風は囁いた:己自身と向き合う時
暗闇はほぼ一瞬にして消え去った。
目を開けると、私は前の世界で暮らしていた家の前に立っていた。周囲には道路も、空も、他の建造物も一切存在しなかった。すべてが完全な白に包まれ、ただその家だけが私の前に佇んでいた。
ゆっくりと近づいていく。扉の鍵は開いており、触れるとすぐに開いた。私は何も言わずに中へと入った。
リビングに入ると、ソファの上に小さな手鏡が置かれているのが見えた。それを手に取り、顔の前に掲げる。
尖った耳も、青い瞳も、白い髪もそこにはなかった。私は、かつての人間としての姿をしていた。
数秒の間、自分の顔に触れる。
シルヴァリスは、あの世界における私の肉体はダークエルフとして創造され、形作られたものだと説明していた。しかし、私の精神と意識は人間のままなのだ。だからこそ、この場所ではこのような姿で現れたのかもしれない。
キッチンから足音が聞こえ、私は我に返った。
振り返ると、廊下から母が現れた。
最初のうち、彼女は昔と同じように振る舞った。手を拭き、もうすぐお昼ご飯ができると言い、これまでの数時間をどこで過ごしていたのかと尋ねてきた。
一瞬、そのすべてが現実だと信じたくなった。ウンスールも、恐怖の森も、ダークエルフも最初から存在しなかったのだと思いたかった。
だが、次の瞬間、彼女の表情が変わった。
「あなたは一度だって、この家族の期待に応えたことがなかったわね、アーヴェン。小さい頃からいつもおろおろして、自分が何をしたいのかも分かっていない。人生で一度も、何一つまともに成し遂げられたことがないじゃない」
言い返す前に、新たな足音が聞こえた。父がリビングに入ってきて、私の数メートル手前で足を止めた。
「俺の人生における最大の過ちが何か、お前は知っているか?」
私は沈黙を守った。
「いつかお前が変わり、俺たちに少しでも誇りをもたらしてくれるだろうと信じたことだ」
母が一歩前に踏み出した。
「あなたを育てたことは、私たちがした最悪の選択だったわ。あなたはこの家族に、心配と、恥と、失望しか運んでこなかったもの」
私は答える言葉を探そうと、数秒間視線を落とした。
「僕はいつだって、できる限りのことをしてきた……。働いて、手助けをしようとして……二人に迷惑をかけたり、お荷物になったりしたくはなかったんだ」
父は首を横に振った。
「お前はいつだってできる限りのことをしてきたが、それでは一度だって十分ではなかったんだよ」
その時、階段の上から年下の弟たちが姿を現した。彼らは階段を降りてリビングで足を止め、歓喜の色を一切見せずに私を睨みつけた。
「なんでまだ、しつこくここに現れるんだよ?」片方が尋ねた。
「あんたが消えてから、家の中はずっと静かになったんだよ」もう片方が言葉を継いだ。
母が扉を指差した。
「出て行きなさい」
父が背を向けた。
「お前はもう、この家族の一員ではない」
弟たちが近づいてきて、私を押し始めた。まず、彼らは私の胸に手を当てて後退を強いた。それからクッションや靴、本を掴み、私の体めがけて次々と投げつけ始めた。
「ここから出て行け!」
「二度と戻ってくるな!」
私は両親に目を向け、どちらかが二人を止めてくれるのを待った。
だが、彼らは何もしてくれなかった。
私は家から押し出されるまで、ずっと押され続けた。目の前で扉が閉まり、その直後に鍵が閉まるカチリという音が響いた。
私は白い空間の中に立ち尽くし、ただ家を見つめていた。
拳を握り締め、涙を堪えようとした。それから背を向け、進むべき道も、行くべき場所も存在しないというのに、ただ走り始めた。
行くあても分からぬまま、私は白い空間を走り続けた。数歩進むと、景色が突如として変貌した。白の世界は消え去り、完全な暗闇がその場所を支配した。
私は即座に足を止めた。
見渡す限り床も壁も、いかなるオブジェクトも存在しない。それなのに、私はまだ立ち続けていた。
その時、背後から足音が聞こえた。
素早く振り返ると、そこには自分と瓜二つの者が立っていた。同じ人間の顔、同じ痩せた身体、そして前の世界で着ていたのと同じ服。唯一の違いは、その顔に浮かんだ人を小馬鹿にしたような嘲笑だった。
私は一歩後退した。
「な……? どうして?」
模造品は membership もなく笑い始めた。
「俺はお前だよ、アーヴェン」
「そんなの、わけが分からない」
「お前が認めたがっている以上に、筋が通っているさ」
彼は笑みを浮かべたまま、数歩近づいてきた。
「お前はこれまでの人生、ずっと逃げ続けてきたんだろう? 本当に挑戦してみる前に、いつも諦めていた。何か困難が現れるたびに、すべてを放り出すための言い訳を見つけていたな」
私は沈黙した。
「何かを始めては、わずか数日後に辞めてしまったことが何度あったか覚えているか? 放り出した講座は? 間違えて批判されるのを恐れるあまり、見送ってきたチャンスは? お前はいつも自分が失敗すると思い込んでいた。だから、そうなる前に諦める方を選んでいたんだ」
「そんな単純な話じゃなかった……」
「もちろん違ったさ」彼は遮った。「いつだって説明(言い訳)が存在したもんな、そうだろ?」
模造品の笑みがさらに深くなった。
「だが、前の世界の話はもういい。この新しい世界の話をしようじゃないか」
彼は私を指差した。
「お前は七人の英雄の一人として召喚されたが、お前の姿を見た瞬間に、誰もが疑いの目を向け始めた。予言の選ばれし者たちの中に、恐怖の森のダークエルフが現れたんだからな。彼らにとって、お前は最初の一言を発する前から、すでに裏切り者のように見えていたのさ」
私は拳を握り締めた。
「それは僕のせいじゃない」
「分かっているさ。だがお前は、彼らの考えを変えられると思ったんだろう? 英雄らしく振る舞い、彼らが間違っていることを証明すれば十分だと考えたんだ」
模造品は私の方へとさらにもう一歩踏み出した。
「だが、アーサー隊長は死んだ」
私の身体が硬直した。
「お前と一緒に旅をした兵士たちも、エボニー・シャドウの襲撃の最中に全員死んだ」
「あれは全部ブリアナのせいだ!」私は即座に言い返した。「彼女が僕たちを裏切ったんだ!」
模造品は歪んだ笑みを浮かべた。
「そうだな……あの狂ったアマにすべての責任を押し付けよう。彼女に指を突きつける方が、遥かに楽だもんな?」
彼は私の目の前で足を止めた。
「だが、あの物語の英雄は誰だった?」
私は沈黙を守った。
「あの人々を守るべきだったのは誰だ?」
私は歯を食いしばった。
「お前だ」彼は答えた。「そして、お前は誰一人として守れなかった」
「あの瞬間、僕には何もできなかった!」
「できたさ。ただ、お前が弱かったんだ」
「ブリアナは強すぎたんだ! 彼女のような化け物に対抗できる術なんて、僕にはなかった!」
模造品は高笑いした。
「それがどうした? お前は召喚された英雄だったんだ。あの人々はお前が助けてくれると信じていた。結局、お前は全員が死んでいく間、ただそこに突っ立っていただけじゃないか」
「口を閉じろ」
「お前はアーサーを救わなかった。兵士たちも救わなかった。ブリアナを止めもしなかった。何一つとして成し遂げなかったんだ」
「口を閉じろと言っているんだ!」
模造品はさらに距離を詰め、私の胸を指差した。
「そして今度は、文明の遅れたエルフの集団に砂糖やコーヒー、その他の簡単なものの作り方を教えた。ただそれだけのことで、自分が重要な存在にでもなったつもりか?」
私は眉をひそめた。
「彼らのことをそんな風に言うな」
「なぜだ? 今や彼らがお前を村に歩かせ、何人かの子供がお前の話を気に入ってくれているからか? 世界から隔離された野蛮人の集団にいくつかの基本を教えただけで、自分が一番偉くなったとでも思っているのか?」
「彼らは野蛮人なんかじゃない」
「じゃあ、それをお前は英雄と呼ぶのか? 魔王がこの世界を破壊し続けているというのに、コーヒーを淹れて子供たちと遊んでいることを?」
怒りが私を支配し始めた。
「君は彼らのことなんて何も知らない」
模造品は再び笑った。
「お前が知っていることはすべて知っているさ。忘れるな、俺はお前なんだからな」
彼は私の胸を二回、軽く叩いた。
「お前は相変わらず、あの頃と同じ負け犬のままだ。唯一の違いは、まだそのことに気づいていない連中を見つけたということだけさ」
私はもう、自分を抑えることができなかった。
全霊の力を込め、自分の模造品の顔面に向けて拳を突き出した。
一撃は顎を捉え、彼を横へと数歩よろめかせた。
彼は口の端に手を当て、流れ出そうとする血を拭った。それから、自分の指に目を落とし、再び私を真っ直ぐに見据えた。
その顔に、満足げな笑みが浮かんだ。
「――まさに、それを待っていたんだよ」
もう一つの自分は前に躍り出ると、私が使ったものよりも遥かに強い力で、私の顔面に真っ直ぐな拳を叩き込んできた。
その衝撃で私は地面へと倒れ込んだ。立ち上がる間もなく、模造品は私の胸の上に馬乗りになり、片腕を押さえつけて容赦なく殴り始めた。
「――ほら、どうした!」もう一発拳を叩き込みながら、そいつは叫んだ。「反撃してみろよ、偽物の英雄が!」
さらに別の打撃が私の顔面を捉えた。
「何一つできないくせに、どうやって魔王を倒すつもりなんだ?」
私は自由な方の腕で身を守ろうとしたが、そいつはその手を払いのけ、私の顎を正確に打ち抜いた。
「お前は自分と同じ奴にさえ勝てやしないんだ!」
さらにもう一発の拳が私の鼻を直撃した。
「なぜだか分かるか? お前が相変わらず滑稽なままだからだよ!」
また一撃。
「いつだって、ただの臆病者なんだ!」
もう一撃。
「いつだって、ただの負け犬なんだ!」
また別の拳が私の顔面に突き刺さる。
「いつだって、ただの役立たずなんだ!」
私はそいつを押し退けようとし、自由な腕で殴りかかり、身体をひねって退けようと足掻いたが、すべては無駄だった。抗おうとするたびに、模造品の高笑いは激しさを増していった。
ようやく手が止まった時、そいつは私のシャツの襟ぐりを掴み、その顔を至近距離まで引き寄せた。
「これらすべての、何が一番最悪な部分か分かるか、アーヴェン?」
私はまともに言葉を返すことすらできなかった。模造品は笑みを深めた。
「最悪なのはな、俺が言っていることのすべてが、お前自身から出てきたものだってことさ。俺はこんな言葉、一つも創り出しちゃいない。全部、お前がこれまでに頭の中で考えてきたことなんだよ」
そいつは手を離し、私の後頭部は再び暗い地面へと打ち付けられた。私は反撃する力もなく、数秒の間そこに横たわっていた。模造品は立ち上がると、私の腹めがけて容赦のない蹴りを見舞った。そして、笑いながら距離を取った。
私はその隙を利用し、這いつくばりながら後ろへと退がった。荒い呼吸を繰り返しながら、無理やり身体を突き動かして立ち上がる。ようやく両足で立ったその時、そいつの笑い声に変化が生じ始めた。
声が、より低く重くなっていったのだ。
模造品の頭部が、突如として左側へとガクリと傾いた。首が、まともな人間なら到底耐えられないような角度にねじ曲がっている。
そいつは数秒の間、その状態のまま静止していた。
その時、パキリと乾いた音が響いた。
続いて、もう一つ。
首がゆっくりと、正しい位置へと戻り始めた。頭部が収まるべき場所に落ち着くにつれ、骨の上で皮膚が不気味に蠢いた。瞳の位置が一瞬だけズレ、それから元の場所へと戻った。
その顔には、未だあの笑みが張り付いたままだった。
私は一歩後退した。
「……君は、一体何なんだ?」
模造品は答えなかった。
そいつは頭を垂れ、再び笑い始めた。その笑い声は次第に大きくなり、人間の声としての面影を完全に失っていった。
全身がガタガタと震え始める。最初の破裂音は両肩から響いた。
続いて、背骨から。
両腕が伸び始めた。皮膚の下で骨が伸長し、いくつかの箇所で皮膚を裂いた。その傷口から、暗色の液体が滴り落ち始める。
両脚が後ろ側へと折れ曲がり、それから再び通常の不自然な位置へと戻った。手の指が伸び、長く細いものへと変貌していく。爪は黒く、そして鋭く尖っていった。
身体のあちこちで皮膚が裂け、すぐ下に蠢く黒い質量を覗かせた。その後、また皮膚は閉じたが、その形はいびつで不揃いだった。
その悍ましい変貌の最中も、そのクリーチャーは言葉を発し続けていた。最初のうち、その声はまだ私自身のものと同じだった――。
「――お前は……」クリーチャーがそう口を開くと、新たな破裂音がその顎を駆け抜けた。それは数センチメートルほど下方へとズレ、危うく胸に届きそうになった後、湿った音を立ててゆっくりと元の位置へと戻った。「……絶対に……」
先ほどまでは私と同じだった声が、掠れ、歪み始めた。最初の一声に、別の複数の声が混ざり合いだす。あるものは甲高く、あるものは低く重く、幼子のようであり、あるいは囁きのようでもあった。まるで、いくつもの異なる喉が、同時に全く同じ言葉を紡ごうと悶えているかのようだった。
「……逃れられない……」
身体の奥からの破裂音はさらに激しさを増した。モンスターの背骨は後ろ側へと弓なりに反り返り、それによって体幹が前方へと屈曲することを強いた。両腕はすでに異様なほどに伸びきっており、黒い爪の先端が暗い地面を引きずっていた。
クリーチャーは歪んだ頭部を、私の方へとゆっくりともたげた。
「……俺から……」
変貌が終わりを迎えた時、その姿には、かつて人間だった男の面影などほとんど残されていなかった。背中は丸まったままで、腕はあまりにも長く、身体を支えるために両手は地面についたままだった。その笑みは、顔を端から端まで引き裂かんばかりに広く狂っていた。
それなのに、瞳だけは私と同じままだった。それは理性を宿し、恐怖に満ちた、人間の眼だった。自らの一部が未だあのクリーチャーの中に囚われ、自分の身体を制御することもできぬまま、その一部始終を強制的に見せつけられているかのようだった。
モンスターは頭を横へと傾け、その笑みをさらに大きく開いた。
「お前は絶対に俺から逃れられない……」そいつは、それらすべての声を同時に響かせて言った。
思考が追いつくよりも先に、私の身体が反応していた。私は踵を返し、両脚に残されたすべての力を振り絞って全力で走り出した。
背後で、クリーチャーは人間のような走り方をしていなかった。そいつは長い腕を使って身体を推進させ、地面を這いずり回っていた。動きを重ねるたびに、爪が暗い地表を引っ掻いて甲高い音を立てた。歪んだ高笑いが、刻一刻と距離を縮めながら私の背後に迫り狂っていた。
振り返る勇気などなかった。私はその虚空の真ん中に、古びた木製の扉が見えるまで走り続けた。周囲には壁も、天井も、いかなる建造物も存在しない。それは暗闇の真ん中にぽつんと立つ、孤独な一枚の扉だった。
私は進路を変え、そこへ向かって突進した。冷たいドアノブを掴んだ瞬間、素早く肩越しに振り返った。
モンスターはすでに目と鼻の先まで迫っていた。その腕が私めがけて伸ばされ、人間の眼が私を凝視し続けていた。その瞳に宿る恐怖が、すべてをいっそう異様なものにしていた。まるで、そのクリーチャー自身も、自らから逃れようと足掻いているかのように見えたからだ。
私はドアノブを回して扉を飛び越え、爪が自らの背中に届くかというまさにその刹那、ありったけの力で扉を閉め出した。
衝撃で、私の身体に押し付けられた木がガタガタと震えた。クリーチャーは扉の向こう側を引っ掻き始め、ザラザラとした執拗な音を響かせた。木を削る爪の音に混ざり、くぐもった高笑いが数秒間続いた。
私は扉に背中を預けたまま、荒い呼吸を繰り返し、高鳴る心臓を落ち着かせようと努めた。引っ掻き音が静まるのを待ち、それから目を開けて周囲を見渡した。
景色は完全に一変していた。あの暗い虚空も、クリーチャーも、跡形もなく消え去っていた。
目の前には澄んだ水の滝が流れ落ち、周囲は高い木々や苔に覆われた丸みを帯びた岩、そして豊かな植生に囲まれていた。夕暮れの光が枝葉を通り抜け、滝壺が形成する湖の一部を照らし出していた。
私はその場所を、ほぼ瞬時に思い出した。それは、私が働き始めて人生の多くのものを放り出す遥か昔、幼少期の夏によく遊んでいたあの滝だった。
「この場所を……知っている……」私は湖の岸辺をゆっくりと歩きながら呟いた。
数歩進んだところで、私は足を止めた。
水辺の岩の上に、誰かが腰掛けていた。その人影は微動だにせず、両足を流れに浸したまま、顔を滝の方へと向けていた。
私はより注意深くその姿を観察した。それは緑がかった濃い色の長い髪を持つ女性で、水面から吹く風に微かに揺れる青いドレスを身にまとっていた。
最初の衝動は、そこから立ち去ることだった。自らの模造品にあのような目に遭わされた後では、この試練の中に現れるものを何一つとして信用できなかった。
後退しようとするよりも先に、女性が声を乗せた。
「アーヴェン……こちらへおいで」
その声は穏やかで心地よいものだったが、それが私の心を安らげることはなかった。
私は一歩、後ろへと退がった。
「嫌だ。近づくつもりはない」
女性は数秒間、腰掛けたままだった。それから、ゆっくりと私の方へと顔を向け始めた。
その顔が光の下に晒された瞬間、私は恐怖が即座に舞い戻るのを感じた。そこには眼も、鼻も、口も、いかなる特徴も存在しなかった。その肌は、完全に滑らかで、青白かった。
「おいで」彼女は繰り返した。
私はさらにもう一歩、後退した。
「嫌だ……」
女性は片手を挙げ、人差し指を曲げて私を近くへと手招きした。
まさにその瞬間、私の両脚が勝手に動き始めた。私は止まろうとし、足を地面に踏み付け、身体に下がれと命じたが、何一つ機能しなかった。
私は自らの意志に反して、前進し続けた。一歩進むごとに、湖のほとりに佇むあの顔のない女性の元へと、確実に引き寄せられていった。




