8-3 調査結果報告
貝塚兼孝は、秋野紅葉と矢場内此人とともに、理事長室近くの会議室に招集された。
「こーんにーちわー!」
兼孝が入室した後、此人と紅葉が一礼した。
すでに堂ノ上真聖理事長をはじめ、パブロ溝呂木と、地位の高さそうなスーツ姿の男性が着席していた。
兼孝達は席に着いた。
「あれ、井伊議員、どうしてこちらに?」
此人は堂ノ上とスーツ姿の中年男性の顔を交互に見た。
「ああ、先ほどイェルサレムから帰ってきたところだ。かめむし君には非常にお世話になっているよ」
「誰?」
紅葉が兼孝に囁き訊ねた。
「井伊直造さんだね。魔法主義の国民革新党の議員で、《ホープフル》社の元代表取締役かつ、暁星学院の出資者だよ」
「え、あの人が?」
「ボクも会うのは初めてだけどね」
兼孝と紅葉はヒソヒソと話した。
「今回こっちに来たのは国武院の件だ。やはり、彼らの魔の手に捉えられていたか」
井伊は特に表情を変えることはなかった。
「ええ、彼らが垣間見た実態を今回お話しさせて頂こうと思いまして。お忙しい中、ご足労いただきありがとうございます」
堂ノ上は対面の井伊に向かって意図を述べた。
「構わんよ。どうせ私のような野党議員には国会の議論に参加する余地すら与えられないからな」
「左様でしたか。では早速ですが━」
「ちょーっと失礼します」
兼孝は立ち上がった。紅葉は顔を引き攣らせていた。
「どうした、貝塚」
兼孝は溝呂木の声かけに答えず、目を閉じていた。
「《ディテクター》」
兼孝は部屋の隅のラックと壁の間を指した。その後、隙間に手を入れ、何かを手に取った。
「盗聴機、ね」
兼孝の意図を察したのか、此人がボソッと呟いた。
「なんと!」
堂ノ上は目を見開いていた。
「しかし、誰が何のために?」
「持ち主に聞かないと分かりませんね。残念だったねぇ、誰かさん」
兼孝は軽い調子で盗聴機の持ち主を煽った。
「防犯カメラに映ってるかもしれん、コズミックの隊員に確認させる」
溝呂木はそう言い、ピッチで指示を出した。
「では気を取り直して」
堂ノ上はノートパソコンのマウスを動かした。
プロジェクターにはパソコンの画面。そこには、国武院や周辺組織の関係図。
「結論から申し上げますが、我が校と国武院は今後、対立関係にあると考えます」
堂ノ上の言葉に、井伊は特に表情を変えた様子はなかった。
「彼らは、魔法主義集団によるテロだと主張しています。しかし実際は、矢場内君と以下数名の学生が、多数の兵士に銃を向けられたことによる正当防衛です」
「お前ら、よく帰ってこられたな……」
溝呂木が兼孝に向かって言う。兼孝は「あっは〜、それほどでもぉ」と返した。
「……これにより、我が校の生徒、東条和真君が銃弾を受け、負傷により2日間の入院となりました」
堂ノ上は事実を淡々と述べた。
「ふむ、本当であれば対立は避けたかったのだが、彼らが国武院を利用するのなら仕方あるまい」
井伊は渋い顔をしていた。
「まあ、調査に行かなくてもいずれはこうなってたんじゃないですかね」
兼孝が口を開いた。隣で紅葉は「は?」と口に出していた。堂ノ上は兼孝を興味深そうな目で見ていた。
「国武院に明確な不祥事が判明してたなら、理事長もわざわざボク達を送り込まなかったでしょ。違和感程度のものが証拠付きの事実だと分かればそれは交渉材料にもなりますしね」
一同は誰も口を挟まない。
「もっとも、もっとヤバい事実を偶然発見しちゃったんですけどね。政治屋の金事情よりも遥かにね」
しばらくの沈黙の後、兼孝は顔を笑いで歪めていた。もちろん、その目は真剣そのものだ。
「……その話は後で聞かせてもらおう━まずは関係者や組織について共有いたします」
堂ノ上は目線を下に向けた後、井伊のほうへ向き直る。
「国武院は、政府より補助金を受け取っています。さらに国武院からは謎の資金の流出がありました。それを調べた所、山梨にある研究所でした」
堂ノ上の説明に、兼孝はニヤッとした。確信。点と点が繋がったような、独特な快感。
「山梨の研究所の所有者は熊谷正義。共和民主党の左派議員です」
「……つまり、熊谷が国武院の後ろにいるのは間違いないと?」
井伊が口を挟んだ。
「そう考えるのが自然でしょう。さらに、我が校の魔法技術が漏洩していること、魔法技術を中革連の企業に売却していることが発覚しました」
「……」
━間違いなく、アンタゴニスト型のASFだけじゃない。他にもあるはず。
「まさか、内通者が学院にいると?」
溝呂木の質問に、堂ノ上は黙って頷いた。
井伊は何かを言いたそうな表情をしていた。瞬きの回数が明らかに増えていた。
「ひとつだけ言えるのは」
井伊の声音が明らかに低い。
「盗人猛々しい」
その言葉に、その場の全員がゆっくり首を縦に動かした。
「すぐに警視庁に山梨の研究所の捜査依頼を出す。コズミックからも何人か使わせてもらう」
「もとよりそのつもりです」
「その山梨の研究所についての話なんですがね━」
兼孝がすかさず口を挟んだ。
「その話は後で━」
「プロジェクト・Y」
堂ノ上の動きがぴたりと止まった。紅葉や此人はキョトンとしていた。
「捜査に入る前に知っておいてもいいと思うんですがね」
「……どこまで知っている?」
「あそこにあった文書が計画の全てかは分かりませんが、少なくともそこだけは。その言い方だと、逆に堂ノ上理事長はどこまで知っているんですか?」
兼孝のカウンターパンチに、堂ノ上はわずかに目を逸らした。
「……では、私が知る限りのことを話しましょう。少なくとも、ここにいる方々には知る権利がある」
兼孝は「あはっ」と笑顔で手を叩いた。
「プロジェクト・Y、それは━」




