風が囁いた:僕がなれる英雄
今回の章は当初の予定よりもかなり長くなってしまいましたが、これらの場面はすべてアルヴェンの成長にとって大切なものだと感じたため、この展開を急いで終わらせたくありませんでした。
いつも作品を読んでくださり、物語を応援してくださっている皆様、本当にありがとうございます。今回の章も楽しんでいただけたなら嬉しいです。これからもアルヴェンの旅を見守っていただければ幸いです。
周囲の景色が崩れ去っていく中、私は行くあてもなく森の中を歩き続けた。濡れそそった衣服が重く身体にのしかかり、一歩進むのさえ困難だった。両脚は震え、呼吸は浅いまま、何度も溺れたせいで喉がいまだに激しく焼けていた。水から上がったというのに呼吸は苦しく、時折、視界がかすんだ。
あの顔のない女性の問いに答えたところで、何の救いにもならなかった。何かに勝利したという感覚など微塵もなかった。ただ、自分がどれほど無価値な存在であるかを無理やり認めさせられただけに過ぎず、その事実が私の思考をいっそう混沌へと陥れていた。
歩みを進めるにつれ、森はその形を失い始めた。木々はぼやけ、いくつかの岩は目の前で位置を変えているかのように見え、私はもはや道すらまともに判別できなくなっていた。眩暈を抑えようと、私は片手を頭へと当てた。
「僕の身体に、一体何が起こっているんだ……?」私は呟いた。
濡れた芝生の上に膝から崩れ落ちるまでに、あと数歩進むのがやっとだった。肉体は限界を迎えており、もはや自分の思考をまともに整理することすらできなかった。頭を垂れ、濡れそぼった髪が顔の一部を覆うままに任せながら、私は再び涙を流し始めた。
「もう嫌だ……」土に指を突き立てながら、私は辛うじて言葉を絞り出した。「諦める……」
呼吸を整えようと、私は数秒間その姿勢のまま留まった。それから頭をもたげ、残されたすべての力を振り絞って叫んだ。
「シルヴァリス! 僕は諦める!」
私の声は森の奥へと広がっていったが、返答はなかった。私はさらに顔を上げ、再び叫んだ。
「僕には無理だ! 聞こえているか?! 僕にはこんなことできない! 僕はペテン師だ! 英雄なんてものに選ばれるべきじゃなかったんだ!」
何も起こらなかった。鳥のさえずりもなく、木の枝一つとして動かなかった。私は再び頭を垂れ、己の両腕を抱きしめながら、涙を止めることができなかった。
「お願いだ……誰か助けてくれ……」
その時だった。温かい風が森を駆け抜けていった。それは微かな微風であり、木々を通り抜け、私の周囲の芝生を揺らし、そして私の顔に触れた。
その風と共に、低い声が耳に届いた。
『諦めないで……』
私は即座に頭をもたげ、周囲を見渡した。木々の間には誰もいなかった。
風は吹き続けていたが、あの声が再び語りかけることはなかった。なぜあの声が再び現れたのかを理解しようと、私は数秒間じっと佇んでいた。それから、無理やり身体を突き動かして立ち上がった。
「君は誰だ?!」私は叫んだ。「どうして僕を助け続けるんだ?!」
微風は少しだけ強さを増し、私の濡れた衣服を揺らした。いくつかの枯れ葉が地面から舞い上がり、一斉に同じ方向へと進み始めた。それは、私が進むべき道を指し示していた。
私は数秒の間、その葉の動きを見つめていた。疲れ果て、怯え、もうどうすべきかも分からなかった。それでも、あの声はこれまでにも重要な局面で幾度か現れていたのだ。
そこに何が待ち受けているかも分からぬまま、私は風が示す方向へと歩き始めた。
歩みはわずか数分しか続かなかった。前進するにつれて森は暗さを増し、樹冠がいっそう光を遮っていった。その時、二本の木の間に、あの古びた木製の扉が姿を現した。
それは、私が先ほど逃げ出してきたあの扉と全く同じものだった。扉は閉ざされており、周囲には壁一枚存在しなかった。
私はその数歩手前で足を止めた。それを認識した瞬間、あの向こう側に置き去りにしてきたクリーチャーの姿が脳裏をよぎった。
「嫌だ……」私は頭を振りながら後退した。「あそこへは戻りたくない……」
温かい微風が再び吹き抜け、扉の方へと真っ直ぐに向かっていった。私を押し出すことも、前進を強制することもしなかった。ただ、それこそが私の進むべき道なのだと、明確に告げていた。
私は目を閉じ、深く息を吸い、冷たいドアノブを掴んだ。それをゆっくりと回し、扉の向こう側へと足を踏み入れた。
通り抜けた瞬間、背後から音が聞こえた。素早く振り返ったが、そこにはすでに扉の姿はなかった。通路も出口も存在せず、ただ、あの自らの模造品と遭遇した時と同じ暗い虚空が広がっているだけだった。
全身の筋肉が緊張し、呼吸が再び速まり始めた。
「嫌だ……お願いだ……」
暗闇のどこからか、聞き覚えのある高笑いが湧き上がった。その音は最初は低かったが、クリーチャーが近づくにつれて次第に大きくなっていった。
そいつは長い腕を使って移動し、身体を前方に折り曲げた姿で私の前に現れた。黒い爪が地面を引っ掻き、絶え間なく不気味な雑音を立てていた。その顔には相変わらず端から端まで引き裂かれたような笑みが張り付いており、人間の瞳が私を凝視し続けていた。
「ついに……」いくつもの声が混ざり合った調子で、クリーチャーは言った。「俺の元へ戻ってきたな……」
そいつはゆっくりと前進を続けた。
「戻ってくると分かっていたさ……」
私は数歩後退したが、足をもつれさせてその場に尻餅をついた。恐怖が再び私を支配した。私は両膝を抱え込み、クリーチャーを見まいと頭を垂れた。
「嫌だ……お願いだから……僕をそっとしておいてくれ……」
「お前は俺から逃れられないんだよ、アーヴェン……」すでにすぐ近くまで迫ったそいつが応じた。
私は両腕を耳に押し付け、目を強く閉じた。
「あっちへ行け……消えろ……」
爪が地面を刻む音が、さらに間近に迫る。
「お願いだ……」私は懇願した。脳裏には、この窮地から自分を救い出してくれると信じられる、唯一の人物の姿が浮かんでいた。「セリア……」
その時だった。力強い手が、私の左肩の上に置かれた。
全身がびくりと跳ね上がった。数秒の間、振り返る勇気が出なかった。それからゆっくりと首を動かすと、金属の籠手に覆われた指が、私の衣服の生地をしっかりと掴んでいるのが見えた。
私は視線を上げた。
アーサー隊長が、私の前に立っていた。
彼は任務の際に身にまとっていたものと全く同じ軍用の鎧を着用していた。血痕も、負傷も、戦闘の痕跡すらなかった。その佇まいはまっすぐに気高く、厳しい表情はまさに私の記憶にある通りのものだった。
アーサーは言葉を発する前に、数秒間私を観察した。
「立ち上がるんだ、少年」
私は言葉を返すこともできず、微動だにせず彼を見つめ続けた。
アーサーは肩に手を置いたままだった。
「その涙を拭うんだ」
私は未だに自分の目の前にある光景が信じられなかった。アーサーは私の肩から手を離すと、腕を組んだ。
「お前は召喚されし英雄の一人だろう。そんな無様な姿を晒すな」
彼は視線で私の背後の空間を指し示し、目立たないように首を動かした。
「兵士たちが見ているぞ。男らしく振る舞え」
私はその仕草に従い、周囲の暗闇へと目を向けた。
フロストベインまで共に旅をした兵士たちが、全員そこに揃っていた。彼らはウンスールの軍服と鎧を身にまとい、数メートル離れた場所に集結していた。ある者は厳しい表情を崩さず、またある者は私の姿を見て微かに微笑んでいた。
私の瞳に、再び涙が溢れそうになった。
「皆……」
私は辛うじて立ち上がり、彼らに向かって数歩歩み寄った。しかし、彼らの顔を直視し続けることはできなかった。私は頭を垂れ、拳を固く握り締めた。
「……すまなかった。僕のせいだ……」
即座に応じる者は誰もいなかった。アーサーは溜息を漏らし、再び腕を組み直した。その動作に合わせて鎧の装甲板が擦れ合う音が響いた。
「またその話か、少年?」
「もし僕がもっと強ければ……もし僕が何かしていれば……」
アーサーは私の言葉を遮った。
「俺たちはウンスールの兵士だ。あの城門を出る前から、任務に伴うリスクは百も承知だった」
私は首を振った。
「セリアもそう言ってくれた……。だけど、僕には受け入れられないんだ」
アーサーは一歩前に踏み出し、私を凝視した。
「それはお前が傲慢な愚か者だからだ、アーヴェン。鍛え上げられた兵士の一個小隊全体の運命が、本当に自分一人の肩にかかっていたとでも思っているのか?」
兵士の一人が少し近づいてきた。
「最初、俺たちの誰もあんたを信用しちゃいなかったんだぜ、英雄様」
別の兵士も同意して頷いた。
「実を言うと、あんたが予言にある裏切り者なんじゃないかと疑っていた奴もいたくらいだ」
私は拳を握り締めたが、沈黙を守り続けた。
「それでも、俺たちは命令を受け、任務を果たした」最初の兵士が言葉を続けた。「俺たちはウンスールの兵士だ。守るべき相手を疑っているからという理由で、任務を放り出すような真似はしない」
三人目の兵士が、言葉を発する前に腕の盾の位置を調整した。
「だが、旅を続けるうちに進退は変わった。あんたと寝食を共にし、その行動を見てきたからな」
「あんたは、俺たちが想像していたような人物じゃなかった」別の男が付け加えた。「フロストベインに到着した頃には、単に命令されたからという理由だけで召喚された英雄を守っていたわけじゃなかったんだ」
アーサーが再び私を見据えた。
「お前は道中、彼らの敬意を勝ち取ったんだ、少年。その後に起こったことの罪悪感だけで、それを無かったことにしようとするな」
私はその言葉を受け入れようと足掻きながら、沈黙を保った。
アーサーは続けた。
「死は兵士の人生の一部だ。あの森における俺たちの任務は、召喚されし英雄であるお前を守ることだった。俺たちは最後までその義務を果たしたのだ」
彼は短く間を置いた。
「別の行動をとるべき瞬間があったのではないか? おそらくはな。俺たちの誰もがそうだった。だが、お前は俺たちを裏切ってはいないし、俺たちの死を選んだわけでもない」
私は視線を落とした。
「なら、俺たちの犠牲を、自分を憎み続けるための言い訳にするのはやめろ」アーサーは言った。「お前が残りの人生を罪悪感の中で過ごすために、俺たちは死んだわけではない」
私は再び頭を垂れた。
「僕は……」
「説教の続きは後だ」アーサーは私の背後の空間へと注意を戻しながら、言葉を遮った。「まずは、あの問題を片付けるぞ」
私はゆっくりと振り返った。
クリーチャーは相変わらず、長い腕と爪を地面に引きずりながら前進してきていた。その笑みは開かれたままで、人間の眼は私を捉え続けていた。
アーサーは剣の柄に手をかけ、それを引き抜いた。
「――兵士たちよ!」
全員が即座に構えをとった。盾が掲げられ、槍の矛先がクリーチャーへと向けられた。
「――陣形を組め!」
私はどうすべきかも分からぬまま、アーサーと兵士たちを見つめた。
「僕は……」
アーサーは顔をわずかに私の方へと向けた。
「ただ突っ立って見ているつもりか?」
私は深く息を吸い込んだ。
「武器を持っていないんだ」
彼は短く鼻で笑った。
「持っているさ。よく見てみろ」
私は眉をひそめた。
「持っていないよ……」
「自分の腰を見てみろ、少年」
私は腰のベルトへと手を伸ばし、革と金属の感触を捉えた。プロヴォロン卿から授かったあの短剣が、そこに固定されていたのだ。
私は困惑しながらも、それをゆっくりと引き抜いた。
「どうしてこんなことが……? これはエリッサが持っていたはずだ。彼女に預けたのに……」
アーサーはクリーチャーから目を離さなかった。
「この場所で起こるすべてのことを理解しようとするな、アーヴェン。ただ戦うんだ」
私は短剣の柄を強く握り締めた。その武器の感触が再び手に戻ってきたことで、私の中にいくらかの確信が芽生えた。
深く息を吸い、私は頷いた。
「……応だ」
アーサーは剣を掲げ、モンスターを指し示した。
「――兵士たちよ!」
「はっ!」全員が同時に応じた。
「――前進!」
兵士たちが陣形を維持したまま、最初に駆け出した。私は地面を踏み締め、短剣を固く握り締めながら、彼らのすぐ後ろに続いて突撃した。
アーサーが最初にクリーチャーへと到達した。彼は剣でモンスターの首を狙って一撃を放ったが、私の模造品は頭を後ろへと傾けてその一撃を回避した。まさにその瞬間、二人の兵士が側面から突撃し、三人目の兵士が短い槍を手にして正面から襲いかかった。
クリーチャーは身体を回転させ、その長い腕で三人をもぎ倒した。兵士の一人は盾を掲げることに成功したが、一撃の威力があまりにも凄まじく、他の二人と共に後ろへと吹き飛ばされた。
私は短剣の柄を強く握り締め、アーサーが作り出した隙を突こうと駆け出した。モンスターめがけて跳躍し、その胸へと刃を突き立てた。
短剣は皮膚を貫いたものの、数センチメートル進んだところで止まった。肉の下には硬固で暗色の層が存在しており、刃がそれ以上進むのを阻んでいたのだ。
クリーチャーは自らの胸に突き刺さった武器を見つめ、その笑みをさらに大きく開いた。
「――これだけか……?」いくつもの声が同時に重なり合って響いた。「お前は相変わらず弱いな、アーヴェン……」
そいつは手の甲で私を薙ぎ払った。一撃が私の胸を捉え、私は後ろへと吹き飛ばされた。私は暗い地面を転がり、ようやくの思いで足を止めた。
呼吸を吹き返すよりも先に、アーサーが再び私とクリーチャーの間に割って入った。
「立ち上がれ!」
私は片手を地面につき、無理やり身体を起こした。
「考えなしに突撃するな、少年! そいつの動きを観察しろ!」隊長はそう命令を下すと、再び前方へと躍り出た。
クリーチャーは爪を振るって彼を仕留めようとした。アーサーは盾でその片腕をブロックし、その隙に二人の兵士がモンスターの脚を攻撃した。もう一人の男がクリーチャーの肩に向けて矢を放ち、残りの面々も直後に接近して、様々な方向から波状攻撃を仕掛けた。
モンスターが嘲笑い始めた。
クリーチャーの身体の周囲に不気味な暗黒のエネルギーが湧き上がり、急速に膨れ上がっていった。兵士たちが距離を取るよりも早く、そいつは咆哮を上げ、そのエネルギーを一気に解放した。
アーサーと他の男たちは後方へと吹き飛ばされた。隊長は衝撃を和らげるために剣を地面に突き立てたが、それでも数メートル引きずられ、転倒を免れるために片膝をつくことを強請された。
地面に散らばる兵士たちの姿を目にし、私は恐怖が舞い戻るのを感じた。
「嫌だ……」
クリーチャーは私と同じその瞳を、私の方へと向けた。
「――見ているか?」そいつは両腕を広げて問いかけた。「奴らはいつも、お前のせいで死ぬのだ」
私は歯を食いしばった。
「黙れ!」
私はそいつの元へと駆け寄り、短剣で何度も斬りつけた。クリーチャーはそのすべての攻撃をかわした。その巨大で歪んだ巨体でありながら、刃を回避するに十分なほどの敏捷さで動くことができていた。
アーサーはモンスターの注意が完全に私へと向くのを待ち、その片腕を強襲した。剣が深い傷口を切り開き、その四肢を危うく切断せんばかりだった。
クリーチャーは咆哮を上げて後退した。数秒の間、私はその一撃が決定的なダメージを与えたのだと信じた。しかしその時、暗色の肉が再び結合し始めた。負傷は私たちの目の前で塞がっていき、ついには腕に飛び散った血痕だけが残された。
兵士の一人が、砕かれた盾を握り締めながら後退した。
「隊長!」
アーサーは剣を掲げたままでいた。
「そいつは再生能力を持っている」
「これでは、奴を殺すことはできません」別の兵士が言った。
アーサーは数秒の間、クリーチャーを観察した。それから、私の方へと視線を向けた。
「――いや。俺たちではそいつに勝てない」
私は眉をひそめた。
「……何だって?」
アーサーは警戒を解かぬまま近づいてきた。
「あれは普通のクリーチャーではないのだ、少年。それは、お前自身の一部だ」
私は沈黙した。
「そいつは、お前が抱く失敗への恐怖、仲間を死なせたという罪悪感、そしてお前自身が己をどう見なしているかという自己像のせいで存在しているのだ」隊長は説明した。「俺たちはお前の傍らで戦い、しばらくの間そいつを遠ざけることはできる。だが、お前に代わってその心を動かすことはできないのだ」
私は視線を落とした。
アーサーは私の肩の上に片手を置いた。
「お前はアーヴェンとしてそいつと対峙しなければならない。他者が期待する英雄としてではなく、命令に従う兵士としてでもない。ただの、お前自身としてだ」
クリーチャーは爪を地面に引きずりながら、再び接近してきた。
「――話し合いは終わったか?」そいつが尋ねた。
アーサーは再び剣を構えた。
「まだだ」
彼は兜の奥から私を凝視した。
「もう少し自分を信じるんだ、少年」
彼の顔に、微かな笑みが浮かんだ。
「俺たちは、信じていたぞ」
アーサーは剣を頭上へと掲げた。
「――兵士たちよ!」
男たちは戦闘態勢へと戻り、武器を盾に打ち鳴らした。
「――英雄のために道を切り拓け!」
全員が一斉に前進した。アーサーが先頭を走ってクリーチャーの両腕を直接攻撃し、兵士たちがモンスターを取り囲んで私に近づけさせまいと阻んだ。
私は深く息を吸い込み、その戦闘を見つめた。
私の右手はいまだ短剣を握り締めていた。左手は自由だった。
自らの手のひらを見つめ、私は自分が何を忘れていたのかを悟った。
クリーチャーは私に、前の世界のあの自信のない男のままでいるのだと思い込ませようとしていた。この試練の間、私自身もまたそのように考えてしまっていた。人間の姿のままであり、召喚された後に学んだいかなるスキルも持ち合わせていないかのように振る舞っていたのだ。
だが、私の魔法は、肉体の外見などに依存してはいなかった。
「どうしてこんなことを忘れていたんだ……?」私は呟いた。
私は左手を差し出した。
「――ルクス・ミニマ(小光)」
私の手のひらの上に、小さな白い光が湧き上がった。
クリーチャーはその輝きを察知し、即座に瞳を私の方へと向けた。その顔から笑みが消え失せ、そいつはアーサーを遠くへと突き飛ばした。
二人の兵士が前進を阻止しようとその長い片腕にしがみついたが、左右へと投げ飛ばされた。モンスターは他の男たちを退け、私めがけて真っ直ぐに突進してきた。
「アーヴェン!」アーサーが立ち上がろうと足掻きながら叫んだ。
私は手を掲げたまま、魔法へと魔力を送り続けた。光は強さを増し、私の指の間から不規則に溢れ出し始めた。
クリーチャーは私に向けて爪を伸ばした。
そいつが肉薄したまさにその瞬間、私は魔法を解放した。
白光の閃光が、モンスターの顔面を直撃した。クリーチャーは咆哮を上げ、両手を眼へと当てながら、視界を奪われて後退した。
アーサーが再び立ち上がった。
「――今だ!」
兵士たちが同時に襲いかかった。剣、槍、斧が、クリーチャーの肉体をあらゆる側面から捉えた。一撃一撃がいくつもの傷を切り開き、暗色の血が地面へと撒き散らされた。
モンスターは身を守ろうとしたが、攻撃を視認することができなかった。それでもなお、負傷は刻まれた直後から塞がり始めていた。
アーサーが最初にそれに気づいた。彼はクリーチャーの片腕から距離を取り、私の方を見た。
「まだ終わっていないぞ……」
私が頭をもたげた時、アーサーと兵士たちは私の前に立ち尽くし、静かにこちらを見つめていた。
アーサーは短く縦に頭を振った。それから右手を額の横へと持っていき、軍隊式の敬礼を捧げた。
すべての兵士たちが、同時にその動作を繰り返した。
私は数秒の間立ち尽くし、彼らの一人一人を見つめていた。深く息を吸い込み、右手を額へと掲げて、その敬礼を返した。
誰も何も言わなかった。もはや、語られるべき言葉など何も残されてはいなかった。
アーサーの姿がゆっくりと消え去り始めた。彼の肉体と鎧は小さな金色の粒子へと変わり、虚空へと霧散していった。直後に兵士たちも一人、また一人と消え去っていき、ついには私は再び一人きりになった。
それから間もなく、一本の古びた木製の扉が目の前に姿を現した。
今度は、躊躇わなかった。私は扉へと歩み寄り、ノブを掴み、その通路を通り抜けた。
気がつくと、私は自分が育ったあの家の前に再び立っていた。周囲の空間は相変わらず完全に白一色だった。他の建造物も、通りも、空すらも存在しなかった。ただその家だけが、そこに佇んでいた。
正面の扉が開いていた。
母が食卓の上にいくつかの皿を並べていた。父は窓の近くで道具を整理しており、下の弟たちはソファの上で言葉を交わしていた。
私は入り口で立ち止まり、数秒の間その光景を観察した。それは私がかつて過ごした人生の、家族全員がまだあの家で共に暮らしていた時代の、素朴な記憶だった。
私は中へと入った。
母が最初に私の気配に気づいた。彼女は振り返り、何かを言おうと顎を開いた。
一瞬、私は先ほど浴びせられたような非難の言葉が再び響くのを予期した。しかし今の私は理解していた。あの言葉は、家族が私に対して抱いていた想いなどではなかったのだと。それらは、私自身の恐怖が生み出したものに過ぎなかった。
私は人生の大半を、自分は彼らにとって決して十分な存在にはなれないのだと思い込んで過ごしてきた。試練はただ、その不安を私に対して利用しただけだったのだ。
母が言葉を発するよりも先に、私は彼女の元へと歩み寄り、その身体を抱きしめた。
彼女は驚きのあまり、数秒の間微動だにせず固まっていた。父は手を止め、弟たちも理解できぬといった様子で私たちを見つめていた。
私は目を閉じ、涙が再び流れ落ちるのを感じた。今度は、それを堪えようとはしなかった。
私は片方の腕を父へ、もう片方の腕を弟たちへと伸ばし、全員を近くへと引き寄せた。
「みんな、愛しているよ」私は誰一人として離すことなく言った。「僕のためにしてくれたこと、すべてに感謝している。今まで、十分に言葉にできていなくてごめんなさい」
母が私の濡れた髪を愛撫した。父が私の肩の上に手を置き、弟たちも近づいてきて私を抱きしめた。
私は彼らとのその最後の瞬間を噛み締めながら、しばらくの間そこに留まった。これが本当の私の家族ではないことは分かっていたが、彼らに対して抱いている記憶や感情は本物だった。
身体を離した時、私は彼らの一人一人を見つめた。
「さようなら」
彼らは沈黙したまま、私が遠ざかっていくのを見守っていた。
私は振り返り、家を出た。扉をくぐり抜けた瞬間、それは建物の残りの部分と共に消え去り始めた。白い空間も少しずつ変化していき、木々や苔に覆われた岩、そして滝へとその姿を変えていった。
顔のない女性が、湖の近くに佇んでいた。
青いドレスが風に微かに揺れていた。その顔面は相変わらず完全に滑らかで、眼も、鼻も、口もなかった。
私は彼女から数メートル離れた場所で足を止めた。
試練はすでに私を家族と、死への罪悪感と、自分自身に対して抱いていた邪悪な思考と対峙させた。私はそのすべてに立ち向かった。それにもかかわらず、あの女性は未だそこにいた。
シルヴァリスもまた、試練の最中に遭遇するすべてのものは私自身の内側から生じるのだと語っていた。しかし、私にはあの姿に見覚えがなかった。彼女は、かつての人生のいかなる記憶も、恐怖も、人物も象徴していなかった。
私はプロヴォロン卿の短剣を抜こうと腰へと手を伸ばしたが、そこにはただ衣服の生地があるだけだった。
武器はアーサーや兵士たちと共に消え去っていた。
それがなくとも、私は後退しなかった。左手を掲げ、自らの魔力の一部を集中させた。
「――ルクス・ミニマ(小光)」
私の手のひらの上に、小さな白い光が湧き上がった。
眼を持たぬというのに、女性はその滑らかな顔を魔法の方向へと向けた。
私は手を掲げたまま、問いかけた。
「――君は、誰だ?」
クリーチャーはついに包囲網を突破した。その長い両腕を広げ、アーサーと兵士たちを同時に薙ぎ払った。数人が即座に倒れ込み、他の者たちも地面を引きずられてようやく足を止めた。傷つきながらも、全員が再び立ち上がろうと足掻いていた。
私は彼らの元へと駆け出したが、クリーチャーの方が一歩早かった。そいつは跳躍し、私の真ん前に着地して進路を塞いだ。
後退する間もなく、巨大な両手が私の腰の周囲を締め付けた。その圧迫に、肺の中のすべての空気が力任せに押し出された。
「あぐっ……!」
クリーチャーは私を地面から持ち上げ、自らの顔の前に宙吊りにした。端から端まで引き裂かれた笑みが、再びその顔に浮かび上がった。
「見苦しいな……ほんの小さな閃光を放っただけで、俺に勝てるとでも思い上がったか?」
そいつは私の肉体をさらに強く締め上げた。激痛が肋骨を襲い、指先から力が失われていく。短剣が手から滑り落ち、地面へと落下した。
「お前は相変わらず、あの頃と何も変わらない敗北者だ」模造品は顔を私の近くへと寄せ、言葉を紡いだ。「弱い。臆病者だ。滑稽極まりないな」
一言ごとに、締め付けの力が増していく。呼吸が途絶え始め、視界の端から暗転が始まっていった。
兵士たちが再び前進しようとしたが、アーサーが片手を掲げてそれを制した。
「――待て!」
彼は、未だわずかに動かすことのできる私の右手に視線を固定していた。アーサーは私がまだ抗う意志を残していることに気づき、介入せぬことを決断したようだった。
私はクリーチャーの両腕を押し退けようと足掻いたが、腰を拘束されているせいでいかなる動作も困難だった。両脚と体幹に力を込めたが、振りほどくことはできなかった。
恐怖が舞い戻った。あの顔のない女性を前にした時、そしてあの家で家族に拒絶される姿を目にした時と同じ恐怖だった。この世界にやって来る遥か昔から、すでに自分の中に存在していた恐怖だ。
クリーチャーはさらに顔を近づけてきた。
「お前は決して変わらない……負けるために生まれてきたのだ……」
その時だった。温かい風が再び私の顔に触れた。
あの虚空の中であっても、私はその感触を即座に認識した。直後、囁き声が耳に届いた。
『今よ……』
私は自らの右手へと視線を落とした。すでにルクス・ミニマは使用していたが、自分の中に未だ僅かな魔力が残っているのを感じ取ることができた。
私は目を閉じ、残された僅かな空気で呼吸を試みた。クリーチャーの怪力に抗い続けるのをやめ、未だ自由なままの手へと魔力を集中させた。
指の間から、白い光が湧き上がった。
クリーチャーはその魔法を察知した。顔から笑みが消え失せる。
「なっ……」
私は魔力を集中させ続けた。光は強さを増し、指の間から不規則に溢れ出し始めた。
私は目を開き、目の前にある歪んだ顔面を真っ直ぐに見据えた。
「――ルクス・ミニマ(小光)!」
至近距離から魔法を解放した。白光の閃光が、クリーチャーの眼と顔面を直撃した。
そいつは悲鳴を上げ、顔を覆うために即座に私を放り出した。
私は膝から崩れ落ち、地面に手を突き、呼吸を取り戻そうと激しく咳き込んだ。背後で兵士たちが動く気配がしたが、アーサーが再び手を掲げた。今度の彼は、ただ私がどう動くのかを観察していた。
クリーチャーは爪で目を覆いながら後退していった。顔面と体幹の暗色の皮膚に小さな亀裂が走り始め、そこから白い光が漏れ出していた。
「忌々しい……」いくつもの声が同時に重なり合って響いた。「忌々しい奴め!」
私は片手を膝に当て、立ち上がった。両脚は未だ震え、呼吸も苦しいままだったが、どうにか立ち上がって踏み止まることができた。
クリーチャーは顔から爪を離し、私を睨みつけた。
「お前は相変わらずクズのままだぞ、アーヴェン」
今度の私は、視線を逸らさなかった。
「――違う」
模造品は一瞬、沈黙した。
「……何だと?」
「君は間違っている」
そいつは眉をひそめた。
「そんなはずは……」
私は一歩前へと踏み出した。
「僕は多くのことで無力だ。失敗を恐れているし、これからもたくさんの間違いを犯すだろう。だけど、だからといって自分がゴミだということにはならない」
「黙れ!」そいつは叫んだ。
私は頭を横に振った。
「黙らないさ」
「お前はまた失敗するぞ!」
「そうかもしれないな」
「お前を信じている人たちを失望させるんだ!」
「その可能性はある」
「また恐怖に震えることになるぞ!」
「間違いないね」
その最後の返答の後、クリーチャーの身体が小刻みに震え始めた。爪は少しずつ縮み、長い腕も通常のサイズへと戻り始めた。
そいつは一歩後退した。
「やめろ!」
私は前進を続けた。
「恐怖を感じるからといって、逃げ出さなければならないわけじゃない。一度失敗したからといって、すべてのことに失敗するわけでもないんだ」
そいつの身体は縮み続けた。歪な変形は次第に消え去り、顔面もかつての私の人間の姿へと戻っていった。
私がそれらの非難を絶対的な真実として受け入れるのをやめたため、そいつの力が失われていくのが理解できた。失敗することや恐怖を抱くことは認めても、それによって自分が無価値になることまでは受け入れなかったからだ。
模造品は一メートルほどの大きさになった。その後、私の膝の高さまで縮み、さらに縮小を続け、ついには私の片手に収まるほどの大きさになった。
私は近づき、そいつの前で足を止めた。
小さな人影は怒りを露わに私を睨みつけていたが、もはや私を攻撃する力は残されていないようだった。数秒の後、そいつは目を閉じ、溜息を漏らした。
「なら、早く終わらせろ。俺を破壊しろ」
私は身をかがめ、地面から短剣を拾い上げた。それを腰に納め、開いた手のひらを模造品の前に差し出した。
そいつは私の手のひらを見つめてから、その上へと登った。
私はその小さな反射を数秒の間観察し、頭を横に振った。
「――嫌だ」
そいつは目を開いた。
「……何だって?」
「僕は君を破壊しない」
「どうしてだ?」
「君がある一つのことについて、正しい指摘をしていたからだ」
模造品は私を凝視し続けた。
「君は、僕の一部だ」
私は深く息を吸い込み、言葉を続けた。
「そういう思考が存在しないかのように装ったところで意味はない。それらに決断を支配されることなく、上手く付き合っていく方法を学ばなければならないんだ」
そいつは私の手の上で微動だにせず佇んでいた。
「僕はこれからも恐怖を抱くだろうし、まだ何度も間違える。時には自分が弱く思えて、諦めそうになることもあるはずだ。だけど、たとえ結果が期待通りでなかったとしても、僕は挑戦し続けるよ」
小さな模造品は視線を逸らし、答えなかった。
私はそいつの周囲を慎重に指で包み込んだ。締め付けはしなかった。ただ手を握ったまま、その一部分が自分の中に存在し続けていることを受け入れ、同時にそれが私の行動のすべてを支配する必要はないのだと言い聞かせた。
私の拳の周囲に、白い光が湧き上がった。小さな人影は光の粒子へとほどけ、指の間を通り抜けて私の手へと吸収されていった。
腕を駆け上がり、身体の残りの部分へと広がっていく微かな痺れを感じた。
恐怖や疑念が消え去ったわけではなかった。模造品が口にした一言一言を、私は未だに鮮明に覚えていた。ただ違っていたのは、そのすべてが真実であるとは、もう思わなくなったことだった。
深く息を吸い込んだ。未だ痛みと疲労は残っていたが、パニックに陥ることなく呼吸を取り戻すことができた。
女性は答えなかった。
私は手のひらの上に白光を掲げたまま、彼女に向けてさらにもう一歩踏み出した。
「今なら確信が持てる。君はこの試練の一部じゃない。僕の精神が生み出した幻影でもないんだ」
彼女はゆっくりと頭を横に傾けた。
「君の正体は一体誰だ?」
女性は数秒の間、沈黙を守った。口を持たぬというのに、彼女の声は再び明晰に響き渡った。
「――私はただの……物好きですよ」
私は警戒の構えを崩さなかった。
「それでは僕の問いに対する答えになっていない」
滑らかな顔面のどこ一枚動くことはなかったが、その人影から微かな忍び笑いが漏れた。
「――すべての問いが、投げかけられたその瞬間に答えを与えられるわけではありませんよ、アーヴェン」
私がさらに追及するよりも早く、景色が刻々と震え始めた。滝の水はその形を失い、木々は少しずつ掻き消え、足元の地面も消失していった。
女性の姿もまた、消滅し始めていた。その肉体は足元から崩れるようにして小さな白い粒子へと変わり、ゆっくりと頭部に向かって這い上がっていった。
「待ってくれ!」私は叫んだ。「君は誰なんだ?!」
彼女は応じなかった。
それから間もなく、私の周囲のすべてが白光によって塗り潰された。肉体の制御を失い、私は目を閉じた。
再び目を開いた時、私は勢いよく空気を吸い込んだ。
私は再び、精霊界にあるあの苔に覆われた石のベンチの上に横たわっていた。
反射的に腰へと手を伸ばした。そこにはただ衣服の生地があるだけだった。
短剣は消え去っていた。
私は数秒の間横たわったまま、起こったすべての出来事を整理しようと足掻いていた。自らの家族、アーサー、兵士たち、クリーチャー、そしてあの顔のない女性の姿が、未だ脳裏に鮮明に焼き付いていた。
頭を少しもたげると、緑色の毛むくじゃらの顔がいくつも私の上に身を乗り出しているのが見えた。ヨードルたちがベンチの周囲に集まり、極めて間近から私を観察していたのだ。
「やっと目を覚ましたぞ!」彼らの一人が小さな跳躍を交えながら叫んだ。
別の者が腕を組んだ。
「だから言ったろ、こいつは永遠にかかるって」
「それに相変わらずガリガリだな!」三人目が私の腕をつつきながらコメントした。
「相変わらず不細工だしな!」さらに後ろにいたもう一人が付け加えた。
何人かが彼に向かって、それは無礼だと文句を言い始めた。直後に彼らは口論を始め、互いを押しのけ合い出した。
シルヴァリスはその混乱を見つめながら、低く笑声を漏らした。
「小さき者たちよ、我らの客人が呼吸できるように場所を空けてやるのだ」
ヨードルたちは不満の声を漏らしたものの、その言葉に従った。彼らはベンチから離れ、近くの岩の上に腰を下ろしたが、それでも私を観察し続けていた。
シルヴァリスは私へと注意を戻した。
「――語るが良い、アーヴェン。お前の試練はどうであった?」
私は腰を下ろす前に、数秒の間思考を巡らせた。顔を手で拭うと、自らの灰色の肌の上に未だ涙の跡が残っていることに気づいた。
「最悪でした」私は答えた。「だけど、あの経験を経る必要があったのだとも思っています」
シルヴァリスは頷いた。
「――お前は何を見出したのだ?」
私は視線を自らの両手へと落とした。
「家族が、僕がずっと恐れていた言葉のすべてを口にするのを見ました。自分が己に対して抱いている邪悪な思考を繰り返す、もう一人の自分とも対峙しました。それに、アーサーやフロストベインで命を落とした兵士たちとも遭遇したんです」
私は言葉を続ける前に、一瞬の間を置いた。
「最終的に理解しました。恐怖や不安が完全に消え去ったかのように装う必要はないのだと。ただ、それらに自分のすべての選択を支配させないようにしなければならないのだと」
シルヴァリスは満足げな表情を浮かべたままでいた。
「――ならば、試練はその役割を果たしたということだな」
数秒の後、彼の表情はいっそう厳しさを増した。
「――しかしながら、お前が試練を経ている間、私はあの空間の中に別の気配を察知していた」
私は眉をひそめた。
「僕も彼女に遭遇しました」
「――何を見たのだ?」
「濃緑色の髪をして、青いドレスを着た女性です。彼女の顔面は完全に滑らかでした。眼も、鼻も、口もありませんでしたが、普通に会話をしていました」
シルヴァリスは沈黙を守り、細部の一言一言に注意を払っていた。
「彼女は滝の近くに現れ、僕を無理やり近づけようとしました。彼女が手を動かすと、僕の両脚が勝手に動き出したんです。その後、再び遭遇した時には、自分はただの物好きだと口にしていました」
始原の存在はゆっくりと頭を縦に振った。
「――やはり、私が察知した気配はその者であったか。それはお前の精神から生じたものではなく、試練の一部でもなかったのだ」
「彼女が何者なのか、心当たりはありますか?」
「――いや、分からん」
私は驚いて彼を見つめた。
「貴方ほどの御方でもですか?」
「――私はこの世界に存在するすべてのクリーチャーや存在を知悉しているわけではないのだ、アーヴェン。私は古く、多くのことを知ってはいるが、それがすべての正解を持ち合わせているという意味にはならん」
その返答は、私の懸念をさらに深めるだけだった。
「では、彼女は貴方の許可なしに、あの試練へ侵入することに成功したということですか?」
「――その通りだ」シルヴァリスが答えた。「そして、それがどのようにして起こったのかを突き止めるつもりだ」
彼は言葉を続ける前に、短く間を置いた。
「――差し当たって最も重要なのは、お前が試練を完遂したということだ。お前は自らの恐怖と、背負っていた罪悪感、そして己の自己像と対峙した。それにより、私の祝福の使用を阻んでいた障壁は取り除かれたのだ」
私は自らの手を見つめ、ゆっくりと指を握り締めた。
「では、今ならその力を扱えるということですか?」
「――見極めるとしよう」
シルヴァリスは片手を掲げた。
広場の光が急速に減衰し始めた。わずか数秒のうちに、精霊界は完全な暗黒へと包み込まれた。
それにもかかわらず、私には見えていた。
目の前にいるシルヴァリスの姿も、岩に散らばるヨードルたちも、苔に覆われたベンチも、さらには遥か遠くの木々の葉の一枚一枚までもが視認できた。以前ほど鮮やかな色彩は存在しなかったが、その輪郭は極めて明瞭だった。
「……すべてが見えます」私は周囲を見回しながら口にした。
昼の光が舞い戻った。
シルヴァリスは満足げに頷いた。
「――繋がりは機能しているようだな。だが、それぞれの能力を制御する方法は未だ学ばねばならんぞ。聴覚、均衡、そして森の知覚には訓練が必要だ。物音を立てずに歩くこともまた、鍛錬次第だ」
私は頷いた。
「前へと進むのを阻んでいたいくつかの問題を、ようやく解決し始めることができたのだと思います」
「――解決し『始めた』のだ」シルヴァリスが訂正した。「一度の試練ですべてが消え去るなどと期待するな。それらの疑念は再び舞い戻ることもある。違いは、今のお前はそれらに従う必要はないのだと知っていることだ」
ヨードルたちが再び近づき、ベンチを取り囲んだ。
「幸運を祈るぞ、奇妙な英雄!」彼らの一人が叫んだ。
「あまり早く死ぬなよ、じゃなきゃ俺の賭けが無駄になっちまう!」別の者が付け加えた。
「二度と戻ってくるなよ!」三人目が、両手を振りながら私に告げた。
「こいつはまだ不細工なままだぞ!」
「それにガリガリだ!」
私は笑いを噛み殺すことができなかった。
私はベンチから立ち上がり、シルヴァリスの前で一礼した。
「すべてに感謝します、シルヴァリス様」
「――我らが言葉を交わす機会は今後もあろう」彼は応じた。「だが、差し当たって戻る時間だ」
私はヨードルたちを一目だけ振り返った。
「またいつか」
「戻ってくる必要はないぞ!」彼らの一人が叫んだ Lights.
シルヴァリスは片手を掲げた。私の身体の周囲に、白い光が湧き上がり始めた。
「――目を覚ました時、お前は再び聖樹の傍らにいるだろう。ヴァレリス師がお前を待ち続けている」
私は頷いた。
光は強さを増し、シルヴァリスを、ヨードルたちを、そして広場のすべてを覆い尽くしていった。すべてが消失してしまう前に、私はその場所を最後にもう一度だけ見つめた。
その強烈な光の中であっても、私には自らの周囲にある細部の一一つが、未だに鮮明に識別できていた。




