる鉤爪を見て、一瞬ためらった。
もしこいつの目を眩ませれば、私を離す可能性は高い。
だが、この高さで落とされたら、一つの問題を解決して、もっとひどい問題を作るだけだ。
私はできる限り上半身を起こし、腕を伸ばして、生き物の脚の一本へ手を届かせた。
左腕をその脚へ回し、強く抱え込んで身体を固定する。
それから、もう片方の手にマナを集め始めた。
「うまくいくことを祈るか……」
指の間に、小さな白い光が生まれた。
生き物はその光に気づき、私の方へ顔を向けた。
「ルクス・ミニマ!」
顔から数メートルしか離れていない距離で、魔法を放った。
白い閃光が、生き物の黄色がかった目をまともに直撃した。
そいつは鋭い悲鳴を上げ、反射的に鉤爪を開いた。
私の脚が自由になった。
一瞬、身体の全重量が下へ引かれる感覚に襲われた。
だが、生き物の脚に回した腕のおかげで、落下せずに済んだ。
生き物は翼を乱暴に羽ばたかせ始めた。
まだ閃光の影響を受けているのか、突然横へ大きく進路を逸らし、危うく私を岩壁へ叩きつけそうになった。
私は両腕でそいつの脚を強く抱え込んだ。
飛び方はますます不安定になっていく。
やがて生き物は峡谷の縁を越え、森の中へ飛び込んだ。
枝や幹のすぐ近くを通り抜ける。
何度も脚を縮め、頭を低くして、ぶつからないようにしなければならなかった。
少しずつ、私は身体を上へ引き上げていった。
まず脚の上の方まで移動した。
次に、皺だらけの腹部の皮膚へしがみつく。
そこからさらに登り、ようやく首に近い位置へ両腕を回すことができた。
まだ最悪の姿勢であることに変わりはなかった。
それでも少なくとも、もう片腕一本だけでぶら下がってはいなかった。
その生き物は、はっきりとした方向もなく飛び続けていた。
時折、少しだけ制御を取り戻したように見えたが、木や岩場へ近づくと、またすぐに進路を逸らしてしまう。
どれくらいその状態が続いたのかは分からない。
おそらく数分程度だったのだろう。
それでも、実際よりずっと長く感じられた。
ようやく後ろを振り返ると、峡谷はすでに木々の向こうへ消えていた。
「最高だな……」
私は生き物の首へ回した腕に、さらに力を込めた。
今や私は森の真ん中で迷子になり、どこへ飛んでいるのかすらまともに見えていない巨大な蝙蝠にしがみついている。
どう考えても、これまで思いついた中で最高の作戦ではなかった。
しばらくの間、飛行は不安定なままだった。
私は生き物の首へしがみつき、周囲を高速で通り過ぎる木々を目で追いながら、枝が近づくたびに身体を縮めた。
だが少しずつ、そいつの動きは落ち着き始めた。
翼の羽ばたきも、先ほどほど不規則ではない。
進行方向も以前より上手く修正し始めている。
どうやら、ルクス・ミニマで失っていた視界が戻りつつあるらしい。
その時、生き物が進路を変えた。
翼を大きく広げ、身体を下へ傾ける。
私たちは急速に高度を落とし始めた。
「おい! 何してるんだ!?」
生き物は木々の間を下り続けた。
数秒後、前方に焚き火の光が見えた。
峡谷だ。
ノールの野営地へ戻ろうとしている。
「いやいやいや! 反対へ行け!」
当然ながら、私の言葉など無視された。
蝙蝠はそのまま野営地へ急降下した。
ノールたちが焚き火の間を走り回り、外側ではエルフたちが戦っている。
檻に閉じ込められていた生き物の中には、すでに解放されているものもいた。
そのうちの一体が木造の建物を突き破り、何匹ものノールが取り囲もうとしていた。
作戦は始まっていた。
下で何が起きているのかを、まともに追うことはできなかった。
すべてがあまりにも速く流れていく。
矢が空を飛び交い、魔物たちがノールを襲い、村の戦士たちはその混乱を利用して進んでいた。
木造の建物のすぐ上を通過した時には、頭を低くしなければならなかった。
生き物は野営地を横切り、峡谷の反対側で再び高度を上げ始めた。
その少し後、下から何かが聞こえた。
最初は、生き物が出した別の音だと思った。
だが次の瞬間、風と翼の音の中から女の声が聞こえてきた。
「死にたくない!」
私は目を見開いた。
その声には聞き覚えがある。
「エリッサ!?」
慎重に身体を傾け、下を覗き込んだ。
彼女が、生き物の腹側へしがみついていた。
「はあ!?」
エリッサは両腕で魔物の身体にしがみつきながら、足を置ける場所を探していた。
手首は赤く、縄の跡が残っている。
片方には、切れた縄の一部がまだぶら下がっていた。
彼女が顔を上げ、私を見つけた瞬間、私はすぐに安堵した。
どれほど馬鹿げた状況であろうと、彼女は生きていた。
意識もある。
そして、捕らえられていた場所から抜け出すことにも成功していた。
「アルヴェン!?」
数秒の間、私たちはただ互いを見つめた。
「そこで何してるんだ!?」
風に負けないよう声を張り上げた。
「何してるように見えるの!?」
生き物が木を避けて進路を変えると、エリッサはさらに強くしがみついた。
「落ちないようにしてるのよ!」
「そうじゃなくて、どうしてそこにいるんだって聞いてるんだ!」
彼女は風が顔へ叩きつけられる中、一瞬目を閉じた。
「混乱の中でカエリアが私のところまで来て、縄を切ってくれたの!」
彼女は叫んだ。
「脇道を通って逃げろって言われたけど、まだ頭がふらついていて、まともに立つこともできなかった! そこまで辿り着く前に、こいつが急降下してきて私を掴んだのよ!」
私は生き物の身体を見て、それからエリッサへ目を戻した。
つまり、さっき野営地へ急降下したのも、無意味ではなかったらしい。
「そんなの見てなかった!」
「でしょうね!」
エリッサは私のいる方へ顔を上げた。
地上から何十メートルも上でぶら下がっているというのに、それでも私へ苛立った顔を向ける余裕はあるらしい。
「それで、あなたは!? そこで一体何してるのよ!?」
「お前を助けに来たんだ!」
彼女は数秒間黙った。
そして、生き物を見た。
高速で流れていく下の木々を見た。
最後に、魔物の首へしがみついている私をもう一度見た。
「見れば分かるわ」
彼女は答えた。
「素晴らしい救出ね」
言い返す前に、生き物が突然左へ大きく身体を傾けた。
エリッサは危うく手を離しかけた。
片手が皺だらけの皮膚を滑り、悲鳴を上げる。
「エリッサ!」
私はできる限り腕を下へ伸ばした。
「掴め!」
「今、何をしようとしてると思ってるの!?」
彼女は生き物から片手を離し、私の手へ伸ばした。
私はその手首を強く掴み、引き上げ始めた。
エリッサも脚と残った片手を使い、魔物の身体を登ってくる。
私の手を見た時、彼女はためらわなかった。
ただ掴んだ。
数秒かかったが、エリッサは私のすぐ後ろ、翼の付け根より少し前にある首の根元近くまで辿り着いた。
彼女は厚い皮膚の皺へ両手でしがみつき、身体を安定させようとした。
「こっちの方がましね」
呼吸を整えながら言った。
それから下を見る。
「相変わらず最悪だけど、さっきよりはいい」
「何か素晴らしい案はあるか?」
「考えてる!」
魔物は森の中を飛び続けていた。
だが、その動きはどんどん安定している。
ルクス・ミニマの影響はまだ残っているようだったが、明らかに視力を取り戻しつつあった。
「たぶん、また見えるようになってきてる」
私は生き物の頭を見ながら言った。
「完全に回復したら、どこへ連れていかれるか分からない」
エリッサは片方の翼へ目を向けた。
「なら、こいつを下ろすしかない」
「どうやって?」
彼女はすぐには答えなかった。
代わりに、周囲を通り過ぎる枝を観察し始めた。
「エリッサ?」
「数秒だけ黙って」
「作戦があるなら、そう言えばいいだろ」
「あなたが黙れば、もっと早く作戦を思いつける!」
私は口を閉じた。
数秒後、生き物が一本の木のすぐ近くを通った。
幹から折れた枝が突き出していて、その先には今にも外れそうな長い木片が残っていた。
エリッサが身体を傾けた。
「まさか、それを――」
「しっかり掴まってて」
「エリッサ!」
枝の横を通り過ぎる瞬間、彼女は腕を伸ばして木片を掴んだ。
衝撃で、危うく生き物から引き剥がされそうになった。
「くそっ!」
私は片手を後ろへ伸ばし、彼女の服を掴んだ。
エリッサは力いっぱい木片を引っ張る。
一瞬、枝は折れないかと思った。
だが次の瞬間、木が音を立てて裂け、外れた。
エリッサはすぐにまた生き物へしがみついた。
「今ので死にかけただろ!」
「死んでない」
彼女は私の表情など気にせず、片手で木片を持った。
折れた先端は不規則で、かなり鋭い。
「目は狙うなよ」
私はすぐに言った。
「こいつはさっき一度ほとんど見えなくなって、それでこんな飛び方になったんだからな!」
「分かってる」
彼女は右の翼へ視線を向けた。
「高度を落とさせる」
安全とは到底思えなかった。
だが、このまま何処へ連れていかれるか分からないまましがみついているのも、より良い選択とは言えない。
「一気に落とすのだけはやめてくれ」
「努力する」
生き物は進路を保とうとしながら、翼を大きく広げた。
エリッサは待った。
右の翼が再び伸びた瞬間、彼女は片手で生き物の皮膚へしがみつき、もう片方の手に持った木片の尖った先端を翼の膜へ突き刺した。
魔物が鋭い悲鳴を上げ、激しく横へ身体を捻った。
「エリッサ!」
「掴まって!」
彼女は木片を抜かなかった。
翼は再び羽ばたこうとした。
その動きによって、膜に刺さった木片がさらに引っ張られる。
小さかった穴はすぐに広がり、翼に長い裂け目が走った。
生き物は揚力を失った。
私たちは木々の上を通りながら、高度を落とし始めた。
真っ直ぐ落下しているわけではない。
だが、着陸と呼べるようなものでもなかった。
魔物の身体の側面が枝へ激突した。
衝撃で私たちは横へ投げ出されそうになったが、どうにかしがみついたままでいられた。
その直後、傷ついた翼が別の枝へぶつかり、不自然な方向へ曲がった。
「思ってたのと違う!」
エリッサは身体を低くしようとしながら叫んだ。
さらに別の衝撃で、生き物の身体が回転した。
私は首へ回した腕に力を込める。
エリッサも私のすぐ後ろで、必死にしがみついていた。
周囲では次々と枝が折れ、そのたびに落下速度が少しずつ落ちていった。
そして、生き物は低い位置にある木の梢へ激突した。
今度の衝撃は強すぎた。
私の腕が魔物の首から外れたのと同時に、背後でエリッサの叫び声が聞こえた。
何かを掴もうとした。
だが、指の間を通り抜けたのは葉と細い枝だけだった。
私たちは二人とも、生き物から遠くへ投げ飛ばされた。
落下する途中で何本もの枝へぶつかり、そのまま森の木々の中へ消えていった。




