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氷銀の魔女  作者:
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8-4 衝突

「それは、表向きは『魔法への依存の脱却と富国強兵政策を実現する』計画です。Yは北欧神話の世界樹の『ユグドラシル』から来ています。


 しかし実際は、人造兵計画のひとつでした。目的は、ユリィ・フロストという少女のみが持つ力、『極光魔法』を再現し、自由に制御できるようにすることで、最強の軍隊を作るというものでした。


 極光魔法とは、かつて文明を滅ぼしたと伝えられる、理を超えた神の力。その力に目が眩んだ熊谷は、ユリィ・フロストを研究所に幽閉し、人造兵にしました。


 ユリィを暴力、暴言などの虐待行為で洗脳し、従わせました。再現性の皆無な極光魔法を、小さな少女が使いこなせるわけがありませんでした。


 研究所の場所は最近までは分かりませんでしたが、今も何か動きがある可能性が極めて高いです。


 私が知るプロジェクト・Yの概要は以上となります」


 衝撃的な内容に、その場の全員が息を呑んだ。沈黙が重い。


 しばらくすると、此人が右手を挙げた。


「あの時、天野代表がユリィちゃんを捕まえようとしたのは、プロジェクト・Yのためだったのですか?」


「……熊谷が国武院のバックにいると考えれば自然だろう」


「でも━」


 紅葉が口を開いた。全員が紅葉の方を向いた。一瞬たじろいだ。


「どうしてユリィさんに固執するのでしょうか?極光魔法の能力を持つ人はいなかったのでしょうか?」


━その疑問はある意味ごもっともだよ。


「その力を持つ者が生まれるのは100年に1人と言われている。彼女の存在は熊谷にとっては唯一無二の存在であることは想像に難くない」


「でも、そのユリィさん本人が今研究所にいないのに、プロジェクト・Yもヘチマも無くないですかぁ?」


 兼孝は矢継ぎ早に堂ノ上に訊ねた。


「それもこれから調査する。それ以上のことは私も把握していない」


「ですよね〜」


 重い空気を払拭するように兼孝は振る舞う。


「それで、調査した後はカチコミに行きますか?それとも、マスコミに告発しますか?」


 軽い調子で兼孝は訊ねた。


「それなんだが」


 口を開いたのは井伊だった。


「実力行使はともかく、マスコミはほとんど政府の味方である故、告発しても握り潰されるだろう」


 井伊は続ける。


「しかし、メディアにもマトモな記者はいる。マトモ故に冷遇されているが、誠実な人間だ。彼女の協力は必要だろう。コンタクトはこちらでとる」





 ゆかりは偶然、ユリィが和真を拒絶する場面を見ていた。


 かずまなんか、大っ嫌い。


 その言葉が、ゆかりの脳裏に焼き付いていた。


 何が起こったのか、理解に時間がかかった。


 茫然と膝をつき崩れ落ちた和真の背中が小さく見えた。


 なんと声を掛ければいいのか、分からなかった。


 ゆかりはその場を逃げるように立ち去った。


━なんで?


━こないだまでは、あんなに距離が近かったのに。


 国武院事件の後、ゆかりは、ユリィが和真を避けている理由はなんとなく理解していた。


━だとしても、『大嫌い』は納得がいかない……。


 ユリィを、諦めたくない。


 ユリィと、全力で向き合いたい。


 和真の言葉が脳裏をよぎる。


━あんな真剣な眼差しで言われたら、協力しないわけにはいかないじゃない。


 和真を応援したいと思う一方、ユリィに対する静かな怒りも込み上げてきた。


 「大嫌い」という言葉。


 ゆかりには、それが本心だとは思えなかった。





 言ってしまった。


 心にもないことを。


 でも、それは仕方がない。


 ユリィは必死に自分に言い聞かせた。


 本当は彼のそばにいたい。


 本当は彼に触れたい。


 本当は彼に甘えたい。


 それは、許されない。


 泣きたいのに、涙が出ない。


 いつも2人で一緒にいたベンチを眺め、黄昏れる。


 後ろから人の気配━


「ユリィ、見てたよ、さっきの。あれは、どういうこと?大嫌いって」


 ゆかりだ。


「なんでそんなこと言ったの?」


 言いたくない。あなたには関係ない。


 ユリィは俯き、黙っていた。


「和真はね、あなたに全力で向き合いたいって、あなたを諦めたくないって」


「……かずまは、わたしなんか、いらない。わたしも、必要ない」


 絞り出すように声を出す。


 声が震える。肩が震える。手が震える。


 数秒の静寂。風で揺れる木々の音が周囲に響いていた。


「逃げるなよ」


 今まで聞いたことがない、ゆかりの怒りの籠った声。


 ユリィはビクッとわずかに肩を震わせた。


「あんたは和真が傷つく現実から目を背けてるだけ!和真のためって言いながらあんたは自分を守るために逃げてるだけ!」


━どうして、ゆかりはそんなに怒るの?


「私が『かずま』をとっちゃうよ?」


 本当ならその一言は、ゆかりであっても許せない。しかし━


「……好きにすれば?」


 言い放ってしまった。


「かずまが幸せなら、どうでもいい」


「なっ……!」


 ゆかりの絶句する声。一息おいて、一言。


「わかったよ……もう、何も言わない」


 涙声になったゆかりは、その場を離れていった。


━これで、いいんだ。

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